第68話 彼が信じた誇り+Soulless doll
機は熟した。
ラスレイは自らの目的を叶える為の戦いに赴く前に、かつての仲間の様子を見に訪れた。
未だ灰色の炎に焼かれ、塀を背に座り込んでいるプラウダの元へ。
「…………よぉ、元気そうで何よりだ」
「そういうお前はもう長くはないか」
「残念だがそうみてぇだな。もう、見栄を張る余裕すらねぇ」
プラウダはよろけながらも立ち上がり、笑みを浮かべた。死を前にしてもまだ彼に焦りはない。
「どうせだから俺の力を、お前に渡すのも考えたんだが……」
「断る。俺は俺自身の力で奴を打ち倒す。お前の力は、お前の目的の為に使え」
「はっ、言うと、思ったよ……なら言う通り、そうするぜ」
剣を引きずりながらプラウダは去って行く。その背にラスレイは言葉を投げた。
「さらばだ、プラウダ」
「おう……精々、満足いく結果に、なれよ」
2人のジェノサイドは袂を別った。決して仲を違えた訳ではない。互いに目指すべき道が定まった為だった。
「日向桜、山神真里、両名の排除を開始する」
キョウカロータスの腕から氷の様なエネルギー弾が発射。2人の足元に着弾する。地面を穿った跡は凍り付いていた。
「おわぁっ!? 容赦無しかよ!」
「やっぱり睡蓮も洗脳、いや記憶操作か。とにかくもう俺達を敵としてしか見てない!」
「くっそ、ぶっ叩いて直してやりたいが……!」
桜はプラグローダーを、山神はパキケファロソナーを何度も操作するが、やはり一切反応はない。
「せこい真似しやがって!」
「っ、危ない山神!」
迫り来る氷弾に気づいた桜は山神の背を蹴り飛ばす。直撃は免れたが、爪先が凍りついた。
「桜っ!」
「大丈夫! それより逃げない、と!?」
今度は桜の左足を直撃。爪先から腿までを透明な氷が包んだ。
「終わりだ、日向桜」
キョウカロータスの右腕から氷柱の様な青白い槍が伸びる。地面と癒着した氷は桜の足を掴んで離さない。
「やめろ睡蓮!」
「これで……なっ!?」
突如地面から光の柱が飛び出した。キョウカロータスを退け、桜の氷を溶かす。
アスファルトを突き破って目の前に現れたのは、ジェノサイド態に変身したエヴィだった。
「エ 、エヴィ!?」
「おま、何ついて来てんだよ勝手に!」
「やらせない……エリカお姉ちゃんの、大切な人!」
腰の蛇からレーザーを撃ちながらキョウカロータスへと立ち向かう。氷弾をかき消しながら接近し、貫手や掌底を駆使してキョウカロータスを翻弄。
「や、やるね、エヴィ……」
「つーかさ、大切な人って単数系だったよな。俺入ってないよなあれな。俺は別に死んでも良いみたいな意味だよなあれな」
「いじけるなよ、折角助けてくれたのに」
「いじけてなんかねーし!」
しかしエヴィの貫手がキョウカロータスの胸を捉えた時だった。エヴィの手も凍り付いていく。
「つ、めたっ!?」
「ジェノサイド風情が!」
「ふぁぁっ!!」
氷の槍がエヴィを斬りつける。氷は彼女の身体にも纏わりついていく。
「まずい!」
「平気、だから!」
エヴィは自らの身体にレーザーを照射。氷を削り取り、低温となった身体に再び熱を宿す。
それを見たノアは指を口元に添えて小さく唸る。
「相性が悪いのか……でもヘルズローダーを強制停止させる訳にはいかないし……」
「何だって……?」
「仕方ないなぁ。なら私も助け舟を……」
だがその時、ノアの背後から剣が振り下ろされた。振り向かずに素手で受け止めたノアは僅かに振り向く。
「よぉ、神様」
「やぁ、死に損ない」
「プラウダッ!?」
空いた手から灰色の炎弾を放つ。プラウダの身体が吹き飛ばされそうになるが、剣を地面に突き刺して踏ん張る。
「何で、プラウダ、何で!?」
「言ってる場合かぁ? 早くお友達連れて逃げたらどうだよエヴィ?」
「何のつもりだあの野郎!?」
「何のつもりも何も、これが最適解だからやってんだろうが。さっさとズラかれ」
しばらく困惑していたエヴィだったが、やがて頷き、蛇で桜と山神を掴み上げた。
「プラウダ……」
「おい日向桜。これは勘だが、この神気取りの衛星をやれるのはお前達だけだ。しっかりやれよ」
「待て、どういう事なんだそれはぁぁぁ!?」
エヴィは2人を掴んだまま地面に潜っていった。
「いや逃げるってそうやってかよぉぉぉ!?」
2人の断末魔が響いた後、プラウダは思わず噴き出した。
「こりゃ、とんでもねぇジョーカーに任せちまったな」
「ノア様、このジェノサイドの相手は私が」
「いや、私がやるよ。お残しの死に損ないくらいなんて事はないさ」
一瞬にしてプラウダの背後に回り、ノアは蹴りを背中へ放った。プラウダの体勢が大きく崩れる。
「ぐっ、死に損ないなぁ。確かにそうだ。だがよぉ、死にかけてる奴ほど何をやらかすか分からねぇんだぜ?」
首を掴み上げられ追撃を受ける直前、プラウダは剣をノアの腹へ押し当てた。
「ん?」
「こんな、ふうになぁ!!」
《Proud!! Cracking Break!!》
黒いエネルギーを纏って巨大化した剣がノアを刺し貫く。
「ノア様ぁ!」
「あぁ、気にしなくてもいい」
動揺する睡蓮とは反対にノアは鼻で笑う。剣を掴み、腹から引き抜いて見せた。
「これが、死にかけてる奴の足掻きかい?」
「はぁ……笑うしかねぇよなぁ、これじゃよぉ……」
貫かれて空いた穴は即座に再生、逆にプラウダの剣に手刀で貫き返し破壊する。
「化け物だなぁ、俺達なんかよりよっぽど!」
「それでも君は初めて私に損傷を与えた存在だ。流石、ジェノサイドの王様だ」
「王様……違うんだなそれが…………俺はただの、その辺にいる、ジェノサイドの1匹だよ……」
「そんな君に、最後の土産を見せてあげよう。インフェルノローダーが持つ力の1つを」
ノアはインフェルノローダーの白い面をスライドした。
《Coad Change Arthlitier》
身体と羽根は白く染まり、炎も同様に白く燃え上がる。ノアが目指す理想の世界の様に。
「…………なるほどな、それが神の……」
《Inferno Loding!! Falling Strike》
その先を口にするより早く、プラウダの身体は聖なる白炎で焼き尽くされた。彼が生きた証明であるチップとローダーのみを遺して。
「さて、ヘルズローダーと……コネクトチップはまぁ、残りカスでもないよりはマシか」
2つを拾い上げる。ノアの元へ変身を解除した睡蓮が駆け寄り、膝をついた。
「ノア様、お手を煩わせてしまい申し訳ございません」
「いや、君はよくやってくれているよ。でもそうだな、強いて言うなら……」
睡蓮の頭を撫でるノアの手が一瞬怪しく光る。その瞬間睡蓮は僅かに震え、やがて口を小さく開いた。
「命令更新。日向桜と、その仲間を、ノア様の支配下に、置く。例え、どのような、手段を、用いても」
「そう。どんな手段を用いても、彼等に私の理想を受け入れてもらわなくては」
ノアの屈託のない無邪気な笑みに返すように、睡蓮もまた、笑った。
ジャスディマの槍とテランスの刺突剣が何度も交差する。しかしどちらの刃先も届かない。
「何で、分かってくれないの、ジャスディマ……この大馬鹿野郎が!!」
「一度本質を見つめ直せテランス! 何の為に俺達は人間を……」
「もう嫌というほど、見つめ直しましたよぉ!!」
テランスは蹴りで槍の軌道を逸らし、ジャスディマの身体に刺突剣を突き刺した。身体ごとぶつかる様に押し込んでいく。
「分からないんですよぉ何度見たってぇ!! もう記憶も、心も、身体も壊れてぇ……でも壊れていくのが、気持ち良くてぇ……だから貴方も、壊れれば良いんですよ!!」
「くっ……!」
炎が上がる。しかしジャスディマのチップが輝きを放つと、灰色の炎は消え去った。
「どう、して!? 何で壊れないのぉ!?」
「あぁ……ありがとう、アフェイク、ブレイブ……俺はまだ、戦える!」
決して傷が浅いわけではない。しかしアフェイクの治癒能力とブレイブの増幅能力が合わさり、炎の浸食を抑えているのだ。完治までは出来ないが、彼の体を動かすに足るエネルギーを巡らせている。
「どうしてどうしてどうし……ぐっ!?」
振り下ろされた槍はテランスの身体を一閃。一瞬動きを止めるが、再び出鱈目な剣撃を振るい始めた。
「うぁぁぁ何で何で何で私だけ私だけ壊れて壊れれれ!」
「仕方がない!」
ジャスディマは槍のローダーをスライド。3つのチップからエネルギーが槍へと送り込まれていく。
「はぁ、はぁ、はぁ、ジャスディマァ、貴方も、私と、堕ちましょう……!」
テランスの刺突剣により巨大な炎が高密度に纏わりついていく。
《Justice Affection Brave Recovery Tlibe Strike》
《Chaos Break!! Coad Temperance》
すれ違い様の一閃。白と灰色の粒子が散る。静寂の後、勝負の行方が明らかとなった。
「ぐぁっ、が、はぁ……!!」
ジャスディマの腹部に巨大な穴が穿たれた。そしてテランスの手にはアフェイクのヘブンズローダーがあった。
「やった、やった! アフェイクのローダー! 美味しそ……ぐぅぅぅっ!? おがっ、げっ、はぁぁぁ!?」
悦楽の表情も束の間、悶え苦しみながら腹部を押さえるテランス。2人は同時に変身が解けた。
「お前はもう、心を失った、ただのデータの塊だ」
ジャスディマの手にはテランスとウィズード、そしてリーディ、ロースグ、グラニーのチップが握られていた。彼女達の魂を取り戻したジャスディマだったが、既に身体は限界だった。
「心配するな……そっちに行くのは、まだ、先になるだろうから……」
テランスを残し、ジャスディマはその場を去る。
「ア、ア、ァァァ……ワタシ、ワタシ、ダレ……ダレナノ、ダレノ、記憶ナノ?」
テランスだったものは空を見上げ、譫言を呟く。空っぽになった器を埋める様に身体から炎が溢れていく。
「ノア様ニ、聞カナキャ……ワタシ、ダレナノカ」
彼女も歩き出していく。誰のものか分からない記憶を頼りに、ノアの元へ向かうのだった。
続く




