第81話 運命が決まる戦い+Last battle,start
草木ヶ丘市に住む人々に、1通のメールが届く。内容に目を通した皆が慌て始めた時、誰かが空を指さした。
「ねぇ、あれ……」
空を覆い尽くさんばかりの大きさを持つ衛星。雲を破り現れた星の側には、羽根を持った天使の群勢。
誰かの悲鳴を引き金に、恐怖の叫びは連鎖していく。しかし彼等の前にスーツを着た者達が現れた。
「慌てず避難して下さい!!」
「私達が先導します! 決して慌てず、冷静に離れましょう!」
紅葉の指示で再び集まったノアカンパニーの社員達が、草木ヶ丘の市民達を誘導する。
最後の決戦の場に無関係な者を巻き込むわけにはいかない。正真正銘、ノアとの決着をつける為に、天使の群勢が放たれた場所へ戦士達は赴く。
「ったく、何でお前まで来てんだよ」
「うっさいなぁ、ここに来るまでに何回も言ったでしょ」
渋い顔をした山神に対し、得意げにプラグローダーを掲げて見せる睡蓮。更にもう片方の手には凍りついたチップが握られていた。
「蒼葉ちゃんと社長さんが徹夜で仕上げてくれたんだよ〜ん。安心安全完璧仕様!」
「転校生と社長なら信用出来るけどよ、使うのがお前だからなぁ……」
「はぁ〜!? 自分ばっか強くなったからって調子乗んなコラ!」
灰色の天使の群勢を前にして、いつもの調子は崩れない。立ち止まる山神と睡蓮と相対するのは黒いチョーカーを巻いたノアの分身。
「本体はいないのにコピーは出せるのな」
「まーまー、コピーくらいなら楽勝だって!」
「そうやって調子こいてるとまたスクラップだぞ」
「おいコラァ!! それは言っちゃいけない冗談だぞ、謝れ!」
「いだだだ悪かった悪かった! デリケートな話題だったのは分かったから!」
「……」
2人のやり取りを、まるで虫同士の喧嘩を眺める様な冷めきった目で見ていた分身体。やがて小さく口を動かし始めた。
「個体コード、ノア・トリカブト。変身を開始します」
変身した分身、ノア・トリカブトの姿は禍々しかった。長い棘に覆われた鎧、垂れ下がった花弁の様なスカートアーマー、装飾の多い身体とは対照的に顔はのっぺらぼうの様に何もない。
「はぁ。やべぇなこれ。数じゃ負け、おまけにリーダーもいる。絶望的って奴だ」
「ねぇ山神、主人公補性って知ってる? 正義を信じて戦うヒーローはどんな逆境にも負けないのさ!」
「へいへい。っ、はは、その言葉には全面同意だぜ!!」
《Let′s Burn!!!》
《Let′s Cold!!!》
山神のリワインドローダー、睡蓮のプラグローダーが高らかに謳う。
《燃えろ!! 激怒バースト!!!》
《凍てつけ!! 冷徹フリーズ!!!》
「「変身!!」」
《Ground Quake! Blaze Fist! Blast Rush! Memory Revive!! Wake up Extinction!!》
《可憐なる戦姫 凍てつく大地に力強く咲き誇れ! Dance Brilliant Valkrie》
ホウセンカとキョウカロータス、溶岩と氷の華がアスファルトを彩る。
「ホウセンカ」
「ロータス」
「「全身全霊で、世界を救う!!!」」
そしてそこから離れた場所で、もう一つの戦いの幕が切って落とされようとしていた。
「あっは、こっちは雑魚姉妹じゃん。楽勝」
「戦力配分を見誤ったな、忌魅木」
赤と青のチョーカー、2人の分身が率いる軍勢に立ち向かうのは、
「さぁ? 戦力配分を間違えたのはそっちの方じゃなくて?」
「衛星本体に最大戦力が割けた。なら私達の勝ちは見えている」
蒼葉と紅葉。嘲笑う分身達へ笑みを返す。
「なになに、勝てるとか思ってる? あったま悪ーい!」
「愚者の末路は決まって悲惨なものだ。お前達はすり潰されて死んでいく。理想郷に入れぬまま」
しかし蒼葉と紅葉は怯まない。
「数ばかり揃えて言われても、ね?」
「質を伴わない軍勢を烏合の衆って言うの。衛星のライブラリで検索してみなさい」
「強がりばっか一丁前。もういい、このままやっちゃう!」
2体の分身は同時に変身。赤いチョーカーの個体は右腕が幾重にも蔓が絡みついたランチャー、青いチョーカーの個体は左腕が同様の蔓が絡んだ巨大な剣を携えた姿へ変化。パーツがない赤と青の面が蒼葉と紅葉を睨み据える。
「個体コード、ノア・アザミ。いやーごめんね、こんな過剰戦力で!」
「個体コード、ノア・ムスカリ。精々足掻いて見せるがいい」
「啖呵を切ってみたけど、実際勝てる確率はどのくらいかしらね」
「データシェアがあるから十分現実的ではあるし、何より」
プレシオフォンにチップを挿し、蒼葉は白衣を投げ捨てた。
「ここで負けるなんて事、考えられる?」
「ふふ、考える訳ないでしょう!」
アルゲンタヴィスフォンにチップを挿し、紅葉はスーツの上着を投げ捨てた。
《Purification Complete!》
「「変身!」」
《Deep! Abys! Fang! Memory Revive!! Wake up Ocean!!》
《High! Wing! Flight! Memory Revive!! Wake up Sky!!》
舞い散る蒼い水飛沫と紅い羽根。ユキワリとネメシアが並び立つ。
「決着をつけましょうか」
「私達の過去に」
サーバーセムが存在する、ノアカンパニー地下。そこでエリカとセラ、写見は待つ。ここが一番安全であり、何よりここに敵が到達した時点で人類は全てデータだけの存在となってしまう。
「エリカ……」
「大丈夫。私達は信じて待つだけ」
小さく震えるセラの肩を抱き、エリカはサーバーセムを見つめる。沈黙を続けるセムも、自分達と同じ様に彼らの帰還を待っているのかもしれない。
ふと、アルバムを開いている写見の方に目がいく。
「写見くん、何してるの?」
「あぁ、写真をアルバムに入れてるんすよ。皆さんが帰って来たらお渡しするんで」
「凄いね。怖かったり、しない?」
「あとはもう先輩方にお任せするしか出来ないっすから。なら帰ってきた後の楽しみを作っておくのが良いっす」
写見は作業を再開する。
自分とセラの中に眠るエヴィのヘルズローダー、それを抱きしめる様にエリカは手を握る。
「桜達は、絶対帰ってくる」
待ち構えるは大量の軍勢。後ろに待つは巨大な衛星。対して2人の後ろにはノアカンパニー。
『流石に、君達2人がここにいる事は分かっていたけど』
ノアの声がスレイジェルの内の一体から発せられる。もちろん本体は衛星内で、彼の力全てを持った端末はいない。だがこの場にいるスレイジェルは見た目に違わぬ奇妙な威圧感を放っている。
顔と胸には巨大な穴が空き、引き千切れた鎖が身体から垂れ下がっている。手に携える武器も剣や槍、斧など統一性はない。
『大切な仲間達は大丈夫かな?』
「心配しなくてもいい。みんな強いから」
「ノア、これが最後の戦いだ」
桜はセブンスローダーを、彼岸はデスレイズローダーを構える。
『最後? 確かに最後だけど、それは君達の敗北で終わる』
「ノア。本当に、これがお前の出した答えなんだな」
『くどいな日向桜。君達を消して人類を救う。この結論は変えない。絶対にね』
「…………分かった」
顔を上げた桜を見ると、彼岸もまた衛星を見上げた。
「ならば俺達も、全力でお前に立ち向かうだけだ」
《All Connection Loading!!》
《集え、大罪の力よ!!》
スレイジェル達が一斉に飛びかかる。しかし2人は避けようともせず、ローダーを起動した。
「「変身!!」」
《天地開闢! 英雄、7つの力を継承せし時、天を掴む正義の王となる!! Aim for justice,seek ideal,be prepared, and surpassGod!! 天臨せよ、七天皇!!》
《真実は闇! 理想は光! 表裏一体の真理を知る者、全てを支配する破壊の力を掌握する!! 支配者よ、欲するままに力を振るい、神の領域すら征圧せよ!!!》
スレイジェル達は沼に囚われた所を、光の衝撃波によって薙ぎ払われる。
神の星に相対する2人の英雄。並び立つ光の王と闇の王。
奇しくも2人の姿は、幼き頃に蒼葉と紅葉が描いたあの絵の英雄と同じだった。
続く




