表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/97

第51話 煉獄解放+The time has come

 

「それで、また手酷くやられて帰ってきたわけっすか……」

「んだよ……呆れてんのは俺の方だって」

「いやいや、無事帰ってきただけ良いっすよ」

 写見に包帯を巻かれながら肩を落とす山神。以前の分も合わさってミイラ男の様相を呈している。

「にしても、桜さんがそんな事するなんてね……」

「本気だった。んで、俺は彼奴に敵うほどの力と覚悟がなかった」

 雨の中桜が放った拒絶の言葉が、山神の頭を満たす。


「あんなはっきりと言われちゃ、流石に参るぜ……」


 その時、2人の前を白衣が横切った。山神はあえてそちらの方は見ずに声をかける。


「まだ何か考えてんのか、転校生?」

「あのまま放っておけるわけない。無くても考えなきゃいけないでしょう」

「俺達がいくら考えてもなぁ」

 白髪が揺れる背中に、力無い山神の声が吸い込まれる。

「当の本人が望んでないなら無駄じゃねえか? ……今の桜は本気だ。俺達の言葉なんか届きはしないくらいに」

 蒼葉は答えない。黙ったまま、山神の言葉を聞き続けている。

「今の彼奴には、俺達は要らないんだよ」

「…………本気でそう思ってるの?」

「思うも何もはっきり言われた。俺達は要らないって、桜が……」

 蒼葉は振り返り、山神を睨んだ。軽蔑ではない。戒めるように。


「桜の言葉が、本気だと思ってる?」

「それは……桜にしか分からねえよ。でも今の彼奴にとって俺達が足手纏いにしかならねぇのは、本当だろうな」

「なら話は簡単でしょ?」

 蒼葉の手には山神のリワインドローダー、そして肩にはパキケファロソナーがいつものように小躍りしていた。

「な、おいっ!? それ俺の……!!」


「私はどんなに拒絶されても、桜を助けたい。桜が助けたいものを、私も助けたい!! 貴方は!?」


「…………クッソ!!」

 痛みを堪えて立ち上がり、山神は去ろうとする蒼葉の後を急ぎ足で追う。


「望むところじゃねぇか!! 例え絶交食らおうが知った事かよ、意地でも連れ戻す!!」


 蒼葉が入っていく扉へ、山神と写見も足を踏み入れる。

 だが、足を踏み出すことは出来なかった。何故なら床がそこには存在していなかったのだ。

「「あっ」」

 ただ一言発し、叫ぶ間も無く落下する。やがてスロープを滑るような感覚に陥り、出口から吐き出された。

「いった!」

「転校生、これ何なんだ……っ!?」


 目の前に広がっていたのは、配線が剥き出しになっていたガラクタや、山積みになった紙の束達。蒼葉はその紙の山をひっくり返して何かを探していた。

「蒼葉さんって汚部屋女子だったんすね……」

「まだ桜の部屋の方が綺麗だった気がする。あっちはエリカが定期的に来てたのもあるんだろうが」

「片付けるほど使ってなんかないの。普段は上の研究室使ってるから」

「やっべ聞こえてた」

 慌てて口をつぐむ山神と写見。だが蒼葉は構っている暇などないようで、床に紙を放り投げながら探し続ける。

 やがて、くたびれた数枚の紙束を引っ張り出した。


「あった……!! 11年前に描いた設計図……」

「11年前なんて随分……ん、待て? 11年前って転校生6歳とかだろ!?」


 設計図を覗き込む。紙の劣化とは裏腹に緻密に描かれた謎のローダーがあった。

「これは私が11年前に設計したもの。問題点が多過ぎて放置してたんだけど……今なら」

 何処からか手繰り寄せたケーブルを、2つのリワインドローダー、パキケファロソナー、プレシオフォンを繋げる。そして、

「おいそれ、ヤギ野郎の……」

「彼の力が……絶対必要になる」

 ストラが遺したヘルズローダーを繋ぐ。


 パソコンを3台起動させ、キーボードを叩き始める。

 山神達には理解出来ないが、文字列が大量に画面を流れ、右端へと順に並んでいく。


「さっぱり分からん。俺達は何すりゃいいんだ? リワインドローダーなきゃ変身も出来ねえぞ?」

「…………甘いもの」

「えっ?」

 僅かに振り向いた蒼葉の顔は凄まじい形相だった。

「これからしばらくここ離れられないから。甘いものを出来る限り買ってきなさい!」

「「…………」」

 あまりの気迫に山神と写見はただ、頷くしか出来なかった。




 錆びたスラスターブレイドはひたすらに空を切る。

「どうしました? 太刀筋がぶれていますよ?」

「こいつ……!!」

 リンドウは一度距離を取ろうとするが、ここで何かに足を捕らえられる。それはトラバサミ、ではなく、灰色の巨大な顎だった。

「これはっ!?」

「はぁい、いただきまぁす」

「ぐっ!!」

 力を吸い上げられ、リンドウの手からスラスターブレイドが落ちる。新たに出現した黒い顎は、スラスターブレイドを鈍い音を立てて噛み砕く。

「はぁやぁく、はぁやぁく。本当の姿をお見せなさいな」

「それが目的か……!!」

「これだけ吸い上げてもまだ見せないなんて、焦らしますねぇ」

「限界か…………ウァァァァッッッ!!!」

 覚悟を決めると同時に、見計らっていたかのように黒いチップがプラグローダーへ入り込む。


《狂え! 滅ぼせ!! 殲滅せよ!!! Madness! Madness!! Madneeeeess!!!》


 ディノニクスジェノサイドに姿を変えた瞬間、足に食らいついていた黒い顎が砕け散る。

「力が大きい……美味しそう……!!」

「クワレルノハ、オマエダ!!」

 両腕の爪に黒い霧を纏い、ディノニクスジェノサイドはテランスへ襲い掛かった。



「うっ、げほっ、はぁ、はぁ……エ、エリカ……?」

「セラ、大丈夫!?」

「大丈夫…………あれ、エヴィちゃんは……?」

「あそこ…………っ、くっ、う……」

 胸に開いた穴は小さくなりつつあるが、それでもなおエリカを苦しめる。そして指さされた先を見たセラは、息を呑んだ。

 目の前にいるのは2体の怪物。だがその片方、蛇のような姿、背丈には見覚えがあった。

「エヴィちゃん……?」



 襲い来る蛇を、ウィズードは身動き一つ取らずにバリアで防ぎ続けていた。

「確かに君は、人間をジェノサイドに変えられる稀有な存在。だがそれが強さに繋がるわけじゃない」

 バリアは蛇を包み込み、その頭を押し潰した。しかし蛇の頭は見る間に再生していく。

「無駄。いくら潰したって蛇は倒せない」

「でも君は倒せる、そうだろう?」

 エヴィの周りをバリアが取り囲む。すると蛇達は急いで彼女の元へ戻り、バリアを噛み砕いた。

「無駄だって……」

「ほら、近づけた」

「っ!」

 細くしなる黒い腕がエヴィを打ちのめす。地面を転がりながらも、自身の腰から大量の蛇を差し向ける。

 ウィズードは蛇の首元をバリアで挟む事で動きを止め、エヴィの元へ接近。そこでエヴィの巨大な瞳が輝いた。

 ウィズードの動きが止まる。

「面白い……」

「これで終わり……」

 エヴィはヘルズローダーのボタンを押すと、蛇達の瞳が一層輝きを増した。顎を裂けんばかりに開く。


《Envy!! Cracking Break!!》


 顔の瞳と蛇の口から、黒い光線が発射された。無数の細い光線が一点で混ざり合い、一筋の巨大な光線となる。


「それはもう私のものだ」


《Fall Loding!!》


 ウィズードの前に巨大なバリアが出現。エヴィが放った光線を全て吸収した。

「え……!?」


《Chaos Break!! Coad Wisdom》


「ぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」

 光線は灰色に染まり、エヴィへと撃ち返される。直撃した身体は宙を舞い、エリカ達の目の前に落下。変身も解除されてしまう。

 ウィズードは拍手を送りながら近づいていく。

「君は立派だよ。人間を襲うしか能がないジェノサイドが、人間を守ろうとするだけね」

「くっ……」

「逃げてエヴィちゃん!!」

 エリカが叫ぶ。だがエヴィは2人の前に立ち塞がり、両手を広げる。

「お姉ちゃん達に近寄るな!!」

「全く仕方がない子だ。なら……」

 ウィズードの細い腕が槍のように鋭く伸びる。

「君から消えてもらおう」


 肉を貫く音、遅れて液体が滴る水音が聞こえる。

 だが、エヴィの体は無傷だった。そしてその音の発生源は、ウィズードの声でようやく2人に伝わる。


「ハッハッハ、いや、君達姉妹はどこまで仲良しなのか!! 君の心は美しいねぇ、稲守セラ!!」


 杖が地面を転がる。


 ただ呆気にとられたまま、エヴィは立ち尽くすしかなかった。

「セラ……?」

「っ、エヴィちゃん…………貴女も、だい、じな、家族だもんね…………」

 貫かれた胸から溢れた灰色の光が、セラを蝕んでいく。

「ダメ、セラ、ダメ……私がお姉ちゃん…………セラを、守らなきゃ……」

「まだ、まだ、お姉ちゃんを名乗るのは、早いぞ…………エヴィちゃん…………」

「嫌だ…………セラ、嫌ぁ……!!」

「エリカ…………エヴィちゃんの事、ちゃんと、助けて、あげ…………」


 灰色の光はセラを完全に取り込み、遺体すら残さず消滅させた。



「あ、あ、嫌、セラ……………………セラァァァァァァァァァッッッ!!!」



 世界を揺るがさんばかりの叫び。


 灰色の粒子は波動となって広がり、エヴィを吹き飛ばす。


「うぁっ!? エリカ、お姉ちゃん!!」


「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!! セラァァァァァァァァァ!!!」


 胸に開いた穴は、やがて巨大な鍵穴へと姿を変えた。

「この時だ……この時を待っていた!!」

 ウィズードはその手に掲げたインフェルノキーを、深々と鍵穴に差し込んだ。

「遂に開かれる!! インフェルノコードがこの世界に解き放たれるぞぉぉぉっ!!!」


 広がった灰色の波動が収束。全てがエリカの元へ集まり、直後巨大な衝撃が地球を揺るがせた。


 空間が静止したように、静かになる。


 やがて衝撃波が放たれた中心に、それは立っていた。



 灰色の長い髪が宙を漂い、胸元が大きく開かれた白と黒のドレスに身を包んでいる。白い肌は蝋燭のようで、赤と金の瞳が薄く開かれた瞼から覗く。

 確かに顔はエリカである。だが、桜にはそれがエリカではない異質な存在であると分かっていた。

「エ、リ、カ…………!?」

「…………」

 彼女は答えない。だがウィズードが代わりにその名を改めて告げた。



「時は来た。人類よ、救済の時は近い。インフェルノコードが今、ここに、完成した!!」



続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ