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第79話 地獄を制する者+Hell′s Dominator

 

「う、ぐぅ、ぉぉぉ!!」

 身体の再構築は成功した。しかし絶え間なく灰色の火の粉が燻り続け、その度に身体はヒビ割れていく。

「っ、はは、身体の再構築がやっとなんて、情けない」

「ノア様、ぁぁ、よくぞご無事で……!」

「私が言えたことじゃないが、君も本当に情けない」

 駆け寄る睡蓮に対し、ノアは冷たく言い放つ。

「稲守エリカを見た時、何かを感じたんだろう。記憶なんてもう何処にも無い筈なのに」

「そのような、事……!!」

 口では否定しつつも、その目はノアをまっすぐ見つめらていない。少しずつ後ずさる睡蓮より早く、ノアは彼女の頭を掴み上げた。

「恥ずべきことじゃない。どんなに優秀なプログラムだってバグは生じる。広がる前に、取り除いて置かないと」

「あ、ぁぁぁ!!! やめ、てぇ……!!」

「大丈夫大丈夫。今度こそ、心も、身体も、全て」

 睡蓮のローダーは薄い氷に包まれ、細い手足から刺の様な氷が突き破る。

 やがて呻き声が止まった。ノアが手を離すと、氷が割れる小さな破裂音と共に睡蓮は降り立つ。

「じゃあ、大役を任せようかな。残る全てのローダーの回収とサーバーの破壊を頼むよ。私は囮になってあげよう」

 未だ火の粉が散る身体が消えると同時に、睡蓮も歩み出した。



「っ、ノアだ……!」

 桜は全身に走る鳥肌で存在に気づく。隣にいたエリカも何かを感じたのか、自身の腕を摩った。

「行く、よね」

「うん。悪いけど地下に隠れてて」

「分かった。みんなもそこにいるし、それが一番安全だよね」

 椅子を立つ桜の背をエリカは見送る。外のバイクが走り去る音を聞くと、エリカも立ち上がる。

 今、地下ではサーバーセムが新たなローダーを作成している。最後のピース、エヴィのコネクトチップが揃った為だ。そしてそれが完成すれば、衛星ノアを破壊する手段が揃う。


 もう少しで皆の日常が帰ってくる。それまでは自分も出来る事をしなければいけない。


 地下へ向かおうと一歩を踏み出した時だった。

「っ、冷た……!?」

 手を小さな針で刺されたような痛みが襲う。見ればドアノブから氷柱が伸びていた。

「まさか!?」

 ドアを体当たりで破り、凍りついた床を走り抜けて地下へ向かう。

「うぉあああっ!!」

 地下室から吹き飛ばされたホウセンカがエリカの真上を通り過ぎた。その後、ゆっくりと地下室を上がってくる影が。

「睡蓮ちゃん……!」


 以前のキョウカロータスよりも氷の鎧は分厚く、身体の端々から鋭利な氷の棘が伸びている。


「人間風情が私の名を呼ぶな」

 手を払った瞬間吹き荒ぶ氷の烈風。それに晒されて凍らされるより早く、ホウセンカが立ち塞がった。

「山神くん!」

「安心しろ、まだサーバーセムは無事だ! お前は早く逃げろ!」

 更に後ろからユキワリとネメシアが強襲。キョウカロータスの背中へ蹴りを喰らわせる。

「盗んだローダーを返しなさい!!」

「泥棒なんて神様の遣いがやっていいの?」

「これは元々ノア様のもの。お前達人間が持っていていいものじゃない」

 キョウカロータスの身体にはジャスディマのヘブンズローダー、そしてストラのヘルズローダーがあった。

「転校生、社長、サーバーセムだけでも死ぬ気で守るぞ!!」

「えぇ!」

「意地でも通さない」


 氷に囲まれたサーバーセムは、変わらずデータを送り続ける。

 思うままに生きた者達の魂を、彼の魔剣へ。



「やぁ。待っていたよ、日向桜」

「その様子だと、まだ戦うには早いんじゃないかノア」

 不適に笑うノア。だが彼の身体の異変に気づいた桜は苦しげな表情を浮かべる。

 気に入らない。ノアは笑みを消し、インフェルノローダーへ手をかける。

「あまり調子に乗らない事だ。すぐにでも私は君を超える。最後に理想を叶えるのは私だ」

「ノア、お前の理想は何だ?」

「……なに?」

 真っ直ぐな瞳で問いかけられ、ノアは呆気にとられた。

「今更、何だって? 私の理想? 人類全てを衛星で管理する事だよ。感情を消したデータとして」

「……」

「聞いたかと思えば今度はだんまりか。意味が分からないな、まぁ別に意味が無くても今だけは付き合って──」


「ノア。お前は、自分の存在を認めて欲しいんじゃないか。その為に自分に課された目的、人類の救済を……」

「……日向、桜」


《The time for relief has come!! 罪を贖い、祈りを捧げよ!!》


「消えろ」

 変身と同時に放つ炎。だがそれは桜の眼前に現れた7つの天使達が掻き消した。

「変身!」


《天地開闢! 英雄、7つの力を継承せし時、天を掴む正義の王となる!! Aim for justice,seek ideal,be prepared, and surpassGod!! 天臨せよ、七天皇!!》


 広げた翼がノアの身体を一歩後退させるほどの突風を起こす。

「全く不快極まりない、私も君達と関わり続けた所為でバグが出ているらしい」

「バグじゃない。記憶がある限り感情は生まれる。何度消したって」

「厄介なバグだ。ならその対策は!!」

 灰色の烈風と共にノアは突進。自らの腕をしなる蛇腹剣のように変えてリンドウを斬り刻もうとする。

 リンドウは円状の障壁を展開。その全てを弾き、攻撃の僅かな隙にヴァイティングバスターを叩きつける。

「ぐっ!? こ、こんな型落ちの兵器なんかで……!」

 言葉と裏腹にノアの身体に喰いついたヴァイティングバスターからは大量の灰が舞い散る。

「日向、桜、君を生み出したのは忌魅木博士一番の失態だ。彼の夢、人類の救済を阻む最大の障害……いや違う。あの2人の娘も、ヒガンバナも、何もかも! たった数人の微小な不確定要素の所為で!! 私の完璧な計画が叶えば人類は永遠に安泰だと言うのに、それを理解出来ない愚者の軍勢が!」

「ならどうしてお前は、お前は泣いていたんだ」

 この言葉に、ノアの動きは完全に止まった。

「泣いていた、私が?」

「お前の中を見た。エリカは何かを抱いていたんだ。助けようとした時にそれはエリカを離そうとしなかった」

「ふん、当たり前じゃないか。稲守エリカは私の存在の一端。君に渡すわけにはいかな──」

「エリカが言っていた」


 ── 泣いてたんだ。私がやらなきゃ、私が救わなきゃって。何だかね、少し前の桜みたいだった ──


「自分が背負った使命で押し潰されそうになって、だから焦って早く目的を果たそうとして」

「黙れ」

「こんな方法じゃ、人類を救えるだけでお前の本当の想いは叶わないだろ!!」

「黙れ黙れ黙れ黙れぇ!!! 何が本当の理想だぁ!? 人間風情が知ったような口を聞くんじゃない!!!」

 ノアの拳がリンドウに突き刺さる。防がずに真正面から受け止めたリンドウの頭が小さく震える。

「今からでも、まだ間に合う。お前の人間を救いたい気持ちが本物なのは分かってる。だから頼む、もう……」

「思い上がるのも甚だしい! この世からデータの一つも残らず消してやる、日向桜ぁ!!」


「日向桜の言葉すら、お前には届かないみたいだな」


 現れた人物。それは桜に並ぶ、ノアにとっての最大の障害。

「ヒガンバナ……何をしに来たんだい?」

「日向桜、ここは俺に任せてくれ」

「彼岸……」

「睡蓮の所に行ってくれ。お前の力が必要だ」

 彼岸のことを見つめていたリンドウだったが、やがて小さく頷き、転移した。

「待て日向桜!! 逃げる気か!!」

「ノア。随分と人間らしくなったな」

「……雑魚は引っ込んでいたらどうだい?」

 その対応こそ、彼岸の言う人間らしさを体現していた。しかしノアはそれに気がついていない。

 過去にいたある人物を思い出し、彼岸は僅かに目を伏せた。

「最初は俺も理解が出来なかった。人間らしくなる事の意味を、人間に近づく事の意味を。感情と記憶に振り回され、それが時に間違った選択をするきっかけになる。それこそお前が言う、自滅の未来がいつか訪れるかもしれない」

「なんだ、君だってよく分かっているじゃないか」

「だがその歪さが、不合理な選択が、最後に何かを救う事だってある。ここに至るまでの道で俺は何度も間違い続けた。だからこそ今の俺がここにいる」

「ははは、失敗作らしいね。心配しなくても、君の愚かさはもう人間と大差ないよ」

「そうだ。俺は、人間なんだ」


 直後、彼岸の目の前にブレイクソードが現れた。柄に接続されているプラグローダーは、リンドウのものと同様の変化を遂げていた。デストロイローダーを中心に集った、7体のジェノサイドの魂。

 人間の欲望、悪しきものとして廃されるべきと拒絶された力。しかしそれこそ、人間が未来へと進む為の力。


「完全なものは、完璧じゃない。お前がバグと切り捨てた力を今ここで示す!」


《Connection Server Cem》


 中心にはめ込まれた《デスレイズローダー》が発光。7つのコネクトチップが赤く輝き、一斉に接続される。


《集え、大罪の力よ!!》


「また妙な事をする気か、芸の無い!!」

 ノアは両腕の剣を振るおうとした。しかし両腕を泥のような黒い液体が覆い尽くし、動きを止める。

「なっ、ぐっ!? 何故私が圧されて……!?」

 彼岸の周りから溢れ出る黒い沼。人間の悪しき部分、目を逸らしたくなる負の側面、感情。

 しかし彼は屈しない。知っているからだ。人間の本当の強さを、弱さを。


 赤く変色した瞳を開き、彼岸はブレイクソードを地面に突き立てた。


「変身!!」


 地面が割れ、湧き上がる沼が彼岸を呑み込んだ。黒色の液体は硬化し、彼の身体を守護する鎧となる。

 右肩には笑い、左肩には憤怒を浮かべた二対の角を持つ悪魔の頭。胴体には無数の牙を模した鎧。腰には無数の絡み合った蛇を模したローブ。左手に波模様の小盾。右手に螺旋を描く角。背中には漆黒の翼。


《真実は闇! 理想は光! 表裏一体の真理を知る者、全てを支配する破壊の力を掌握する!! 支配者よ、欲するままに力を振るい、神の領域すら征圧せよ!!!》


 ブレイクソードが十字架の様な姿を持った大剣へ生まれ変わる。それを引き抜いた時、全身を紅いエネルギーラインが走る。


 絶対的な絶望すら支配し、破壊する、最強の戦士。



 ヒガンバナ、《ヘルズドミネーター》が降臨した。



続く

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