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第29話 コード争奪戦+What we can do

 

「務めは果たした。残る役目は貴様達が果たせ。私は再び、神への祈りを捧げる」

 フェイザーはエリカを教会の中央にある柱へ縛り付け、姿を消した。

「やっぱり凄いわねぇ彼。こんなあっさり手に入れてしまうなんて」

「彼女が、インフェルノコードを持つ者? 俄かには信じられませんね……」

 笑いながら拍手をするアフェイクに対し、テランスはエリカに向けて懐疑の視線を送る。気絶したまま目覚めないのは、恐らくフェイザーが何かしら施したのだろう。

 しかしこの場で、困ったような素振りを見せる者が1人だけいた。

「さて、こうも早くインフェルノコードが手に入ったのは幸いだが……生憎、こちらはまだ準備が整っていない」

「あとは何が必要なのかしら〜?」

「コードを抽出する為のコネクトチップ、そしてその力を最大限に発揮出来るプラグローダー。この2つが無ければ、その少女は使い物にならない。あの少年のローダーが進化さえすれば、第一条件はクリアだが……」


 ウィズードが考え込むように口元に指を添えた時、階段に座り込んだまま静観していたジャスディマが口を挟んだ。

「そもそもプラグローダーの進化が奴に発現するというのもお前の憶測に過ぎない。忌魅木の娘達がいるビルに襲撃をかけて確実な情報を得る方が早いんじゃないのか?」

「私達のヘブンズローダーも、元々はプラグローダーだったものを私達の主導者……ディザイアスが進化させて生まれた。恐らくジェノサイドの一部が持っていたものも同じだ。ならばプラグローダーに進化の可能性があったとしても不自然ではない」

「それを憶測だと言っているんだ。不確実な情報を信じるなど──」



「いいや、彼が言っていることは正しいよ」



 聞き覚えのない声に、フェイザーを除く一同の視線が一気に集まる。


 そこには幼い少年が立っていた。蝋燭のように白い髪と肌。その中で煌めく金色の瞳が目立つ。背はこの場にいる誰よりも低く、風貌も10歳前後だ。

「誰だ、何故ここにいる!!」

「ちょっとジャスディマ騒がないで。……あら〜、随分小さい男の子、愛おしいわ。何処から来たの?」

「やぁお姉さん、こんにちは。僕も君達と同じ所から来たのさ」

「私達と同じ……ということは、アースリティアなのですか?」

「今はそう思ってもらって構わないよ。僕の事は……うん、オドント。そう呼んでくれ」

「こんな子供が、俺達と同じアースリティア? 馬鹿なことを抜かすな」

 ジャスディマの声には侮蔑の色だけでなく、警戒の色も含まれていた。それを察したのか、オドントと名乗る少年は不敵な笑みを浮かべる。

「なら君達からの信頼が厚い人物から、お墨付きが必要だね。……君から言っておくれよ、ディザイアス」


 直後、空間に不思議な圧力がかかる。一同がそれを感じた先に、いつの間にか彼は立っていた。


 中心に巨大な十字架を刻んだ仮面を被り、白色の生地に銀色の装飾が施されたローブを纏った姿。性別は分からない。


「……案ずる事はない、其の者は我が陣営である」

「貴方が出てくるなんて、よっぽどのことなのねディザイアス」

 普段は掴み所がないアフェイクの声が僅かに震えている。テランスに至ってはぬか付いたまま微動だにせず、ウィズードもディザイアスを直視していない。

 其の中でただ1人、ジャスディマだけが彼に対し臆せず発言する。


「お前とコイツは、一体どういう関係だ?」

「共にインフェルノコードを手に入れ、世界を管理する。其のための協力者である」

「俺達はお前から産まれた。だからお前の言うことは信じよう。だがコイツの事を信用しているわけじゃない」

「構わない。己が役目をそれぞれ果たすのならば、我が口を挟む必要はないだろう」

 ディザイアスはそう返すと、僅かな残光を残して再び何処かへ姿を消した。


「ならば私は今一度、彼のプラグローダーを発展させよう。テランス、今回は君にも付いてきて貰いたい」

「あ、はい。しかし何故?」

「君の能力を使って彼を更に追い込む。今度は死の直前まで。完成までは行かずとも、その直前までは行く事だろう」


 ウィズードとテランスも続くように消える。


 オドントは、苦い表情を浮かべるジャスディマを見て悪戯な笑みを向けた。

「……君はもしかして、あの少年が気になるのかな? いや正確には、君の──」

 言葉を発し終わる前に、口元へ巨大な槍が突きつけられた。刺突部は既に発光し、解放すればオドントの頭は消し飛ぶだろう。しかしオドントの表情は全く揺らいでいない。

「ジャスディマ、何を……!?」

「発言には気をつけろ」

「ふふ、ごめん。割とデリケートな話題だったようだね、気をつけるよ」

 ジャスディマは槍を引き、視線を逸らした。まるでこの話題に反応した事が、失敗だったと言わんばかりに。





「おっかえりーロースグー!」

「おかえり、お疲れさん」

「本当だよ……面倒だった」

 グラニーとストラの迎えを通り過ぎ、定位置のベッドに倒れこむロースグ。しかしストラはすぐあることに気がついた。

「ってリーディいなくね?」

「置いて来た。まぁ死にはしないだろうしさ」

「……それやられたって事じゃね!? 死にはしなくてもマズイやつじゃね!? マジかよどうすんだこれヤベエよマジで──」

「うるさい、静かにして」

「あっひ!?」

 飛来した小さな蛇が慌てるストラを沈黙させる。常人ならば瞬時にジェノサイド化を引き起こすが、既にジェノサイドの彼にとっては強烈な鎮静作用をもたらす劇薬である。


 エヴィが小さく溜息をつき、再び眠りにつこうとした時だった。


 館を揺らす程の足音と、辺りの埃が燃え、火花と化すほどの熱気。

 そこに現れたのは、炎の様な色をした短髪、岩石の様に荒々しい筋肉、ジャケットとジーンズは熱の所為で少し焦げ付いている。

 目や視線はサングラスで見えない。だが発せられた言葉に込められた感情は、怒りだった。

「インフェルノコードが、スレイジェルに奪取された」

「うぇぇ……マジ、か……」

「呑気しすぎたな。俺とブラウダも、協力者への根回しが少し遅れた。必ず奴等から取り戻さなければ」

 しかしその言葉に相槌を打ったのはストラのみ。他は男を睨み、反抗的な言葉を放つ。

「そんなの、ラスレイ達が勝手にやりなよ。面倒臭い」

「お腹空いたー! なんか食べるー!!」

「眠い。私に指図するな」

「お、おいおい、ラスレイ怒らせたらやべぇって……」

「……まぁ、お前ら屑に何の期待もしていないさ。今まで通り好きにしていればいい。だがエヴィ、お前は別だ。協力してもらうぞ」

 威圧する様な語気の言葉と同時に、辺りの紙屑やゴミが発火する。ストラがお気に入りの雑誌の火を消そうと躍起になる中、エヴィは威嚇する様に息を吐き、髪から蛇が鎌首を持ち上げる。


「指図するなって言ったの……!!」

「良いから探せ。この写真の女だ」


 ラスレイが投げ渡した写真。それを見た瞬間、エヴィの表情が苛立ちから驚愕へと変わった。


「エリカ……お姉ちゃん……!? 彼奴らに……くぅぅ、独り占め、独り占め、してぇ……!!!」


 毛布を跳ね飛ばし、館の中を出て行く。

 ラスレイは見送った後、自身も館へ出て行こうとする。

「ちょちょちょ、どこ行くんだよラスレイ」

「リーディを探す」

「あー……お仕置きかぁ。半殺しくらい?」


「もう邪魔になるだけだ。始末してチップとコアを回収する」

「あ、えぇ……!?」



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「そ、そんな……睡蓮さんとエリカさんが……っすか……」

 詳細を蒼葉から伝えられた写見は、先程まで笑顔で持って来たファイルを床に落とす。

 同席していた山神は包帯だらけの腕を力無く壁に叩きつける。身体に走る痛みは心の痛みに掻き消され、何も感じない。

「調整に手間取った私の責任……何を言われても、返す言葉もないわ」

「蒼葉さんのせいじゃないっすよ。全部、あの機械達がやったことなんすから」

 写見は落としたファイルを拾い上げ、1ページ目を捲る。


 そこには沢山の写真が貼られていた。ほとんどが以前の海水浴の写真。

 ビーチバレー、海での遠泳競争、かき氷や焼きそばを食べて。いつ撮られたかも分からないうちに、楽しい時間がそこには閉じ込められていた。


「これからこのファイル、みんなで楽しい事して埋めようと思ってたんすよ。俺に出来る事はこれくらいっすから。……桜さんは?」

「ここにはいない。行き先は……聞けなかった」

「そう、すか」

 すると写見は帽子を被り直し、踵を返した。

「俺、エリカさんの居場所を聞き回って探してみます。何か手掛かりくらい……」

「無理よ……見つかりっこない」

「そんなの分かんないっすよ」

「無理だって言ってるの!! ノアカンパニーの総力挙げて捜索しても見つからない! そもそも生きてるかも分からないのに……!!」

 蒼葉は半ば叫ぶ様に否定する。自身も気づかないうちに涙が目の端に溜まり始め、壁に寄りかかる。

 しかし写見は、そんな彼女に告げた。


「俺達、今まで桜さんに頼りすぎたんすよ」


 蒼葉と山神の身体が震える。


「俺も一緒っす。桜さん、何でも笑って受け入れて、何でもない他人のためにまで動いちゃう人なんす。じゃなきゃ変身して、あんな怖い目に合うなんか出来ないっすよ。……知らないうちに、あの人がいれば大丈夫だって、皆桜さんに頼って。今回の件だって、絶対自分1人で抱えてる。だったら俺達に出来る事は、ちっぽけでもやんなきゃ何ないはずっす」


 言い終わると同時に部屋を飛び出した。ファイルを近くの棚に置いたまま。


 蒼葉はファイルを手に取り、今一度写真を見る。


 つまらなさそうにそっぽを向く自分に対し、2人は笑顔を振りまいていた。

 こんな事になると分かっていたなら、伝えたかった。


「友達に、なりたかった……」

「…………馬鹿野郎。もう友達だっただろうが」


 横を通り過ぎる時、山神は蒼葉に言う。


「友達ってのは言葉で伝えなくてもなってるんだよ。確認なんかしなくても良いんだよ。……一緒にいた時間なんか関係ねぇ」

「待ちなさい、まだ怪我が残ってるでしょう! どこに行く気!?」

 そのまま部屋を出て行こうとする山神を、蒼葉は引き留めようとする。しかし山神は蒼葉の手を払い、扉を開ける。


「写見に言われて決心着いたよ。俺に出来る事は、やるべきだ」


 山神が去ってしばらく、蒼葉は呆然と立ち尽くしていた。



 正義のヒーローを待ち続けるお姫様。



 かつて紅葉に言われた言葉を思い出す。

 自分は牢獄の中から見ているだけなのか? ヒーローが傷つき、苦しむ様を見て、泣きながら頑張れと言う事しか出来ないのか?


 気がついた時には、開発室へと走り出していた。通路を行き交う使用人や研究員を押しのけ、アレがある場所へと急ぐ。



 扉を開くと、そこで紅葉が待っていた。


「あら、そんなに慌てた様子でどうしたの?」

「…………リワインドローダーを、出して」

「残念、完成品は先客に渡してしまったわ」

「試作品がある。早くして、奴等の次の狙いはきっと桜。進化したプラグローダーのデータ」

「貴女が戦う必要ないんじゃない? 桜君が今まで通り……」

「もう、夢見るお姫様じゃいられない!! 私は彼の力になりたい、大切なものを守れる存在になりたい!!」


 蒼葉の言葉と表情を見た紅葉の顔から笑みが消える。真意を確かめるように瞳を覗き込み、やがて再び小さく微笑んだ。


「……面白い。あの貴女がこんなに変わるなんて、ね」



続く

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