第54話 覚醒、繋がる力+Never get lost
「そんな……!? リンドウが、また……!?」
プレシオフォンが映し出す衛星映像。紅葉の目には再び進化を遂げたリンドウの新たな姿が突きつけられた。
驚愕に見開かれた瞳はすぐに憎しみで細められ、震えた手を机に叩きつける。
「また貴女が……!!」
「そうね、でもこの姿になったのは私だって想定外よ」
「はぁ……!?」
苛立つ紅葉に対し、蒼葉は落ち着いた口調を保ったまま話を続ける。
「私はただ、チップの力を抑制する為のローダーを作っただけ。でも今の桜はチップの力を自分で制御して、アウェイクニングローダーの真の力を引き出している」
「そんな馬鹿な事あるわけ……!!」
「現にそんな馬鹿な事をしてるの。今に始まった事じゃない。プラグローダーに適合して、本来単体じゃ変身出来ないピュアチップで変身して、そして幾度となく戦いの中で進化した。想定出来るわけない」
そこで蒼葉は笑った。彼を誇る様に、そして自分を誇る様に。
「でもその想定外に備えられるのは……私しかいない」
「また姿を変えたか、しかし」
ウィズードは再びバリアを複数展開、以前エヴィが使ったレーザーを発射する。
リンドウは躱すような動きを一切せず、ヴァイティングバスターを薙ぎ払った。巻き起こる衝撃波はレーザーの軌道を逸らし、背後に着弾。爆発を起こした。
尚も歩みを止めないリンドウに僅かに怯む。しかしウィズードはバリアを一箇所に集中、先程とは比較にならない太さのレーザーを発射する。
再びヴァイティングバスターを振る。今度はレーザーを真っ二つに切断し、空へ受け流した。
「何……?」
今度は自らの腕を鞭のようにしならせ、四方八方から打ち下ろそうとする。
が、既にリンドウはそこにいなかった。
かと思うと、ウィズードの目の前へ迫っていた。
「馬鹿なっ!?」
バリアの展開すら間に合わない速度で振るわれたヴァイティングバスターの一撃。ウィズードは身体に刻み付けられた一筋の傷に触れる。
「き、貴様……!!」
リンドウはヴァイティングバスターの柄、大きく顎門を開いた竜の中へチップを装填。
《Input Tip Booster》
続いて竜の顎門を閉じる。
《キロ ヴァイト!》
ヴァイティングバスターの刃が輝きを放つ。そして大きく薙ぎ払った。
《キロ プレディション アタック!》
「ぬぐぁっ!?」
空を切り裂く一閃がウィズードへ直撃。先程の傷と合わせ、X字に刻み込まれる。
「おのれ、何故急に出力が上がった……!?」
「もうチップとローダーは……俺の魂と記憶は俺のものだ! 誰にも譲らない、誰にも操れない!」
「傲慢な偽善者め……はぁっ!!」
自らの腕をバリアで包み、槍のように突き出す。リンドウはその突きに対し的確に刃を合わせ、再び距離を詰めていく。
「そして俺の大切な人達の記憶と魂も……お前達の好きにはさせない!!」
大きく振りかぶった一撃が振り下ろされる。
「こんなもの……!!」
バリアを多重に展開し、肉厚な刃を受け止める。次々打ち壊していくヴァイティングバスターだが、後一歩のところで届かない。
「野郎、なんて硬さだ……ん?」
歯噛みする山神だったが、パキケファロソナーが不審な動きをしているのに気がつく。
「おいそれ俺のコネクトチップ! 何するつも、あっ!?」
パキケファロソナーは山神からすり取ったトリケラトプスチップを、ヴァイティングバスターの柄目掛けて発射。吸い込まれるように挿さり、リンドウはレバーを引いて顎門を閉じる。
《Input Tip Triceratops》
《メガ ヴァイト!!》
ヴァイティングバスターの刃はエネルギーを纏って大きく伸長。角のように反り返り、巨大化した。
《メガ プレディション ブレイク!!》
バリアを粉砕、ウィズードを斬り裂き、そこへ更に渾身の突きを繰り出した。
「バ、カ、ナ……ナ……!?」
数歩後退り、ウィズードは膝をついた。灰色の鎧に黒く深い谷の様な傷痕を刻まれ、怒りに震えていた。
「この私が負ける……二度も……そんなこと……ソンナコトユルサレルモノカァァァ!!!」
身体の紋様が黒ずみ、灰色の翼を広げる。カオスローダーから悲鳴の様な機械音が響き、両手の間にエネルギーが迸る。
《Chaos Break!! Coad Wisdom》
「だが、だが貴様の力を手に入れれば、計画の完遂はより近くなる……!!さぁ最大出力で来いリンドウ、その時が私の勝利だ!!」
「今の俺は1人じゃない。繋がっている仲間達がいてくれる」
リンドウはヴァイティングバスターを地面に突き刺し、プラグローダーを3回スライド。
《Awakening Loading……Awakening Loading……!!》
リンドウの左手、そして両足にエネルギーを纏い、胸のXが燃える様に光を放つ。
「受け止めろ!!!」
蹴り出した地面が潰れ、目では捉えられない速度で跳躍。自身が弾丸と化したように、左拳をウィズードへ打ち出した。
廃団地の瓦礫を全て吹き飛ばすほどの衝撃、ガラスが割れるような衝突音。
ウィズードのバリアは無数のひびが入りながらも、リンドウの拳を防いでいた。
「ハ、ハハ、私の、ワタシノカチ……」
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
そこでリンドウは更にプラグローダーをスライドする。
《Over Loading!!》
竜の翼を象ったエネルギーが背中から出現。拳に纏うエネルギーは竜の頭を形造る。
《Update Complete Awakening Finish!!》
バリアを貫通した決意の拳は、ウィズードの身体を打ち砕き、
「バカナァァァァァァァァァァァァァァァ!!!?」
巨大な火球へと変えた。
吹き飛ばされたカオスローダーは、戦いの全てを観ていたクロッサムの手に戻る。
「……リンドウ、日向桜。計画の最大の要が、最大の障害に変わるなんて。ペットにするのは中止かぁ」
しかし懸念の言葉とは裏腹に、クロッサムの顔は怪しげに笑っていた。
「バイバイ。また今度、殺し合おうね」
火球が消える前に、クロッサムはスカートを翻して姿を消した。
変身が解けると、桜は今一度プラグローダーを見つめる。
揺るがぬ決意と、仲間が繋いでくれた想い。それがこのコネクトチップと、ローダーに込められている。
「桜」
変わらぬ口調、声で呼びかけてくれた親友。感謝と申し訳なさが入り混じり声が詰まる。ありがとうが先か、ごめんが先か。迷っている間に彼は言葉を続けた。
「感謝も謝罪もいらん。代わりに聞かせろ。これからも1人で戦うのか、それとも……」
「…………一緒に」
精一杯絞り出した声と同時に、一筋の涙と満面の笑みが桜に咲いた。
「また一緒に……いたい……!!」
「……最初っからカッコつけねえでそう言えよこのバカ!!」
桜の肩を乱暴に抱き、山神は引っ張りながらノアカンパニーへ連れ帰る。
その背を、パキケファロソナーは慌てて追いかけるのだった。
映像が途切れる。
一部始終を見終わった紅葉は脱力したように椅子に座った。蒼葉は彼女へ手を差し出した。
「紅葉。私達に協力して欲しい。私達も貴女を助ける為に全力を尽くす。だから……」
「…………何で勝った気になってるのよ」
しかし紅葉は小さな笑い声を漏らした。半ば自暴自棄になっているのか、半分開かれた赤い瞳は震えている。
「リンドウがどれだけ変わろうが関係ない。彼岸が桜君を倒せば……」
「今のリンドウはヒガンバナじゃ倒せない。貴女にも分かる筈」
「むしろ好都合よ……ヒガンバナの力と合わせれば確実に私を、チップを破壊出来る」
「どうしても、紅葉が死ななきゃならない事なの?」
蒼葉は問う。だがもう、紅葉の耳には届いていなかった。俯いたまま小さく笑うだけの妹を見ると、目を伏せて部屋を去った。
最上階の社長室から1階に降りると、山神と並んで帰ってきたヒーローを出迎える。
「おかえりなさい、桜」
「ただいま、蒼葉」
多くの言葉はいらない。代わりに精一杯の笑顔を、桜に贈った。
続く




