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第35話 思い出リベンジ+He whom I loved is a monster

 

「オラッ!!」

 ホウセンカが振るう拳は、牙を突き立てんと迫り来る蛇達を次々と弾き返す。徐々にエヴィとの距離を詰めていく。

 しかしエヴィはそんなホウセンカを黙って見据えているのみ。その様が異様ではあったが、山神は何も考えずに拳を振るい続ける。


「もう少しだ、もう少し、で……よっしゃ、この距離なら届く!!」


 蛇を撃退しながら歩くのをやめ、走り出す。異形の頭部めがけて拳を打ち据えようとした時だった。

 拳を振り上げた状態のまま、ホウセンカの動きが硬直する。何かに全身を縛られたように動かない。

 そして疑問はすぐさま解決した。先程から顔が、正確には目が一点から動かない。


 エヴィの黄金の瞳が輝きを増していた。


「コイツの能力は弾けないのかよ……!?」

 言葉を絞り出したのも束の間、スカートから伸びた蛇達に噛み付かれたかと思うと地面に押し付けられ、引きずり回される。

「ああぁぁぁいっててて!!? 何とか、何とか体勢を立て直さないとやばい、ぐぬおぉぉぉ!!」

 四肢を地面で踏ん張らせ、地面に巨大な跡を残しながら抵抗。やがて力が拮抗し合い、綱引き状態となる。

「力比べじゃ負けねぇよ、ガキ」

「…………」

 体ごと捻り、ホウセンカはエヴィを投げ飛ばす。彼女は地面に叩きつけられるより早く反転し、静かに降り立つ。


「しょーもない手品ばかり使いやがって。けどパワーなら俺の方が上だ。どんな小細工だって突破してやる、覚悟しろよ」

「山神!! 一旦ここ離れるぞ!!」

「はっ!?」


 駆け出そうとした瞬間、桜からの呼びかけで転倒しかけた。

「何言ってんだお前!? 奴等の根城が目の前だってのに!!」

「あとで話すから!」

「逃げるったって俺にはバイクなんか……!」

 その時、サイドバックルに装填されていたパキケファロソナーがひとりでに飛び出す。変形してソナーモードへ姿を変えると、音声を発した。


《コール、トリケライナー。コネクト、サイドパキケファイナー》

「おい、何勝手に呼んでやがんだお前!?」


 山神がパキケファロソナーを掴み上げると、巨大な車両が唸りを上げて迫ってきた。

 フロント部は角竜の襟飾りと角を模し、両サイドにはパキケファロサウルスを模したサイドカーが連結したバイクが到着した。

「うぉぉっ!? いつの間に!?」

「ナイス山神! 離脱だ!」

 見れば脇に黒川を抱えたリンドウが走り寄り、彼女をサイドカーへと乗せていた。山神はエヴィと黒川を交互に見やると、頭を掻き毟りながらトリケライナーへ搭乗する。


「ブルァァァァァ!!」

 しかしリンドウの後ろからは猛スピードでホースジェノサイドが疾走してくる。


《強襲空撃 穿てターゲット One Shot Break Down!!》


 桜は《シュートエアレイダー》へすぐさまフォームチェンジ。自らもサイドカーに乗り込みつつ、マイティライフルをホースジェノサイドへ撃ち放ち、時間を稼ぐ。

「行くぞぉっ!!」

 山神はクラッチを切ってバイクを発進させる。巨大な車体に似合わぬ急加速で走り去っていくバイクを、ホースジェノサイドは執拗に追いかける。

「ブルァァァァァォォォォォォン!!」

「彼奴どんな脚してんだ!? 桜、これ振り切れるか分かんねえ!!」

「いや、バイクに乗れた時点で成功だ!」


 桜はマイティライフルへチップを挿入。待機音を待たずにトリガーを引いた。


《Update Complete Shoot Out……!!》


 無数にばら撒かれた光弾がホースジェノサイドの動きを止め、肩を光線が撃ち抜く。堪らず吹き飛ばされ、地面に伏した。

「悪い、運転荒い所為で倒せなかったか!?」

「いや…………山神、とにかくこのまま一度帰るよ!」

「おう!!」



「……臆病者」

 エヴィは少女の姿に戻り、吐き捨てる。肩から煙を上げて悶えるホースジェノサイドへ歩み寄ったかと思うと、腹を踏みつけた。

「何してるの、早く追いかけてよ」

「ぶ、るぁ、るぉ、るぉ……」

「早く追いかけてってば」

「やめてあげたまえ」

 何者かが手を肩に乗せる。エヴィは反射的に振り払い、頭から蛇を伸ばした。しかし蛇は見えない障壁で弾かれ、振り払ったエヴィの手を掴んだ。

「彼も初めての戦闘で疲れている。労わりこそすれど、痛めつける道理はないだろう?」

「触るなっ!!」

「何を恐れているんだい?」

 振りほどかれた手を再度掴み、男──ウィズードはエヴィへ顔を寄せた。


「いや、違うな……君が恐れているのは他者ではない。むしろ自分か、怖いのは」

「離してっ!!」

「これだから子供は。……取引をしないかい、小さなお嬢さん」

 耳元に口を寄せ、ウィズードは囁く。



「君のお姉さん……稲守エリカの居場所を教えてあげよう」



 エヴィの目が見開かれた。そしてそのまま、ウィズードは交換条件を出す。


「その代わりと言ってはなんだが……彼に力を与えて欲しい」

 指差した先には、蹌踉めきながらも立ち上がるホースジェノサイドだった。





「ここまで来りゃ流石に良いだろ……一旦休憩させてくれ」

 トリケライナーを林の中で停止させ、変身解除と同時に山神は突っ伏した。

 同じ様に変身解除した桜は黒川の元へ。少々疲れた様子だが、怪我などはないようだ。

「須之子ちゃん、あのジェノサイド……あ、怪物なんだけど……」

「あの怪物さ……多分、そういうこと、なんだよね」

「じゃあ……」



「私が探してる奴、名前まだ言ってなかったっけ。名草っていうんだ」

「名草君……聞いたことない」

「そりゃそうっしょ、名草はうちらとは違う進学校に通ってるんだから。名草はさ、幼馴染で、小さい頃はめっちゃ遊んでたんだよ。何があってもず〜っと笑ってばかりで、怒ったり泣いたりしてるところなんか見たことなかった。……そんなあいつが大好きなんだ」

 懐かしそうに語る黒川の話に桜は聞き入る。顔を知らない名草に対し、エリカを重ねていた。


「でもうちの両親、突然いなくなっちゃって。何にも言わずにさ。だから理由も分からない。貯金だけは残していたから、それを切り崩して学費とか生活費とか払ってた。バイトもしたよ。…………けど、少し前にそれも尽きた」

「だから今日も学校、行ってなかったんだな」

 うなだれたまま山神は黒川の方を向く。小さく頷いた彼女は続ける。


「それ聞いた名草はさ、うちの親を探し出して見せるって言って…………」


 桜はあの時のジェノサイドの言葉を思い出す。須之子ちゃん、と言っていた。今までの話を聞くに、あのジェノサイドの正体は……。



「須之子ちゃん……」

「分かってるよ。あの首飾り、うちが名草にプレゼントしたやつだから。初めてのバイト代で………………なんで名草が……う、あぁ……ぁぁ…………!!」


「……取り敢えず、ノアカンパニーに戻るぞ。あのジェノサイドは黒川を狙ってる。その辺をふらつくのは危険すぎる、だろ?」

 山神は再びトリケライナーのエンジンを起動する。


 しかし桜は山神の呼び掛けに応じない。心の中で、得体の知れない感情が揺れ動いていた。

 怒りとは違う。悲しみとは違う。


 抱いたことのない感情にただ、戸惑う事しか出来なかった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ジャスディマ、貴方にお頼みしたい事が」

 教会の庭にある噴水。そこに腰を下ろしていたジャスディマを訪ねる影が現れる。

「テランス?」

「私は……新型のブルームを前に手も足も出ませんでした。その所為でウィズードを、貴重な同志を失った。……どうか、仇討ちを手伝ってくれませんか」

 深々と頭を下げるテランス。しかしジャスディマは小さく息を吐き、視線を彼女から逸らす。

「ウィズードが消えたのは奴自身の落ち度だ。それに仇討ちなど何の意味もないだろう。目的の為に動くのが俺達の役割の筈」

「しかし彼は私を逃して──」

「あの時点で撤退しなかった奴の責任だと言った。帰れ」

 しかしテランスは引き下がらない。今度は膝をつき、額を地面につける。


 取り合う気など無かったが、責任感が異常に強い彼女だ。このまま何日でも頼み込むに違いない。


 ジャスディマは無言のままブランクチップを自らのローダーに挿入し、彼女の前へかざす。ヘブンズローダーから流れ出たデータの光が積み重なっていき、1体のスレイジェルを生成した。


 土偶のように丸みを帯びた鎧に身を包み、両手に握られた戦鎚は石を切り出したように粗雑ながら無骨な意匠。スリット状の瞳が不規則に点滅している。


「使え。少しはマシになるだろう」

「…………ありがとう、ございます」

 尚も頭を下げたままのテランスを立ち上がらせ、肩を叩く。

「奴の消失を憂いているのはお前だけだ。あまり目立つような行動はするな」

「分かっています」

 テランスは絞り出したような声で返し、スレイジェルと共にその場から消えた。



続く

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