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07 ゲーマーギア

 店主にバング・ラッシーを奢る。これは『店主に話がある』という意味の合言葉である。

 二人がナマス亭に来たのは、ただ食事のためだけではない。店主と話をし、情報を得るためでもある。


 店員は二階へと案内した、そして店主の部屋の扉の前まで連れて行った。


「ドゾ 失礼ノ 無イ ヨウニ オ願いシマス」

 店員はペコリとお辞儀をして去っていった。


 ヘイヤは、扉の前に立つとノックした。すると『入りたまえ』と中から声がして、それを合図にチェッシャーと共に中へ入った。すると、太った虎の男が二人、ソファーに座っていた。店主のトゥイードルダムとトゥイードルディである。


「我々に用があるという事は、また仕事の話かな?ヘイヤ君」

 向かって左側の男が訊ねた。


「はい」

 ヘイヤは頷いた。

 今のがトゥイードルダムなのかトゥイードルディなのかは分からない。彼らは双子なので見分けるのが困難だ。


「いいだろう。さ、座りたまえ」

 向かって右側の男がソファーに座るよう勧めて来た。二人は言われた通りに座った。


「それで?用件は?」

 左側の男が聞いてきた。


「はい、これについて詳しく教えてもらえませんか?」

 ヘイヤはテーブルの上に物を置いた。殺人鬼達が装着していた、ベルトのような装置と、その中にあったUSBメモリーのような装置だ。


 二人の目の前にいるのは、単なる食堂の店主ではない。それは表向きの顔であり、裏の顔は情報屋だ。

 彼らともルシアンが生きていた頃からの付き合いである。彼が死んでしばらくは頼りないからと縁は切れていたが、実績を出すうちに力を認め、今では以前のように情報提供をしてくれている。


「これは……」

 そんな彼らが装置を見た瞬間、顔色が変わった。やはり何か知っているらしい。


「ヘイヤ君。これをどうやって?」

 右側の男が聞いてきた。


「これを装着した人と戦ったんです。それで壊したら、その場に落として逃げちゃいまして……」

「つまり戦って勝ったという事か?」

 左側の男が興奮した様子で聞いてきた。


「えっと、まあ、そんなところですかね……」

「聞いたか?ダム。『プレイヤー』に勝ったそうだぞ」

「素晴らしい。そうは思わないか、ディ。流石はハーブボイルドだ」

 右側の男が称賛した。


 今の二人の会話を聞いて、やっとどちらが誰なのかが分かった。トゥイードルダムが右側でトゥイードルディが左側らしい。


「あ、どうも……それでどうなんです?これの正体を知っているんですか?」

「もちろんだとも。これは『ゲーマーギア』と呼ばれる物だ」

「ゲーマーギア?」

「ああ、そうだ」

 トゥイードルダムが装置を手に取った。


「このUSBメモリーのような物の中にはキャラクター情報が記録されている。そして、このベルトのような装置に接続する事でプレイヤーは姿を変える。キャラクター情報に基づいた姿にな」

「やっぱり……」

「うん?やっぱりとは?」

「あ、すいません。仮説を立てていたんです。もしかして殺人鬼の正体はゲームのキャラクターに変身した人物じゃないかって」

「うむ、概ね正しい。流石はルシアンの弟子だ」

 トゥイードルダムは感心したように頷いた。


「足りないパーツを教えてあげよう。君が今言った人物の事はプレイヤーと呼ばれている。そのプレイヤーこそが殺人鬼の正体なのだ」

「あの……何故プレイヤーと呼ばれているのでしょうか?」

「知らないのか?これはGNM社が開発したゲーム機だ。AR(拡張現実)を使ったゲームを楽しめるんだ」

「ほう、これがゲーム機ねぇ。つまりプレイヤーは遊びで人を殺して競い合ってたわけだ?怖いねぇ」

 さっきまで黙っていたチェッシャーが急に口を開いた。


「よく知っているな。その通り、このゲームでは人を殺す事でポイントがもらえる。そのポイントをめぐって一人でも多く人を殺そうとしたり、プレイヤー同士で戦う事も少なくない」

「いやぁ、こっちが勝手に予想した事を言っただけさ。でもその話だと、間違いないみたいだねぇ」

 トゥイードルディにチェッシャーは自慢げに言った。


「ああ、その通りさ。ろくでもないゲームだよ。まあ、我々にとってはゲーム自体をそう思っているわけなのだがな」

「ところでその様子だとGNM社がどんな会社なのか知らないだろう?」

「ええ、はい」

 ヘイヤは答えた。


「残念ながら、我々でも調べるのは苦労している。あそこは妙にガードが堅い。手下を数十人手配したが、うまくはいかなかった」

「そんな……」

「ただ、何も収穫が無かったわけでは無い。GNM社はホームページを持っている。そしてゲーマーギアを通信販売している。これだけはハッキリと分かっている」

「それで……どんな事が分かりました?」

 ヘイヤは聞いた。


「GNM社はゲームの会社だ。住所は不明。連絡方法も無く、ゲーマーギアの購入専用の窓口がネット上にあるだけだ。ゲームのルールについてはホームページ上に書いてあったのをそのまま読んだだけだ」

「実は我々の方で注文してみた事がある。が、こちらが探っていた事を知っているのか、我々には売ってはもらえなかったよ」

「まあ、そうだろうねぇ。それだけ大規模に調査してたら、君達が探っている事ぐらいすぐにバレるだろうし」

 チェッシャーはだらしない恰好をしながら口を挟んだ。


「ま、たぶんだけど、それは僕ちん達も同じかもねぇ」

 彼はヘイヤの方を向きながら言った。


「え?」

「プレイヤーに顔は見られているだろう?だったら、すぐに情報は共有されるだろうさ。そしたらいずれはGNM社にまで話が届く事になる。そしたら、僕ちん達にもゲーマーギアを売ってはくれないさ」

「あー……確かにそうかも……」

 ヘイヤは彼が言いたい事をやっと理解する事ができた。


「とにかくだ、GNM社の事はネットで調べられる以上の収穫は得られなかった。むしろ、こっちの方が調査して欲しいくらいだ」

「それなら一つ、プレイヤーの攻撃を受け続けると、体が破裂してしまうらしいんです」

 ヘイヤは教えた。


「何!それなら話は分かる!」

「えっと……どうしました?」

「送り出した部下にはバラバラ死体となって発見される物も少なくなかった。いったいどうやったらこんな目に遭ったのかとおもっていたが……そういう事だったのか」

 トゥイードルディは悲しそうな顔をして(うつむ)いた。


「貴重な情報をありがとう。それに比べて、こちらは役に立てずにすまないと思っている」

「今の情報を伝達すれば、手下の生存率が上がるかもしれない。そうすれば新たに何か情報が手に入るかもしれない。その時はすぐに連絡しよう。もちろん情報提供の礼だ、タダにしてやろう」

「そうですか!楽しみにしています。それでは失礼し――」

「失礼!ついでにもう一つ聞きたい事があるんだけど」

 チェッシャーはヘイヤの口を塞ぐと、双子に声をかけた。


「何かな?」

 二人は同時に言った。


「撃ち抜きジャックについての情報も集めているんだ。何か知らないかな?」

 チェッシャーは訊ねた。


「実はだな、そっちの方も大した情報が得られていない状態なんだ」

 トゥイードルディはすまなそうに答えた。


「ほう、それはどうしてだい?」

 チェッシャーは聞いた。


「ヤツを見て生きて戻ったものが極端に少ないからだ。ほとんどは消されている」

「じゃあ、その貴重な情報というヤツを教えてもらえないかい」

「……いいだろう。教えてやる」

 トゥイードルダムが答えた。


「奴は名前の通りの拳銃使い。奴に出会ったものは皆、頭に一撃を受けて死んでいく。それも老若男女問わずにだ。」

「酷い……どうしてそんな事を……」

 口が自由になったヘイヤは呟いた。


「分からない。ただ、こういう呟きが聞こえてきたそうだ。『もっと死のデータを集めなくては』と」

「死のデータ?」

 ヘイヤは聞き返した。


「そうだ。何の目的でにそんな事をしているかは分からない。ただ、かなり用心深い奴だ。部下に尾行させたが、必ず途中で逃げられてしまう。君達でも無理かもしれない」

「そんな事はありません。GNM社の事も撃ち抜きジャックの事も必ず、真相を暴いて見せます」

「それは頼もしい。ではこちらもより一層努力して調査に当たるとしよう。吉報を待っていてくれ。あ、そうだ、ついでにこっちの方もタダで構わない。ちょっとしたサービスだ」

「ありがとうございます。では失礼します」

 ヘイヤはそう言って、チェッシャーと共に部屋を出た。






 探偵事務所へと戻る帰り道。二人はさっきの話を確認していた。

 ゲーマーギアはネットで購入が可能。しかし、自分達のように正体を知ろうとする者には売らないようにと、ガードが堅い事。


「困ったねぇ、こうなると調査を続けるのは厳しくなるねぇ」

 そう言いながらもチェッシャーは相変わらずニヤけた顔をしていた。


「そうだね。せめてこのベルトを修理する事ができるなら、本人に成りすまして潜入調査ができるんだけど……」

 ヘイヤは壊れたベルト型装置を取り出してジッと見た。

 安易に壊すべきではなかった、と彼は少し後悔した。しかし、今になって後悔しても仕方ないので、その事を口にしないようにグッと我慢した。


「ほう、なるほど」

 チェッシャーは急に足を止めた。


「え?どうしたの?」

 ヘイヤは訊ねた。


「確かに君の言う通りだ。ベルトの問題がなければ潜入できるね」

「そうだけど……でも、ベルトが無いとプレイヤーにはなれないよね?」

「しかし、メモリーの方は無傷だ。ベルトを使わずに起動できたら、僕ちん達はゲームの世界へ入れるって事になるね?」

「そうだけどさぁ……でもどうやって……」

「方法は君に任せるよ。ただ、君にはヒントを一つ」

「え?」

「狂気の力を使ってみたまえ。狂気の力があれば、不可能な事も可能になる。本当に素晴らしい力だよ、狂気ってヤツはさ」

「狂気を使って……」

 ヘイヤは少し考えてみた。そして思いついた。


「一つだけ……思いついたよ」

「ほうほう。それはいったいどんな方法かな?」

 チェッシャーは顔を近づけて来た。


「いいかい?チェッシャー。たぶんこの方法はいろんな意味で一回しかチャンスは無いと思うんだ。だから、真面目に取り組んで欲しい。いいかな?」

「もちろんだとも!で?その方法とは?」

「ちょっと待って、それは事務所に戻ってからしよう。ここじゃ無理だ」

「そうかい。急がなくちゃね」

 チェッシャーは走り出した。ヘイヤも彼に続くように走った。

ありがとうございます。

次の話は明日19時ぐらいです。

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