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06 ナマス亭

 ヘイヤとチェッシャーはお昼にサンドウィッチを食べたが、殺人鬼達と戦った事で摂取カロリーを超過する運動をした。いや、元々サンドウィッチだけでは足りないような胃を持っているのかもしれない。

 とにかく、先の戦いで二人は腹ペコであった。そこでインディーナ料理の店『ナマス亭』へ行き、カレーを食べる事にした。


 インディーナとは国の名前であり、かつてロングラウンド国はそこを植民地支配していた歴史がある。そのためか、インディーナ料理はロングラウンド人にとって馴染み深い味であり、そういった店は市内を中心に広く展開している。

 その中で二人が訪ねたナマス亭のカレーは、市内で一番美味いと少なくても二人は思っている。だから、二人はここの常連となっていた。


 ピークを過ぎた時間とはいえども、店内は相変わらず混んでいた。それでもなんとか二人用の席、それも相席ではない席があり、二人はそこに座った。


「ヘイヤ君。何にするかい?」

 メニューを見ながらチェッシャーは聞いてきた。


「いつもの。ダル()カレーで」

 ヘイヤはすぐに答えた。ちなみに、今はちゃんとトレンチコートを着用している。


「そうかい。なら僕ちんもいつもの、キーマ(ひき肉)カレーにしようか。おーい、そこの君!注文を頼みたいんだが」

 チェッシャーはそう言うと、近くにいた店員に呼びかけた。


「少々 オ待チ クダサイ」

 店員はインディーナ語訛りの強い言葉で答えた。そしてメモをする準備をした。


「イラッシャイマセ ゴ注文ヲ ドウゾ」

「ダルカレーとキーマカレーを貰おうか?」

 チェッシャーが注文した。


「辛サハ?」

「どちらも普通(ミディアム)で」


「ナン?ライス?」

「どっちもナンで」


「カシコマリ マシタ」

 店員はメモを取ると厨房の方へと姿を消した。


「さて、カレーが来るまでの間、ここまでの事をまとめておこうか」

「うん、そうだね」

 チェッシャーの提案にヘイヤは同意した。


「まずは、殺人鬼に会った時の事から話そうかね」

「うん、報告書に書いてあった通りにだいぶ目立った恰好をしていたよね」

「そうだねぇ。でもそれだけじゃなかったよね?」

「うん、ベルトが壊れた瞬間、姿が変わった気がする。あの時は身に着けている物だけだと思っていたけど、今思うと顔とかも変わっていたような気がする」

「ほほう!君も気づいたかい?」

 チェッシャーはヘイヤに顔を近づけてきた。


「その通りだよ。まるで彼らは変身して別人のようになっていたんだ。コスプレとは違ってね」

「つまりコレにはそんな力があるって事だよね?」

 ヘイヤはベルト型の装置を一つ、テーブルの上に置いた。


「まあ、そういう事なんだろうね。どうしてそんな機能をつけたのかは分からないけど」

「やっぱり見られても、正体がバレないようにするためじゃない?」

「なるほど。確かに君の言う事には一理ある。でも何かが足りないような気がするんだ」

 チェッシャーは足を組んで考えるポーズを取った。


「そういえば、殺人鬼達は武器を持っていたよね?ほら、玩具みたいなデザインのヤツ。あれも何か関係あるのかな?」

 ヘイヤはふとその事を思い出した。


「あー、そう言えばそんなのを持っていたねぇ。僕ちんの顔を半分吹き飛ばしたヤツ」

「あ……ゴメン」

 そう言えば彼はその武器で酷い目に遭ったのだったと思い出し、ヘイヤは反省した。


「いや、いいんだ。ご覧の通りすっかり元通りに戻ったわけだし。まあ、あの時はだいぶ痛かったけどね」

 チェッシャーは笑いながら言った。


「いやいや、アレを『痛い』だけで済ますなんて、どうかしてると思うよ……」

「お言葉を返すようだが、君だってそうだったじゃないか?」

「え?」

「ほら、ひったくり犯を捕まえる時!」

「ああ、そうだったね……」

 ヘイヤは思い出した。氷柱(つらら)で心臓を貫かれても生きてたあの時の事を。


「ヘイヤ君。君はもっと狂気に感謝するべきだよ。今日の事に限らず、君は何度も狂気の力で生き延びてきた。狂気が無ければ、君はずっと前に死んでいた。言っている事が分かるかい?」

「何となく……つまり、もっと狂気に飲まれろって事なんだよね?」

「ん~、『飲まれる』て表現はちょっと違うかな。なんて言えばいいんだろうね?おお!そうだ!『ハジケる』だよ」

「『ハジケる』?」

 よく分からない言葉に、ヘイヤは首を傾げた。


「『自分をもっと開放する』って思えばいいかな?君にはまだそういう事に恥じらいを持っている所があるね。それを無くせば、君はもっと強くなるよ。僕ちんが保証する」

 チェッシャーはニヤけた顔でそう言った。


「オ待タセ シマシタ ダルカレー ト キーマカレー デス」

 チェッシャーが言い終えたちょうどのタイミングで、店員が注文したカレーを運んできた。


「ゴユックリ ドウゾ」

 店員は会釈すると、どこかへ行ってしまった。


「さて、狂気の話はここまでにしよう。その代わり……そうだな、さっきの戦いの事についてもう一度話をしようか?」

「えー!食べながらそんな話をする?」

 ヘイヤは食事に集中したくてそう言わずにはいられなかった。


「まあまあ、話しているうちに何かに気づくかもよ」

 彼の言葉にヘイヤは小さくため息をついた。


「分かったよ、チェッシャー。それじゃあ、さっき君が負傷した時の事をもう一度、詳しく教えてもらえないかな?」

 ヘイヤは千切ったナンにカレーをたっぷり付けて口の中へ放り込んだ。


「いいとも。あれはね――」

 チェッシャーもヘイヤがやったように、千切ったナンにカレーをたっぷり付けて口の中へ放り込んだ。そして話し始めた。


 彼の話をまとめると、こういう内容であった。


 相手をした猫の男は、持っていた銃を頭目掛けて発砲してきた。それもただの銃ではなく、玩具みたいなデザインをしていた。

 彼は自分が銃ぐらいでは死なない事を知っていたため、撃たれながら相手に近づいていった。すると、ちょっとした痛みはあったが、体に穴が開く事が無かった。

 いつもの自分ならチーズのように穴だらけになるはずなのに、と不思議に思っていると、突然体から警告音のような音が聞こえてきた。

 何の音か分からないので彼はそれを無視して、さらに近づこうとすると、突然頭の半分が吹き飛んだ。


「――で、あんな事になっちゃったってわけ」

 話しながらも、チェッシャーは食事を続けていた。ナンは半分以上が無くなっていて、カレーもそのくらい減っている。

 その一方で、ヘイヤは考えながら食事をしていたため、食べ進めるのが遅かった。


「変だな……僕の時は変な事をして攻撃を無効化したのに、どうしてチェッシャーの時は負傷したんだろう?」

「それは簡単。君の場合、戦い方を見てみると、狂気を防御のために使っていたね。だから攻撃を無効化できた。僕ちんの場合、絶対死なないって自身があったからね。ノーガードで立ち向かったんだ。それがそういう違いを生んだんだ」

 チェッシャーはニヤけ顔で答えた。


「そっか……それにしても、攻撃を受け続けると破裂するだなんて……まるで……」

「まるで?」

「……ゲームみたいだなって」

 ヘイヤは呟くように言った。


 そう、これはまるで残酷描写のあるゲームに登場するキャラクターのようであった。

 彼らは皆、体が脆く設定されている。ちょっとした攻撃で手足がもげる事があれば、生命力が無くなった瞬間に無数の肉片となって散らばる事もある。

 そんなゲームと、殺人鬼の手口がなんとなく重なったようにヘイヤには思えた。


「ふぅん。確かに言われてみれば、そうかもしれないねぇ。あ、ゲームといえば、僕ちん達と戦った相手はゲームのキャラクターみたいな恰好をしていたようにも思えるねぇ。それも何か関係あるかもねぇ」

 チェッシャーは頷いた。カレーはもう食べ終わっている。


「ねえ、チェッシャー!こうは考えられないかな?」

「何をだい?」

「僕達が戦った相手はゲームのキャラクターそのものだったんだ。装着していたベルトはそのキャラクターに変身するための装置だったんだ」

 ヘイヤは興奮して前のめりになった。


「ほほう、大胆な予想をするねぇ、ヘイヤ君」

「でもそれだといろいろと辻褄が合わない?」

「まあね、殺人鬼の正体はゲームのキャラクター。一般人は敵扱いされていて。持ってた武器で倒すとポイントが手に入る。こうしてみんながランクを目指して殺人を続ける。こんなところかな?」

「うん!そうは思わない?」

「確かに、綺麗につながるねぇ、後は裏付けが必要だね。今の話はみんな君の憶測にすぎないもの」

 チェッシャーに言われた瞬間、ヘイヤは椅子に座り直した。確かに彼の言う通りである。証拠がなければどうしようもない。


「うーん……裏付けかぁ……『GNM社』の事が分かれば何か手掛かりを得られそうなんだけど……」

「まあ、そうかもね。ところでヘイヤ君。早く食べ終わってくれないかな?次に進めないからさ」

「あ、ゴメン」

 ヘイヤは考える事に夢中になっていたせいで、すっかり食事の手が止まっていた。

 申し訳ないと思いながら、彼は急いで残りを食べ始めた。


「よしよし、その調子。これならもう、アレをお願いしても大丈夫だろうね」

 チェッシャーはそう言うと、近くにいた店員に声をかけた。


「やあ、君。追加の注文をしたいんだが、いいかい?」

「少々 オ待チ クダサイ」

 店員はメモの用意をすると、こっちにやってきた。


「オ待タセ シマシタ 何ニシマショウ?」

「バング・ラッシーを二つ。オーナーに」

 チェッシャーがそう言った瞬間、店員の目つきが変わった。頼りなさそうなだったのがキリリとなる。


「カシコマリマシタ デハ 少々 オ待チ クダサイ」

 店員はそう言って、駆け足でその場を後にした。


「さて、ヘイヤ君。もう頼んだから、早く食べ終えたまえよ。すぐに迎え(・・)が来るんだから」

「い、今終わったところだよ」

 ヘイヤは口の周りを拭きながら答えた。


「それは良かった。ほら、もう来たよ」

 チェッシャーが言い終わるや否や、さっきの店員が戻ってきた。


「オ待タセ シマシタ デハ ドウゾ コチラニ」

 店員の言葉に二人は立ち上がった。そして店員に案内されて、二人は移動を始めた。

ありがとうございます。

次の話は明日19時ぐらいです。

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