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09 調査難航

 調査が難航状態となった二人は、気分転換に郊外にある小さな農園を訪ねた。ここにはアリスという、兎の女性が住んでいる。農園の主であると同時に二人の友人でもある。

 二人は通常、彼女の農園を訪ねる際には、アポイントメントはとらない。今回のように、ふと思い立った時に訪ねるのが大半で、第一彼女が忙しくしているところなど見た事がなかったからだ。


 農園に着くと、空は夕焼けに染まっていた。そういえば、今日のお昼近くからずっと調査を続けていたのだった。ヘイヤはそう思うと、急に体が疲れてきた。

 今の時間を考えると夕食を貰いに来たと思われても仕方ない。しかし、ヘイヤは彼女に会いたいという思いが強かった。それで、迷惑だろうと思いながらもドアのチャイムを鳴らした。


 鳴らして間もなく、黒くて小さな兎の女の子がドアを開けて出てきた。赤いエプロンドレスを着た女の子だ。彼女はアリスではない。血のつながりはないが、妹であるキティだ。


「あ、変態なお兄ちゃん達だ!」

 彼女は二人を指差して言った。『変態』とは言いながらも彼女は笑顔だ。これはヘイヤとチェッシャーの事を信用しているからである。


 かつて彼女は、悪の科学者により殺されそうになり、逃げて下水道に隠れていた。そこを二人が救出し、アリスに預かってもらっていた。言わば二人は恩人なのである。だから信用してるのであった。


「やあ、キティ。アリスに会いに来たんだけどいいかな?」

 ヘイヤはしゃがみ込んで彼女の目の高さに合わせて頼んだ。


「んーとね……今聞いてくる」

 彼女はそう言って、ドアを開けたまま中へ入っていった。


「お姉ちゃ~ん!変態なお兄ちゃん達がきたよぉ!」

 奥からキティの声が聞こえる。


「なんですって?」

 奥からアリスの声が聞こえてきた。こちらにも聞こえるくらい大きく舌打ちする音が聞こえる。


「分かった。今行くから、シチューの様子を見てて」

「うん。分かった!」

 二人の話し声が終わると、さっきとは違う兎の女性が玄関へやってきた。体はさっきのキティほどではないが小さく、バストは顔の幅よりも大きくて豊満。そんな彼女がアリスであった。


「で?何の用ですって?」

 白い体で青のエプロンドレスを着た彼女は、威圧感たっぷりのオーラを放ちながら聞いてきた。


「あ、あのさ、調査に行き詰まっててさ。ちょっとした気分転換に……て思ったんだ」

 ヘイヤは威圧感を受けて、たどたどしく答えた。


「へぇ、気分転換にねぇ……」

 アリスはヘイヤを睨み付けた。


「ご、ゴメン!急に会いたくなっただけなんだ!迷惑なら、明日また来るからさ!」

 威圧感に耐えられなくなったヘイヤは謝る事にした。このまま怒らせては何をされるのか分からない。

 すると、彼女は大きく息を吐いた。そしてゆっくりとした口調で話し始めた。


「確かに、私は今忙しいの。夕飯の支度をしている最中なのよ。で、アナタ達は気分転換に来たんでしょ?じゃあ、夕飯の手伝いをしてもらおうかしら?それなら許してあげてもいいわよ」

 アリスは答えを待たずに中へ入っていった。途中手招きするポーズをとった事から考えて、夕飯の手伝いは強制らしい。


 ヘイヤはチェッシャーの方を見た。『どうする?』とアイコンタクトを取る。『やろうよ!』と彼は目でそう答えた。

 仕方ない。それに彼女が言っていた通り、夕食の準備をする事は立派な気分転換だ。彼女に許してもらうためにも一生懸命に頑張ろうとヘイヤは思った。そして家の中へと入っていった。






 それから30分後。食卓の上には野菜たっぷりのシチューとパンが人数分並べられていた。これがアリスの家の夕食である。


「一応言っておくけど、シチューもパンもおかわりは無いから。人が増えちゃったし」

 アリスはちょっとトゲのある言い方で二人に声をかけた。


「あ、なんか……ゴメンね。急に会いたくなっちゃってさ……」

 居心地が悪くなったヘイヤは再びアリスに謝った。


「もういいから!許すわ」

 アリスはこちらを見る事なく、返事をした。


「これ美味しい!」

 キティはシチューを食べて喜んだ。


「そうでしょう?私とアナタが作ったんだもの、当然よね」

 ヘイヤの時とは打って変わって、アリスは彼女に微笑んで答えた。


 ヘイヤとチェッシャーが来た時、夕食の用意はほとんどできていた。二人がやった事と言えば、食器を用意しただけである。

 たったそれだけの事をしただけで本当に許してくれたのだろうか。ヘイヤは違うと思った。だから謝った。彼女は『許す』と言ったが、どこまで本当なのかは分からない。


「で?今どんな感じなの?」

 いきなりアリスは聞いてきた。


「え?」

「さっき『調査に行き詰まってる』って言ってたじゃない。どんな事件をどんなふうに追っているわけ?夕食ごちそうしてあげたんだから教えなさいよ」

 アリスはヘイヤに向かって身を乗り出した。テーブルの上に乗っかったバストが除雪車のように、彼女のパンとシチューを押し退ける。


 彼女はヘイヤとチェッシャーの調査について興味を持つ事が多い。それは普段、暇だからでもあるし、元々推理物の小説を読むのが好きだからでもあるらしい。

 とにかく、今回もまた、今の案件に興味をもっているようだ。


「えっと……何から話せばいいのかな……」

 ヘイヤはチェッシャーの方を見ながら言った。自分一人では決められない。そういう意思表示であった。


「始めから最後まで言っちゃいなよ。もしかすると、まだ気づいていない手掛かりがあるかもよ。あ、それにしてもこのシチューは最高だねぇ。ヴィーガン料理なんて正気かと思ってたけど、びっくりするほど美味しいじゃないか!」

 チェッシャーはヘイヤに答えると、シチューを食べる事に夢中になった。


「そうね、一から十までしっかりと教えてもらおうかしら?」

「私も知りたいー!」

 アリスとキティはねだってきた。


 仕方ない。そう思ったヘイヤは、今までに起きた事を順を追って簡単に説明した。


 ハドソンという警部から連続殺人事件についての調査依頼が来た。

 犯人は霧を利用して犯行を行なう事から、濃霧の時に犯人を探し出して戦った。

 犯人はゲーマーギアという機械を使っていて、それを奪ってゲームの世界に入ったがゲームマスターを名乗る人物に倒されて、ついでに機械を破壊されてしまった。


「――まあ、こんな感じかな?」

「へぇ、連続殺人事件について調べていたら、ゲームの世界に入る事になっちゃったんだ?なんだか変な話ね」

 アリスは頬杖をつきながら言った。


「まあ、ね」

 ヘイヤは欠伸をしながら答えた。ずっと動いていたためか、だんだんと眠くなってきた。


「とにかく、僕ちん達はもう一度ゲームの世界に入る必要があるんだ。今度こそゲームマスターを倒して、GNM社の情報を引き出さないとね」

「う、うん。そうなんだ」

 つい一瞬だけ眠ってしまったヘイヤは慌てて言った。


「そう……分かったわ。キティ、アレを持ってきて」

「うん!分かった!」

 アリスに言われて、キティは何かを取りに台所を出た。


「え?何?」

 今の二人に何か意味深なものを感じたヘイヤはアリスに訊ねた。


「ゲームの世界に入りたいんでしょう?それだったら、良い物があるわ」

「良い物?」

「なんだろうねぇ」

 ヘイヤとチェッシャーは顔を見合わせた。


「持ってきたよぉ!」

 ちょうどいいタイミングでキティが小さな箱を二つ持ってきた。


「キティ、お兄さん達にあげなさい」

「うん、分かった!」

 彼女はヘイヤとチェッシャーに一つずつ箱を渡した。そしてヘイヤがその箱を読んだ瞬間、大声をあげて驚いた。


「えぇぇぇぇぇぇ!ゲーマーギアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「うるさいわよ!静かになさい!」

 アリスは注意した。


「アリス君。これは僕ちんでも驚いたよ。君はどうしてこれを?」

「SNSで今人気なの。」

「あれ?アリスってSNSやってるの?なんだかイメージと違うんだけど……」

「何よ?私がやっちゃダメだっていうの?」

 アリスはヘイヤを睨んだ。


「……ごめんなさい」

 彼は素直に謝った。


「話を戻すわよ。で、フォロワーから勧められて、つい買っちゃったのよ。でもよく考えたら、私もキティもゲームってそんなに興味ないし……って事で置物状態だったのよ」

 チェッシャーの質問にアリスはやれやれと言いたそうな仕草で答えた。


「ま、そういう理由(わけ)で、ゲーマーギアはアナタ達に譲るわ。これで調査を再開する事ができるんでしょ?」

「もちろんだよ、アリス!ところで、さっそく開けてみてもいい?」

「別にいいけど、説明書ぐらい読みなさいよ」

「やったね」

 ヘイヤは興奮した様子で箱を開けた。中にはベルト型の起動装置とUSBメモリー型の記憶装置、そして少し厚みのある説明書が入っていた。

 彼はパラパラと説明書を読んだ。そして、キャラクター設定のページで手を止めた。


 どうやら設定するためにはパソコンが必要らしい。自分の事務所には一応一台ある。が、これを持って帰る時間が惜しかった。アリスはパソコンを持っているだろうか。だったら彼女のパソコンで設定したい。そうヘイヤ思った。


「ねぇ、アリス。設定のためにパソコンがいるんだけど貸してくれないかな?」

「え?まあ、だいぶ古い物ならあるけど……」

「それで構わないよ。早く貸して!」

 ヘイヤは興奮した。キャラクターメイキングは彼にとって大好きなシステムであった。個性的なキャラクターを作りたい。その思いが爆発し、ヘイヤを興奮状態にしたのであった。


「わ、分かったわよ!今持って来るから食事は済ませておきなさいよね」

 アリスはそう言って台所を出た。それと同時にヘイヤは物凄い速さで食事を済ました。待ちきれない、そんな思いが爆発したのであった。


 数分後、アリスはノートパソコンを持って戻ってきた。


「乱暴に扱わないでよ」

 彼女が差し出すと、ヘイヤは奪い取るように受け取ってテーブルの上に置き、電源コードを接続してパソコンを立ち上げた。


「早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く……おし!立ち上がった!」

 ヘイヤはパソコンが立ち上がるまで『早く』と連呼し、パソコンが立ち上がるとガッツポーズを取った。


「メモリーをパソコンにセット!おし、来た!さあ、始めるぞ!」

 ヘイヤはキャラクターメイキングを始めた。


「ねえ、ちょっとチェッシャー」

「どうしたんだい、アリス?」

「彼、大丈夫なの?なんだかクスリでもやってるみたいなんだけど……」

 アリスは心配そうな顔をしてこちらを見た。


「大丈夫さ、なりたい自分になれるって事で興奮しているだけさ」

「なりたい自分に、ねぇ。それならいいんだけど……」

「あ、ヘイヤ君。後で僕ちんと交代して欲しい。僕ちんもキャラクターメイキングしたいからさ」

「もちろんだよ、チェッシャー。後30分だけ時間をちょうだい!そしたら完成するはずだからさ!」

 ヘイヤは憑りつかれたようにパソコンを操作した。


 そして30分後。


「できたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ヘイヤは喜びを大きな声で叫んで表した。それだけではなく、周りを跳ねまわった。


「ほう、これが君かい?」

 チェッシャーがパソコンを覗き込んで聞いた。


「そうさ、最高だろう?」

「うん、君らしい。良いと思う」

「やったー!」

 ヘイヤは万歳するとそのままひっくり返った。

 ただでさえ眠かったのに、キャラクターメイキングで力尽きてしまったのだった。


「お疲れ、ヘイヤ君。今日はもう休もう。休んで元気になってさ、そうしよう」

「う、うん……そう……だね……」

 ヘイヤは言い終わるや否や、そのまま寝てしまった。

ありがとうございます。

次の話は明日19時ぐらいです。

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