第24話 覚悟のヒーロー+Even if justice is ego
山神と睡蓮はノアカンパニーのエレベーターへ飛び込み、上へのボタンを連打する。
連絡が来たのはつい先程。学校にて授業の休憩中、2人の目の前に現れた謎のガジェットだった。まるで首長竜の様なスマートフォンが飛翔して来て、腹の画面を2人に見せた。
《話がある。至急ノアカンパニーへ》
最初は罠かと警戒したが、首長竜の画面が切り替わると、蒼葉の名が浮かび上がったために、こうして早退して来たのだ。
「話って何だ!? 何があった!?」
「エリカが学校に来てない事と何か……っ!?」
呼び出された階に辿り着くなり2人は叫ぶが、目の前の光景に息を呑んだ。
鮫型のエネルギーが暴れ回り、桜が吹っ飛ばされて来たのだ。見ればそこはトレーニングルームだったのだが、桜はその入り口からここまで飛ばされた様だ。
「桜っ!?」
「お前何やってんだ!」
「く……駄目だよ蒼葉。メガロドンチップがもう俺を完全に嫌ってる」
「まだ分からない! …………いや、ごめんなさい。もう何回も調整しているのにこれじゃあ、何を言っても納得出来ないわよね」
土煙の中から歩いて来た蒼葉も暗い表情だ。どうやら切羽詰まった状況らしい事は2人にも理解出来た。
「……もう時間がない、行かなきゃ」
「待って桜!!」
蒼葉は桜の手を掴む。
「最後のチャンスを頂戴……次こそ安定させてみせるから……無茶しないで!」
「大丈夫、メガロドンチップは使わない」
「だとしても今のリンドウじゃヒガンバナに勝てない! 今度こそ死ぬ!」
今にも泣きそうな声で蒼葉は縋り付く。
「お願い……エリカが大切なのはよく分かる……だけど、自分自身も大事にしてよ!」
「蒼葉……」
今までの彼女からは想像も出来ない声。本気で桜を心配している事は彼自身も感じていた。
だが、ここで止まるわけにはいかない。
桜は振り返ると、蒼葉の目を見ながら笑って見せた。屈託のない笑顔で。
「誰も死なせたりしない! もちろん自分もね……じゃ、行ってくる」
そして山神と睡蓮の隣を抜け、桜はエレベーターへと乗り込んだ。
「よほど深刻みたいだね。私も行くよ」
後を追おうとする睡蓮。しかしエレベーターの前に蒼葉が立ち、エレベーターの扉を閉めた。
「…………いいえ。彼に任せてあげて」
「でも……!!」
睡蓮は反論しようとしたが、それ以上返す事は出来なかった。彼女の目は決意と不安で揺らいでいたからだ。
「ごめんなさい、状況を説明する。まず──」
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エリカを確保した事を報告すると、依頼主はポイントを指定してきた。直接向かうらしい。代理人は必要ないのかと尋ねたが、それについては返答しなかった。
今の所彼女は大人しい。というよりも抵抗出来るような精神状態ではないのだろう。うずくまったまま動かない。
この様子ではジェノサイド態になることもないだろう。万が一そうなれば首を刎ねれば良い話だ。
幸い、ここは人が来る事のない廃ビル。何かあっても多少ならば問題ない。
その時、音が聞こえた。何者かが歩く音、だがそれに混じって何かが飛翔する音も聞こえる。
と、彼岸の目の前に妙な物が現れた。スマートフォンからヒレと尾、そして長い首を生やした謎のガジェット。
バイザー型の目が赤く点滅すると、警告音のようなものを鳴らした。彼岸はブレイクソードを振るうが、それはヒラリと躱し、持ち主の側へ戻っていく。
「ありがとう。じゃあ蒼葉によろしくね」
長い首を縦に振り、スマートフォン状のガジェットは何処かへと去って行った。
「お前は……」
「エリカを返して貰おうか」
桜の眼差しは鋭い。その目からは覚悟が伝わってくる。
「こいつはジェノサイドだ。お前の敵だぞ」
「だとしてもだ。お前達には渡せない」
「それはこいつに利用価値があるからか? 大方忌魅木の差し金だろうが、一体何の為に──」
「そんな理由じゃない」
桜の言葉に、エリカは顔を上げた。
この男、彼岸の言う事は正しい。自分はジェノサイド。ならば人類の敵であり、いずれは討たれる運命である筈だ。
なのに何故助けに来たのか。
「俺はエリカを守ると約束した。だから守る。それだけだ」
「それがお前の正義だと? そんなものはただのエゴでしかない。お前が救った1人のジェノサイドが、大人数を喰らい尽くすんだぞ」
「エリカがそうなった時は、俺が止める」
桜の心の中には、今でも忘れていない約束がある。
周りからよくいじめられていたエリカ。彼女を初めて助けた時、彼女と約束した。
「何があっても、これからは俺が守る!」
「…………本当に?」
「あっ、でも悪い事したら怒るよ! だってヒーローは、悪い奴を許さないんだ!」
「エリカはまだ何もしていない! だから俺は守る! 変身!!」
リンドウ、ピュアアーマーへと変身すると同時に駆け出す。
彼岸もすぐさま変身。ヒガンバナ、スカーアヴェンジャーへと姿を変える。ブレイクソードを抜いた時、彼の中である考えが浮かぶ。
依頼人からは、対象の生死は問わないと言われた。ならばこの場でエリカを殺せば奴の戦意を削げるのでは、と。
しかし躊躇いが自分の中にある事をすぐさま自覚し、ブレイクソードを振るう先はリンドウへ。スラスターブレイドとブレイクソードの激しいぶつかり合い、そして鍔迫り合いへ。
「餓鬼の理屈を並べて……何が正義の味方だ!!」
「だとしても!! 俺はお前のやってる事が正義だとは思えない!! エリカの力が分からないのに、何が目的か分からない奴に渡せばどうなるか、お前は知っているのか!?」
「俺は俺の復讐が果たせればそれでいい!!」
ブレイクソードが競り勝ち、リンドウの装甲に斬撃が走る。
「独善的な正義では誰も守れない! お前がやっている事は偽善……いや、それ以下だ! この世に正義の味方なんて存在しない、皆が皆自分の目的の為にしか動けない!!」
ヒガンバナの蹴りがリンドウの腹へと打ち込まれる。しかし桜はその足を掴んだ。ヒガンバナはすぐさま蹴り払おうとするが、その前にスラスターブレイドを胸部へと斬り下ろす。
「俺がする事で、誰かが不幸になる……分かってるさそんな事。でも俺が憧れたヒーローは、自分の大切な人達を守る為に一生懸命だった! お節介だって言われても、絶対自分の正義を曲げながった!!」
ヒガンバナが反撃するより早く、桜はスラスターブレイドのレバーを下げる。纏った冷気はヒガンバナの関節を凍りつかせる。
「リンドウが、ヒガンバナの性能に追いついている……!?」
「俺の正義がエゴだとしても……俺はそれを誰かに押し付けたりなんかしない。これは俺がやりたい事なんだ! 俺が、自分で決めた道なんだ!!」
更に一閃。ヒガンバナを大きく後方へ吹き飛ばす。
「だから俺はエリカを助ける!! 大切な人を守ること、それが…………俺の、エゴだ!!!」
その時、リンドウの腰に下げたVUローダーが光を放った。
手に取ると、無機質なUSBメモリ状の形状は変化。透明な天使の翼を象った姿へ生まれ変わる。
同時にピュアチップも変化。銀色の盾のような姿へと変わった。
桜はVUローダーをプラグローダーへ接続。
《System Update》
変化したピュアチップを一度抜き、再び挿入。カバーを閉じる。
「…………変身っ!!!」
プラグローダーをスライドした。
《バージョンアップ、イノセントシールダー》
リンドウの頭上に二重の光輪が出現。それらは弾け飛び、装甲の形を成してリンドウへ装着されていく。
《英雄、堅牢なる正義の意志をその手に! Your heart will be a shield that will never clumble》
ピュアアーマーの上から更に純白の装甲を纏う。肩の装甲は小盾のような形をとり、胸部には天使の翼のクレストが刻まれる。
羽を象ったアイレンズの上から盾の形をしたヘルムが重なり、半分に分割、更に下半分は後方へスライド。
右腕に巨大なシールドが装着された。
リンドウ、《イノセントシールダー》形態である。
続く




