エピローグ
「ヌガオァァ!!」
残骸を弾き飛ばし、ゴートジェノサイドが怒りの咆哮を上げる。巨大な角を振りかざしながらリンドウへ突進するが、真正面からヴァイティングバスターで受け止められる。
「貴様がリンドウだから何だというのだ!? その姿は最初期の形態、非力で貧弱! 敵ではな──」
「おらぁぁぁ!!」
角と噛み合ったヴァイティングバスターを振り上げると、ゴートジェノサイドを上空へ投げ飛ばす。そして落下した瞬間に力任せの薙ぎ払い。文字通り両断し、爆散させた。
「敵、では……」
必殺技すら使わずに撃破され、スレイジェルは言葉を失う。
「……どうする?」
「……人間如きがぁ!!」
剣を抜き、ゴートジェノサイド同様怒り狂うスレイジェル。しかしながらリンドウの前では、
「っ、っと、はぁっ!」
「ウヌァガ!?」
斬撃を悉く回避され、逆に二刀の袈裟斬りを浴びせられる。苛立つごとに太刀筋は乱れ、更にリンドウから斬り刻まれてしまう。
「何故だ何故だ!? 私の方がスペックは上の筈!!」
(それ、古いデータだとかは言わない方が良いのかな……)
今のリンドウは姿形こそ変わらないものの、蒼葉の手により改良が施されている。並のスレイジェルやジェノサイドではまるで歯が立たないスペックへ変貌しているのだ。
「認めるものか、私はノア様の意志を継いだ……!!」
「それこの前の奴も言ってた!!」
剣撃を防ぐ為にガラ空きとなった胴体へ蹴りを放ち、スレイジェルを大きく吹き飛ばす。
「ノアの本心どころか理想すらちゃんと理解していない! もう一回サーバーで勉強してこい!」
プラグローダーを3回スライド。2本の剣を投げ捨て、拳に光が集まり始める。
「行くぞ、ぉっ!?」
しかしそれを背中に走る鋭い痛みで妨害されてしまった。それだけではない。胸の中心から何やら細長い筒状の物体が伸び始めている。
「うわ、何か変なの生えてる!?」
直後、それは電子レンジの様な珍妙な音を立てて真上に射出。回転する筒状の光の落下先に目をやると、赤と金が混じった髪がたなびいていた。
「なるほど、これが君のフラグメントか。ほぉ、これは面白そうだ、うんうん。2回もこの街に来た甲斐があったよ」
筒状の光をマジマジと観察していたのは少女。白いセーターに赤と黒のチェックスカート、その下には薄い黒タイツにブラウンのブーツ。一見すると一般人に見えるが、リンドウの眼はあるものを見つけていた。
「何だあれ……紋章?」
「おっと、君は見える人間か。それともその珍妙なスーツの力かい? 私の眼の陣が見えるなんて」
少女は中に奇妙な魔法陣が刻まれた銀色の瞳をリンドウへ向けた。異様で、異質で、しかしながら謎の妖艶さを感じさせるのは、小柄ながらメリハリのある身体つきの所為か、或いは別の要因か。
「いいフラグメントを貰った礼だ。そこにいる変な機械は代わりに倒してあげよう」
「き、君が?」
「いや」
「私の契約者が」
《リーパー・サラマンダーの法則!!》
「ガァァァァッ!? アツイ、アツイィィィ!?」
直後、リンドウの背後で爆発が鳴り響く。振り返るとそこには火達磨になって苦しむスレイジェル。そして、
「……死神、なのか、あれ?」
髑髏を模ったマスクに宿る両目は、滾る炎と大鎌を合わせた形状。深紅の外套から覗く黒い腕や足には、透き通るような赤い結晶が浮き上がっている。
「なんか彼岸もこんな感じのフォームになっていた様な……?」
「安心したまえよ。彼は私に忠実なんだ。それに実力は申し分ない」
その言葉に、深紅の死神は不服そうに顔を俯かせる。どうやら少女が言う事が全て真実とは限らない様だ。そして少女も死神の態度に気がついたらしい。
「何を不貞腐れてるんだ。早くやっておくれ」
少女がスレイジェルを指差すと、死神は静かに一歩を踏み出した。
次の瞬間、赤い結晶から光が放たれ、外套が炎に包まれた。
《クリティカル リアクション!!》
死神は天高く飛翔。重力の縛りを感じさせない動き。翼がないにも関わらず、一瞬の内に舞い上がる。
《サラマンダー!! アルケミックブレイク!!》
右足を大きく引いたまま、スレイジェル目掛けて突撃。右足の結晶が一際強く発光すると、一気に赤熱化した。
そのまま延髄斬りの要領で振り抜くと、スレイジェルは真っ二つに切断される。
「アガァァァァ!!!」
爆炎で舞い上がる外套。彼の右腕に見えたものにリンドウは驚愕した。
「なんだその、プラグローダー……?」
「プラグローダー? なんだいそれ……あぁ、もしかして君が手につけた奴かい?」
少女はプラグローダーを指差すと、少々不満げに唇を尖らせる。
「そんな歴史の浅いものと一緒にしないで欲しいな! そのプラなんたらなんて最近出来たものだろう! 彼のそれは私が2500年前に完成させた最高傑作の……」
長々と語り始めた矢先、死神は少女を俵のように肩に担ぐ。それでも話す事を止めない中、死神は初めてその口を開いた。
「リーパー、それが俺の名前だ。また会う事があったら、よろしく頼む」
「……あぁ、分かった。俺はリンドウ。ありがとう」
死神が虚空に陣を描くと、空で何かが光った。見上げると炎の道が死神の目の前まで伸び、そこから巨大な何かが現れる。
炎の鬣を持った6本足の馬だ。御伽噺の様に異様な光景を目の当たりにし、リンドウはまたしても言葉を失った。
「え、いや、ぇ……」
死神が跨ると、炎馬は天高く嘶く。天の道を走って行ったもう一人のヒーローを見送り、リンドウは小さく溜息を吐いた。スレイジェルやジェノサイドと戦うよりも疲れた気がする。
「何がなんだか分からないけど……」
「きっと、俺が知らない場所にもヒーローがいるんだろうなぁ」
次の物語のバトンは、少し先の未来で引き継がれるだろう




