第71話 それぞれの決着+Sakura and justice, and...
ノアを一度撃破してから3日が経過した。
新たな衛星型サーバーである《セム》の調整が行われ、ようやく本来のスペックを発揮出来るようになった。そのおかげで蒼葉と紅葉はすっかり夢の中へ行ってしまった。
「さて、ノアは何も仕掛けてこないまま3日経ったけど」
「おかげでセムが完全な状態になった。端末のノアとは互角に戦える。問題は本体とも言える衛星をどうするかだ」
彼岸はデストロイローダーを手に取る。
「元は衛星の緊急停止装置だったデストロイローダーを使えば、或いは……」
「相手は宇宙にいるんだぞ? どうやってそれをぶち込めば良いんだよ?」
桜、彼岸、山神。3人揃っても良い案は浮かばなかった。寝息を立てる蒼葉と紅葉を起こそうと桜は手を伸ばすが、彼岸がそれを遮る。
「確かに2人なら、俺達よりも良い案を生み出すだろう。だが今は休ませてやれ。それまでは俺達が彼女達を守るんだ」
「そう、か。じゃあ2人を守る為に外回り行ってくる」
桜は徐に席を立つ。
「んじゃ俺も行くわ。お子ちゃま達のお守りは任せたぜ」
それに続く様に山神も席を立った。まるで2人で外回りをするかの様な物言いだったが、それが嘘なのは彼岸には分かっていた。
階段を上がった先で、2人の足音は別れて行った。
「止めなくて、いいの?」
エヴィが尋ねると、彼岸は少々困った様に息を吐く。
「俺が止めても聞かないのはもう分かっている。俺は今、やれる事をやるだけだ」
「…………」
エヴィは困惑する。発言内容にではない。何故か妙に引きつった笑みを浮かべた彼岸の顔に。
「……気持ち悪い」
「そうか、不快か」
一瞬にして素の無表情へ戻ったのだった。
どうしても気になり、桜は彼を探し回る。何故今になってそれを思い出し、行動に移したのか。それは桜の直感が導いたのかもしれない。
ビルを出て少し歩いた先の噴水広場で、彼を見つけた。灰色の炎に蝕まれ、力無く座り込んでいる。
「ジャスディマ……大丈夫、じゃないよね」
「いや、見た目ほどじゃない……あの2人が、炎の侵食を抑えてくれているんだ」
握り締めた手を開くと、2枚のコネクトチップが現れる。
「その中の1枚って……」
「アフェイクは……俺を蘇らせて消えた。救ったつもりが、救われたんだ」
「もう1枚の方は?」
「……そうだな。俺から話すべきか」
ジャスディマは小さく笑う。そして打ちあけ始めた。
「これはかつて俺達の仲間だったアースリティアのコネクトチップだ。名を、ブレイブといった。奴は誰よりも人間の未来を憂い、人間を好いていた。……だからだろう。だから、俺達が許せなくなったんだ」
桜は隣に座り耳を傾ける。ジャスディマはそれを見ると、穏やかな表情で続ける。
「人間の未来は、人間が決めるべきだと。そう唱えたブレイブは粛清された。他の誰でもない、俺が、粛清したんだ」
後悔する様に拳を握りしめる。桜はそれを聞き、ノアに取り込まれたままのエリカの事をまた思い出す。
「ブレイブは最期に、お前とエリカを俺達から引き離し、消滅した。俺はすぐにお前達を探し、時間はかかったが何とか見つけ出した。だが……俺はお前達の存在を仲間から隠した」
「どうして……」
「それが友の、ブレイブの望み、意志であったから」
2人の前に突如光が差す。そこから現れたのは、巨大な翼を広げたディザイアスだった。
「ディザイアス……」
「ジャスディマ、汝は既に人間と同等の意志、感情となった。粛清対象である」
座り込んだジャスディマを庇う様に、桜がディザイアスの前へ出る。
「敵である者を庇う。理解出来ぬ、日向桜。ジャスディマは汝が守るべき対象に入るのか?」
「俺は身勝手で、我儘だから。それにもう、ジャスディマは……」
彼の腹部に空いた巨大な穴を見て、桜は歯噛みする。恐らく本調子であれば修復出来たのかもしれない。しかし炎を抑制する為に力を使い、身体の修復にまで回らないのだろう。
「わざわざお前が粛清する必要はない。せめて最期くらい、ジャスディマの好きにさせて欲しい」
「桜…………下がれ」
ジャスディマは立ち上がり、桜の肩に手をかける。限界が近いのか目はあまり開いていない。しかしその視線はディザイアスを確かに見つめていた。
「ディザイアス、俺の望みはもう決まっている……それを阻むなら……」
「……我にも、望みはある。しかしそれは、大義の前では酷く矮小なもの。優先すべくは、人類の管理」
翼から光の羽根が散り、いつでも射出出来るように構える。
「桜、俺の望みは、お前がいなきゃ成し得ない……」
「……分かった」
桜はプラグローダーとアウェイクニングローダーを、ジャスディマはヘブンズローダーを起動する。
「粛清を開始」
羽根が殺到。光を纏った鋭い刃となり、2人を貫こうとする。
《英雄 試練の果て 狂気を希望へ変えよ!! Awakening of Hero!!!》
それらをプラグローダーから出現した光輪が防御、そのまま身に纏い、リンドウはアウェイクニングブレイダーへ。
そしてジャスディマはジャスディマトライブへ変身。
「力を貸してくれ……桜!!」
「あぁ!」
「我を超えられるか、人間に!!」
降り注ぐ光の羽根を潜り抜け、リンドウとジャスディマは駆け出した。
山神はゆっくりと息を吸い、吐く。握る拳に熱が籠る。1人、街の人間すらいない。
こうして歩いていれば、必ず奴は現れる。約束を果たす為なら必ず。
そして、思惑通りその人物が目の前に現れた。
「待っていた。この時が、ようやく来た」
ラスレイはサングラスを捨て、山神を睨む。言葉とは裏腹に表情は怒りに染まっていた。
「さぁ、早く変身しろ。怒りの力を振るえ」
「焦んな。まず先に俺はお前に礼を言わなきゃならねぇ」
「礼、だと?」
表情が更に険しくなる。だが山神は笑ったまま続ける。
「お前の助けが無かったら、きっと俺はフェイザーに勝てなかった。嫌な形だったけどよ、睡蓮にも会えた」
「知ったことか、俺は……」
「ありがとうな」
「知ったことかと言っている!!」
ラスレイが地面を踏みつける。腹の底から響くような地鳴りが響いた。
「お前の感謝などいらん! 俺と戦え!! 俺の怒りとお前の怒りをぶつけろ!!」
「分かってる。感謝しているから、俺はこうして今いる。約束を守る為にな!!」
山神はリワインドローダーを、ラスレイはヘルズローダーを起動。2人の間を、マグマと炎が飛び交う。
「変身!!」
「降臨!!」
《Ground Quake! Blaze Fist! Blast Rush! Memory Revive!! Wake up Extinction!!》
《怒れ! 奮え!! 激昂せよ!!! Wrath! Wrath!! Wraaaaaath!!!》
「「うぉぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」」
ホウセンカ、ラースバースト。
ラスレイ。
燃滾る炎の拳が交差する。
続く




