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17 決戦

「はぁぁぁ……力が溢れる、漲る!真のゲームマスターとして、私は最強となった!誰も私を止める事などできない!そう!できないのだ!」

 変身したダンクは勝利を確信して大笑いをした。


「……だってさ」

「一度、その姿で負けたというのに、何というか学習能力に問題があるようだねぇ」

 その一方でヘイヤとチェッシャーは冷めた様子で彼を見ていた。


「そうだね。ついさっきも、全く同じ事言ってたもんね。一字一句そのまんま」

「ふぅむ、記憶能力にも問題があるのかねぇ」

 二人は欠伸をした。


「黙れ!さっきのは油断しただけだ!今度こそ決して!そう!決して負ける事は無いのだぁ!」

 ダンクはそういうと拳銃を構えた。ゲームキャラの装備品としての銃だ。撃たれるとその場所が破裂してしまう。

 そうならないよう、二人は左右に転がって攻撃を避けた。


「全く……アレだけはどうしようもないねぇ」

 チェッシャーは呟く。


「何か対策は無いの?」

 ヘイヤは訊ねた。


「全く無いわけじゃない。あの攻撃を無効化できるだけの狂気があれば何の問題もない。ただ、僕ちんでは無力化する事は出来なかったよ。せいぜい、破裂するのをギャグにする事が限界だった。ヘイヤ君には果たしてできるかな?」

「正直、自信は無いよ。でも、アレされ封じれば、アイツは無力だ。やるだけの価値はあるよ」

 ヘイヤはそう言うと、股布の中に両手を入れて、また何かを取り出した。今度は……タンバリンだ。

 彼はタンバリンをシャラシャラと鳴らすと、左右に体を大きく揺らしながら叩き始めた。そしてそのまま、ステップを踏みながらダンクへ向けて移動を始めた。


 ダンクは迷う事無く、真っ直ぐにヘイヤを狙い、そして撃つ。すると、外れたのか、無力化されたのか分からないが、とりあえず、命中はしなかった。

 ヘイヤは少し怖かった。さっきのがまぐれでない事を心の中で祈る。ダメージがギャグとして扱われたとしても、チェッシャーの様子から考えてタダでは済まないだろう。だから、今のがなるべくしてなったものであると信じていたかった。


 ダンクは続けて二発、銃を放つ。しかし、攻撃はやはり当たらない。どうやら狂気がうまい事、攻撃を無力化してくれているらしい。それが分かって、ヘイヤはひとまずはホッとした。

 しかし、次の問題がある。攻撃を無力化する事ができても、こちらの攻撃が届かないと意味がない。どうにか接近して、攻撃を当てなくてはならない。ヘイヤはとりあえず、ステップを3倍に速めた。


 カサカサとゴキブリみたいな音を立てながら、ヘイヤはダンクに接近した。ダンクは必死で撃ち続ける。しかし、一向にダメージは入らない。そこをヘイヤは反撃する。


「タンバリンパンチ!」

 タンバリンを持っていない方の手で、ダンクを殴る。『9999』のダメージという数字と共に、ヘイヤの拳はダンクの顔面にメキョっとめり込む。


「タンバリンキック!」

 強烈なローキックが、『9999』のダメージという数字と共に、ダンクの脛をグニャリと曲げる。


「タンバリンタックル!」

 全身の体重をかけたタックルで、『99999』のダメージという数字と共にダンクの体は宙を舞う。

 ダンクは受け身を取る事などできず、無様に地面に落下した。


「やった!できた!」

 ヘイヤは喜んだ。


「やるじゃないか、ヘイヤ君」

 チェッシャーも嬉しそうに言った。


「お、おのれぇ……」

 ムクリと起き上がったダンクは、銃をその辺に捨てた。


「銃が効かないというなら、今度はコイツはどうだ!」

 ダンクはどこからともなく玩具みたいなデザインの剣を取り出した。


「う、うわぁ……剣だよぉ……大丈夫かなぁ……」

 ダンクの新たな武器を見たヘイヤは心配になった。


「大丈夫だよ、ヘイヤ君。銃を無効化できるなら、これだってできるはずさ。というか、コレなら僕ちんでも無効化できちゃうかもね」

 チェッシャーはそう言うと、どこからともなく巨大なペロペロキャンディーを取り出して、ダンクへ向かって行った。


「おらぁ!」

「てぇい!」

 剣とアメがぶつかり合い、そして競り合う。アメはヒビが入るどころか削れる様子さえなく、剣と競り合っていた。完全に互角の戦いである。


「何だとぉ!」

「んにぃ!どうやら銃の方が強かったんじゃないの?」

 チェッシャーはそう言うと、力任せにアメを押し込んだ。すると、剣が折れて、その辺の地面に突き刺さった。


「これはさっきの仕返しだよぉ!」

 チェッシャーは巨大なペロペロキャンディーで、ダンクの右肩から左の腰までをバッサリと斬った。血は出ないが『99999』のダメージという数字と共に、大きな切り傷ができる。


「そ、そんなバカな……真のゲームマスターであるこの私が……ここまでコケにされるだとぉ!」

「もう諦めたら?」

 驚く彼にチェッシャーが残酷な一言を浴びせる。


「こ、こうなったら……武器などいらん!素手で勝利を掴んでやる!」

「どうしてそうなっちゃうかなぁ?ね?ヘイヤ君」

「さあね?彼の考えている事は、僕にはよく分からないよ。チェッシャー」

 まだまだ戦おうとするダンクを見ながら、二人は呆れて言った。


「喰らえ!」

 ダンクは右手でパンチを繰り出した。

 すると、チェッシャーは巨大な棒付きの丸いアメをどこからともなく取り出して、彼の拳を目掛けて殴った。ボキボキと音がして『99999』のダメージという数字が表示される。


「ぐ、グワァ!」

 ダンクは右の拳を押さえてうずくまる。


「もう諦めようよ。ね?」

 なんだか可哀そうになってきたヘイヤはダンクのそばに立つと説き伏せるように言った。


「ま、まだまだぁ!」

 ダンクは左手でパンチを繰り出した。


「タンバリンチョップ!」

 ヘイヤはタンバリンを彼の左手首に思い切り叩きつけた。魔力で強化されただけあって、ボキリと音がして『99999』のダメージという数字が表示される。


「ガ、ガァ!」

 両手を折られて、痛みは二倍になったのだろうか。彼はうずくまったまま、ピクリともうごかなくなった。そして、ベルトからメモリーが強制的に排出された。彼の完全なる敗北である。


「兄さん、これで分かったでしょう?アナタの完全なる敗北よ。もう降参して」

 ローザが優しく声をかける。しかし、ダンクはまだ諦めた様子には見えない。


「ち、力があれば……究極の力があれば……お前達なんかに……」

 声を絞り出すように、ダンクは呟いた。


「やれやれ、君も諦めが悪いねぇ。君はさっき最強の力で挑んで、負けたばかりじゃないか」

 チェッシャーはやれやれと言いたそうな仕草で言った。


「違う……究極の力は……こんなものじゃない……」

 ダンクはまた呟く。


「ねぇ、警察に引き渡す前に病院に連れてった方がいいんじゃない?頭の方の?」

 ヘイヤは訊ねる。


「そうね。兄さんは完全におかしくなってるわ。その方が良いかも……」

 ローザは頷いた。


「今ここで見せてやるぅ!究極の力が完成する瞬間をぉ!」

 ダンクの吠えるような声で一同は彼に集中した。彼はゲーム機と銃が合体したような物を持っていて、自分の下顎に銃口を押し付けていた。


「に、兄さん!」

 ローザは驚いて固まった。


「コイツに命を吸わす事……999人!」

 ダンクは持っていた銃の引き金に指を触れながら喋った。


「長かった。『撃ち抜きジャック』とまで呼ばれながらも吸わせ続けるのはなぁ!」

「撃ち抜きジャック!という事はまさか!」

 ヘイヤの言葉にダンクは笑った。


「そうとも!私はお前の師匠を殺しただけでなく、撃ち抜きジャックとして多くの命をいただいてきたのだぁ!」

 彼は狂ったように笑った!


「何故だ?何故そんな事を!」

 ヘイヤはダンクに詰め寄った。


「コイツの完成のためだよ」

 ダンクは銃を下顎にグリグリと押し付けた。


「コイツの完成のためには1000人の命が必要なのさ。そして今、すでに999人の命を吸っている!後一人だ!あと一人で完成する!」

「くそっ!止めろ!」

 ヘイヤは銃を奪おうとした。最後の一人、それはダンク自身にするつもりだ。そんな事はさせない。そう思い、ヘイヤは必死になって止める。


「兄さん!止めて!」

 ローザも一緒になって銃を奪うのを手伝う。しかし、それでも奪い取る事ができない。


「誰にも完成は邪魔させない!絶対にな!」

 ダンクは引き金に指を乗せた。


「止めろぉ!」

 ヘイヤは叫んだ。





 バン





 引き金が引かれた。銃がダンクの下顎を貫き、彼は絶命した。自殺。それが彼の最後だった、


「兄さん……どうして……」

 ローザは大粒の涙を流して悲しんだ。


「クッ……どうして……」

 ヘイヤは自殺を止める事ができなかった事を悔しんだ。


「ダンク・ロット。どこまでも愚かな男だったよ」

 チェッシャーは彼の事を冷たく言った。


 三人とも、彼の死体から目をそらした。

 もう二度と動く事などない。そう思っていたからだ。


 しかし、彼らは気づいていなかった。


 彼の指がまだ、ゆっくりと動いている事に……

 そして死んだはずのダンクがゆっくりと笑みを浮かべている事に……

ありがとうございます。

次の話は明日19時ぐらいです。

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