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第58話 混沌を砕く剣+The gears of the plan went out of order.

 

「ヒガンバナまで変異を……これでは計画が……!」

 姿を変えたヒガンバナを前にして、テランスは小さく後ずさる。感情を知ってしまった彼女の中には、既に恐怖が巣食ってしまった。

「あーあ、ヒガンバナもか」

 と、テランスの隣へオドントが姿を現した。遅れてインフェルノコードも灰色の炎と共に現れる。

「こうなったらもう、あの手を使うしかない……そういう訳でテランスさん、ここは任せたよ。あ、くれぐれもインフェルノコードだけは失わない様にね」

「し、しかし……」

「頼んだ、よ?」

 震える声をしたテランスに対し、オドントは冷たい視線と声で一蹴。燃え盛る炎の向こうへと消えた。

「目標、プラグローダーの回収から破壊へ変更。遂行開始」

 インフェルノコードは腕から炎を放つ。それを見たヒガンバナは、プラグローダー側部のボタンを押す。


《デストロイセイバー、ロード》


 するとヒガンバナの左手に剣の持ち手が出現。プラグローダーから《デストロイローダー》を引き抜き、柄の部分へ装着。漆黒の刃が柄から伸びる。

 ブレイクソードとデストロイセイバーをX字に薙ぎ払うと、炎が一瞬で掻き消される。2振りの剣を携え、ヒガンバナがインフェルノコードへ斬りかかる。再生能力を持つインフェルノコードは最初、それに構わず炎を再び放とうとしていたが、

「……っ、目標、脅威を確認」

 刃が目前まで迫った瞬間、インフェルノコードは後ろへ転移して回避した。それを見たテランスは違和感を覚える。

(おかしい、インフェルノコードは高い再生能力がある。躱す必要なんか……まさか!?)

 再び斬りかかろうとするヒガンバナ。その前に立ち塞がったテランスは刺突剣で一撃を食い止める。

「インフェルノコード、貴女は一度引いて下さい!」

「命令、承認不可」

「貴女はヒガンバナの力に気付いた筈! それを早く伝えなさい! 最早ヒガンバナはリンドウに並ぶ、いや、それよりも厄介な障壁になるかもしれないのです!!」

「…………命令、承認。撤退」

 テランスの必死の訴えを聞き入れ、インフェルノコードは姿を消す。刹那、刺突剣を押し除けた2本の剣がテランスの軽鎧を切り裂いた。

「ぐっ!?」

 するとすぐに異変が訪れた。テランスの刺突剣が突如霧散し、傷からは黒い粒子が溢れ出し始める。

 そしてヒガンバナはデストロイセイバーに装着したデストロイローダーを展開。

《シャインセイバー》

 今度は刀身が白く発光を始める。返す様に逆袈裟斬りをテランスへ繰り出した。

「が、は、あっ、あっ、何か、抜けて……!?」

 テランスに刻み込まれた模様が消え去ったかと思うと、灰色だった身体が白くなっていく。身に付けたカオスローダーにも同様の変化に見舞われている。

「ローダーが、力が、破壊されている……!!」

「言っただろう、全てを破壊すると。次は身体だ」

 デストロイローダーを再びプラグローダーへ接続。一度デストロイローダーをスライドした後、腰に装填してプラグローダーを3回スライド。


《Coad Buster Program Install》

《Now Loading……Now Loading》


 巨大な翼を背負い、右足に黒いエネルギーを纏わせる。跳躍するとそれはヒガンバナの全身を覆い、自身が巨大な剣の様になってテランスへ突貫する。

「そんな、もの……!!」

 テランスも対抗してカオスローダーのボタンを押す。しかし、

《Coad Error》

 カオスローダーは、最後の抵抗すら不可能だと無慈悲に告げた。

「嘘……あっ……!?」


《Update Complete Destroy Finish!!》


 文字通り剣と化した必殺の蹴りがテランスの胸を貫通。そのままヒガンバナが通り抜ける。巨大な火花を吐き出し、テランスの身体は2つに分かれて宙を舞った。


「や、だ…………また、死ぬの…………やだ…………っ!!!?」


 掠れた声は爆発に掻き消され、弾き飛ばされたカオスローダーが窓から落下した。



 テランスのカオスローダーがクロッサムの前に落ちる。それだけで何が起きたのか、彼女は察した。

「……本当、使えない奴ばっかり」

 吐き捨てる様に呟き、カオスローダーを拾い上げる。白色になったそれを睨んでいると、隣にオドントが姿を現した。

「クロッサム、ヒガンバナもダメだ。もう残る1つを使うしかなくなったね」

「しかもヒガンバナの力、相当面倒臭い。……屑どもが邪魔しかしない所為で計画がめちゃくちゃ」

 視線がリンドウの方へ向く。殺意に満ちた瞳が、今までのクロッサムが見せていた茶目っ気が演技であった事を告げていた。

「リンドウ、いいや、日向桜。近い内に足掻く事すら不可能な地獄を見せてやる。泣いて謝ったって、許さない」

 その一言を残し、クロッサムは消えた。オドントはそれとは対照的に、笑顔をリンドウへ向けて目の前から姿を消した。

「リンドウ…………次こそ、次こそ貴様を…………」

 捨て台詞を吐いた後、ウィズードも頁に紛れて消失した。


「結局逃げられたか……って、んな事より桜!」

「あぁ、早く蒼葉と紅葉を……っ!?」

 桜と山神が入り口へ向かおうとした時だった。崩れた自動ドアが吹き飛ばされ、中から黒い影が現れる。


 蒼葉と紅葉を抱えた、ヒガンバナだった。


「て、てめぇ何でここに!? ってか転校生と社長!? あーよく分からんが、早く2人を離しやがれ!!」

 臨戦態勢を取る山神。しかし桜はというと、分身とヴァイティングバスターを消し、ヒガンバナへと向き直る。

「ヒガンバナ……」

「俺と戦うなら、先に2人を病院に送ってやれ」

「えっ? お、おう……分かった」

 状況を一切飲み込めていないのか、山神はヒガンバナへ恐る恐る近づいていく。肩から下ろした蒼葉と紅葉を背負うと、まるで熊から離れる様に視線を外さずに下がり、バイクへと乗った。

「さ、桜、一応、気を付けろよ」

「うん、分かってる」

 山神が走り去るのを見送ると、桜は改めてヒガンバナと対峙する。だが両者は武器を構えることはせず、やがてどちらも変身を解除した。

「ヒガンバナ、お前は……」

「思い出した。俺が本当にやらなければならないことを」

 そう話す彼岸の眼差しは何処か儚く、しかしこれまでになかった優しさの色があった。それを見た桜の顔に自然と笑みが零れる。

「これから俺達はどうすれば?」

「それを決める前に、先にお前にだけ話しておかなければならない。そのプラグローダー、リンドウの装着者であるお前に」

 彼岸の口から桜へと告げられたのは、全ての元凶となる事件のことだった。

「11年前に起きた、あの事件を……」



 教会の扉が開かれる。


 中に入ったジャスディマは早速違和感を感じる。普段は姿を見せないはずのディザイアスが、奥で待ち構えているのだ。

 無機質、だが圧倒的な威圧感を前に、ジャスディマの背後にいたアフェイクは気圧されて足が止まる。しかしジャスディマは恐れず前へと進む。

「珍しいなディザイアス、姿を現しているなど」

「既に汝の要求には察しがついている。だがその全てに対する返答は1つしか持ち合わせていない」

「知る必要などない。俺にもお前が言う事なぞ察しがついている。インフェルノコードを好き勝手に扱おうとしている奴らがいることを知っていたのはおろか、分かったうえでここに居座らせていた。オドントとかいう奴の事だ。違うか?」

 ここに来た以上、穏便に事が進むなど絶望的なのはアフェイクにも分かっていた。だがこの2人の間に漂う雰囲気、否、殺気はただならぬものだった。

「本当の目的を答えろディザイアス。俺達が人間を管理する、そのために今まで俺達は動いてきた。それが嘘だというなら、お前は今まで俺達を騙し、裏切っていたと言う事になる」

「何度でも言おう。知る必要はない。不要な事を考えているなら──」

「俺を消すか? ブレイブの時のように」

 その言葉を聞いたアフェイクの方が跳ね上がる。かつてここにいた7人目の仲間。人間に近づきすぎたという理由で、ディザイアスがジャスディマに粛清させたアースリティアの名前。

「ねぇディザイアス、ジャスディマはこう言ってるけどね、決して貴方に敵意なんて……!」

「俺にブレイブを消させたのは、奴が人間に近づいたからじゃない。そもそも俺達に人間らしさなど存在しない。全て人間の模倣。当然だ、俺達は人間じゃないからな。ブレイブを消したのは、何かお前にとって不都合な事があったからだろう」

「もうやめてよジャスディマ!!」

 彼の肩を抱き、必死に止める。このままではジャスディマも消されてしまう。何故かは分からないが、それがとてつもなく恐ろしかった。

「お前に答える気がないなら、俺が代わりに答えてやる。お前はわざと──」

「その驕った態度こそ、醜い人間そのものだ」

 ジャスディマの言葉を遮ったのは、光と共に姿を現したフェイザー。既に変身しており、手には剣が握られている。

「我らが主の崇高なる目的を疑い、計画の障害になろうとは。貴様はそれほど愚かであったか?」

「盲目的に信仰して一切疑わない姿勢こそ、愚かな人間の在り方じゃあないのか。俺達は計画の為の供物にされているんだぞ」

「それが主の望みであるならば」

「下らん。お前とは話す余地もないようだな」

「背教者が何をほざくか」

 話の流れは決裂へと向かっている。ここでジャスディマの元を離れれば、自分だけは助かる。頭では理解しているアフェイクだったが、体は動かない。

 変身しようとヘブンズローダーに手をかけるジャスディマ。その手がヘブンズローダーのボタンを押してしまえば戦闘は始まってしまう。自分とジャスディマだけでは確実に勝てるような自信も、勝算もない。


 アフェイクは覚悟を決めた。


 ジャスディマの手を掴んで止め、自らのヘブンズローダーを起動する。

「何をするアフェイク!?」

「今は退いて!! 確実に勝てる時に仕掛けましょう!!」

 そのまま2人は光の粒となり、姿を消した。教会に静寂が再来する。

「主よ、追跡は?」

「汝の好きにすればよい」

「御意。背教者を必ずや始末いたします」

 後を追い、フェイザーも光と共に転移した。残されたディザイアスは、ただ黙って教会の天井を見上げた。彼が見つめるのは更に先、宇宙から全てを観察し、記録している衛星型サーバー、ノア。


── 本当の目的を答えろディザイアス ──


「我の目的は、ただ1つ。人類を、世界を、救う事」


 ディザイアスもまた、過去から託された思いを叶える為に動いているのだった。



続く

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