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第82話 極限の闘志+Still, don't give up

 

 溶岩と氷雪が舞う。舞い散る花弁が落ちる度、スレイジェル達が次々と爆発していく。

「睡蓮、こいつら任せてもいいか!?」

「問題なし。山神は黒い奴をお願い」

「おぉ! ……なんか変身したら声に熱が無くなったな」

 普段の感情豊かでエネルギッシュな姿を見知っている分、力を解放してスレイジェルとしての一面が強調された彼女が新鮮だった。

 道を阻もうとする一団を蹴散らし、ノア・トリカブトの元へ迫るホウセンカ。しかし一切構える事なくそれを迎えようとするのに違和感を覚え、足を止めた。

「随分と余裕ぶっこいてるじゃねぇか、なぁ!?」

 力一杯地面を踏みつけると、何も無かった空間に突如毒々しい紫花が姿を現し、焼き尽くされる。散り際、紫の霧を吐き出す。

「こんなせこい罠仕掛けやがって」

「否、既に罠は作動しました」

「は?」

 紫の霧を身に纏ったノア・トリカブト。すると全身の棘の先から花が咲き乱れた。花弁の中心に人間の口が開き、ケタケタ笑い出す。

「うぉぉぉ気持ち悪っ!?」

 かと思うと、花弁の口から大量の霧を吐き出した。ホウセンカは咄嗟に身体から熱波を出して身を守ろうとするが、

「う、ぐぁぁっ!?」

 次々と炸裂。熱波に反応した霧が爆発し、装甲にヒビを入れる程の衝撃を与える。

「好機、このまま仕留める」

 ノア・トリカブトのスカートが変形。巨大な顎となってホウセンカに喰らい付こうとする。

 そこへ氷の剣が降り注ぐ。顎を氷結させると同時に、ホウセンカを襲う爆発も収まった。

「あっぶねぇ、爆発が消えた……」

「その花が出す花粉は発火性が高い。だが気温が低ければ発火しない。山神、交代」

「俺じゃ相性が悪いって事か。やられんじゃねえぞ!」

「問題なし」

 前に出たキョウカロータスを追うスレイジェル達を、ホウセンカは掌から溶岩の濁流を放って押し流す。

「発火を止めれば、私を攻略出来ると?」

「本質が発火性の高さじゃない事は理解している」

 直後、地面に刺さった氷の剣が濁り、溶け落ちた。地面の水溜りは汚水のような色。

「水すら一瞬で腐敗させる毒性。それがお前の能力」

 キョウカロータスの周りの虚空から水が凝縮、氷の剣が大量に宙に浮かび上がる。そして射出された剣を、ノア・トリカブトのスカートが払い落とす。

 その隙を突き、両手の甲に纏わせた氷の剣で強襲。ノア・トリカブトが纏う花を斬りつける度に悲鳴が上がるが、本体はまるで傷ついている様子がない。

「能力を見抜くとは、ただのスレイジェルにしては大したものですね」

「敵に褒められても困る」

 こうして話している間にも、ノア・トリカブトの顎がキョウカロータスを喰い千切ろうと振るわれる。剣で防御すれば一瞬凍りつくものの、すぐにそれを打ち砕いて襲いかかってくる。

「確かにその能力は私の花を不活化させます。しかし、だからといって相性が悪いわけではありません」

「随分喋るな。今更お前の話に付き合う、っ、何?」

 そこでキョウカロータスは異変に気づく。両手の氷の剣が半ばから溶け、足元に落ちた水が腐っていく。

「花に触れればそうなります。もう遅い」

「氷が、作れない……!」

 力をいくら解放しても、キョウカロータスの腕や周囲に集う水は凍らずに腐り果てる。それだけではない。キョウカロータスの氷の鎧も徐々に溶け始めている。そこでようやく謎が解けた。

 ノア・トリカブトの毒粉は空気中に散布された。キョウカロータスの能力は空気中に存在する極微量の水分から氷を作り出すもの。この時点でキョウカロータスの剣や鎧が腐敗する事は必然だったのだ。

「目標、撃破」

 ノア・トリカブトのスカートが、キョウカロータスへと咬みついた。


 氷の花弁が散る。澄んだ音が響く。


「睡蓮!!」

 ホウセンカは叫ぶ。立ち塞がるスレイジェル達を薙ぎ倒し続けてもなお、伸ばした手は届かない。

 消える。あの日と同じように。

「ふざけんな、ふざけんなよお前!! また俺に約束を破らせるのかよ、睡蓮!!」

「山、神……」

 しかしキョウカロータスの声は穏やかだった。まるでこうなる事を想定していたように。

「もう約束は破らない。だから山神、私と一緒に戦って」

 自らのプラグローダーを外す。それが何を意味しているのか分からない山神ではない。記憶と魂を内包したプラグローダーは睡蓮そのもの。だが直後の彼女の行動を見て、言葉の意味を理解した。


 投げられる睡蓮のプラグローダー。それ目掛けて山神は走る。睡蓮の全てを受け取る為に。


 その手に掴んだプラグローダーを、リワインドローダーの中央バックルに装填した。顎に捕らえられたキョウカロータスの身体が粒子へ変わり、ホウセンカへと集まっていく。

 ホウセンカが纏うマグマの鎧、その左上半身と右下半身が瞬く間に凍りつき、絶対零度の鎧へ変わる。

「姿が、変わった?」

「……一緒に戦うって、文字通りじゃねぇか。でも、あぁ、これなら絶対負けねぇ!!」

 新たな姿のホウセンカ、《スイレンホウセンカ》の叫び。大気を凍てつかせてスレイジェル達を凍結、直後に大気を焼き尽くす熱波で薙ぎ払う。

 ノア・トリカブトの花の口が震え始める。

「出力が数十倍に上昇。危険域、危険域」

『うおぉらぁぁぁ第二ラウンドの始まりだぁぁぁ!!!』

 スイレンホウセンカの声、それは山神と睡蓮の心が1つとなった事を示していた。

 毒花が花粉を噴き出す。だがその身体は爆発も、腐食もしない。高潔に輝くマグマと氷の鎧の光は消えない。

『熱はダメ、氷もダメ、けどな、どっちにも振り切った極限環境でお前の花粉は生き残れるか!?』

「極限環境、それは通常定義される生物の生育環境とは逸脱した……」

『んな難しい事聞いてねぇ!!』

 顔面を捉えた拳からは炎が上がり、左肩を捉えた拳から冷気が散る。

 怒涛の乱打がぶつけられる度、ノア・トリカブトの身体に炎と氷が纏わり付く。身体の自由が徐々に効かなくなっていく。

「身体機能の、低下、危険域、危険域」

 ノア・トリカブトも抵抗しないわけではない。毒粉を撒き散らしながら拳を受け止め、腰の顎でスイレンホウセンカの鎧を削る。

『っ、ぐぅぁぁぁ、ぅぅぅ!!?』

 苦悶の声が上がる。しかしそれは攻撃によるものではない。極限環境を体現した鎧は、人間である山神の身体に多大な負担を掛けていた。

「このまま、自滅を待てば」

『自滅する前に……』

 退こうとしたノア・トリカブトの顔面を氷の拳が捕まえた。そこへ炎の拳が叩きつけられる。

 全身が凍結。しかし内部でノア・トリカブトの身体は業火に包まれていた

「物理現象を超越。不可能、不可能」

 機械的な台詞と声とは対象的に、彼女が纏う花々は絶叫を上げる。

 この隙に、スイレンホウセンカは中央のプラグローダーをスライド。


『お前を全身全霊で叩きのめす!!!』


《Playback Start!!》

《Now Loading……Now Loading》


 ホウセンカのリワインドローダー、キョウカロータスのプラグローダーが共鳴。炎は猛々しく、氷は静謐に、スイレンホウセンカの身体に力を与える。

『ぬ、ぐっ、ぉぉぉぉぉぉ!!』

 同時に無数の炸裂が身体を襲うが、その程度では止まらない。


《Extinction Stage!! 絶・咬・爆・拳!!》

《Update Complete 絶・氷・交・斬》


 あらゆるものを焼き尽くす炎、全てを停止させる絶対零度の冷気。相反する極限の力を纏ったスイレンホウセンカの拳は、剣のように鋭くノア・トリカブトの身体を貫いた。


「ぁ…………稼働、限、界…………到達」


 最期の言葉を告げた直後、爆散。一切の欠片すら残さずに消滅した。


『はぁ、はぁ……大、勝利……!!』


 力を使い果たし、過剰な出力に耐えきれなかったスイレンホウセンカの身体も同様に爆発。

 周囲のスレイジェル達を吹き飛ばす程の衝撃波が収まると、爆心地に倒れ伏した2人の姿があった。傷だらけの身体を背中合わせにして。

「ったく……無茶苦茶だろ……」

「えっへへ……勝ったから、いいんだよ……」

 まるでプラグローダーを庇ったように、リワインドローダーだけが破損する。

「んで、この後はどうすんだよ……」

 目の前に迫る新たな大群。しかし2人に戦う力は既に残されていない。

「ま、後は桜達が何とかするって……ボスクラスは倒したんだから」

「じゃあリタイアって事か……へっ、仕方ねぇな」

 ふらつきながら立ち上がる山神。大群を前に一歩踏み出し、自らを激励するように頬を叩いた。

「データにされる前に、1匹くらいはぶっ壊すか」

「……ほんと馬鹿」

「お前にだけは言われたくねぇ」

「でもカッコいいぞ。しょーじき惚れた」

「惚れっ!?」

 睡蓮は笑い、立ち上がる。そして山神の隣に並び立った。

「惚れた弱みだから、付き合ってあげる」

「っ、お前……」

「ほら、気合い入れろ!」


 2人は構える。空にそびえる衛星を相手に戦う仲間に希望を託して、最期の足掻きをする為に。



「「かかって来い! 全身全霊で相手してやる!!」」



続く

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