9.入学式
小花咲き乱れるうららかな小春日和のその日、【スクールローズの花園〜君に恋しても良いですか?〜】の舞台となる国立ルワード学園の入学式が行われる。
国立ルワード学園は、貴族だけでなく市位の優秀な者達も受け入れるこの国最大の学園である。
学園の掲げる【学園内での貴賎なし】をうけ、貴族も平民も分け隔てなく学園内の寮生活を送り、7歳〜15歳までの間、学生達による独自の統治が行われる。
その国立ルワード学園へ、光の王子と名高い第一王子と氷の令嬢と噂される婚約者である公爵令嬢が入学するとあり、学園内だけでなく、国中が注目する日と為った。
一目でも良い、学園に入る前にその御姿を拝見したいと、学園の周りは人で溢れていた。
「あら、学園前は凄い人だかりね。」
「私達の姿を見たい国民で溢れているんだよ。」
エデル王子は、愛しいリリアーナとの入寮が楽しみで、朝も早くから公爵家へ迎えに来ていた。そのまま2人、王家の馬車でのんびりと学園に向かいながら身のない会話をしていた。
「ならば、期待にお応えするのが上に立つものの責務ですわね。マリー、私達の荷物は適当に部屋に置いといてくださいませ。」
「このマリー、リリアーナ様、エデル王子のお荷物…必ずやお部屋までしっかりとお運び致します!」
「俺は護衛らしく、王子夫妻を守るっすね。」
韋駄天のマリーは、あいも変わらず食い気味に返答し、護衛のカリムは、何故か学園の制服を着込み、腰に細い剣を収めながら楽しそうにしている。
「カリム…、そういえば貴方何歳なの?」
「リリアーナちゃん気になる?男の子に年齢は聞いちゃ駄目なんですよ〜。」
「カリムは、今年で25だ。」
「エデル王子内緒っすよ〜」
25歳で制服…、色々とアウトよね…。それよりも、初めてカリムの年齢を知ったわ。
「カリムはいつからエデル王子の護衛をしてますの?」
「あれ?俺に興味持ったの初めてじゃないっすか?珍しい事もあるもんっすね。」
カリムは、至極不思議そうな顔をしている。それもそのはずだ。私は、この2年間カリムの素性等聞いた事もなかった。
エデル王子の側近である事から、素性を調べる必要性もなく、また、2人のやり取りは気心知れた友達の様な兄弟のように感じていたから、なんか気にもならなかった。この2人は、そんなもんだろう。みたいに受け入れていた。
「私達の新生活が始まるんですもの。新発見を追い求めるのも必要ではなくて?」
私が意地悪くニヤリと微笑めば、シテやられたと云うような表情のカリムと、顔を真っ赤にしたエデル王子。
お調子者なのか、思慮深いのか分かり辛いカリムの、ヤラれたって顔は面白いわね。
これで、中々美丈夫なのに、本人にその自覚は全くない。マリーも…とんでもなく鈍感な男に惚れたものね。いえ、鈍感ではなく、分かってて躱してるのかしら…?
しかも、13も年上…。頑張るのよマリー。私は、マリーの味方ですからね!!
「まぁ実際の所、そこ迄カリムに興味はないんですのよね。って事で、此処でずっと入り口の順番待ちをしていても、時間の無駄ですわね。私達の大切な国民へ、挨拶をしながら校門をくぐると致しましょう。」
「リリアーナちゃん、相変わらず辛辣っす…。」
私はカリムを無視して、一人馬車から降りようとした。
が、そこはカリムとエデル王子。すかさず馬車から降り、私をエスコートして下さる。
そして、馬車から正門まで馬車五台分を、みんなに挨拶しながら歩いた。うん。入学式前日に入寮をする様に改革が必要ね。馬車渋滞は、この通りを使う国民からしたらとても良い迷惑だわ。
私は、野次馬に集まっていた子供達の頭を撫でると、門をくぐった。
「さて、入学式の会場である講堂へ移動致しましょう。エデル王子、この正門をくぐってからは…?」
「貴賎なし。皆平等だ。だが、私の婚約者はリリアーナ一人だ。それは学園でも変わらない。」
「…講堂はあちらですね。」
私は、エデル王子の宣言を無視する事にした。なんか、重い。
そんな私の態度を見てカリムは、腹を抱えて笑いを耐えていた。
無視された王子は、外と云うこともあり、苦笑して後に着いてくる。うん、コレはこれで良し。
そして、至極平和に講堂へ移動した。
◇
入学早々、ゲーム【スクールローズの花園〜君に恋しても良いですか?〜】の、オープニングシーン再現?は起こらず、拍子抜けしてしまう。
アプリゲーム【スクールローズの花園〜君に恋しても良いですか?〜】いい加減長いわね…ファンサイトで使われてた薔薇君と今後呼びましょう。薔薇君では、オープニングでは、主人公たるプレイヤーが、沢山の馬車が並ぶ正門を眺めるシーンから始まる。
そして正門前で、一際目立つ王家の馬車から降りてきたと同時に吹いた突風で、砂金の髪をなびかせる王子…エデルと目が合う。
主人公のピンクの髪(初期設定)を同じく突風でたなびかせ…そして、ゲームタイトルが入る。………確か。確かね。既に曖昧だわ…。
まぁ、そもそも、馬車から降りたのは正門より手前も手前、挙句の果てに、一緒に馬車から降りて来たのは悪役令嬢のリリアーナ公爵令嬢と、護衛カリム。ゲームに存在しないカリムまで…しかも、制服で降りてきてはオープニングもまともに機能しなかった…と、云うことだろうか?
「取り敢えず、入学式を楽しみましょうか。」
私は、もはやゲームのシナリオに期待はしていなかった。
ただ、この学園生活で、最高の悪役令嬢を演じ、最高のスチル達に出会う事だけを楽しみにしてる。
勿論、ゲームのシナリオが機能してくれれば、それはそれで楽しめる。と、悪役令嬢よろしく冷酷な笑みを浮かべた。




