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12 GNM社

 玄関の扉をゆっくり開けると、部屋の中はカビ臭く、そして埃っぽかった。

 二人は静かに入ると、足音がしないように気をつけて奥へと進んで行った。


 室内はしんとしている。本当に誰かが住んでいるのか気になるほどに静かだ。

 ゲームマスターがこの家の中に入ったのは間違いない。そのはずなのに、全然人気(ひとけ)を感じられない。

 彼女はいったいどこへ行ったのだろう。二人は不思議に思いながら、室内を探索していった。


 すると、パソコンの駆動音やキーボードを叩く音が聞こえてきた。

 何だろうか。不思議に思った二人は音のする方へと移動した。


 パソコン関連の音は、ドアの向こうから聞こえてきた。

 ヘイヤはゆっくりとドアを開けて、チェッシャーと一緒に中を覗き込んだ。


 そこには大量のパソコンが並べられていた。そして、スーツ姿をした三人の狐の男達が一心不乱にタイピングを行なっていた。

 いったい彼らは何をしているのだろう。気になった二人は彼らの様子をジッと見た。すると、ヘイヤは驚きで声が出そうになった。


「どうしたんだい?」

 チェッシャーが小声で聞く。


「見て!あの人……昨日サンドウィッチをたくさん買った人にそっくり……いや、きっと本人だよ」

 ヘイヤは小声で狐の男の一人を指差した。


「あら、本当。と言う事は君の勘は間違っていなかった事になるねぇ」

 チェッシャーはニヤけた顔で言った。


「でも、信じられないよ……あんなに紳士的だったのに……」

「人というのは見た目に騙されちゃいけないのさ。勉強になったろう?」

 二人は彼らの様子を小声で話しながら見ていた。


 それが良くなかったのだろう。二人は背後に誰かが立っている事に気づかなかった。

 そしてその者に背中を蹴り飛ばされてしまった。


 二人は狐の男達がいる部屋に派手な音を立てて入ってしまった。当然、彼らには気づかれる。


「あいたた……チェッシャー!以外と重いから早く離れて!」

「おっと、こりゃ失礼。でも本当に失礼なのは、僕ちん達を蹴った奴だよね」

 二人はごちゃごちゃいいながら立ち上がった。


「くっ……なんだお前らは?」

 向かって左側の男が聞いてきた。


「あ、どうも。僕達探偵やってます」

「何ぃ探偵だとぉ!」

 ヘイヤがフレンドリーに挨拶すると、向かって右側の男が驚いた様子で言った。


「まあまあ、いいじゃないか。いつかはバレるつもりだったわけだし」

 中央の男は両側の男達をなだめた。


「さて……と、まずは何と言えばいいかな?『久しぶり』とでも言おうかな?」

 中央の男はヘイヤを見ながら聞いてきた。


「君は確か、イームズ探偵事務所のヘイヤ・ハタだったかな?探偵でしかも警察に協力しているって聞いて嫌な予感はしたんだ。でも、本当に私の会社を調べているとは思わなかったよ!」

 中央の男は大笑いをした。


「さて、まずはここまでたどり着いた事を褒めてあげよう。おめでとう、君は見事GNM社のオフィスを突き止める事ができた。君達は今まで誰も成しえなかった事をできたんだ。それは誇っていいさ」

 中央の男は拍手をする。


「でも、残念ながら、君は何一つ情報を持ち帰る事はできない。住所の事も働いているスタッフの事も。何が言いたいか分かるね?」

「つまり、僕ちん達を消す気って事かな?」

「物分かりがよくて助かるよ。じゃあ死んでもらおうか?」

「わあ、ちょっとタイム!」

 ヘイヤが言った。


「どうした?」

「どうせ、死んじゃうならせめて名前だけでも聞かせて欲しいなって思ってさ」

「ふん、いいだろう教えてやる」

 中央の男はニヤリと笑った。


「私の名前は、ダンク・ロット!」

 中央の男が名乗った。


「私の名前は、バンク・ロット!」

 向かって右側の男が名乗った。


「私の名前は、サンク・ロット!」

 向かって左側の男が名乗った。

 

「そして……」

 ダンクが呼ぶとヘイヤ達の背後から、右手のゴム手袋がゆっくり飛んできた。


「私の名前は、アンク・ロット!」

 ゴム手袋は名乗った。


「え?ちょっと待って!ゴム手袋がどうして?」

 ヘイヤの問いにダンクは笑った。


「これは失礼。アンクは呪病(じゅびょう)を抱えていてね。体が透明になっているんだ」

「呪病……何者かによって呪われた結果、発症するという、あの病気の事ですか……」

「そうだとも、でも心配なく。君達は今から死ぬんだから関係ないからね!」

 ダンクの言葉を合図にバンクとサンクがベルト型の装置を装着した。どうやらプレイヤーになって殺すつもりらしい。


「いっておくけど、戦って勝てると思わない事だね!なにしろ二人はゲームマスターだ。権限によって最強レベルの強さになっているのさ!」

 勝利を確信したダンクは大笑いをした。


「そうかい、じゃあこれは破壊しておくね」

「え?」

 ヘイヤを含め、この部屋にいた者全員が、チェッシャーに注目した。彼はゲーマーギア用のメモリーを二つ持っていた。

 自分達の物ではない。という事は……


「な、ない!私のメモリーが!」

「私のもだ!」

 バンクとサンクはいつの間にかメモリーが無くなっていた事に驚いて狼狽えた。つまりチェッシャーが持っているのが彼らの物という事になる。


「せいっ!」

 チェッシャーは彼らのメモリーを握り潰した。そして手を離すと、バラバラになって床に散らばった。


「やったね!僕が時間稼ぎしたかいがあったよ」

「まだまだ。ダンクとアンクの分がまだあるはずだよ。どこにあるかは分からなかったけどね」

 チェッシャーはハハッと笑った。

 今のは二人の作戦であった。ゲームマスターが一人とは考えにくかった。もしかするとバンクやサンクもゲームマスターである可能性は十分あった。実際その通りだったわけだが。

 そこでヘイヤは一芝居打った。彼らの話を引き伸ばし、その隙にチェッシャーがメモリーを奪い取る。そういう作戦であった。


「くっ……こうなったら……」

「どうする気だい?」

「バンク!サンク!足止めしろ。俺とアンクは逃げる!」

 二人には予想外の言葉だったらしい、二人は一層狼狽えた。


「な!おい!」

「俺達は捨て駒じゃねぇ!」

 二人はダンクの方を向いて抗議する。


「その通り。でも邪魔だから寝ててね」

 チェッシャーは二人の背後から口を挟んだ。そして棒付きの丸いアメを巨大化した物で二人の頭を殴った。

 二人は後頭部に直撃をうけ、気を失った。


「今だ!ヘイヤ君!二人を捕らえるんだ!」

「うん!」

 ヘイヤはダンクとアンクを追った。

 彼らは逃げ足が速かった。しかし、変質者の恰好をしているヘイヤ程ではなかった。

 ヘイヤはグングン距離を詰める。もう少しで二人共捕まえられる所まで追いついた。

 すると、ダンクは振り返って言った。


「アンク!私のために犠牲になれ!」

「キャ!」

 ダンクはアンクを突き飛ばした。透明だがしっかりとした質量を持つ何かがヘイヤにぶつかってきた。


「か、確保。確保ぉぉぉぉぉ!」

 ヘイヤはアンクをしっかりと掴んだ。彼は暴れるが、逃がすものかと必死で掴み続ける。

 そうしているうちに、チェッシャーがやってきた。


「あー、もしかして捕まえたのかな?」

「うん!ダンクの方は逃したけど、アンクの方はこの通り」

「くそっ!離せ!」

 アンクは苦しそうにゴム手袋をうねうねと動かす。


「そういうわけにはいかないのさ!バンディ(拘束)!」

 ヘイヤは拘束の魔法を唱えると、彼は魔力のロープであっという間にミイラみたいになってしまった。もう逃げる事は出来ない。


「ふぅ……これで良しっと」

「うん?ちょっと待ってくれないか?」

「え?僕のやり方に何か問題でも?」

「いや、アンクの姿を見てみなよ」

「彼のいったい何が――」

 ヘイヤは言いかけて黙った。チェッシャーの言う通りに見て初めて気づいた。ロープで浮き彫りとなったアンクの姿、それは完全に女性の形をしていた。つまり、アンクは女である。


「君……女性だったんだ……」

 ヘイヤはアンクに話しかけた。


「ええ、そうよ!ついでに言うと、さっきの青い狐の正体は私よ!」

「え?本当に?」

 ヘイヤは驚いて聞き返した。言われてみれば、確かに彼女の声にそっくりである。何故今まで気づかなかったのだろうか。ヘイヤは気づけなかった事を恥じた。


「ええ、本当よ。ねぇ、もう逃げないから、ロープを少し緩めてくれない?さっきから苦しくて仕方がないんだけど!」

「それは……」

 ヘイヤはどうしようかと悩んでいると、パトカーの音が聞こえてきた。真っ直ぐにこちらに向かっているのが分かる。


「ああ、僕ちんが通報しといたんだ。バンクとサンクを捕まえてもらうためにね」

「え?でもアンクは?」

「それはこっちで預かるとしようよ。彼、いや彼女からはたくさん情報を引きだす事が出来そうだからね」

 チェッシャーはアンクを担ぐと移動を始めた。ヘイヤは後を追う。


「ねぇ、どこへ連れて行く気?」

「もちろんアリスの家だよ」

 ヘイヤが訊ねるとチェッシャーは不思議そうな顔をして答えた。


「えー、それはアリスに悪いんじゃ……」

「大丈夫だよ。それに彼女ならアンクからうまく情報を引き出せるんじゃないかな?女同士さ」

 チェッシャーはヘイヤの方を見てニヤリと笑った。


「それより、バンクとサンクの引き渡しは頼んだよ」

「え?僕が?何で?」

 ヘイヤはいきなりそんな事を言われて驚いた。


「彼らが悪いヤツらだって事を説明する必要があるからね。あ、そうそう、警察と話をするんだから、その恰好は解除しておいた方がいいんじゃないかな?」

 ヘイヤは彼の言葉にあまり納得できなかったが、とりあえずメモリーを機械から抜き取って元の姿に戻った。


「それじゃあ、よろしくね」

「……分かった。じゃあ、その代わりに彼女からしっかりと情報を引きだしてよね」

「もちろんだとも。僕ちんを誰だと思っているんだい?」

 チェッシャーはそう言ってその場を後にした。


 本当にうまく情報を引きだせるのだろうか。ヘイヤは心配しながら、警察がやって来るのをその場で待った。

ありがとうございます。

次の話は明日19時ぐらいです。


短編を書きました。

よろしければこちらもどうぞ。

https://ncode.syosetu.com/n5455et/

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