第28話 刹那の蓮+I am a hero
「はぁぁぁぁぁっ!!」
睡蓮は左腕のランチャーをフェイザー目掛けて撃ち、更に右腕のランチャーからビーム刃を出現させて接近する。しかしエネルギー弾が命中したにもかかわらず、フェイザーは怯む様子すらない。最初の姿勢のまま微動だにしない。
やがてビーム刃が振り下ろされる。しかしフェイザーの肩を貫通する事はない。
「くっ、うぁぁぁっっっ!!」
がむしゃらに右腕を振り回し、更に至近距離からエネルギー弾を喰らわせる。それでも傷をつけることはおろか、仰け反る様子すらない。
「効いてねぇ……やっぱりダメだ、一旦逃げるぞ睡蓮!! 桜が来るまで──」
「山神はエリカ連れて早く逃げて!! 狙いはきっとエリカ、だったら私が時間を稼げば!!」
「お前置いて逃げろっていうのか!? ふざけんな!!」
「今はエリカを優先しろ、この馬鹿たれ!!」
と、服屋の中から現れる人影。それは周囲の異変に戸惑うように辺りを見回すと、睡蓮達の姿に気がついた。
「睡蓮ちゃん!?」
「やっべ、早く逃げろ山神コラァッ!! あとでげんこつすんぞ!!」
「…………ちっくしょう!!!」
山神はエリカ目掛けて走りだし、無理やり手を引く。
「え、えっ!?」
「行くぞエリカッ!!」
「待って、待って、睡蓮ちゃん!!」
走り去っていく2人。それを感じた睡蓮は小さく息を吐いた。素顔のままでは笑えないから。
「いいぞ山神! カッコいいぞ!」
「許さぬ」
その瞬間、フェイザーの姿が睡蓮の目の前から消える。かと思うと、山神とエリカの前に姿を現した。
「そんなっ!?」
「インフェルノコードの確保も目標にある。逃すわけにはいかない」
「お前らに渡すかよ!!」
山神はエリカを後ろに下げようとする。しかしフェイザーが繰り出した掌底によって山神は大きく吹き飛ばされ、シャッターに叩きつけられた。
「うがっ、グフっ!?」
「山神っ!!」
「山神君っ!!」
地面に伏せたまま全く動かない。フェイザーの視線がエリカの方を向く。しかしエリカに異変が現れる。
「ゥゥゥゥゥゥウウウ…………!!」
「ま、待ってエリカ! 落ち着いて、気をしっかり……」
「くぁぁぁァァァァァァァァ!!!」
エリカの姿がフォックスジェノサイドへ変わる。巨大な火の玉をフェイザーへ投擲するが、左手の爪で弾かれてしまう。
「多少の抵抗は考慮してある。が、しかし」
「オオオオオォォォン!!!」
巨大な尾が9つに分離、それぞれの先端から輝く熱線を発射する。フェイザーはそれらを瞬間移動で回避。側面に現れて長剣を振るうが、振り向きざまに薙ぎ払われた尾による爆炎がフェイザーを吹き飛ばす。
「ここまで抵抗するか」
「どうしよう、エリカ、ジェノサイドの本能に呑み込まれてる……!!」
「クォォォォォォォォォォ!!!」
フォックスジェノサイドの口から螺旋状の炎が放たれる。フェイザーは再び瞬間移動し、今度は目の前に出現。長剣を斬り上げて吹き飛ばした。そこへ更に、左手から光弾を発射しようとする。
「やらせないっ!!」
睡蓮はすぐにフェイザーの前に立ち塞がり、両腕からエネルギー弾を連射。フェイザーは剣を払って弾き飛ばすが、その隙に懐へ飛び込んで斬撃を繰り出す。だがまたしても姿を消し、背後に現れて背中を一閃する。
「無駄な足掻きを揃いも揃って……」
「無駄なんかじゃない! 無駄なんかじゃない!!!」
今までの思い出も。今まで出来た友達も。
いずれこの日が来てしまう事を、分かっていたとしても。
「私が今まで作ってきた想いは、無駄なんかじゃない!!」
「よもやここまでバグに侵されていたとは」
《Re:Conect》
フェイザーがヘブンズローダーのボタンを押すと、2枚の翼が広がる。長剣が光と化す。
それを見た睡蓮はすぐにプラグローダーをスライド。両腕のランチャーを連結する。
《Faith Recovery Strike》
《Update Complete Heavns Break》
睡蓮のランチャーから七色のビームが発射される。対するフェイザーの剣からは十字形の斬撃が放たれる。
ぶつかり合ったエネルギー同士がせめぎ合い、周囲に光の粒子が舞い散る。
「くぅ、ぅぅぅ!!」
負けられない。負ける訳にはいかない。
自分が生まれた理由など知らない。何故自分が排除されなければならないのかなど、分からない。
だから自分で決めたのだ。
大切な親友達を守る為に、これから戦っていくのだと。
「私は、みんなを──」
次の瞬間、ビームが消し飛ばされ、目の前に十字架が広がった。
成す術もなく拘束される手足。そして今度は、光の剣を携えたフェイザーの姿が現れる。
「処分、完了」
鈍い音が鳴り響き、睡蓮の体がビクリと震える。
剣は寸分違わず彼女の心臓部を貫いていた。血の代わりに金属片と火花が滴り落ちている。
「クォォッ、オ、ォォォッ……?」
フォックスジェノサイドはその光景を目撃し、力無く崩れ落ちる。炎が燻り、エリカの姿へと戻った。
「睡蓮…………ちゃん……?」
既に睡蓮は人間の姿へと変わり、身体からは光の欠片が零れ落ちている。
目に涙を浮かべ、小さく笑い、か細い声で呟いた。
「ごめ、ん…………私、ヒーローに…………なれなかったよ……」
「違うよ……ヒーローだよ…………今までも、これからも……そうだよね睡蓮ちゃん……?」
「っ、そ、だよ、ね……あ…………たり前だよ…………桜に負けない…………エリカの親友で、ヒーロー……なんだから……」
フェイザーが剣の向きを変え、一気に斬り払う。
それを最後に睡蓮の声は途切れ、身体は光の粒子となって空へ還った。
後に遺ったのはプラグローダーのみ。乾いた音を立て、エリカの前に落ちる。中からチップが弾き出され、何処かへ転がっていく。
「睡蓮ちゃん……どこ行っちゃったの? ねぇ、睡蓮ちゃん……返事してよ、睡蓮ちゃん!! 睡蓮ちゃん!! い、嫌だ……嫌だァァァァァァァァ!!!!」
プラグローダーを胸に抱き、エリカは慟哭する。
フェイザーはそれを意に介さず、次なる目標のエリカへ歩み寄っていく。
と、横から何者かがぶつかる。力無く、倒れこむように。
「エリカは…………睡蓮の、プラグローダーは…………渡さ……ねぇ……」
しかしフェイザーは山神の頭部を剣の柄で殴りつけ、地面に叩きつける。そして泣き叫ぶエリカを担ぎ上げ、姿を消してしまった。
反応があった場所に辿り着いた時、既に戦いは収束していた。
「…………まさか、まさか」
桜は嫌な予感に心臓を突かれる。人が倒れた商店街を走っていく。
するとその中に、見慣れた人影が倒れているのを発見する。
「っ、山神!!」
「桜……」
外傷が酷い。意識はあるようだが、このままでは命に関わるだろう。
「エリカと睡蓮は!? 今助けを呼ぶから!」
「桜…………俺……」
「何っ!? 無理しないでいいからな! 何か辛いなら──」
「何も出来なかった……! お前が来るまで、俺が彼奴ら……守ってやらなきゃならなかったのに……!! 睡蓮も、エリカも……俺はぁ……!!」
山神の言葉を聞いた直後、桜は視線の先にあるものを見つけてしまった。
エリカが履いていた靴。そして、
大きなヒビが入った、コネクトチップを。
「……間に、合わなかった…………?」
桜の心から何かが、滑り落ちた。
続く




