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第61話 希望が望むもの+When the seeds of wrath sprout

 

 教会の外にて、空を見上げるディザイアス。彼は記憶の整理、人間でいう、過去を思い出す行為を行なっていた。

 見つめる先にあるのは人工衛星ノア。ディザイアスを含め、忌魅木が生み出した全てのデータを管理している、言わば彼等にとっての神。

 自分を生んだ2人から託された望みを叶えるべく、ディザイアスはノアの機能全てを支配、使用出来るインフェルノコードを造った。それは生み出した忌魅木本人ですら、ノアが持つAIの急激な成長、実態を把握しきれなかった為である。


 故にディザイアスは問いかける。


「ノア。汝は人類の神か、それとも我等の神か」

「衛星のAIに意思は無い」

 ノアへの問いかけを阻む声。ディザイアスが過去に見た、しかし雰囲気がまるで違う青年だった。

「識別コード……No.1。何をしに来た?」

「ここにいる事の意味は、お前もよく分かっている筈だ……ネームレス」

 互いに11年前の、全てが始まった時の名で呼び合う。

「今の我はそのような名ではない」

「奇遇だ、俺も識別コードなどもうない。……睡蓮のプラグローダーを渡してもらおうか」

「やはり、狙いはNo.2のプラグローダー……忌魅木の娘達は気づいていたようだ。だがしかし、先約がいる」


「そう。僕達が先さ」


 新たに現れる人影。オドントとクロッサムだった。

「あっれ〜、捨てられた犬がいるな〜?」

「鼻の良さを考えると確かに犬かな。余程飼い主が有能だと見た」

「否定はしない。同じ犬として、飼い慣らせないお前達に飼われている犬が哀れだ」

「言うようになったねぇ」

 言葉とは裏腹に2人は笑っていない。

「ここにお前達が来たという事は、やはり予想は当たっていた訳だ……っ!?」

 彼岸がデストロイローダーを右手に接続しようとした時、ディザイアスが突如光弾を発射。プラグローダーが弾き飛ばされた瞬間、ディザイアスがあるものをオドント達へ投げ渡す。


 睡蓮のプラグローダーだ。


「させるか!」

 彼岸は跳び、空中でデストロイローダーを接続。そのままスライドした。

「変身!」


《I destroy everything,I sever all connections!! 運命、呪縛、因果!! 破壊者よ、全てを打ち壊せ!!!》


 ヒガンバナへ変身。宙を舞うプラグローダーへと手を伸ばした。

 だがそれを阻む影。振り下ろされたのは骨に似た大剣だった。

「お前は……!」

「よぉ、11年ぶり。つってもこの姿は初めてか」

 ジェノサイド態となったプラウダ。彼の妨害により、睡蓮のプラグローダーはオドントの手へ渡ってしまった。それを見たクロッサムが小さく跳ねる。

「やった!」

「はは、ありがとう。協力に感謝する」

「良いってことよ、んなことより早く行きな」

「それじゃあお言葉に甘えて」

 灰色の霧と共に姿を消してしまう。ヒガンバナはプラウダを振り払おうとする。

 しかしプラウダはヒガンバナの耳に顔を寄せる。

「出し抜いて悪いが、インフェルノコードを手に入れるのは俺達だ」

「何……?」

「俺も奴等にインフェルノコードを渡す訳にはいかない。でもなぁ、インフェルノコードをどうにか出来るようにするにゃ彼奴らを利用するしかないのさ」

 顔を離すと、大剣を振り払ってヒガンバナを吹き飛ばした。

「じゃあ、そいつは任せたぜ」

 そのまま後を追うように姿を消してしまった。

「まずい、プラグローダーが……」

「目的は果たした。後は」

 追おうとするヒガンバナの前にディザイアスが立ちはだかる。その手に見えるのはヘブンズローダー。

「完成までの僅かな時間を稼ぐ」

 ヘブンズローダーが起動する。ヒガンバナはブレイクソードとデストロイセイバーを構えた。


「降臨」

《Falling Angel…… Hope》


 その姿が変容する。口吻の様に鋭く伸びた口、鳥の骨に似たパーツから揺らめくようにエネルギーが放たれている。背後に広がる巨大な翼が合わさり、天使にも、神鳥にも似た様相を呈していた。


 変身を終えた瞬間、ディザイアスは背中の翼から大量の羽根を射出。一つ一つが不規則な軌道を描いて飛翔し、瞬く間にヒガンバナを取り囲んでしまう。

「さらばだ、No.1」

 殺到する羽根達。しかしヒガンバナは回避すらする素振りを見せない。


《デストロイセイバー ローディングスラッシュ》


 デストロイセイバーを払ったかと思うと、無数の斬撃が羽根達を撃墜。更に駆け出したヒガンバナはブレイクソードを叩きつけた。

 翼を畳んでそれを防いだディザイアスだったが、一撃で羽根をいくつか破損させていた。

「今の俺の名前は、彼岸だ」

 デストロイセイバーをブレイクソードの柄尻へ接続。双刃の様な形になる。


《Connection Destroy》


 ブレイクソードが宣言すると、黒いエネルギーを双刃が纏った。ブレイクソード側を振り抜き、更にデストロイセイバー側で逆袈裟斬りを見舞った。


《ツインスラスト デストロイブレイク!!》


 翼が両断され、ディザイアスの身体が打ち上げられる。黒いエネルギーは彼の体を瞬く間に蝕んでいき、爆散させた。

「本当に僅かだったな」

 踵を返そうとするヒガンバナ。しかし不可解な音に気が付き、足が止まる。

 空を見ると、散り散りになったディザイアスの体へ光が注がれ、パーツが再び集結。すぐさま元の姿へ復元してしまった。

「何だと……?」

「我には衛星ノアの加護がある。最低限の時間くらいは稼げる」

「ノアの加護……」

 いよいよ分からなくなる。衛星ノアは何を考え、どちらの勝利を望んでいるのか。或いは組み込まれたシステム通り、淡々と事を進めているのに過ぎないのか。

「No.1、汝は何故人間に味方する事を選んだ? このまま人間に全てを任せていては、いずれこの世界諸共自壊するだけ。より上位の存在が、人間の記憶、思考全てを管理すべきだ。それが人間という種を保存する最適解だと思わないか?」

「人間の存亡は、俺達機械が手を出す問題じゃない。どれだけ俺達が優秀だろうと全ては救えないんだ」

「それを可能にするのがインフェルノコードだ。これを完成させる為に、衛星ノアを使ってスレイジェルとジェノサイドウィルスを忌魅木は生み出した。全ては、人類救済の為」

「衛星ノアが、ジェノサイドウィルスを……!?」

 人間を怪物へ変異させるウィルス。それを衛星ノアが作り出し、散布したのか。そう聞こうとした彼岸へ、ディザイアスは新たな真実を口にした。


「ジェノサイドウィルスは我等と同じ、データの存在。人間の遺伝子情報を改竄する、コンピュータウィルスだ」




「うぉらぁぁぁ!!」

 ホウセンカは愚直に拳を振るう。フェイザーの右手の爪で防がれるのも構わず、両手を打ちつけ続ける。

「お前だけは……俺が!!」

 しかし、渾身の力を込めた一撃が突如空を殴る。直後背後から斬り付けられ、背中から火花が散る。

「何っ!?」

 すぐに振り向きざまにストレートを放つがこれも空振り。またしても背後からの一撃で大きくよろめいた。

 本来ならホウセンカはパキケファロソナーの能力で察知能力が高いのだが、フェイザーの転移の速さ、そして何より山神が冷静でない事が合わさり、活かし切れていない。

「愚かだ。怒りに振り回され、考えなしに力を振るう」

「うるせぇっ!!」

 裏拳を繰り出す。しかし右手の爪に受け止められ、肩にフェイザーの剣が押し当てられる。

「怒り程無意味で、無力なものはなし」

「ぐぉあっ!?」

 そのまま斬り裂かれ、装甲片が弾け飛んだ。だがまだホウセンカは倒れない。備えられた機能の一つ《ギャッキョウスキン》が、傷つく程に力と闘志を高めているのだ。

 震える手でパキケファロソナーを中央バックルへ装填。最大までチャージすると、再びサイドバックルへ押し込んだ。

「ぶっ潰してやる……!!」


《Final Stage!! グランドナックルフィニッシュ!!》


 琥珀色の拳がフェイザーへと迫る。しかし、

「死せよ、人間」


《Faith Recovery Strike》


 拳が届くより速く、フェイザーの光の剣がホウセンカの右肩を貫いた。動きが止まる。

「……ぶっ潰す」

 ホウセンカは止まらなかった。更に深く貫かれるのも構わずフェイザーへ近づき、拳を頭部へ叩きつけた。

「馬鹿なっ!?」

 初めて声を荒げ、フェイザーは深く一撃が入る前に転移した。光の剣も消え、ホウセンカは力尽きた様に倒れる。

 変身が解けた山神へ、フェイザーは少しずつ近づいていく。まだ息がある。それを見たフェイザーは、奇妙な感覚を覚えた。

(何だ…………私は、怒っている……? ……否、それよりも、早くこの人間を始末しなくては!)

 剣を振り上げる。


 しかしここで、山神の姿が忽然と消えた。

「っ!?」

 急いで辺りを見回す。するとフェイザーの背後に、山神を抱えた男が立っていた。

 ラスレイだった。

「貴様……仲間か!?」

「敵の敵が味方なら、そうだな。ここで死ぬには惜しい奴だ。スレイジェル如きに殺されて良い人間じゃない」

「私はアースリティアだ! 下等なジェノサイドが!」

「こいつは俺が倒す。お前にはこいつが覚醒する為の肥やしになって貰う。首を洗って待っておけ」

「肥や、し……!!?」

 フェイザーが斬りかかるより早く、ラスレイは山神と共に姿を消した。

 体を焼き尽くす様な未知の感覚に、フェイザーはただ悶えるしかなかった。



 先程の場所から離れた林の中、ラスレイは山神を放り出した。地面に落ちた衝撃と激痛で咳き込みながら山神は目を覚ます。

「何だお前……一体どういうつもりで……!?」

「お前の中に、滾る怒りの炎が見えた。知らずうちに押さえつけている様だが、それではあのスレイジェルに勝てん」

「いらねぇ、お節介だ……ぐっ!!」

 立ち上がろうとするが、上手く力が入らずに転倒。見かねたラスレイは左肩を引っ張り上げて立たせる。

「お前は俺と同じだ。だからその力を最大限に引き出せ。そうしたら、俺がお前を倒す」

「訳が、分からねぇ……」

「プラウダはジェノサイドが生きる世界を理想としている。俺もそれには同意だ。だが、あくまでそれはジェノサイドとしての理想。俺個人の望みとは違う」

 山神に話している様で、実は独り言を言っているのではないか。そう思えるほど、ラスレイの目は遠くを見つめていた。

「俺は、好敵手を探していた。俺の行き場の無い、理由無く湧き出る怒りを余す事なくぶつけられる相手を。偶然ではあったが、その芽を見つけられた」

 ラスレイは何かを山神へ投げ渡す。それは小さなプラグローダーに似た装置。配線やねじ穴が剥き出しとなっている。

「ローダーの芽だ。人間に進化させるのは至難だろうが、あのスレイジェルを倒したければやってみせろ」

「誰が、ジェノサイドの言う事なんか……!!」

「どうするかはお前の勝手だ。精々、後悔しない選択肢を選べ」

 ラスレイは姿を消した。取り残された山神は、渡されたローダーを睨む。

 冷静さを欠いていたとはいえ、完敗だった。性能だけならば劣っていなかった筈だというのに。


 自分への怒りが沸々と怒りが沸き立つ。


 それを受け取る様に、ローダーは僅かに赤く輝きを放った。



続く

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