第22話 黄金の狐+I was lying before noticing
《指令ハ今マデ通リ、稲守エリカノ確保ヲ最優先ニ》
「……あぁ」
《私怨モ結構。シカシ本来ノ目的モ忘レヌ様》
「分かっている……」
《出来ル事ナラ生存ガ望マシイガ、抵抗サレタラソノ限リデハナイ。デハ、幸運ヲ》
通信が途切れる。
彼岸は大きく息を吐き、今迄の行動を反省する。
復讐心に呑まれかけ、短絡的になり過ぎた。稲守エリカを確保すれば、依頼人から忌魅木の人間に復讐する機会を設けてもらうと約束している。
信頼出来る相手かは分からない。だが反故にすればどうなるかは分かっている筈だ。
一番確実な手段で忌魅木を追い詰める。
「リンドウ単体は問題ないが…………まさかスレイジェルを味方につけるとはな」
多少は分が悪くなる。だが大した問題ではない。
彼岸は息の根を止めたジェノサイドからブレイクソードを引き抜き、その場を後にした。
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「それじゃあ、最終試験に入るわ。桜、プラグローダーの後ろにVUローダーを接続して」
強化ガラスに覆われた部屋の中、桜は新アイテムの実戦テストに参加していた。
蒼葉の指示に従い、プラグローダーの後ろにUSBメモリの様な装置を接続する。
「メガロドンチップを接続」
次なる指示。桜はプラグローダーを開き、蒼葉から借りたメガロドンチップを接続。プラグローダーを閉じる。
しかし、
《Over Capacity!!》
「あっ、これは!」
プラグローダーから以前の様に鮫型エネルギーが飛び出そうとする。桜はすぐさまプラグローダーを開き、メガロドンチップを引き抜いた。エネルギーは蒸発する。
「これで4回目……やっぱり微調整じゃ足りないんじゃない?」
桜はガラス越しに蒼葉へ疑問を投げかける。蒼葉も薄々感づいていたのか、小さく頷いた。
「何処かで調整を間違えた? いや、そんな筈は……メガロドンチップの解析不足? 前に使った時にバグが生じた? 原因が特定出来ない……」
「もしくは……桜君とメガロドンチップが過剰に反応しあっているか」
唸る蒼葉の横から、紅葉が加わる。
「過剰に?」
「正確には桜君とプラグローダー、ピュアチップ、そしてメガロドンチップ。この4つが何らかの作用で本来の想定以上の力を発揮している……かもしれない」
「何らかの作用って?」
「さぁ? それを解析するのが貴女の仕事。それじゃあ私はこれから商談があるから。よろしくね」
蒼葉の肩を軽く叩き、紅葉は部屋を後にしようとする。自動ドアが開いた時、思い出したかの様に紅葉は告げた。
「そうそう、稲守エリカさんについてなんだけど」
「彼女がどうかしたの? 検査結果は正常だった筈でしょう?」
「正常だからこそ、何故ジェノサイドから執拗に狙われるのかが余計に解せないのよ。注意しておいた方がいい」
その時、蒼葉のスマートフォンに着信が入る。エリカからだ。
通話ボタンを押して最初に耳に入ったのは、人々の悲鳴だった。
「もしもし!?」
《あ、蒼葉さん! 街にジェノサイドが……え、貴方誰!? 何言って……きゃあああああっっっ!!!》
通話が途切れる。
「桜、早く出て!!」
「実験終了?」
「エリカが危ない!」
出来事は一瞬だった。
学校へ向かう最中、突如通学路にジェノサイドが出現した。ヒダ状の吸盤がついた手足に巨大な目玉、細身の身体。その姿はヤモリに似ていた。
逃げ惑う人々を突き飛ばしながら、真っ直ぐエリカへ突進してくる。
逃げようとエリカが後ろを向こうとした時だった。
ヤモリジェノサイドは見えない壁にぶつかった様に突き飛ばされ、転倒したのだ。そしてそのまま四方を光の壁で囲まれ、少しずつ押し潰されていく。
エリカは急ぎ蒼葉に連絡を取った。しかし、
「全く、これだけの事を施す価値があるのかね。このサンプルには」
背後に現れた眼鏡の男にスマートフォンを取り上げられた。同時にヤモリジェノサイドが壁に押しつぶされ、爆発四散する。
「貴方は……!?」
「私はウィズード。詳しくは知らないが、君は私達にとって重要な鍵を握っているらしい。ジェノサイド共も狙っている様だが……とにかく、私と来て貰おうか」
「貴方もあの怪物の仲間なんですか!?」
「違うな。それはどちらかというと…………まぁいい」
エリカは逃げようと後ずさる。しかし何もない空間に硬い感触を感じ、それ以上後ろに下がらない。気づけば自分も四方を壁に囲まれていた。
「正直な話、私も君の何が重要なのか知らないのだが……フェイザーは何を考えて……」
「エリカ!!」
そこへ、桜がトライアングルホースに乗って現れた。後部座席には蒼葉の姿もある。
「桜!」
「現れたか。普段ならスレイジェルに相手をさせるところだが……仕方がない。私がデータ集積に協力してやろう」
「また訳分かんないこと言って……エリカは返して貰うぞ!」
桜がプラグローダーを開くと、ウィズードもヘブンズローダーのカバーを開いた。
「変身!」
「天臨」
《The birth of Hero!!》
《Falling Angel…… Wisdom》
変身と同時に桜は走りだし、スラスターブレイドを叩きつける。しかし刃はウィズードに当たる前に、見えない力に阻まれる。
「やっぱり壁みたいなのが周りに!」
「以前よりはマシになっているな。順調に性能は上がっているか」
弾き飛ばされた桜は、スラスターブレイドのレバーを上へスライド。熱を帯びた刀身で斬撃を繰り出すが、やはりウィズードの壁の前には歯が立たない。
「蒼葉! メガロドンチップを使うしかない!」
「でもあれは……」
「大丈夫、何とか制御するから!」
「暢気な……仕方がない、か!」
蒼葉はメガロドンチップを桜に投げ渡す。
「さて、こっからが本番……っ?」
一瞬だった。だが確かに、違和感を覚えた。
しかしすぐに気持ちを切り替え、メガロドンチップを挿入。
《深海に眠りし 猛き牙の記憶 Eat All!! R
ough Sea Fangs!!》
メガロファングへとフォームチェンジする。
「この形態は……?」
「うおおおぉぉぉっっっ!!」
溢れ出るパワーに身を任せ突撃する。ウィズードは光の壁を出現させて進行を阻もうとするが、桜は全て殴り壊して突破していく。
「この程度のバリアは砕いてくるか、面白い!」
「うああっ!!」
次々に拳、足、ブレードによる猛攻を仕掛ける。ウィズードのバリアは防いでこそいるものの、僅かに空間に亀裂が入り始める。
「桜、冷静さを欠かないで! チップに呑み込まれかけてる!」
「いやいける! もう少しだ、もう少しなんだ!!」
桜の意識は戦闘本能で満たされていた。蒼葉の言葉は空虚に響き、助けたい筈のエリカの事さえ頭から抜けていた。
「お前を、倒す!!」
「頃合いか」
ウィズードは受け止める事をやめ、大きく後ろへ跳び退いた。桜は好機と見て、プラグローダーを3回スライド。鮫型のエネルギーが右腕を覆う。
「終わりだぁぁぁっっっ!!」
その時、
「…………えっ?」
エリカを囲んでいたバリアが突如消え、同時に一方の壁によって突き飛ばされた。
今まさにエネルギーを放とうとするリンドウの前へ。
「あっ……」
「っ、エリカ……!?」
桜はエネルギーを止めようとするが、既に制御は効かない。撃ち放たれた鮫はエリカへ真っ直ぐ向かっていく。
「避けてぇ! エリカァァァァァァッッッ!!」
蒼葉の叫びが木霊する。
凄まじい爆音と、遅れて衝撃波が伝わる。思わず目を瞑った蒼葉は、エリカに起きたであろう悲劇の結果を覚悟した。
舞う土埃の中、ゆっくりと目を開く。
信じられない光景が、否、姿がそこにあった。
「…………っ!?」
「エリカ……なの、か……?」
黄金の毛、尖った耳、たなびく9本の尾。赤い瞳。その周りを覆う金色の炎が、リンドウの放ったエネルギー波をかき消していた。
「……? 私、何を……」
狐の姿をしたジェノサイドは、自らの身に起きた事を理解していなかった。
「ねぇ、桜……何が、あったの?」
フォックスジェノサイドは尋ねた。
エリカの声で。
続く




