第63話 灰神+Purifying flame that burns everything down
「ノア……!!」
「…………っ!」
リンドウはヴァイティングバスターを構え、動きに備える。対してジャスディマは釘付けになったように動かなくなる。
「あれが……私達の、神……」
「神なんかじゃない!」
アフェイクの言葉を掻き消すようにリンドウが叫ぶ。そうしなければ、目の前の存在が放つ威圧感に潰されてしまいそうになるから。現に駆け寄って斬りつける余裕などなく、立っているのがやっとだった。
しかしそんなリンドウとジャスディマの間を駆け抜ける黒い影が。
「エリカお姉ちゃんを、返せぇっ!!」
「待てっ!!」
リンドウが止めるのも聞かず、エヴィはジェノサイド態へ変身。大量の蛇で縛り上げた。そのままカオスローダーのボタンを押す。
「……やれやれ」
《Envy!! Cracking Break!!》
額の瞳から光線が放たれる。しかしノアに直撃した瞬間、散らされてしまった。
「少しお仕置きだ」
ノアが手を軽く払った瞬間、津波の様な形をした炎が発生。エヴィはおろかリンドウとジャスディマ、アフェイクをも回避させないまま飲み込んでしまった。
「きゃぁぁぁぁっっ!?」
「うぅああぁぁっ!?」
「ぐぬぁぁぁっ!!?」
エヴィとジャスディマは変身が解除。アフェイクは炎に包まれたままゆっくり崩れ落ちる。
「ぁぁぁ……あ、つい……!!」
「アフェイク……!!」
「すまない、加減がまだ上手くできないんだ」
ノアの指が鳴ると、アフェイクを包む炎が消える。と、ノアの視線がある人物へと向く。
「おぉ、流石だ、日向桜。君はやはり他の人間、いや、ジェノサイドとは違う」
炎に呑まれながらもヴァイティングバスターを支えに立つリンドウはノアを睨む。たった一撃でジャスディマやエヴィを変身解除まで追い込んだ怪物に怯まず歩み寄った。
「ジェノサイドの攻撃が効かないのは分かった。でも君の攻撃は分からない」
ノアの言葉には答えず、ヴァイティングバスターの柄にスラスターブレイドを接続。引き抜いた瞬間赤熱したスラスターブレイドとヴァイティングバスターを合体させる。
《Limit Break Boost スラスターブレイド》
「なるほど……それがヴァイティングバスターとスラスターブレイドの ──」
《フルブースト プレディション エクスプロード!!!》
無言のままに振り下ろされた灼熱の一撃。先程の灰色の炎とは対照的に真っ赤な炎が天に昇る。
だが、炎を払って現れたノアには焼け跡の一つすら付いていなかった。
「君も中々に非情な男だね、日向桜。この身体の中には君の幼馴染み、稲守エリカがいるというのに」
リンドウの指が震える。僅かに上がった仮面の奥の表情を、ノアは見透かした様に笑う。
「そこで覚悟が揺らぐのも良い。君の本当の心が見れて稲守エリカも嬉しいだろうね」
「っ!?」
いつの間にか背後に回っていたノア。それに気づいたリンドウが反射的にヴァイティングバスターを振るう。
重厚な刃を悪魔の左手が受け止め、リンドウの胸に天使の右手が触れた。
「でももう、君も必要ないよ」
右手から噴出した炎がリンドウを貫いた。声を出す間もなく、火花を散らしながらゆっくり倒れるリンドウ。変身も解ける。
「さて、人間のデータを集めに行かないと。また会うかどうかは分からないけど、今日はさようなら」
ノアは消えた。累々と横たわる中、1人がふらつきながら起き上がる。
「がは……情けねぇ、奴等だ……! ノア……良いぜ面白ぇ、やってやる……!!」
プラウダは未だ小さな炎を体に残したまま、消えたノアを追ってその場を後にした。
「神は降臨した」
戦闘が中断する。教会の壁にはブレイクソードとデストロイセイバーによって大量の破壊痕が刻まれ、庭に巨大な穴がいくつも空いていた。
この間にヒガンバナは4回ディザイアスを破壊したのだが、その度に衛星から光を受けて再生。その場を離れる隙すら作り出せないまま、最悪の事態に陥った事を告げられた。
「ノアが降臨した以上、我の目的は達した。汝らの敗北である」
「……なら消えろ!」
デストロイローダーと接続したプラグローダーを腰に装填し、ヒガンバナは跳躍。自身が巨大な剣と化す。
《Update Complete Destroy Finish!!》
ディザイアスを貫き、両断する蹴り。これで5度目の撃破。しかし同じ様に再生してしまった。
度重なる必殺技の発動と長時間の戦闘による疲労により、ヒガンバナの変身が解除。膝をついた。
「はぁ……はぁ……!」
「我はノアと接触しなければならない。人類を救う為に」
「人類の救済……どうやってそんな事を……?」
「ノアが知っている」
ただ一言残し、ディザイアスは姿を消してしまった。彼岸には最早追う力すら残っていなかった。
「へぇ、うんうん、なるほど」
広場、オフィス街、駅前。人通りが少なくなってしまった草木ヶ丘の街の中でも、まだ人が行き交う道を観察していく。
男性、女性、子供、老人。通り掛かる人々を次々と顔を覗き、体に触れていく。不審者を見る目で見られるが、ノアはそんな事を気にしない。触れた事で彼等のデータを直接受け取り、1人で何度も頷いていた。
「人間は良い存在だ。けど衛星ノアから届いたデータを見ても、このままじゃ滅びの道を行っちゃうなぁ……ん?」
ノアは謎の気配を感じ取った。方向は人の気配がない産業廃棄物処理場の方角。興味を惹かれたノアはその気配の近くへと転移する。
「ぁぁぁぁぁ……あ、あ、ゔ、う、ぁ、ぁ……!」
白、黒、灰色の電流に身を焼かれ、悶えているテランスだった。目はそれぞれ違う方向を睨み、肘や膝で土を掻いている。
「う〜ん、オドントとクロッサムの忘れ物か。仕方ない」
ノアがテランスの頭を撫でる。その瞬間電流が消え去り、テランスの目が正面を向いた。
「ぁ、ぁ? あなた、は?」
「私はノア。そうだな〜、うん、神様さ」
「神、様?」
「そう。君を生み出した人間と、君達スレイジェル、ジェノサイドを幸せにする神様」
初めは呆気に取られていたテランスだったが、突然壊れた様に笑い出した。
「あっはははは、ひひ、ひひひぃ、はははは!! 神様、神様ぁ、はははは!」
そして今度は静まり返る。顔は笑ったまま、ノアを見定める様に見ている。
「…………神様ぁ、お腹空いたよぉ。お腹空きましたぁ。何でも良いから、何か下さいな? 何か、ちょーだい?」
「いいよ。ほら」
差し出されたテランスの手にノアが乗せたのは、メンチカツ。以前エリカが通い詰めていた店のものだった。
「……あむ」
何の迷いもなく一口で頬張り、飲み込んだ。するとテランスの目に光が灯った。
「美味しい! もっと、もっとちょーだい!!」
「いいよ。もっと美味しいものも食べさせてあげる。だから私について来て」
「分かりました、分かった!! 神様、大好き!!」
「でも、ちょっと思考能力は調整しておこうか」
文字通りネジが外れてしまったテランスの手を引き、ノアは空に見える自らの本体を見つめる。
「ノア。我等が神、救世主よ」
「おぉ……私達の、神よ」
目の前に現れる2体のアースリティア。強大な力を持ったディザイアスとフェイザーさえも、ノアにとっては等しく救済すべき存在なのである。
「我等の力も、汝に献上しよう」
ディザイアスの言葉に微笑みで返すと、ノアは両手を衛星に向けて宣言した。
「じゃあ、フェーズ2を開始しよう」
続く




