16 敵討ち
「嘘だ……嘘だぁぁぁぁ!」
ヘイヤは力の限り叫んだ。
師匠が殺されたのは知っている。そして死因が銃殺である事も知っている。
確かに、ダンクは拳銃を使っていた。しかし、本当に彼が師匠を殺したのか信じる事ができかなかった。
「アレは一年前の事だ」
ダンクは話し始めた。
「追い詰められた私は、奴と一騎打ちとなり、そして勝った。その後、一度はその場を去ったが、もしや生きているのではと思い、コッソリと戻ってきた」
彼はヘラヘラと笑いながら当時の事を話す。
「すると、そこにお前がいた。ヘイヤ・ハタ、お前がな。そしてお前達の会話から、私が殺したのはお前の師匠だと知った私は、いつか復讐されるのではと思いながら今日まで生きてきた。特にあのサンドウィッチ屋で会った時は生きた心地がしなかったよ」
彼は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「だが、どうだ?お前は師匠が死んだ事をすっかり忘れて、やりたい放題のふざけっぷり!私の心配は完全に杞憂であったというわけだよ」
彼は大笑いしてみせた。
「ふざけるな!僕は師匠が死んだ時の事をずっと忘れていない!どんなにふざけた事をしていても、その事だけは絶対に忘れた事なんてない!」
ヘイヤは吠えた。
「だったら、今が復讐の機会なんじゃないかな?ヘイヤ君。この私を殺す、数少ないチャンスだぞ!」
「ああ、そうとも!復讐だ!師匠の敵を今ここで取る!」
ヘイヤはダンクに向かって行った。
「喰らえ!」
ヘイヤは持っていたマラカスをダンク目掛けて投げつけた。しかし、彼は冷静にこれを避ける。
「分かりやすいんだよ。お前の攻撃は!」
ダンクは本物の銃を構えて、ヘイヤを撃った。バンと音がして、弾は左腕に直撃する。
「うっ!」
ヘイヤはバランスを崩してその場に倒れ込む。
「どうだ?この銃はお前の師匠を撃ったのと同じ銃だ。痛いだろう?だが、この私に対する屈辱的な行動、この程度では済まさない!もっと痛めつけてから殺してやる!」
ダンクは銃を構えて三発発砲した。右肩、左腰、右腿に命中する。ヘイヤは痛みにうめき声を上げた。
「どうだ?痛いだろう?苦しいだろう?ではそろそろトドメといこうか」
ダンクはヘイヤの頭を狙った。
と、その時であった。
「ヘイヤ君!君はいったい何をやっているんだ!」
チェッシャーは節分の豆のような感覚で大量のアメ玉を投げつけた。それはダンクにもヘイヤにもバラバラと命中する。拳銃ほどではないが、とても痛かった。
「チェ、チェッシャー……」
ヘイヤはゆっくりと上半身を起こすと、彼を見た。
「君はいったい何をやっているんだ?いつも通りにハジけなよ!」
チェッシャーは少し怒っているようであった。
「チェッシャー、無理だよ……目の前に敵がいるのにハジけてなんていられないよ……」
「まったく……それだから君は甘いんだ!」
チェッシャーはヘイヤを指差して注意した。
「聞きたまえ!確かに敵が目の前にいて冷静でなんていられない気持ちは分かる!僕ちんだってそうだ!」
「じゃあどうして?」
「君がどうしようと、死んだ者は生き返らない!それはどれほど狂気があってもひっくり返せない!」
「『死んだ者は生き返らない』?」
「そうだ。どうやったって生き返らない。これがどういう意味か分かるかい?」
ヘイヤは分からなかった。首を横に振って答える。
「君がどう行動しようとルシアンは生き返らない。だったらいつも通りの君で戦い続け方がずっといいだろう!」
「え?」
ヘイヤは聞き返した。
「彼ならずっと天国から君を見ているはずだ。彼を落胆させるのは止めたまえ。いつも通りにハジけた戦い方をして、喜ばすんだ!」
「『いつも通りにハジけた戦い方をして、喜ばす』……」
「そうだ。それこそが、唯一、彼を慰める事につながるんだ!さあ、立って!君の本気を見せたまえ!」
「……そうだ。僕は師匠を悲しませちゃいけないんだ。師匠を喜ばせなきゃならないんだ……」
ヘイヤはゆっくりと立ち上がった。と、同時に、ダンクも立ち上がった。
「くそっ……アメが目に……痛ぇ……だがまだ見える……ちくしょう……ヘイヤの後はお前の番だ……」
ダンクは呟いて、銃でヘイヤを狙おうとする。
「さあ!立ち上がって!行くんだ!」
チェッシャーの言葉を受けて、ヘイヤは立ち上がった。そして両手を股布の中に突っ込むとまた何か取り出した。それはプランジャー。トイレの詰まりを取るためのアレである。彼はそれを両手に持ってダンクを攻撃した。
「プランジャーアタック!」
ヘイヤはダンクの銃を持った手を狙った。プランジャーが当たった瞬間ボキボキと骨が砕ける音がする。魔力で棍棒並みに強化されているのだ、当然だろう。プランジャーが当たった瞬間、弾丸は発射されて、ヘイヤに命中するが、当たった瞬間に弾かれて無傷であった。
いや、それだけではない。さっき受けた銃創がきれいさっぱり消えていたのだ。ハジけた事で、今まで受けたダメージを無効化したのだ。
「何……だって?」
ダンクは骨の砕けた手をかばいながら後ろに後退した。
「プランジャースティング!」
ヘイヤは両手に持ったプランジャーを真っ直ぐにダンク目掛けて突いた。カポンと彼の体は吸引され、ヘイヤが持ち上げると彼の体は浮き上がった。
「プランジャーヤマアラシ!」
ヘイヤはダンクを真上に持ち上げると、そこから一気にプランジャーごと放り投げた。彼は受け身を取る事ができず、地面に叩きつけられる。
「プランジャーバキューム」
ヘイヤはダンクを踏みつけると、プランジャーを引っ張って無理やり取ろうとした。するとスポンと快い音がして、プランジャーが取れた。
それで終わりではなかった。プランジャーをもう一度押し付けて貼り付けると、再び無理やり取ろうとした。再びスポンと快い音がして、プランジャーが取れる。
「くそっ……やめろ……」
プランジャーの連撃によってダンクの体はどんどんと弱っていった。完全に形勢は逆転した。
「この野郎!くたばれ!」
ダンクは無事な方の手で銃を撃った。利き手の方ではないのか狙いは正確ではない。が、間違いなくヘイヤには命中した。命中したが……全く効果がない。
「何故だ?何故死なない?」
ダンクはこの現実にパニック状態となっていた。バンバンと続けてヘイヤを撃つ。しかし、やはり全く効果は無く、そのうち弾切れとなってしまった。
「嘘だろ?どうして?」
弾切れになっても、彼は引き金を引き続けた。もう弾丸は発射されない。それは分かっているはずなのに、彼は引き金を引き続ける。
「どうだい?これが彼の本気だよ。君が嘲笑ったふざけた行動が、彼をとんでもなく強くしているのさ」
チェッシャーはダンクに囁くように言った。
「ば、ばかな……」
ダンクは今の話を聞き、後ろへと下がった。もはや、今の彼には逃げるしか方法は残っていないのであった。
「さあ、お仕置きの時間だ」
両手にプランジャーを持ったヘイヤはダンクへとゆっくりと近づいて行った。
「ひ、ひぃぃ」
ダンクは恐怖で動く事ができない。
「プランジャーアタック!プランジャーアタック!」
あらゆる箇所の骨が一度に砕ける。それが二連撃。彼はこの時点で、戦闘不能状態となった。
「もう一発!」
ヘイヤが構えたすると、目の前に再び変身したローザが立ちふさがった。
「止めて!」
「ローザ……」
彼女に言われてヘイヤは我に返った。もう十分痛めつけたはずだ。もう、これいじょうの攻撃は無意味だ。そう思った。
「分かった。止めるよ」
ヘイヤは持っていたプランジャーを落とした。
「よくやったアンク!そのまま、奴を倒すんだ!」
「いいえ、兄さん。私はローザよ。それに彼を傷つける事なんてできないわ」
彼女はキッパリと言った。
「な、なぜだ!なぜ私の言う事を聞かない?」
「私だって一人の人間よ!したい事もあればしたくない事もあるの。そして今、私は彼を攻撃する事はしたくない。それだけの事よ」
「くそっ……私を裏切ったというのか?」
「いいえ。先に裏切ったのは兄さんよ!私はやり返しただけ!」
「だ、黙れ!黙れ黙れ黙れ!お前が言う事を聞かないというなら、私一人ですべて終わらせてみせる!」
「いいえ。無理よ。そんな体で何ができるというの?」
ローザが聞くと、ダンクは笑い始めた。
「私にはぁ……まだこれがある……」
彼はそういってメモリーを取り出した。いつの間にか回収していたらしい。
「そう。そんなものに頼ってまで勝ちたいのね?なら、もういいわ。ヘイヤ、それにチェッシャー。彼を懲らしめてあげて」
ローザがそういうと、ダンクはメモリーをベルトにセットして変身した。
「はぁぁぁ……力が溢れる、漲る!真のゲームマスターとして、私は最強となった!誰も私を止める事などできない!そう!できないのだ!」
変身したダンクは勝利を確信して大笑いをした。
それに対し、ヘイヤとチェッシャーは冷めた様子で彼を見ていた。
「最強だってさ」
「いいじゃないか夢を見るくらい」
「これが夢なら起こさないとね」
「もちろん、起こしてあげようよ。現実にさ」
二人は構えた。
ついに決戦が始まろうとしていた。
ありがとうございます。
次の話は明日19時ぐらいです。