第41話 秘めた本音+4 people's joint front
トライアングルホースとメガロストライカーが道路を駆ける後ろから、羽音を鳴らしてグラニーが迫り来る。
── ヴゥゥゥゥゥアアアァァァ!!! ──
「ひぃっ!? 桜さん、彼奴なんか変な動きしてますよ!?」
「変な動きってどんな!?」
「何か吐き出して来そうっす!!」
写見が悲鳴をあげると同時に、グラニーは巨大な口から粘液を吐き出して来た。
リンドウとユキワリは反射的に回避する。粘液はアスファルトの道をドロドロに腐らせ、液状に溶解させる。飛び散った飛沫が信号機に降りかかると、瞬く間に曲がっていく。
「これ当たったら死ぬやつっすよ!!」
「桜! 二手に分かれて撒くしかないわ!」
「やるしかないか! 写見、絶対俺の背中から手離さないで!!」
「え、バイクで逃げるんじゃな ──」
《Shoot Air Raider》
リンドウは《シュートエアレイダー》へフォームチェンジ。写見を抱えて空へと飛び上がる。
「ひぃぃぃっ!?」
グラニーは目の前を横切ったリンドウに気を取られ、ユキワリから目を逸らした。しかし飛べるとはいえ、シュートエアレイダーの速度に追いつける筈がない。
目線を地上に戻した時には既にユキワリの姿も見失っていた。
── ヴヴヴヴヴ…… ──
グラニーはオフィスビルの上に降り立つと、巨大な口でビルを喰らい始める。コンクリートも、ガラスも、御構い無しに。
「……ふぅ、一旦撒けたみたいだ」
地面に降り、桜は変身を解除する。同時にしがみついていた写見が地面にひざまづいた。
「次からは命綱をお願いします桜さん……」
「多分こんなことそう何度もないから……ん?」
写見の背を撫でていると、何者かの気配を感じ取る。
顔を上げるとそこには、先程まで戦っていたストラが神妙な面持ちで立っていた。
「今はお前の仲間を倒す方が最優先なんだ。邪魔しないでくれないか?」
「いや、待ってくれ。邪魔する気は無い、というかむしろ逆だ」
ストラの言葉に桜は眉をひそめる。
「グラニーちゃんを、倒して欲しい」
「…………仲間じゃないの?」
「少なくとも、俺はそう思ってる。だから頼みたいんだよ」
そう話すストラの表情は、それまでに桜が見ていた軽薄なものとは正反対だった。苦痛に歪んでいる。
「俺さ、別に世界ひっくり返そうとか、そんな理念掲げて彼奴らとつるんでた訳じゃないのよ。ただ俺と同じ怪物同士、人間と一緒じゃいられなくなった奴等同士、それとなく暮らしたかったんだ。昔、まだ普通の人間だった頃みたいに」
自らのヘルズローダーを掲げて、小さく笑う。
「いや分かってはいたよ。他の奴らは普通に人間食っちゃうし、強い奴らはなんかやばいこと企んでるっぽいし……でもそん中で、グラニーちゃんだけは、なんか、俺と近かった。話してて安心してたのよ」
「……だったら尚更」
「だからこそなんだ。これ、お前達にゃ理解出来ないかもしれないけど……グラニーちゃんの意思があるから、俺は人を食っても、街を壊しても許してたし、協力もした。けど今のグラニーちゃんは自分が何してるか分からない。……それが俺には耐えられない」
ストラの話を、桜はただ黙って聞いていた。決して無関係な話ではない。自分もいつか似たような決断を迫られる日が来るかもしれない。
そうなった時、自分は彼のようにエリカを手にかける決断を取るのか。
「……お前に言われなくても倒すよ」
「俺も協力する。ただ、その、グラニーちゃんのヘルズローダーとチップは……」
「そっちに渡す。で、いいの?」
「…………悪い」
「そうと決まったなら早く行こう。放っておけば街そのものを食べる事だってありえる」
「あぁ」
ストラは大きく頷き、グラニーが暴れる場所へ走り去って行った。
「い、いいんすか桜さん、信じちゃって? 罠かもしれないっすよ?」
「嘘じゃないと思った。だから信じる。それで十分だろ?」
桜は笑い、写見の背を叩いた。プラグローダーから呼び出されたトライアングルホースに跨ると、エンジンをかける。
「写見、良ければエリカを探しておいてもらえる? あ、無理はするなよ?」
「はいっす! お気をつけて!」
逃げ惑う人々を背に、ビルを平らげていくグラニー。既に1つは食べ尽くし、隣のビルへと対象を移している。咀嚼するごとに口から垂れ流される粘液が、道路を沼のように液状化させていた。
大口を開けて食らいつこうとした時、何かがグラニーの頭部へ衝突。口からコンクリートの残骸を吐き出しながらひっくり返る。
「うわぁ、ほとんど怪獣じゃねえか……」
「あそこまで巨大だと攻撃手段も限られてくる。どうする……?」
「転校生、作戦ぐらい立ててから俺を呼べ?」
現場に駆けつけた蒼葉と山神。しかし規格外な巨大さに明確な攻略法を未だ見出せずにいた。
今は飛び回るモサビットに夢中だが、あまり長くは保たないだろう。
すると2人の目の前に影が降り立った。
「貴方は……」
「あー! 海水浴場で見た山羊頭野郎!! まさか俺達の邪魔を……」
しかしストラは振り返る事もせず、ヘルズローダーのボタンを押す。
《Re:Conect!!》
《Lust!! Cracking Break!!》
ストラの右腕から螺旋を描いて撃ち出される桃色の光線。
それがグラニーの胸部に突き刺さると、まるで酒に酔ったかのようにフラフラとし始める。
「一体何のつもり?」
「今の内に変身しろ! 俺もやるだけサポートはするから!」
「誰がお前の言うことなんか信用出来るか!」
「今だけはあいつを信じていい!!」
そこへ桜が到着。蒼葉と山神の間に割って入り、頷いてみせる。
「どういうことだ桜!?」
「とにかく、今はあの怪物が先! 信じてやってくれ!」
必死の言葉を聞き、初めは訝しんでいた2人もグラニーの方へ向き直った。
「あいつじゃなくて、お前を信じるんだぞ?」
「この後きちんと説明するなら良いわ」
「ありがとう!」
桜はVUローダーをプラグローダーへ接続。蒼葉と山神はリワインドローダーを腰へ装着。
(……あれ? 変身、出来そう?)
根拠がよく分からない自信に戸惑いつつ、桜はプラグローダーへチップを挿入。
蒼葉はチップを挿入したプレシオフォンを、山神はパキケファロソナーを中央バックルへセット。
《System Update》
《Filter Set! Rewind Start!》
《Filter Set! Rewind Start!》
桜は左腕を前に突き出し、次いでガッツポーズの様に曲げる。
蒼葉は一回転し、右足で地面を叩き、右手を一文字に払う。
山神は両手の拳を打ち合わせ、左足を大きく前に踏み込んで両手を構える。
「「「変身!!」」」
プラグローダーをスライド、プレシオフォンとパキケファロソナーは自ら中央バックルからサイドバックルに装填される。
《バージョンアップ、イノセントシールダー》
《Purification Complete!》
《Purification Complete!》
二重の光の輪を4体の恐竜型エネルギー達が通り抜け、3人の元へ集結する。
《英雄、堅牢なる正義の意志をその手に! Your heart will be a shield that will never clumble》
《Deep! Abyss! Fang! Memory Revive!! Wake up Ocean!!》
《Quake! Fist! Rush! Memory Revive!! Wake up Ground!!》
リンドウ《イノセントシールダー》、ユキワリ、ホウセンカが並び立つ。
「さぁ、ヒーローの出番だぜ!!」
「罪を悔いて、地獄に堕ちなさい」
「全身全霊で、叩きのめす!!」
一斉に駆け出した3人の背を見たストラは小さく呟いた。
「すっげ……めっちゃヒーローみたい」
続く




