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第80話 絶望を破壊せよ+Come back LOTUS

 

 ヒガンバナから放たれる黒いオーラ。禍々しく、しかし狂気や理性の喪失を一切感じさせない真っ直ぐな闇。

「ヒガンバナまで、こんな力を!?」

「日向桜も言った。この姿は一人じゃ到達出来なかった。ノア、お前ももう気づいている筈だ。お前自身の限界を」

「ふざけるな! そんな力、私が創る世界には必要ない!」

 目の前に瞬間移動。大気を揺るがす程の熱量を持った灰色の炎を振るった。

 しかしノアの炎はヒガンバナの剣によって掻き消され、露わになった腕ごと斬り裂かれる。

「なっ!?」

 何が起きたのか理解出来ていないノアの隙を突き、ヒガンバナは剣 ── クロスブレイクソードに接続されたコネクトチップを押し込む。


《強欲の翼爪!!》


 ヒガンバナの翼が変異。巨大な3本の鉤爪を持つ脚に変わり、ノアを斬り裂いた。

「ぁっ!!?」

 続け様にチップを押し込む。


《暴食の顎!!》


 クロスブレイクソードの刃が巨大な上顎のエネルギーを纏い振り下ろされる。喰らい付いた牙はノアを押し潰そうとする。

 それだけではない。ノアの身体には深い亀裂が走り、綻びが生じ始める。

「私の、端末がぁ、ぁぁ!!」

「日向桜の力は人類の希望を束ね、奇跡を起こす力。だが俺は違う。人類の負の側面を束ね、あらゆるものを破壊する力だ」

「破壊、破壊、何が破壊だ! 何が負の側面だ! こんな汚物以下の力が私に届く筈、が、なぃぃ!!?」

 遂に力の拮抗が解け、ノアは地面に叩きつけられる。神の如く振る舞っていた自身が、汚れた悪しき魔王の足元に伏せている事実を受け入れられなかった。

「お前は人間の負を認めず、排そうとしている。だが完全な光の世界、それは全くの無でしか存在出来ない。お前が拒んだ闇と何も変わらない」

「知った様な口を、ぐっ、スレイジェルの君が言うか!」

「自分の世界を受け入れて貰いたいなら、人間の闇も受け入れろ」

「受け入れる、ものか!!」

 拘束を振り解き、ノアは絶叫。破壊された身体から大量の炎を噴き上げる。


《Inferno Loding!! Falling Finish!!》


「消し去ってやる、その悍しい人間の闇を!!」



「日向桜達の言葉、想いは俺に届いた。ならばお前にも届く筈だ。だから俺は、お前が閉じ籠った殻を破壊する!!」


《傲慢の一閃!!》


 荒ぶるノアの怒りの炎に、真正面から立ち向かう長き刀となったクロスブレイクソード。嵐となった炎を、奢り昂る刃が両断する。

「これを防いだ程度で!!」

 次の炎が渦巻き始める。それを前に、ヒガンバナは更なる一撃を構える。


《嫉妬の魔眼!!》


《Connection Avenger》


 コネクトチップを押し込み、加えて中央のプラグローダーをスライド。そしてクロスブレイクソードを地面に突き立てた。

 剣の前に巨大な魔眼が浮かび上がり、ノアの身体に大量の蛇が絡みつく。

「こんな、こんな!?」

「はぁっ!!」

 ヒガンバナは地を蹴り跳躍。背後に浮かんだ巨大な悪魔の幻影を身に取り込み、ノア目掛けて急降下。


《Final Update Complete!! Seven Sins Finish!!》


 防御すら叶わず、ノアの身体はヒガンバナの蹴りによって貫かれた。

 刻み込まれた深い傷は更に増殖。無数の刃に斬り刻まれた様にノアの身体は崩れ落ちていく。

「ぁぁぁぁぁぁぁ!! 端末が、もう、もう……!!」

「お前に必要なのは端末じゃない。もう一度、衛星の中で答えを探せ」

「認めない、嫌だ、嫌だ嫌だ!! ここまで来て、私の理想が、壊れるなんて……認めるものかぁぁぁぁぁぁ!!!」


 悲痛な断末魔をあげ、ノアは爆散。端末の破片すら残さず完全に消滅した。

 《ヘルズドミネーター》の力により、端末の再構成は不可能となった。だが衛星の中からもノアの脅威はまた迫るだろう。


 戦いは、最後の局面を迎えようとしていた。



 既にロビーのほとんどが氷に覆われ、エリカが立つ場所を残して氷河期の様な光景が広がっている。

「ちっきしょ、変身しててもさみぃ!」

「ホウセンカでそうなら、私達はあまり長くないか」

「えぇ、正直、山神君の側で戦いたいくらい」

 ホウセンカはまだ無事だが、ユキワリとネメシアの身体からは徐々に霜が付着し始めている。そして誰より、

「はぁ、はぁ、っ、くしゅ、はぁ……」

「おいエリカ、意識をしっかり持て!」

「大丈夫……私の事は気にしないで睡蓮ちゃんを!」

「今だけの辛抱だからな!」

 ホウセンカは身に纏うマグマを更に滾らせ、地面を殴る。周りの氷を溶かす為だけではない。

「睡蓮、かかってこい!!」

「死ぬ覚悟を先に決めたのは、ホウセンカか」

 今一度、闘志を高める為。撃ち出される氷の弾丸をフックではたき落とし、キョウカロータスヘの距離を詰める。

 ホウセンカの拳がいくら分厚い氷の鎧を打っても傷一つ付かない。逆に拳の方が凍りつく。だが決して止めない。

「気が済むまで殴れば良い。いつか凍りついて死ぬのはどちらか分からないなら」

「さぁな、それはてめぇの身体見りゃ分かるだろ」

「っ?」

 傷はない。しかし少しずつ鎧が溶け始めている。ホウセンカが持つ力では不可能だというのに。


《データシェア デュアルリンク》


「なるほど。ユキワリとネメシアの……」

「バレちゃった」

「でももう遅い、ホウセンカの力は貴女に追いついている」

 遂に拳は纏わりついた氷を溶かし、キョウカロータスの鎧にヒビを入れた。だが、

「ぅおっ、ぐっ、冷てぇ!?」

 鎧のヒビから白い煙が噴き上がる。瞬間、ホウセンカが纏うマグマが一瞬で冷え固まり、硬化。更には氷柱が垂れ始める。

「砕いた所で、お前達が私に勝てる通りはない」

「く、そ……身体が、動かねぇ」

「さらばだ、ホウセンカ」

 腕から伸びた氷が、ホウセンカを貫こうとした時だった。


 飛来する光。降り立った衝撃波が氷を全て吹き飛ばし、ホウセンカを解放した。その正体はこの場にいた誰もが分かっている。


「桜!」

「リンドウか!? 何故!?」

 自身を見据える光に、キョウカロータスは睨みを返す。しかしそれは助けられたホウセンカも同じだった。

「おい桜」

「分かってる。でも、俺も協力させてくれ」

「っし、よく分かってるじゃねぇか」

「何の話をしている?」

 問いに答える様にリンドウはコネクトチップを押し込んでいく。


《Hope,Affection,Wisdam,Temperance》


《Fourth Loading!!》


「何をする気か知らないが、っ!?」

 プラグローダーの出力を上げようとした時、ユキワリとネメシアがキョウカロータスの腕を拘束する。

「離せっ!!」

「そう言って離す程、聞き分けは良くないの」

「桜、山神君、やって!」

「あぁ! 山神、お前の、俺達の願いを睡蓮に届けてくれ!!」


 手元に出現した光の弓矢を構えるリンドウ。キョウカロータスを必死に止めるユキワリとネメシア。祈る様に手を合わせるエリカ。

 全ての願いを受け取って。


「任せろっ!!」

「行けぇ、山神ぃ!!」


《Final Update Complete!! Aurora Finish!!》


 駆け出すホウセンカへ向けて矢を放つ。光の矢はホウセンカの右手に宿り、黄金の炎を迸らせる。


《Extinction Stage!! 極・光・聖・拳!!》


「帰って来い、睡蓮!!」

 胸に吸い込まれる光は、凍て付き、全てを拒絶する氷を内側から溶かす。キョウカロータスを包むのは地獄の痛みではなく、灼熱の熱さでもなく、柔らかな温かさ。

「ぁぁぁ、あ、みん、な、ぁ」

 鎧が消え、睡蓮が姿を現す。そして、

「ォォォォォォォォォォォォォォォ」

 彼女の背から灰色の影が剥がれ落ちる。それは取り憑いていたノアのデータ。虚無の力が剥がれ落ち、魂の器が空いた。ホウセンカは駆け寄り、彼女からずっと預かっていた心 ── ひび割れたコネクトチップを戻した。


 倒れる睡蓮を抱きとめるホウセンカ。細い身体に傷はなく、やがて閉じられていた瞳が僅かに開く。

「おい、生きてるよな睡蓮、おい」

「……うるさいなぁ」

 小さく笑い、ホウセンカの額を小さな手が小突く。

「聞こえてんぞ、コラ。カッコつけちゃって」

「はぁ、ったく……これが、お前だよな」

 呪縛から解放された睡蓮を抱き上げ、変身を解いた。少し冷たいが、それでも彼女の身体には熱がある。息をしている。それが何より嬉しかった。


「ォォォ、ォォ、ォォォ」


 引き剥がされた灰色の影は動きを増したかと思うと、落ちた2つのローダーを取り込む。そのまま地に埋まるようにして姿を消した。皆が追い討ちをする暇すら無かった。

「っ、逃げられた……」

「ノアの方も着実にピースを集めている。残すローダーは、1つだけ」

 エリカとセラの中に眠るエヴィのヘルズローダー。これだけは必ず死守しなければならない。唇を固く結んだ紅葉に、蒼葉は緊張をほぐす様に肩を叩いた。

「でも、また一つノアに奪われたものを取り返せた。もう何も奪わせない、絶対に」


「おぉぉ、桜めっちゃカッコいい! 神様、神様なの?」

「どっちかというと天使?」

「睡蓮ちゃん! 良かった、元に戻って……本当に……!」

「あぁぁぁエリカ、エリカァ! ちょ、お前降ろせ山神コラ!」

「安静にしてろバカ、おい暴れ、グェッ!?」

 山神を蹴り飛ばし、睡蓮は駆け出す。あの日の別れ以来待ち望んでいた再会を喜び、2人は抱擁を交わした。

「睡蓮ちゃん、会いたかった……会いたかったよ……!」

「よしよし。もう行かないからさ、泣かないで」


「あぁもう、ほんと可愛げがねぇ奴」

「でも嬉しいでしょ。帰って来て」

「……まぁな」

「俺の力だけじゃ無理だった。山神の、睡蓮を助けたいっていう気持ちと覚悟が、この奇跡を生んだんだ」

「最初はぶっ壊してでも止めるって思ってたけどよ。やっぱ諦めきれなかった。当たり前だ、俺はあいつの事……はぁ」

 地面に寝転がる山神。自分の腰に巻いたリワインドローダーに触れ、笑顔を浮かべた。


「やっと、俺もヒーローになれたのかもな」



続く

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