7.5 護衛の決意
俺は、カリム。ただのカリム。家名がある様な貴族ではない、ただの平民のカリム。
平民だからこそ、貴族位が欲しく、ただひたすら努力して平民では成れないと言われてる近衛兵を目指した。
近衛兵を目指す貴族の三男坊やら親が近衛兵な奴等に囲まれてる中、平民ではほぼ居ない近衛兵にまで登りつめた。
そんな、ただのカリムが誇らしくなった日は、産まれたばかりの第一王子が満一歳を迎え、全国民へお披露目する王都でのパレードをした日だった。
その日は、晴天にも恵まれ、国王も王妃も国民も、この日を待ち望んで居た。
不運は、その日の第一王子は機嫌がすこぶる悪かった…とんでもなく悪かった。
見知らぬ大人達に囲まれ、飲めや踊れやの大騒ぎに、この神経質そうな王子様には耐えられなかったようだ。
乳母が抱いても、国王、王妃が抱いてもあやしても駄目。絶対泣きやまないという根性すら感じた。
お披露目にあたり、主役の王子様が泣き喚いては祝いの席もお通夜状態になってしまう。それ故、大の大人たちが必死にあやす変な裏舞台となっていた。
そんな時だ、近辺警護という事で、王城に配置していた俺に順番が回ってきたのは。俺は、子供のあやし方なんぞ分からない。それどころか、自慢じゃないが自身の弟妹にも近所の子供にも怯えられる程の逸材だ。この高い身長と、燃えるような赤髪が怖いのだそうだ。
だから、この小さな王子様にも怯えられ、それどころか更に泣くんではないかと恐れた…。
だが、予想に反しエデル王子は、俺の髪を一房掴みながらキャッキャッと笑顔を見せた。涙に濡れた瞳は俺の赤髪を映し、楽しそうに笑っているのだ。
「エデル王子は、赤髪がお好きですか?」
「キャー」
俺の剣しか握ってこなかったゴツゴツした荒れた手を、小さな小さなエデル王子の手が握る。それだけで泣けてきた。
「エデル王子…、俺は貴方の事を必ず守ります…。」
その日の王子お披露目は、背の高い赤髪の美丈夫に抱かれた笑顔の王子がいた。
◇
それから時は流れ…ず、翌々日には近衛兵から王子の護衛に任命された。
任命時には、目の下に隈を作った国王と王妃、そして乳母や側近たちが玉座の周りに居た。
その中心には、金色の御髪を汗で貼付け、ギャン泣きし続けるエデル王子が…。あのお披露目式の後、俺から引き離されたエデル王子は離乳食すら食べず、ひたすら泣き続けているらしい。
「カリムよ…、エデルの側に来てくれるか?」
疲労困憊、フラフラしている国王にお願いされる。俺は、スタスタとエデル王子の側に寄れば、スッと赤髪を一房握られキャッキャッ笑われたのだ。
涙に濡れ、泣き過ぎてヒーヒー言いながらも、ニコニコ俺の髪を握っている。
「カリムよ…、そなたは今この時より、エデルの護衛兵となれ。良いな?一時も離れる事は許さない…。我々の天使を…悪魔にするでないぞ…?」
フラフラしながら王命だ…。と、残し国王と王妃並びに側近たちは下がっていった。多分隈を作っていた重鎮たちは、寝室へ下がったのだろう。もれなく全員ホッとしてたしね。
「エデル王子?俺何かが側に居ても良いですか?」
エデル王子は、一層ニコニコしながら、俺の腕の中で疲れて寝てしまった。
エデル王子のお気に入りになった、俺の赤髪を握りしめながら。
◇
「カリム!!!おいっ!カリム〜?」
あれから、4年経つ。小さかったエデル王子は、利発的な幼児となった。
それでも、俺が側に居なくても…って、事はなく、俺が離れると壊れたオルゴールの如く俺の名前を連呼する。
「はいは〜い、俺はココですよ〜?」
「勝手に離れるなと、いつも言ってるだろ。お前が居ないと…困るんだよ。」
「あ〜、それは恋っすね。恋。俺が恋しくて不安になるんすよ!」
「…ちがう!」
この頃には、エデル王子の護衛として、そして、側から離れるなとの王命で執事見習いも行うようになっていた。
ただ、執事としては全然駄目。センスがない。
お茶を入れれば、紫色のゲルやら何やらにしか見えないし、細かい作業はてんで無理。敬語だ何だもサッパリだ。
「大体、こんな無礼な執事見習いなんか居ないぞ…。仮にも王子の側近としては駄目だ。」
「なら、俺、近衛兵に戻ります?」
「いや、それは駄目だな。」
毎日の様に交わされるやり取り。どんなに俺が悪態をついても、王子は俺を見限らない。それどころか、国王にも言わない相談事等を俺ごときにしてくれる。
「大体な、お前みたいな奴は、私しか雇わないんだからな。」
「そうっすね。俺がジーさんになっても側に置いて下さいよ〜?」
「分かってる。」
こんな可愛らしい俺の主君は、ここ最近、初恋をした。
自分を歯車だと諦めきってるエデル王子が、本当に心から愛する人。
まぁ、この恋も中々面倒くさい事になりそうなんだけどね。
「で?俺を探してどうしたんすか?」
「リリアーナの所に行く。」
「はいはい。愛しのリリアーナちゃんっすね。」
「だから、私の白百合にちゃん付けするな!」
大好きな主君の、大切な婚約者。彼女も結構曲者っぽいんすよね…。
まぁ、最後まで俺は貴方の側から離れませんからね。




