第33話 探し人の手がかり+Signs of awakening
「あれから少し経ったけどよ……」
「未だ手掛かりなし……」
エリカが連れ去られてから2週間が経った。しかし居場所の手掛かりは一切掴めていなかった。草木ヶ丘市の情報のほとんどを握っているノアカンパニーですら足取りが分からない。桜と山神も必死に街中を回って情報を集めたが、決定的なものは掴めないでいた。
「転校生は?」
「部屋に篭ったきり帰ってこない」
「2週間引き篭もってんのはマズイだろ」
「だって部屋入ろうとしたらドアごと蹴り飛ばされたし……」
「それはお前が悪い」
桜は大きく伸びをすると、エントランスのソファーから立ち上がる。
「行くのか?」
「俺達は蒼葉みたいに頭は良くないから、足で稼がないと」
「なに俺まで頭悪い扱いにしてんの? まぁ、それ以外は賛成だけど」
再び2人が捜索へ赴こうとした時だった。
プレシオフォンが2人の前を横切り、行く手を遮った。そして2人の後ろから蒼葉が現れる。
「……転校生、アイシャドウ濃くね?」
「嫌味のつもり? なんとか怪しい場所の厳選は終わらせたから、プレシオフォンからデータダウンロードして。私は一旦寝る」
目の下に濃い隈を浮かべる蒼葉は踵を返し、少しフラつきながら帰ろうとする。
しかしフラついた勢いで転倒。ソファーへ倒れ込むと、寝息が聞こえ始める。
「場所の特定だけじゃこんなに疲れないよね……なんかまた無理してたんじゃ……」
「転校生みたいなタイプはな、無理すんなって言って聞くタイプじゃねえの。誰かさんと同じでな」
「う、ん?」
「あーいいからいいから、早く行くぞほら」
山神は首を傾げる桜の背を無理矢理押しながら、ビルの外に出る。
フワフワと付いて回るプレシオフォンは、桜のプラグローダーへ頭の端子を突っ込み、データを譲渡。続いてパキケファロソナーと一緒にダンスを踊り始める。かと思うと、パキケファロソナーからファンファーレが鳴り、続いて《ダウンロードが完了しました》の音声が流れた。
「やっぱおもちゃみてぇ」
「俺も欲しいなぁ」
「んなこと言ってる場合じゃねえだろ。最初は……旧草木ヶ丘遊園地跡? 初耳の場所なんだが?」
「あれ、でも俺その場所、何処かで……」
記憶を巡らせる桜。対する山神はさっぱり見当がつかないのか辺りをフラつき始める。
その時、2人に声をかける人物が。
「山神? お〜、山神じゃね? って、日向もいるし!」
「なんだなんだ? って、お前か黒川」
「ちょっち待って、何そのドライな反応!? こっちは学校来なくなったお前ら心配してたっつーのに!」
太陽の光を反射してきらめく金髪とヌイグルミを大量につけたバッグが揺れる。
彼女は黒川須之子。桜達のクラスメイトで、日に焼けた肌と金色の長髪、そして今時珍しい話し方で、クラスのムードメーカーである。
「こっちは忙しいんだよ、早くあっち行け」
「マジありえねー、なにその反応!? なぁ日向、うちだようち! お久〜!」
「あ、久しぶり、須之子ちゃん」
「下の名前で呼ぶなぁ!」
肩を叩かれ、2人は馬鹿笑いをあげる。頭の中が能天気な者同士気が合うようだ。
「ねぇちょっと、そういや睡蓮とエリカもいなくない? お前らはともかくあの2人がサボりはないっしょ?」
しかしその言葉を聞いた瞬間、桜の表情が強張った。山神に至っては目を逸らす。
「…………え、何? 地雷踏んじまった感じ?」
「実はさ、俺達、エリカと睡蓮を今探してる最中なんだ」
「マジで!? 警察には──」
「頼れないんだ。誰も巻き込んじゃいけない、俺達の問題だから」
真相を明かさない程度に、桜は黒川へ伝える。すると黒川は小さく頷く。
「分かった。……うちも、探してる奴いるんだよ、実はさ」
「須之子ちゃんも?」
「だから下の名前やめろし。……うちの幼馴染。今は彼氏、なんだけどさ。2週間前からいなくなって、連絡もつかないんだよね……心配になるじゃん?」
先程の様子から一変し、不安げな表情で俯く黒川。
2週間前、というとエリカが連れ去られた時期と重なる。何かしら繋がりがある可能性がないわけではない。
桜は話を聞き終えると、山神の方を向く。山神も何を言わんとしているかはすぐに理解した。
「いや、俺達が行こうとしてる場所と関係あるかは分からないぞ? 危ないし……」
「何処行く気?」
「草木ヶ丘遊園地跡。黒川は知ってるか?」
「そこ、うちとそいつで小さい頃よく遊びに行ってた場所だよ。小遣い貯めて、2人で行ってた。マジ懐かしい」
感傷に浸る黒川を見た山神は、桜の方を向いて手の平を差し出す。あとはご自由にどうぞ、という意味だろうか。
「…………行ってみようか、遊園地に」
「って黒川、お前学校は良いのか? 平日だぞ?」
「あー、うん、まぁね」
少し言い辛そうに顔を背け、すぐにまた明るい笑顔を返した。
「つーか山神が言えた事じゃないっしょ。そろそろ退学になるんじゃね?」
「ちゃんと休学届け出してるぞ。言っておくが、桜に関しちゃもう在学してねぇ、会社勤めだ」
「マジ?」といった表情を見せる黒川に、「マジ」といった表情で返す桜。直後にまた笑い出す2人。
桜と黒川の感性が理解出来ない山神は苦い表情を見せる。しかし同時にある事に気がついた。
黒川は笑った後、どこか悲しげに唇を噛んでいた。
天井から落ちた小さな水滴が頭に当たる。
意識を取り戻し、目を開けようとする。しかし瞼の隙間から強烈な光が差し込み、すぐにまた目を閉じてしまう。
しかし閉じた瞼の先から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「お目覚めのようだね、インフェルノコード」
その声は、自分がジェノサイドだと知ったあの日に聞いたもの。僅かに目を開け、隙間から霞む姿を見据える。
「貴方、は……」
「おっと、失礼。君の名は稲守エリカだったか」
「私は……………………っっ!!?」
脳が痺れる感覚。過ぎったのは光となって散る親友の姿。呼吸が浅くなり、動悸は急速に早くなっていく。
「はっ、はっ、す、すい、れ、ちゃん……が……!!」
「落ち着きたまえ。ここで心停止でもされたら困る」
何とか呼吸を整えるエリカ。目が慣れてきたのか、景色が鮮明に映し出される。
目の前にいた男性、ウィズードの姿は、以前から少し変わっていた。
白かった長髪は灰色に染まり、黄色の瞳は燻んだ色となっている。そして腕に巻かれているおぞましい機械が不気味な輝きを放っていた。
「少し、私の事情が変わってね。あまりここには来れなくなってしまった。だからこうして目を盗みつつ、君から話を聞きたいのだよ」
「私、何も知らない……知ってたって、教えない!」
「口から出る情報じゃないんだこれが……失礼するよ」
ウィズードの手から灰色の炎が揺らめき始める。そしてその手はエリカの胸元を撫でた。
「ちょっ!? なんのつも、やめ、やめて!!」
「コードは…………あぁ、ここか」
ゆっくりとエリカの胸に触れると、その手はズブリと深く潜り込んだ。
撫で回すように腕を動かし、ウィズードは思考を巡らせる。
「今の私には読むことしかできないか……十分ではあるが、少し口惜しい。これを完全にダウンロード出来れば更に強大な力を……」
「ストップ、ストーップ!!」
「なにっ?」
エリカが叫んだ瞬間、ウィズードの手が胸から弾き出された。
「うぅぅ…………触られた、触られちゃった……」
「閲覧はもう禁止か。少し刺激が強すぎたかな?」
ウィズードは含みのある笑みを浮かべ、灰色の炎と共に何処かへ姿を消した。と同時に、アフェイクが入れ替わりで姿を現した。
「あらあら、目を覚ましたのね。……誰かと話してた?」
「こ、今度は女の人!? 貴方も桜達の敵!?」
「桜? う〜ん、よく分からないけど、目が覚めたなら私と遊びましょう? みんなお出かけしてて暇なのよ〜」
「何言ってってうわぁぁぁぁぁっ!!?」
返事をする間もなく、アフェイクによって縄を解かれたかと思うと服を剥かれてしまう。
「フフフ〜、街でたっくさん買ったお洋服があるの。人間がよくやってるけど、楽しそうよね〜。暇つぶしには丁度良いわ〜」
「やだやだやだやだ!! 助けて桜〜!!」
間の抜けた攻防、第2回戦が開始された。
続く




