第67話 奪われた力+The obstacles in the world Noah is aiming at
1枚、また1枚、記録をアルバムへと差し込んでいく。戦う事が出来ない彼に唯一出来る仕事だった。
夏に皆で遊びに行った時の写真から、つい昨日撮った何気ない日々のもの。これを見返して心を癒すか、また決意を新たにするか。それはこれを見た人にしか決められない。
「あら、何をしているのかしら写見君?」
「っと、社長さん。撮った写真をアルバムに纏めてるんすよ。今はあまり、俺は力になれないみたいだし」
「そう、見てもいいかしら?」
「どうぞっす」
紅葉は手渡されたアルバムを1ページずつめくり、記録を辿っていく。まだエリカや睡蓮がいた時の写真の中には、蒼葉と3人でジュースを飲んでいるところや、海で水をかけられているところが写されていた。
「あの時はつまらなかったなんて言ってた癖に、ふふ、随分楽しそ……」
ここまで言いかけて、ある1枚の写真を目にした紅葉の手が止まった。
疲れ果てて眠っている紅葉の寝顔と、それを黙って見つめている彼岸の写真。
「これは、どんな意図で撮った写真なのかしら?」
「なんか微笑ましいじゃないすか、はは」
口調こそ変わらないが圧をかける話し方に変わった事を感じ取った写見は笑うしかない。紅葉によって写真が取り上げられるのをただ見ているしかなかった。
「残念だけどこれは廃棄するしかないわね」
「何故だ?」
「え、彼岸?」
すぐそばに現れていた彼岸が紅葉から写真を取る。
「良い写真だ。捨てるのは惜しい」
「どもっす……」
「ちょっと返して、返して彼岸」
「しばらく預かっておく。ほとぼりが冷めたら返しに来る」
「は、はいっす」
紅葉が届かない位置まで写真を持ち上げたまま、彼岸はまた何処かへ行ってしまった。
「はぁ…………もう、桜君と山神君の性格がうつったのかしら」
落ち着かない様子で紅葉もその場を後にした。いつも微笑を浮かべてすました様子の彼女とは違った一面を、写見はしっかりと撮影していたのだった。
「また皆でこれを見返して、笑える日々が来ると良いっすね」
「んで、これからどうする?」
山神は桜と蒼葉に問いかける。桜の傍、よりほんの少し離れた位置にエヴィが小さく座っている。
「どうするも何も、今のまま真正面から行ったら確実に返り討ち。今はまだ待って」
「けどよ、桜と、彼岸と、俺、んで転校生と社長さん、あと蛇っ娘……」
「名前、エヴィ」
「あー悪かったって。エヴィとで向かえば何とかなりそうじゃねぇか?」
「桜が手も足も出ずにやられたのよ?」
「それも、ノアは一切実力を出してない。遊ばれただけだった」
思い出して落ち込んだのか、少し桜の声が沈んでいる。雰囲気が沈み始めるより早く、山神は話を前に進める。
「だったらせめて俺達にも転校生がやってる対策を教えてくれよ。何か手伝えるかもしれないし」
「ノアの目が何処にあるか分からない以上、無闇に口にする事自体危険なの。私達が身につけているローダーだって衛星ノアと接続してる。だから」
蒼葉が白衣をたくし上げる。思わず桜と山神は顔を下へ向けようとしたが、当然インナーが見えるのみだった。
「今もローダーはつけてない」
「あー、ひやっとした」
「本当だぜ。たまに転校生、魔性な一面見せるよな」
「……?」
何のことか理解していないエヴィだったが、蒼葉が2人を指差しながら黙って首を振るのを見ると、小さく頷いた。
「とにかく今はノアと不必要に接触するのは避けて。だから今は……」
その時、簡易的に設置されたレーダーから警報が鳴った。街にジェノサイドが現れた事を告げる、赤いランプが点灯する。
「……でも、これを放っておくのは」
「分かってる。けどノアに会ったら今回だけは撤退を優先して」
「あぁ。山神、ノアに嗅ぎつけられる前にやるぞ」
「おう」
2人は飛び出していった。
それを見たエヴィはそわそわと落ち着きがなくなる。蒼葉は肩を軽く叩き、背中を押した。
「気をつけて行ってらっしゃい」
「……うん!」
駆けつけた場所では、逃げ惑う人々の中で暴れ回るジェノサイドがいた。飛び出た目玉に大きく裂けた口、垂みきった皮膚を持つフロッグジェノサイドである。
「1体しかいないなら一気に蹴散らす!」
「おうよ、瞬殺してやる!」
「「変身!」」
桜はリンドウ《アウェイクニングブレイダー》へ、山神はホウセンカ《ラースバースト》へ変身する。フロッグジェノサイドも獲物を追うよりも、圧倒的な脅威を感じ取ったのか逃げようとする。
「逃すかよ!」
「跳ぶ気か!」
リンドウはヴァイティングバスターをキャノンモードへ変形し砲撃。跳躍しようとしたフロッグジェノサイドをエネルギー弾が直撃し、叩き落とす。
「ゲボォッ!?」
立ち上がろうとするフロッグジェノサイドだが、地面が真っ赤に赤熱、融解し、再び冷めて固まる事で体を完全に拘束された。
手を地面に当てたホウセンカの能力である。
「今だ桜、決めろ!!」
「あぁ! ……いや、待った、あれは!」
リンドウが上を見上げた直後、空から光が降り注いだ。地面に固定されたフロッグジェノサイドを貫き、破壊した。
先程までフロッグジェノサイドがいた場所には、灰色の衣服をはためかせる中性的な顔があった。
「ノア!!」
「野郎、嗅ぎつけるのが早過ぎるだろ!?」
「野郎だなんて言わないで欲しいな。私に性別はないから。でもこの際だから分かりやすい容姿に変えた方がいい?」
余裕を見せつける様に隙だらけな動きをしながら近づいてくるノア。
「てめぇをぶちのめしたいのは山々だけどな、ジェノサイド吹き飛んだ以上今は退いてやる! 帰るぞ桜!」
ホウセンカが構えるより早く、リンドウはヴァイティングバスターを発射。歩み寄るノアへ容赦なく爆発が降りかかる。
「お土産くらい渡さなきゃな! 退くぞ山神!」
2人はすぐにその場を離れようとする。しかし退路を塞ぐ様に灰色の炎の柵が張り巡らされた。
「逃げないでよ。まだ話し足りない」
《Coad Inferno》
骸骨の横顔を模した複眼が睨む。
「桜……退路が絶たれた場合、どうすりゃいいんだろうな?」
「仕方ないから、予定変更」
ヴァイティングバスターへ《シュートエアレイダー》チップを装填する。
《Input Tip Shoot Air Raider》
《メガ ヴァイト!!》
ヴァイティングバスターの砲口にエネルギーが収束、トリガーを引くと同時に無数に分裂し、レーザーとなってノアへ殺到する。
《メガ プレディション ブラスト!!》
しかしノアは手からドーム状に炎を展開。自分に降り注ぐレーザーを全て防いだ。
「今日は雨か。傘が必要だね」
「舐めてんじゃねえ神様気取りが!」
マグマを纏ったホウセンカの拳がバリアへ叩きつけられる。しかし炎は僅かに揺らめくのみで、崩れる事はない。
「気取っているんじゃない。真実さ」
「ちっ、余裕ぶっこきやがって!」
拳を叩き込み続けるが、一切傷はつかない。ノアは哀れむ様に笑うと、手の平をホウセンカの拳へ合わせた。
次の瞬間、後方へ大きく吹き飛ばされた。
「山神!」
「桜、今ならぶち込めるぞ!!」
入れ替わる様にリンドウが前へ躍り出る。
《Update Complete Awakening Finish!!》
炎のバリアを解いた一点を狙い、必殺技を放つ。するとノアの持つインフェルノローダーの白い面がスライドした。
《Inferno Loding!! Falling Strike》
ノアの腕は白い刃へ変わり、リンドウの拳とぶつかり合った。
数度衝撃波を放ち、地面を割り、電柱を薙ぎ倒す。だが拮抗していたのも束の間、
「く、ぅぅぅ……!!」
「やっぱり、君達は危険なのかもしれない」
「ぐぁっ!?」
弾き飛ばされたリンドウは、街灯に叩きつけられる直前で態勢を立て直した。
「私が管理する以上、君達の様に自力で歩く事が出来る人間は邪魔なだけだ。だからその力を取り上げよう」
インフェルノローダーを天へかざす。その瞬間、空に浮かぶ衛星から赤い光が2人のローダーを貫いた。
「何、うわぁぁぁ!?」
「何だってんだよ、これは……!?」
ローダーから大量の赤い火花が散り、やがて炸裂。変身が解除された。
「ま、まさか……!!」
桜はプラグローダーをスライドする。しかし一切反応はない。以前テランスの能力を使われた時に似ている。
しかし、
「おい、パキケファロソナーまで……」
あれだけ跳ね回っていたパキケファロソナーも一切動かなくなってしまった。
それを見たノアは笑いながら変身を解く。
「忘れたわけじゃないよね? 君達が今まで変身出来ていたのは、衛星ノアがデータを転送していたからだ。でもヒーローごっこは今日で終わり。衛星を通じて君達の変身許可を切った。2度と、変身出来ないよ」
「ノア様。この者共の始末、私にお任せ下さい」
ノアの前へ、睡蓮が姿を現す。左手に備えた空色のプラグローダーを掲げた。
「おい桜……これ……」
「まずい、よね……!」
睡蓮のプラグローダーがスライドされる。凍てつくような冷たい待機音も一瞬、灰色の炎は凍りつき、ガラスの様な鎧を纏った姿へ変わる。
以前と姿はよく似ている。一切の色を持たない、純粋な氷の様な色をしている事を除いて。
《キョウカロータス》が咲いた。
「これは……!?」
彼岸のプラグローダーにも赤い火花が咲く。異変に気がついた彼岸はすぐに蒼葉と紅葉の元へ駆けつけるのだった。
続く




