15 真のゲームマスター
現場へはあっという間に到着した。ローザのワープを利用して一瞬で到着したのである。
到着したヘイヤは周りをグルリと見回した。
現場は凄惨であった。警官と思わしき人物達は頭が吹き飛んでいたり、胴体の中身が飛び出していたりして死んでいる。生きている人物もいたが、手足を失っていたりと重症であった。
これがプレイヤーによる攻撃であった事はすぐに分かった。それはつまり、今のダンク・ロットはプレイヤーに変身している事を意味する。一撃でも喰らうとマズい、ヘイヤは緊張した。
そんな中、バンバンと音を立てて誰かが戦っていた。パトカー等のライトによってその人物が照らされる。その人物は拳銃を持ち、黒衣を着てドクロとモチーフにしたマスクを身に着けていた。直感ではあるが、ヘイヤは彼がダンクの変身した姿だと分かった。
そして、戦っている相手というのは……チェッシャーだった。彼はアメ玉を飛ばしたり、りんご飴手榴弾を投げたりして戦っていた。しかし、ダンクはその攻撃を全て回避していた。そして反撃の銃撃でチェッシャーは負傷する。ヘイヤが見た時には、すでに彼はチーズのように穴だらけになっていた。
「うーん、マズいねぇ。本当にマズい……このままだと僕ちん、死んじゃうかも……」
見た目だけみれば、すでに致死な状態の彼は呟いた。
「チェッシャー!来たよ!」
ヘイヤは大きな声を上げて彼に話しかけた。
「おお!待兼ねてたよ、ヘイヤ君。僕ちんもうフラフラなの。見れば分かるでしょ?この姿。というわけで選手交代といっていいかな?僕ちん、ちょっと休憩したいの!」
「もちろんだよ!チェッシャー!僕が戦うよ!」
「いいえ!私もよ」
ヘイヤがダンクへ向かおうとすると、ローザが飛び出した。そしてヘイヤよりも先にダンクを攻撃し始めた。
「もう止めて!兄さん!」
彼女は棒状の武器を振り回して、ダンクを攻撃しようとする。しかし、彼は動きを完全に見切っていて、一撃さえあたる気配がない。
「邪魔を、するな」
彼はローザの頭に狙いを定めて、銃の引き金を引いた。バンと音がして、『999999』という数字が表示されて彼女は後方へ吹き飛んだ。
ベルトに接続されていたメモリーが強制的に排出されて、ローザは元の透明な姿へと戻る。どうやら、致命的なダメージを受けると変身が解除されてしまうようだ。
ヘイヤは彼女を心配したが、きっと大丈夫だろうと思った。プレイヤー同時の攻撃では死なない。その事を思い出したからだ。しかし、実の妹に冷徹に手を出すのは許せなかった。絶対に倒して見せる。ヘイヤは心に決めた。
「ダンク・ロット!」
ヘイヤは大きな声を出した!その声には怒りが含まれている!
「ふ、誰かと思えば、あの時の探偵さんじゃないか。確か……ヘイヤ・ハタだったかな?何だい?その姿は。まさかその恰好で私を倒そうとでもいうのかい?」
彼はヘイヤに気づいた。一度は銃を構えるが、すぐに下ろす。そして笑いを堪えるようにスリングショット一丁の姿のヘイヤに訊ねた。
「そのまさかだよ!」
ヘイヤは股布に両手を突っ込むと、何かを取り出した。それは……マラカス。彼は両手にそれを持つとシャカシャカと音を立て始めた。
「ぷっ!……くくっ。そんな事をしていったい何をする気だい?」
ダンクは噴き出した。彼の恰好がおかしくて仕方がないらしい。確かに一般的には、この奇妙奇天烈な恰好で何ができるかなんて分かるはずがない。だから知らなかった。
「お前を……倒す!」
彼が本気でダンクを倒そうとするのを。
ヘイヤはマラカスを鳴らしながら、ダンクの元へと走り始めた。
「フンっ!一撃で終わりにしてあげるよ」
ダンクはヘイヤに狙いを定めて、引き金を引いた。バンと音がして弾丸が発射される。弾丸は真っ直ぐにヘイヤの頭へと向かって行く。このまま命中するのだろうか。いや、そんなわけはなかった。
「サンバ!」
ヘイヤは上半身を大きく逸らした。弾丸は命中していない。回避に成功したのだ。
「何ぃ!」
この事はダンクにとって予想外過ぎる出来事であったらしい。かなり動揺した様子で、二発目、三発目と銃弾を発射する。
「サンバ!サンバ!」
ヘイヤは体をくねらせて二発の弾丸を回避する。
「く、くそぉ!どうなっている?私の『スキル』が!『百発百中』の!絶対に命中するはずのスキルが!適応されていないだとぉ!」
彼の動揺はピークを迎えたらしい。銃を落とし、両手で頭を抱える。彼にとって、決して起こるはずのない出来事が行われているのである。
「君はサンバを知らなすぎる」
ヘイヤはマラカスを鳴らしながら、腰を激しく振りつつ言った。
「赤道直下の暑い国!熱き魂!繰り出されるリズム!サンバは情熱の鼓動なんだ!君の冷酷な攻撃なんて溶かしてしまうほどに熱い鼓動なのさ!」
彼は両手のマラカスを真っ直ぐにダンクに向けた。
「ええい!何をわけの分からない事を……」
ダンクは拳銃を拾い上げて、ヘイヤを再び狙おうとした。しかし、彼はすでに拳銃では戦いにくいくらいに近くまで来ていたのであった。
「サンバキック!」
ヘイヤはダンクの右手を蹴った。そっちの手には拳銃が握られている。ダンクは彼の攻撃を受けて、拳銃を蹴り飛ばされた。
「あ!」
「サンバアタック!」
飛んでいく拳銃を見つめて声を出すダンク。そんな彼に強烈な一撃が振り下ろされる。ヘイヤはマラカスを魔力で包んで強化すると、そのままダンクの頭を殴った。
ガツンと重々しく音がして、『9999』という数字と共にダンクは頭を抱える。きっと強烈な鈍痛に苦しんでいるに違いない。
「もう一発!」
ヘイヤは再びマラカスで殴った。ダンクは攻撃を防ごうとするが無駄であった。彼が片腕で防御するものの、マラカスの一撃は腕を砕きながら『99999』という数字と共に再び彼の頭を殴る。
「グアッ!……くそっ!」
ダンクは頭を押さえながら、ヘイヤから距離を取った。ヘイヤはマラカスを構えるが、これ以上の接近は許すものかと言わんばかりに、ダンクはさらに距離を取ろうとする。
「な、なんて奴だ……ゲームマスターの権限において、最強に設定しているというのに、この強さ……しかも、マラカスを使うのはマンボやルンバであってサンバは全く関係無いというのに……」
「えー!嘘ぉー!」
マラカスとサンバに関係性が無い事を知ったヘイヤはショックを受けた。その隙をダンクは見逃さない。急いで拳銃を取ると、ヘイヤに向けて発砲した。
「マンボ!」
しかし、彼には攻撃は当たらなかった。鞭のように体をくねらせて攻撃を回避したのである。
「サンバが違うならマンボだ!僕のマンボ魂が君を倒す!」
ヘイヤは再び両手のマラカスを真っ直ぐにダンクに向けた。
「くぅぅ……サンバだのマンボだの訳が分からない!一発だ!たった一発命中すれば私の勝利だというのに……」
「それは果たしてそうかな?」
「何?」
ダンクは声がした方を見た。そこにはチェッシャーが立っていた。それもさっきまでの負傷が嘘のように消え去っている。とてもさっきまで穴だらけだったとは思えない。
「お前は!どうなっている?さっきまでの傷は?」
「ヘイヤ君。時間稼ぎ、ありがとうね。おかげで完全復活する事ができたよ」
チェッシャーはダンクを無視して、ヘイヤに声をかけた。
ヘイヤはそれにサムズアップで答えた。
「くそっ!本当にどうなっている?私の一撃を受けて死なないだけでなく、復活しただとぉ!」
「ニヒヒ……悪いね。僕ちん達には常識とかそういったものからは一切関係がないのさ」
チェッシャーはニヤけた顔をして答えた。
「あー、ところでそれなんだが……そのままで大丈夫かい?」
チェッシャーはダンクの近くを指差した。彼がそこを向くと、いつの間にかりんご飴手榴弾がバラ撒かれていた。
「何ぃ!」
ダンクは避けようとした。しかし、それには遅すぎた。彼が動こうとした瞬間に、『99999』という数字と共に一気に大爆発した。
「ニヒヒ……さらに追加攻撃」
チェッシャーはさらにりんご飴手榴弾を投げた。爆風が収まる前に、また『99999』という数字と共に一気に大爆発した。
「まだまだ、いくよん!『キャンディーレイン』!」
チェッシャーは両手を上にかざした。すると、ダンクを中心に何かが降ってきた。彼が足元に落ちてきたソレを拾い上げてみると、それはアメ玉であった。
アメの雨は一気に強くなった。バチバチとアメの雨がダンクに直撃する。一撃一撃が『9999』と表示されている。見た目以上に強烈な魔法であるらしい。
「ぐおぉ!止めろ!い、痛い!」
ダンクは苦しんでいるようであった。
「くそぉ……真のゲームマスターであるこの私がぁ……こんなふざけた攻撃の前に無力だというのか……」
「ま、そういう事かな?ね?チェッシャー?」
「そうとも。狂気はあらゆる常識を破壊する。僕ちん達はふざければふざけるごとに強くなっていくんだよん」
ヘイヤとチェッシャーは笑った。
「『ふざければふざけるごとに』……そんなバカな……」
「さあ、ヘイヤ君!彼にトドメと行こうじゃないか!」
「うん!もちろんさ!」
ヘイヤはマラカスを鳴らしながら、ダンクへ突撃して行った。そして、途中で跳び上がると、大股開きになって、そのまま迫った。こうして、仮面越しとはいえ、ヘイヤの股間はダンクの顔にへとピッタリと張り付いたのであった。
「うぐっ……おぇぇ……」
彼は吐きそうになった。そして、今のが致命的なダメージとして扱われたらしく、彼のベルトからメモリーが飛び出して、彼は元の姿へと戻ったのであった。
「お、お前……真のゲームマスターに対してなんてマネを……」
口から吐しゃ物をまき散らしながら、ダンクは言った。
「おおっと、これでお終いと思っちゃいけないよ」
チェッシャーは顔をニヤけさせた。
「何?」
口を拭いながらダンクは聞く。すると、ヘイヤはマラカスを鳴らしながらダンクの周りを回り始めた。
「マンボマンボ。マンボマンボ」
ヘイヤは呟きながら回転を始める。それは始めはゆっくり、それから徐々に早くなっていく。
「何だこれは!うわっ!」
回転が激しくなると、竜巻が発生し、ダンクは上へと飛ばされそうになる。
「喰らえ!『情熱のマンボハリケーン』!」
ヘイヤが言った瞬間、ダンクは上へと飛ばされていった。そして上空で錐もみ状態となり、そのまま下へと落下していった。地面に叩きつけられてからも彼の体はねじれながら地面にめり込んでいく。
「ニヒヒ……これで君はゲームオーバーかな?」
チェッシャーはニヤけた顔で言った。
「ふっ、それは……どうかな?」
ダンクはゆっくりと立ち上がった。
「何だって?」
ヘイヤは驚いた。今の大技を喰らっても、なお戦う意思を見せるというとは思わなかったからだ。
「十分理解させてもらったよ!ふざけた君達がこれほどまでに厄介な存在だったとはね!」
ダンクはいきなり大笑いをしてみせた。
「特に、ヘイヤ・ハタ。お前は特にだ!もう、これ以上、お前をふざけさせるわけにはいかない!」
「何!」
「そのためにも、こっちは切り札を使わせてもらうよ!」
ダンクは狂ったように笑い続ける。
と、突然彼はヘイヤの方を向いた。
「ヘイヤ・ハタ!君は目の前にいる者が何者か知らないだろう?」
「それがどうした!お前はダンク・ロット!それだけの話だろう!」
「いいや、違うね。私はそれだけの人物ではないのさ!」
「何?」
「ヘイヤ君!聞いちゃダメだ!」
何かに気づいたのか、チェッシャーが止めに入った。しかし、彼の声はそれ以上に大きく、妨ぐ事ができない。
「一年前、お前の師匠を殺したのは、この私だぁ!」
ダンクは大笑いしてみせた。
「何……だって?」
「何度でも言ってやろう!この私こそが!お前の師匠を殺した犯人なのだぁ!」
ヘイヤが聞き返すと、ダンクは狂ったように笑い続けた。
「嘘だ……嘘だぁぁぁぁ!」
ヘイヤは力の限り叫んだ。
ありがとうございます。
次の話は明日19時ぐらいです。