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第50話 守るべきもの+Enemies to fight

 

 降りしきる雨の中、拳が、蹴りが、ぶつかり合う鈍い音が響き渡る。

 その度に口から漏れ出る声は、互いの思いをぶつける度に、互いの思いを受け止める度に、行き場がなくなった感情が溢れるものだった。


「そうやって! 全部! 1人で抱えたまま! お前は力を手に入れても! 何も変わっちゃいねぇ!!」


 ホウセンカの拳がリンドウの頭を捉え、濡れた地面へと叩き伏せた。

「俺らがいるってのによぉ!!」

「何も分かってないよ山神は……!!」

「んだとぉ!?」

 雨に打たれながら、アスファルトに指を食い込ませる。


「蒼葉も山神もいるから、俺は1人で戦わなくちゃいけないんだ……!」

「…………どういう、意味だよ」


 立ち上がるリンドウ。それを見たホウセンカは拳を握りしめ、一瞬のうちに間合いを詰めた。

「どういう意味なんだよ!!」

 胸ぐらを掴み、怒りに任せた一打をリンドウへ打ち込む。再び水飛沫を上げながら転がるリンドウだったが、ホウセンカは更に彼を掴み上げた。

「俺達なんか、いらないって事か……?」

「……」

「何とか言えよっ!!」

 振り上げられる拳。しかしそれはリンドウによって受け止められた。


「いらないって言えば、諦めてくれるのか……!?」

「桜……!!」


 手を払い、再び殴りかかるホウセンカ。しかしリンドウは的確にそれらを受け止め、いなし、反撃の拳と蹴りを浴びせる。

「ぐっ、動きを……!?」

「だったら言う……山神も、蒼葉も、俺にはいらない」

 突き出された拳。突き放される距離。


 リンドウとホウセンカの間に、距離が開く。


「桜…………桜ぁぁぁぁぁぁ!!!」


《Playback Start!!》


 拳に纏うエネルギー。それは山神の感情に影響を受け、滾るように輝く。


「山神…………!!」


《Now Loding……Now Loding……》


 拳に纏うエネルギー。それは桜の想いに感化され、黒く燃え上がる。



「「うぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」」


《Update Complete》

《Finale Stage!! グランドナックルフィニッシュ!!》



 互いの一撃がぶつかり合う。雨が降りしきる草木ヶ丘の商店街が、一瞬だけ光り輝き、やがて消えた。




 セラとエヴィが寝静まった夜。エリカは桜へと電話をかける。時間は深夜0時。迷惑をかけることは承知だが、2人には聞かれたくない。

 少しの呼び出し音の後、繋がる音が聞こえた。


「あ、桜?」

「エ、リカ……無事、だったんだ……」

「ごめんね。こっちも色々あって……明日皆にも連絡する」

「うん、いいよ…………無事だったことさえ分かれば、それでいい」

「それでね、桜にしか相談出来ないことがあるの。明日朝10時、草木ヶ丘公園に来てもらえる?」

「分かった……俺も、話したい事があるから」

「? うん、分かった……じゃあね」


 通話が途切れる。


 言い知れぬ不安に、エリカは胸騒ぎが治まらなかった。


 雨の中、桜は振り向かずに進む。背後に倒れた山神を置いて、前へ。


「さ、くら…………!!!」


 立つ事すら出来ない山神にはただ、呻く事しかできなかった。





 夜が明け、時は朝の9時半。


 エヴィの手を引き、エリカは草木ヶ丘公園の時計前で桜を待っていた。早過ぎるくらいの時間に着いたのは、セラを駅まで送った後に真っ直ぐ来た為だ。

 退屈そうに身体を揺らすエヴィに、自分のスマートフォンを貸す。動画サイトにアクセスして見始めたのは料理チャンネルだった。先日のカレーで興味が湧いたのだろうか。


「ねぇ、エリカお姉ちゃん」

「どうしたの?」

「今日会う人って、誰なの?」

「私の幼馴染。昔から私の事を助けてくれてた人なんだ」

 それを聞いたエヴィの表情が僅かに曇る。エリカは仕方がなさそうに肩をすくめると、エヴィの頭を撫でた。

「とっても優しい人。だからきっと、エヴィちゃんにも優しくしてくれる」

「…………お姉ちゃんは、その人、好きなの?」

「ん〜…………好き、かな。うん、好きだよ」

 他の人に言うのは恥ずかしすぎてパニックになってしまうというのに。エヴィに対しては臆面も無く言えるのは何故だろうか。

「む……う、う〜、お姉ちゃん取られたくない……」

「セラにはそんなこと言わないじゃん?」

「セラは妹だから良いの」

「これをセラが聞いたらなんて言うんだろ……?」


 他愛のない話をしているうちに、人影が2人の前に現れた。エリカはその人の名前を呼びかけたが、言葉は途中で途切れる事となる。


「桜……え、どうしたの、その傷……!?」

「エリカ……なんでその娘と一緒なんだ……!?」


 するとエリカの身体が押し退けられる。エヴィの目には明らかな敵意が宿っていた。

「エリカお姉ちゃん、こいつ、敵……! 危ないから下がって……!」

「敵なのはそっちだろ!! エリカ、早く離れて!」

「待ってよ2人とも!!」


 エリカは2人の間に割って入る。既に戦闘態勢に入りつつある桜とエヴィを必死に止めようと叫ぶ。


「エヴィちゃん、この人が私が言ってた優しい人なの! 桜、何でエヴィちゃんをやっつけようとするの!?」

「その子がジェノサイドだからに決まってるだろ!」

 桜の言葉を聞いたエヴィの肩が震えた。構えが解け、力無く項垂れる。

 その間にも桜とエリカの言い合いは続く。

「知ってるよ!!」

「知ってる……!? じゃあ何で……!?」

「エヴィちゃんは優しい娘なの! 私と同じ、話だって出来るし、嬉しければ笑うし、焼きもちだって焼く!! この娘はジェノサイドだけど、ちゃんと人間なんだよ!!」

「でも……!!」

 エリカはエヴィの手を掴み、桜の元へ近づいて行く。


「桜は私の事を信じてくれた。だからお願い、エヴィちゃんを信じてあげて……!」


 否定しようとした。だが桜は言葉が続かなかった。エリカの言葉を聞いて、ストラの事を思い出したのだ。


 ── 彼奴らを、止めてくれ……!! ──


 灰に触れた感覚が蘇る。彼の最後の望みを叶えるのならば、彼女を、エヴィを止めるというのは。倒すのではなく、人間と共存させることなのか。

 差し出されたエリカの手を前にして、桜はそれを取れないまま、迷いを振り切れないままでいた。



「おっと。取り込み中だったかな?」



 静寂を破ったのは、どちらにとっても味方ではないものだった。

「ウィズード……!!」

「タイミングが良いな。君もインフェルノコードが誕生する瞬間を目の当たりに出来るなんて」

「やっぱりエリカが目的か!?」

「ご名答。そしてその為の準備もしてきた」


 ウィズードはセラを目の前に差し出した。状況を理解出来ず恐怖を感じているのか、今にも泣き出しそうな目が震えていた。

「セラッ!!」

「彼女にも協力してもらう。大事な大事な妹、だからね」

「させるわけないだろ!!」

 プラグローダーを構え、走り出した桜。しかしそれを横からさらう新たな影が現れた。

「何っ!?」

「だが君に邪魔されると困るんだ。彼女の初陣に付き合ってあげたまえ」


 地面を転がり、顔を上げる。そこにいたのは桜も以前見たことがある顔だった。

「お前は確か……テランスとか言われてた……!」

「お久しぶりですね。私も、ウィズードと同じく生まれ変わった存在。貴方も、変わったようですね」

 テランスは灰色のローダーを開き、灰色のチップを挿入。


《Chaos Virus Install》


 続いて自らのチップを挿入する。ローダーを閉じると、制服の裾とスカートが僅かに浮かび上がり、身体に電子回路のような模様が刻まれた。


「さぁ、変身!」


《Fall Down!!》

《Contaminated Memory! Coad Temperance》


 3つの目は真っ赤に染まり、身体に絡みついていた鎖は所々千切れ、宙を漂っていた。胸のクレストには、天使が巨大な怪物に捕食される様が描かれていた。

「貴方も早く変身しては如何ですか?」

「……変身!!」

 桜もすぐにリンドウへ変身。錆びついたスラスターブレイドを手に、テランスへ向かって戦いを挑んだ。



「さて、彼は任せるとして」

 ウィズードはセラにかけた手を、首へと回した。細い身体が宙に浮かぶ。

「う、ぐ、ぐぅぅ……!?」

「申し訳ない。君の犠牲無くして、インフェルノコードは解放出来ないんだ」

「セラッ!! やめて、セラを離し、てっ!?」

 次の瞬間、エリカの胸を何かが内から引き裂くような激痛が襲った。見れば胸の中心から、灰色の粒子が溢れ始めていた。


「コードの鍵穴を出すには命より大切なものを失わなければならない。大切な妹とは言うが、まさか自分の命よりとは、ねぇ」

「やめ、て、セラ、だけは、あ、あぁぁぁっ……!!!」

 徐々に胸に開いた穴は広がり始める。セラの方も意識が薄れているのか、身体が痙攣を始めている。


「さようなら、麗しき姉妹の愛よ……っ!?」


 その時、ウィズードの腕に蛇が喰らい付いた。一瞬気を取られた隙に、新たな蛇がセラを取り返した。

「ほぅ、これは……」

「エヴィ、ちゃん……?」

 エリカの胸に開いた穴は小さくなる。自分の前に立った小さな背中からは、大きな決意の色が見て取れた。

「どう言う風の吹き回しだい? まさか、君達にとって餌でしかない人間を助けようと?」

「エリカお姉ちゃんも、セラも、私の家族! お前、許さない!!」

 ヘルズローダーへチップを挿入。瞳が金色に輝く。

「降臨!!」


《妬め! 恨め!! 憎悪せよ!!! Envy! Envy!! Envyyyyy!!!》


 蛇を纏ったジェノサイドの姿へと変わり、ウィズードへと襲い掛かる。

「猛獣であっても、人に飼い慣らされるか」

 呆れたような、感心したような、そんな笑みを浮かべたウィズードはカオスローダーを起動させた。


《Contaminated Memory! Coad Wisdom》


「検証を行おう。飼い慣らされた獣がどれだけの強さを持っているのか、ね?」



続く

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