第40話 バディ・バトル+Disturbing feathers
旧草木ヶ丘遊園地、《グラスパーク》に何かある事を掴んだ桜達。しかし今の状況で探索を行おうとしても、ジェノサイドからの激しい妨害がある。
そこで一度捜索対象をもう一つの候補地である草木ヶ丘協会の方に移し、その間に新たな強化アイテムの開発を進めるという方針に決まった。
の、だったのだが。
「山神くん、今後は私が桜と一緒に捜索をするから、よろしく」
「別に良いが、何で?」
「最近様子がおかしいのよ彼。もしかしたらプラグローダーに異常があるのかもしれない」
「だから転校生が一緒の方が何かあった時に何とか出来る、と。つーか現地で調整なんて出来るのか?」
「簡単なものなら。プラグローダーはセキュリティが厳重だから、暴走なんて万に一つも無い筈だけど……」
そう言いつつ、何処か不安げな表情を浮かべる蒼葉。山神は見ていないが、黒川を助けた時に見た桜の表情が脳裏に浮かんで離れない。何か嫌な予感がする。
「おっと噂をすりゃ。桜、今度から転校生と一緒に行けってよ」
「……」
「おい、桜?」
「えっ!? あ、うんうん!」
やはりだ。やはりおかしい。
鈍感な山神が気づいているかどうかは分からないが、今の桜は以前と明らかに違う。
光も熱も篭っていない、冷めきった瞳。
「じゃあ今から教会を見てこようと思ってたから、行かない?」
「でも転校生、なんか作るって話じゃ ──」
「行く。山神君は留守番していて」
「は? 俺留守番してたって何も出来な……おい待てって!!」
山神が止める間もなく、2人は言ってしまった。取り残された彼の足元に、パキケファロソナーが慰めるように寄り添ってきた。
「…………一緒に留守番しような」
頭の中で巡る、疑念。
だが疑念の正体が何なのか、桜自身にも分かっていない。それでも、ただ、ただ、廻り続ける。周りの景色も、桜に眼差しを向ける蒼葉も見えない。
「……ら、桜」
「……」
「桜っ!!」
「はいぃっ!?」
蒼葉の一喝に、桜の背筋が伸びきる。
「やっぱり貴方おかしい! 何か隠してない!?」
「隠してないよ!!」
「目が泳いでる! さっきも全然返事しないし、あの時何があったの!?」
「な、何もないって。蒼葉ってばどうしたのさいきなり?」
徐々に詰め寄られ、慌てふためく桜。このままでは圧力に屈して白状してしまうのでは。そう思い始めた時だった。
「さ、桜さーん!! やーっと見つけた!!」
「う、写見、助かった……」
「何?」
「何でもない!」
こちらに向かって走り寄る写見。その手にはボロボロになったメモ帳と数枚の写真。
「あれから俺なりに探し回って、怪しい場所をピックアップしたんすよ!! その一つの草木ヶ丘教会……」
「に、俺達も今から向かうところ。凄い頑張ってもらって申し訳ないんだけど……」
「の、写真を撮っていたら!! 近くに!! エリカさんらしき人が写ってたんすよ!!」
その瞬間、桜は写見から写真を引っ手繰るように取った。
桜が写真を必死に入れ替えて確認していくと、例の写真が姿を現した。
「……確かにエリカだ」
「でも待って、側にいる女の子は?」
「妹さん、とかじゃないっすよね。全然似てないし」
「…………俺、この女の子知ってる」
小首を傾げる蒼葉と写見に対し、桜は生唾を飲み込んだ。
以前、山神と黒川と共に急草木ヶ丘遊園地跡に赴いた時、ホースジェノサイドと共に襲撃してきた少女だった。
「まさか今度はジェノサイド達に!?」
「…………それにしては、エリカが焦ってる様子はないわね」
「なんか普通っすよね」
「あ、本当だ。でも何で…………?」
3人は写真に釘付けになる。
その時、こちらへ近づく足音によって注意がそちらへと向いた。
「おぉっと。まさかこんなところで……」
「うー? あー、知ってる人ー!!」
少々苦い表情を浮かべるストラと、何故か笑顔でこちらを指差すグラニー。2人のジェノサイドの出現に、桜と蒼葉は反射的に写見を後ろへ下げ、臨戦態勢に入る。
「待ちなって! 聞きたいことがあるんだ、お嬢さん。リーディ、あぁ、カラスみたいなジェノサイドを見なかったか?」
「……倒したわよ、私が」
「あぁなるほどどおりで……って、え?」
納得するように何度も頷いた後、我に返ったように驚愕の表情を浮かべた。
「えっ? ラスレイじゃなくて、あいつ君に負けたの!? ただの人間だよね!?」
「信じられないなら体験させてあげる。桜」
「うん、分かった!」
桜はVUローダーをプラグローダーへ、蒼葉はプレシオフォンにチップを挿入、中央のローダー部へセット。
しかし、
「変し……ってあれ?」
イノセントシールダーへ変身出来ない。何度スライドしても、プラグローダーが一切反応しない。エラー音すら鳴らないのだ。
「何で? え、何で!?」
「何してるの早く!!」
「だぁぁぁ分かった分かった! 仕方がないこれで!」
急かされる中、代役で抜擢したチップを咄嗟に挿入する。
「変身!」
「変身」
同時に構えを取り、桜はプラグローダーをスライド、蒼葉はサイドバックルへプレシオフォンを装填。
《一撃粉砕 不撓不屈 Destroyer of Rigid Arms》
《Deep! Abyss! Fang! Memory Revive!! Wake up Ocean!!》
桜はリンドウ「クラッシュウォリアー」へ、蒼葉はユキワリへ変身する。
「ひぇ、変身出来たのか……。こうなったらやるしかないか。いくよグラニーちゃん、リーディの敵討ちだ!」
「おー!! かーたーきーうーちー!!」
ストラとグラニーもヘルズローダーへチップを挿入。
《誘え! 惑わせ!! 誘惑せよ!!! Lust! Lust!! Luuuuust!!!》
《喰らえ! 貪れ!! 貪食せよ!!! Gluttony! Gluttony!! Gluttonyyyyy!!!》
「さぁ、グラニーちゃん、レッツゴー!」
「うー、グラニー、サメ嫌い。ストラ、サメ、やってね?」
「…………マジ?」
ストラの返答を待たず、グラニーは一直線にリンドウへ突撃。
爪を振り回し、隙あらば巨大な顎で噛み付こうとしてくる。桜は爪攻撃をクラッシュウォリアーの装甲で敢えて受けつつ、噛みつきを回避することに専念。そして、
「隙あり!」
「うー!?」
噛みつきの隙を狙って拳を打ち出す。クラッシュアックスではこの僅かな隙を狙えない。だから敢えて徒手空拳で戦っているのだ。
一方、ユキワリとストラはというと。
「はっ!!」
「待って! 死ぬ、ちょっ、あっぶな!!」
ユキワリが繰り出す蹴りを死に物狂いで回避するストラ。そして、
「もしかしたら、変身したら効くかもしれない! 喰らえ、魅了攻げ ──」
「軟弱!!」
「ぶへぇっ!?」
ヘルズローダーからハート型のエネルギーを放つが、ストラの顎もろとも蹴り上げられ、霧散してしまった。
「ダメだ、女の子に暴力なんて俺には……てかそれ差し引いても勝てない」
「観念して。情報を吐いたら少しは温情をかけてあげてもいい」
「情、報?」
ユキワリは先程の写真をストラへと見せる。
「え、何でエヴィちゃんが? ってか一緒にいるの、インフェ……エリカちゃんじゃん!?」
「知ってること、全て言いなさい。弱点でも居場所でも」
「いや全然知ら…………おっと。いや、俺は仲間を売らないぜ?」
「じゃあ消えてもらう」
「待って!!」
必殺技を放とうとする蒼葉の足に縋り付き、捨て犬のように見上げてくる。
「エヴィちゃんは人嫌いで、俺もどんな子なのかよく分かってないんだよ! そもそも何でエリカちゃんもいるのか分からないし! 俺が知りたいくらいで……」
「う? あー!! ストラをいじめるなー!!」
「うっ!?」
突然グラニーは背中の羽を震わせて飛翔。巨大な頭をユキワリへとぶつけ、ストラから引き離した。
「さ、サンキューグラニーちゃん…………死ぬかと思った」
「グラニーに、お任せ!」
「蒼葉、大丈夫!?」
「心配するほどじゃないから」
すぐに立ち上がり、再び戦闘態勢へ。
それほど脅威ではないストラには構わず、2人がかりでグラニーへ挑みかかる。
リンドウのパンチで仰け反ったところを、反対側からユキワリのキックが再び元の位置へ押し戻す。元々動きが機敏ではないグラニーはこの連携に苦戦する。
しかしそこに、
「蒼葉、合わせ……うわっ!?」
「ちきしょう、俺にはこれくらいしか出来ねぇ!」
背後からリンドウに組みつくストラ。戦闘技能こそ低いが、力自体は他のジェノサイドに引けを取らない。
「ナイスー!」
蹌踉めきながら振り向き、キックを放とうとするユキワリヘ頭を思い切り振ってヘッドバットを繰り出す。キックを相殺すると、振り子のようにもう一度ヘッドバット。今度は咄嗟に腕を交差させて防御したが、伝わる衝撃がユキワリの全身を震わせる。
「よし良いぞグラニーちゃん、行けっ!」
「うおりゃあああっ!!」
「は、いや、まっ、どわあああっ!?」
いくらストラの力が並以上とはいえ、怪力を誇るクラッシュウォリアー形態のリンドウには敵わない。
投げ飛ばされたストラは追撃を加えようとしていたグラニーへ衝突。2体は大きく吹き飛び、地面へ倒れ伏す。
「桜、決めるわよ」
「え、情報とかはいいの?」
「引き出せる情報を持ってないもの。仕方ない」
「そう……」
溜息を吐いた蒼葉はプレシオフォンを中央バックルへ装填。桜もクラッシュアックスを出現させ、プラグローダーを3回スライドする。
「やっば……グラニーちゃん、俺が引き受けるから逃げ…………」
「う〜! ストラは、グラニーが、守る!」
「グラニーちゃん!?」
グラニーはストラを後方へ無理矢理下がらせ、ヘルズローダーのボタンを押す。
《Re:Conect!!》
頭部に赤黒いエネルギーを纏ったかと思うと、それはたちまち獣の顎のような形状へ変化。唸り声を上げる。
対するユキワリも鮫型のエネルギーを全身に纏い、大きく跳躍。高速の飛び蹴りを放つ。
《Gluttony!! Cracking Break!!》
《Finale Stage ディープファングフィニッシュ》
両者の牙が激突。互いのエネルギーを削り合い、熾烈な激突を繰り広げる。
「うー、あー!! 負けるもんかー!!」
「しぶとい……!!」
「蒼葉っ!!」
拮抗する両者の間に割って入る声。それは輝くクラッシュアックスを掲げて走るリンドウだった。
それを見た蒼葉は意図をすぐに理解した。
キックのベクトルを桜がいる方向へ転換。ガッチリ組み合った両者はそのまま向きが変わる。
《Update Complete Crush》
「うぎぃっ!?」
そのままガラ空きの背に、クラッシュアックスが叩きつけられる。
不意の一撃により、頭部に纏ったエネルギーが消失。力の均衡が崩れ、グラニーへ直撃した。
「うぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
吹き飛ばされたグラニーは地面を数回バウンドし、変身が解除された。
「流石っす2人とも!!」
「待て、まだ来るな!!」
駆け寄ろうとする写見を、桜は厳しく制止する。
「グラニーちゃん!!」
すぐにストラはグラニーへ駆け寄る。身体は傷だらけ、ヘルズローダーにはヒビが入りスパークが弾けている。もう戦えるような状態ではない。
「もう退こう! これはラスレイに言わないと……」
「グラニーが……やらなきゃ……」
差し伸べられたストラの手を振り払い、グラニーは立ち上がる。ヘルズローダーからの放電が激しくなっていく。
「グラニーちゃん!?」
「グラニーが、守らなきゃ……グラニーが、仇を、討たなきゃ……!!」
黒い霧のようなものがヘルズローダーから溢れ出し、それはグラニーを包み始める。
「…………桜、一度写見君を連れて逃げましょう」
「相当マズイよね、これ……!!」
「うぅぅぅ…………ああああああァァァァァァ!!!」
やがてグラニーの体に大きな変化が訪れた。
身体は数倍に巨大化。曲線を描く鉤爪を携えた6本の手脚。血管が浮き出た薄い翅は体と同等の大きさ。頭部はハエトリソウのような形状へ変質し、赤い複眼は消失。代わりに身体の半分を占めるほどに巨大化、口の中には無数の棘のような牙と3本の舌がチラつく。
「ヴィィィィィィィィ!!!!」
不快な羽音を響かせ、異形へ姿を変えたグラニー ── フライジェノサイドが、3人へと迫って来た。
続く




