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第36話 正義の執行者+Justice to be warped

 

 林を抜け、なるべく人通りの少ない道を桜達は走る。桜はトライアングルホースに、山神、黒川はトリケライナーとサイドパキケファイナーに乗り、ノアカンパニービルを目指す。

 ホースジェノサイドの正体が黒川の幼馴染、名草である説が濃厚になった。いづれは倒さなければならないが、まずは黒川の無事を優先しなければならない。


「黒川、ビルに着いたら中で大人しくしていてくれ。あそこなら安全だからな」

「…………山神、止めてくれる?」

「あ? 何があるか分からないからダメだ」

「トイレ」

「おっしちょっと待ってろ、もうすぐ公園だ!」


 山神は速度を上げ、少し先の公園へ停車。

 サイドカーから降りる黒川の後を追おうと山神もトリケライナーを降りる。

「ちょい待ち。付いて来る気?」

「当たり前だろ」

「いやいや、ねーわ。マジねーわ、引くわ」

「なんとでも言え」

 文句を言われながらもトイレの前にあるベンチに座り、中に入った黒川を待つ。

 幼馴染が怪物だった。その事実がどれだけ辛いものか、山神は理解出来る。大切な人がもう手の届かない位置にいる痛みも。


 二度と失わない為に山神は力を得た。


 同じ痛みを味わった、親友を助ける為にも。


「……遅い。何だってこんな時間かかるんだ?」

「ねぇ山神どうしたの? いきなり公園に停まって」

「あぁ桜。いや黒川がトイレ行きたいって……」

「うーん……須之子ちゃーん、まだー!?」

「馬鹿野郎お前デリカシーってやつを!!」

 遠慮なく女子トイレ目掛けて大声で呼びかける桜を山神は諌めようとする。

 しかし聞こえたのは返事ではなく、公園の土を蹴る音。それにいち早く気づいた桜が走り出した。

「待って須之子ちゃん、まさかっ!?」

「おい桜!?」


 公園の奥に広がる森へ消えていく桜。山神もすぐに駆け出そうとする。


 しかしその時、地面が隆起しながら山神へと襲い掛かる。森へと繋がる道が塞がれてしまった。

「ちっ、今度は誰だよ!?」

「見つけました」

 山神の背後に現れたのはテランス。その横には巨大な戦鎚を持つスレイジェルの姿もあった。

「ウィズードの仇を討たせてもらいます」

「目標確認。No,10、オキナグサ、戦闘へ移行する」

「こんな時に邪魔しやがって。力ずくで突破してやる」


 山神がパキケファロソナーにチップを挿入。同時にテランスもヘブンズローダーへチップを挿入する。


《Filter Set! Rewind Start!》

《Purification Complete!》


「変身!」

「天臨!」



《Falling Angel…… Temperance》

《Quake! Fist! Rush! Memory Revive!! Wake up Ground!!》



 山神とテランスは同時に姿を変え、完了と同時に走り出す。

 テランスは以前と違い、刺突剣を携えている。ホウセンカの拳が届くより速く高速の突きが身体を抉る。更にはオキナグサの槌が頭や肩を掠める。回避するのが精一杯である。

「2対1じゃ、流石にきついなぁ!」

「私達への対策プログラムがあろうと関係ありません! このまま押し切る!」

 反撃に振るわれたホウセンカの一撃をテランスは身を翻して躱し、渾身の突きで体勢を崩す。更にそこへオキナグサが振るった槌が腹部へ直撃、ホウセンカは公園のトイレの壁へと叩きつけられた。

「やりやがる……な」


 追撃を仕掛ける為にオキナグサが突進。今度は頭部を打ち砕くべく、空気を震わせるほどの勢いで振り回しながら迫る。

 山神が蹌踉めきながらも立ち上がり、迎撃の姿勢を取った時だった。


「グィッ!?」


 横から凄まじい速度で蒼いバイクが衝突。オキナグサの巨体が吹き飛ばされる。

 バイクから飛び降りた影は、蒼い装甲を身に纏う美しい戦士だった。


「転校生! 大丈夫なのか、寝不足は!?」

「2時間も寝れば十分」

「あっ、そ……」

 ホウセンカの隣に並び立つユキワリ。仮面の下から聞こえる蒼葉の声は言葉とは裏腹に少し眠たげだった。

「数が増えたところで!」

 テランスは再び刺突剣を構え直し、切っ先を2人へ向ける。

「山神君はあのスレイジェルを。私が彼女の相手をする」

「了解。力には力ってわけだな」


 そういうことじゃない、と言いかけて口を閉じる蒼葉。何を言っても無意味だと察した為だった。


「はぁっ!!」

 一気に踏み込みながら刺突を繰り出すテランス。2人はそれぞれ反対の方向へ回避し、山神はオキナグサの元へ、蒼葉はテランスの元へ。

 ユキワリの両踵から刃が飛び出し、舞うように連続蹴りを放つ。刺突剣のような細い刀身では受け止めきれず、少しずつテランスの鎧へ傷を刻みつけていく。

「くっ……!?」

 一度大きく距離を取る為に後方へ跳躍。地面に着くと同時に今度は前方に跳躍し、光を纏った突きを繰り出す。

 ユキワリの左足のブレードが蒼い燐光を放つ。そして自らの心臓めがけて放たれた光の剣に、蒼い奇跡を描くサマーソルトキックで対抗。両者は同時に砕け散り、軽く吹き飛ばされた。


 しかし蒼葉はすぐに次の手に出る。プレシオフォンをサイドバックルから抜き、操作。


《コール、メガロストライカー。コネクト、モサビット》


 オキナグサを突き飛ばしたメガロストライカーの元へモサビットが飛来。パーツが分離し、メガロストライカーへ合体。鮫のような形状は、見る間に鰐に似た海竜を模した姿の大型バイクへ姿を変えた。

 唸るようなエンジン音を響かせるバイク《モサビークル》にユキワリが飛び乗る。

「調整に丸3日かけたんだから、しっかり成果を出しなさいよ……」

 切実にマシンへ呼びかける蒼葉の声は、寝不足の所為か虚ろだった。



「排除する」

「うぉっ、おいちょっ、危ねぇ!」

 対するホウセンカとオキナグサの戦いは、闇雲に振り回される槌に手を出せないまま、ホウセンカがやや劣勢だった。

 この場合はどうするべきなのか。冷静に相手の動きを見極めて反撃。そんな事、戦いのプロではない山神にとっては至難の技である。

「どうすりゃいいんだよ、早くしねぇと黒川が!」

 すると、またしても勝手にサイドバックルからパキケファロソナーが飛び出した。天を仰ぎ見ると、またしてもコールを始める。


《コール、トリケライナー、コール、サイドパキケファイナー……》

「こんな時にバイク呼んでどうすんだ。やっぱコレじゃダメだ……」



《コネクト、ホウセンカ》


「……はっ!? コ、コネクトって俺と!?」


 驚いている間に、公園の入り口に停めていた筈のトリケライナーとサイドパキケファイナーが飛び出し、真っ直ぐホウセンカへと突き進む。

「待て待て待て死ぬ死ぬ死ぬぅっ!!!」

 背を向けて逃げる間も無くトリケライナーのフロントのホーンに捕まり、宙へ放り投げられる。


 トリケライナーのフロント部が肩と胴の装甲に重なる。分離したタイヤが4つに分割、踵に装着される。そしてタイヤが格納され、マフラーブースターが増加したサイドパキケファイナーが両腕へ合体。



 地鳴りを響かせながら着地する重戦士。ホウセンカ《マッシブアクセル》フォームである。



 楽しげに小躍りを披露するパキケファロソナー。しかし山神は大きく息を吐き出した。

「重い…………」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「待って須之子ちゃん! は、速いな……!!」

 木の枝や小石が転がる悪路を、彼女は野を駆ける鹿のようにひょいひょいと走っていく。

 彼女が考えている事は想像がつく。だからこそ何としても止めなければならないのだ。


「須之子ちゃん! 名草君は……!!」


 そう呼び掛けた瞬間、巨大な岩が黒川めがけて投げつけられる。とっさに立ち止まったことにより直撃は避けたが、衝撃で黒川は吹き飛ばされる。

「きゃっ!?」

「危ないっ!!」

 桜は滑り込んでキャッチ。礫で頬が少しきれているが、大きな傷はないようだった。

「ブルァァァァァッッッ!!!」

 そして大岩を投げつけた犯人は2人の前に姿を現わす。


 少し前に出会った時とは姿が変わっていた。腕部はゴリラの様に太く盛り上がり、長くなっている。額からは螺旋状の角が突き出し、鼻からは蒸気機関の様に高熱の息を噴出させている。


「どうだい日向桜。中々悪くない進化を遂げたとは思わないか?」


 続けてホースジェノサイドの横に、灰色の頁が舞い散ると同時に男が姿を現した。


「やっぱり生きていたのか……!」

「正確には蘇った、だよ。君達には随分してやられた。私の消えない汚点となってしまった。……そういえば君にはまだ名乗ってなかったか。私はウィズードだ。これから長い付き合いになるだろう。よろしく頼む」

「そのジェノサイド……いや、名草君に何をした!?」

「話を聞かない人間だなまったく。彼は君に撃たれたダメージが酷くてね。傷を癒すついでに力を与えてあげたのさ。あぁ、私の協力者が、だが」

「お前……!!」

「モデルにした生物がいるんだ。確か……カリコテリウム。古代に生きていた馬の仲間。私も随分沢山の事に興味が湧いてしまってね。まぁ、興味本位というやつさ」


 桜はコネクトチップとVUローダーを取り出し、変身しようと歩み出す。

 しかし桜よりも先にホースジェノサイドへと走り出した人物がいた。


「名草!! うちだよ、分かるでしょ!? 名草!」

「須之子ちゃん……」

「あの時は何があったか分からなくて逃げたけど……そんな姿になったのもうちの所為なんだよね!?」

「ブルォォォ……!!」

 黒川が一歩踏み出す度に、ホースジェノサイドの息が荒さを増していく。桜は気がついた。


 ホースジェノサイドの黒川に対する殺意はきっと、人間だった時に彼女へ抱いていた愛の大きさだったのだと。


「フフ、こんな醜い姿になっても彼を想うとは。なら試してみるといい」

 ウィズードは何かを黒川へと投げ渡す。それは首飾り。初めて自分が名草へとプレゼントした、2人を繋ぐ絆。


 一抹の希望に縋る様に、黒川は首飾りをホースジェノサイドへかけようと近づいていく。



「名草…………うちはずっと、あんたのこと…………」



 直後、ホースジェノサイドが振るった巨腕が首飾りを地面へはたき落とし、チェーンを引き千切った。

 陥没した地面で、首飾りの中に入っていた2人の写真はひび割れている。


 黒川が潰されるより早く、駆け出していた桜が後ろへ引っ張って助け出していた。しかしそれはホースジェノサイドを、名草を信じることが出来なかった証拠でもあった。


「哀れだ……何故見るもおぞましい怪物になっているというのに信じようとするのか。私には理解できん」

「お前に理解出来るか。須之子ちゃんと名草君の想いは、2人にしか分からない。…………あぁ、だから絶対に許せない」


 握り締められたピュアチップの色は、燻んだ灰色に変わっていた。

 桜の瞳が金色に輝く。宿る感情は怒りなどという生易しいものではない。



「2人の思い出を、心を、踏み躙りやがって」



 殺意だった。



「……………………変身」


《 え、え、英雄── ものもの、物語の……は、は、は始まり始まりをき、刻めめ ガ、ガ、ガビビビビビィ───────────》


 纏う鎧は純粋な心を表した純白ではなく。

 燻んだ灰色と、錆びついた様な暗い黄赤が浮かんだの鎧。その所々はエッジが鋭く立っている。優しく雄大な色だった青紫のアイレンズは、獣の瞳の様な黄金へと変色。



 その姿は正義のヒーローではなく、執行人だった。



続く

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