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第70話 神を討て+Arm reaching the throne

 

 右手にスラスターブレイドを握り、リンドウはノアへ立ち向かう。

 炎を纏った腕と炎を纏った剣がぶつかる。以前とは違い、ノアの腕に傷が刻まれている。

「しかし、所詮はスペックの足りない初期型……」

「確かに力は弱い。でも!」

 スラスターブレイドの刃が爆発、その後立て続けにノアの腕が凍りついた。一気にレバーを引き上げた事による暴発、そして一気にレバーを引き下げた事による極冷気の波状攻撃。

「可能性はどの力よりも高い!」

「どういう事だ……サーバーが変わった所でスペック差は変えられない筈……!?」

「ピュアフォームは……日向桜の進化は止まっていない」

 更にそこへブレイクソードの一撃。ノアの芸術品の様な身体に焼け跡の様な傷が走る。

「ヒガンバナ……! 君はスレイジェルでありながらそんな奴等の言いなりで良いのか……!?」

「言いなりじゃない。俺の意思で、日向桜達と共に歩むと決めた」

「誰もが貴方の思い通りになると思わない事ね」


 よろめいた先で、ユキワリとネメシアの蹴りが見舞われた。

「必要以上に人間を弄ぶ貴方の作る世界、私も遠慮したいわ」

「ふふ、ははは!! 私の方こそ! 君達のような愚か者を理想郷に入れるつもりはもうないさ!」

 ノアは高らかに笑うと、1枚のコネクトチップを握りしめた。

「セラのチップ……!」

「日向桜、君が望んだ通りこのチップは破壊させてもらう! 自分の選択を悔いるといい!」

 しかしそんな蛮行を見逃すヒガンバナではない。


《Shadow Assassin》


 《シャドウアサシン》へチェンジ、黒い霧と化したヒガンバナはノアの腕に纏わり付き、自由を奪う。

「何……!?」


「「セラを返せっ!!」」


 リンドウの拳とエヴィの掌底がノアを打ちのめす。吹き飛ばされた瞬間、蛇が手からセラのチップを掠め取った。

 取り返したチップをすかさず胸に抱く。

「セラ、助けたよ……!」

 そんなエヴィをリンドウは安堵した様に一瞥すると、再びノアへ攻撃を仕掛ける。

「俺にはどうしても、お前が言う理想の世界は受け入れられない! 記憶も、心も、好き勝手に弄っていいものじゃない!!」

「人間は負の側面が濃過ぎる。適切に管理しなければそう遠くない未来に自壊する。要はプログラムを制御するのと同じさ。バグの温床となる心を除いて、記憶を最適な状態で維持すれば、人間は永遠にこの世界に存在する事が……」

 そこへヒガンバナのブレイクソードが来襲。空いた手で受け止めるものの、ノアの態勢は徐々に押されていく。再び《スカーアヴェンジャー》となったヒガンバナだ。

「人間の心をバグと切り捨てるな。記憶は心と共になければ歪んでいく。人間はデータの塊とは違う」

「それを、君が言うのか!」

「そうだ。理屈だけで動かない、心、意志に従って動く。それが、俺が学んだ人間らしさだ!」

 スラスターブレイド、ブレイクソードが交差する様に振り払われる。


「あぁっ、ノア様!!」

 キョウカロータスは悲鳴にも似た声を上げる。しかし彼女の行手はホウセンカの拳が塞ぐ。

「この、どけっ!!」

「つれない事言うなよ、コラッ!!」

 琥珀色と無色の拳は幾度となくぶつかり合い、その度に透き通る様な音を響かせる。キョウカロータスの拳が割れている音だ。

「何故だ!? 何故私達が……!?」

「拳に心が、篭ってねぇ!!」

「心!? そんなもの私には必要ない!」

 氷を纏った拳。だがホウセンカの拳はそれとは打ち合わずに擦り抜け、キョウカロータスの顔面を捉えた。

「ギッ、グィッ!?」

「パンチはな、心を込めて打つんだ。こうやって!!」


《Finale Stage!! グランドナックルフィニッシュ!!》


 リワインドローダーから伝うエネルギーは拳に到達。キョウカロータスを吹き飛ばし、街灯に衝突させた。大きく陥没した頭部から火花が散り変身が解除。破壊には至らなかったが、幼い顔からコードや素体がはみ出していた。

「ア、ア、ノア、様…………」

「どうせすぐ治るんだろ。黙って見てな、俺達がノアをぶちのめす瞬間を!」


「紅葉、データシェアを!」

「えぇ、ノアを再生不可能なレベルまで破壊する!」

 ユキワリとネメシアのリワインドローダーから2機が飛び立ち、交差。しかしそのまま戻らず、リンドウ、ヒガンバナ、ホウセンカのローダーとも交差する。


《データシェア リンクスタート》


「俺達は、自分達の意思で記憶を、未来を、紡いでいく!!」

 リンドウがプラグローダーをスライドしたのを皮切りに、他の4人も一斉プラグローダーの出力を上げる。


《データシェア ペンタクスリンク》


 5人の力が繋がったことをプレシオフォンとアルゲンタヴィスフォンが告げる。


《Finale Stage ディープファングフィニッシュ》

《Finale Stage ハイフライトフィニッシュ》


 最初に仕掛けたのはユキワリとネメシア。紅と蒼の尾を引く蹴りを、ノアは両手から発した炎の盾で受け止める。

「この程度で……!」

「なら俺達のも持っていけ!!」


《Update Complete Scar Break》

《Finale Stage!! グランドナックルフィニッシュ!!》


 続いて前後からヒガンバナの膝蹴りとホウセンカの右手。これすらノアは身体から灰色の障壁を出現させて食い止める。

「まだだ! まだ私を超えるには程遠い!」

「お前がどれだけ遠かろうと! 俺達の意志を阻むなら叩き潰す!」

「たとえお前を引き摺り落としてでも!!」

「貴方の好きにはさせない!」

「私達の未来は……!!」


《Update Complete》



「俺達自身の手で、紡いでいくんだ!!!」



 真上からリンドウが急降下。光り輝く拳がノアへと突き出される。

 ノアは障壁を張ろうとするが、

「間に合わ……!?」

 真正面から、ノアの頭部へリンドウの拳が突き刺さる。衝撃で4人を抑えていた障壁も砕け散り、4方向からの追い討ちがノアを襲う。

 シェアされたデータはリンドウのピュアチップを介し、威力を増大させていく。やがて5人を光の筋が繋いでいき、灰色の鎧すら掻き消す。



《《《《《ペンタクスリンケージ クロスフィニッシュ!!!!!》》》》》



 繋がった光はやがて、1つの光球と化した。街路樹や街灯を薙ぎ倒し、吹き荒ぶ爆風にエヴィは腕で顔を庇う。

 5人は吹き飛ばされて地面に叩きつけられ、変身が解除された。

「変身が……」

「まだ起動したてで、不安定だった、みたいね……」

「にしたってこれは……」

「それよりノアは……どうなった……?」

 桜は顔を上げる。光球は炎へ変わり、揺らめく空間の中に佇む人型の影が目に映った。

 身体は骸骨の様な骨組みが剥き出しになり、眼玉にはヒビが入っていた。


 やがて閉じられていた口が、開かれる。


「コン、カイハ……ワタシノ、マケ……」

「まだ、倒せていない……!!」

 桜達に衝撃が走った。アレだけの一撃を加えても、ノアを消し去る事が出来なかった。その真実が信じられずにいた。

「イ、ヤ、コノ、タンマツハ、モ、ウ、ダメ、ダ……アラタニ、ツクリナオ、ス、ヒツヨウ、アル……」

 骸骨は金属を打ち鳴らす様な奇音を立てながら、失笑する。

「ヒュ、ガ、サクラ……ホウビ、トシテ、イナモリ、エリカノスベテノデータモ、ホゾンシテ、オク……デ、デ、デモ、ツギハ、ナ、ナ、ナイ……」

 骸骨はまだ何かを言いたげだったが、やがて崩れ去ってしまった。塵となった場所から光の玉が現れ、衛星へと昇っていった。あれがノアの本体データなのだろう。

「ノア様が……くぅっ!」

 睡蓮は空を見上げると、共に光となって消えた。


「これでも、ダメだってのかよ……」

 山神はポツリと漏らす。しかし立ち上がり、埃を払う蒼葉の目から光は消えていない。

「でもノアを倒せる様にはなった。これからは主目標を衛星の破壊に切り替えるわ」

「次の敵は衛星……なんか俺達の敵のスケール、デカくなっていってないか……」

「衛星を破壊ってどうやればいいんだろ?」

 衛星を見上げる桜の横に並ぶと、蒼葉は桜の左手ごとプラグローダーを掲げる。

「私達なら出来る。やっと手が届いたんだもの。ノアを倒すだけじゃない、いつか、エリカを救う事だって……」

「あ、あぁ、うん……」

「っ!」

 と、桜と蒼葉の手を引き離すもうひとつの手。その主は冷ややかな視線をしたエヴィだった。

「浮気、禁止」

「う、浮気!? 別に俺とエヴィってそんな関係じゃ……」

「エヴィとじゃない、バカ、バカ桜」

「ひぇ……」

 髪から飛び出し唸る蛇を前に桜は戦慄する。その様子を遠巻きに見つめ、彼岸は笑っていた。

「あら、貴方もそんな顔するのね」

 茶化す様に側へ寄る紅葉。だが誤魔化す事なく、彼岸は笑顔のまま返す。

「笑い、怒り、悲しみ……人間に感情、心があるからこそ、記憶には色が宿る」

「そう。人間らしいじゃない、彼岸」

「あぁ。俺はこの人間らしさを、嬉しく思っている。嬉しいと、感じているんだ」

 純粋な幼子の様な瞳に見つめられ、紅葉は反射的に目を逸らした。頬に手を当てると、僅かに熱を帯びていた。

「……風邪、ね。きっと」



「ァァァ…………ダレ、ワタシ、ダレ?」

 当てもなく、崩壊した教会を歩き回るかつてテランスだった何か。魂が抜け落ち、誰のものかも分からない記憶をあてに彷徨うしかない。

 激痛に身を捩り、見開いた光なき目は空を睨んでいた。

「ダレカァ、ダレ、ダレェェェ!!?」

 次の瞬間、衛星から降った一筋の光が彼女の身体を貫いた。絶叫が止み、目が閉じられる。


「……………………端末としては、十分だね」


 再び開かれた目は灰色に染まり、右手にはインフェルノローダーが出現。その声はかつてのテランスのものではなく、ノアのものへ変わっていた。

「っ、記憶が混ざって邪魔だ」

 服を脱ぎ、一糸纏わぬ姿になると、身体に組み込まれたヘブンズローダーとヘルズローダーを取り外す。そして今までに手に入れたローダーを宙に並べる。

「フェイザー、アフェイク、ブレイブ、テランス、ウィズード……プラウダ、リーディ、グラニー、ロースグ……後オリジナルが5つ必要か。ディザイアスはいつでも大丈夫だけど……」

 ノアは衛星でディザイアスの所在を確認する。しかし彼から応答がない。

「……まさかね。でも、監視だけは置いておこう」

 インフェルノローダーが炎を放ったかと思うと、3体の複製を生み出した。簡素なローダーを右手に巻き、目は虚。個体を識別する為、首には赤、青、黒のチョーカーを身につけている。

「さぁて、新しい身体にも慣れないとなぁ。うむうむ」

 顔に触れ、手に触れ、胸に触れ、足に触れる。以前とは違い、明確に性別の特徴が現れている身体にノアは興味津々だった。



続く

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