第21話 溢れる力は止まらない+Latent danger
「お、おぉ…………!!」
「うあー! よくもやったなー!!」
吹き飛ばされたグラニーは羽を使って飛翔、高高度から大口を開けて嚙みつこうと迫る。
それを見た桜は瞬時に跳躍、グラニーに追いつくと踵落としを食らわせて地面へ叩きつけた。
「うー!?」
「何だこれ、何だこれ!? 力が溢れる!! 身体が止まんねえ!!」
起き上がろうとするグラニーに対し、パンチと腕のブレードによる斬撃を乱打。反撃の暇すら与えない。
「うおらぁっ!!」
「おーっ!」
桜が大きく拳を振りかぶった隙を突き、グラニーは胸部に噛み付いた。そのまま食い千切ろうとする。
しかし、
「うぅぅ……口が痛いー!」
すぐに離し、不味いものを吐き出す様に咳き込む。口の中からは唾液に混じって細かい刃が吐き出された。
そして拳の一撃がカウンターとしてグラニーの胸部に打ち込まれた。
「……はっ! グラニーちゃんが押されてる!? やばいな……グラニーちゃん、いいとこで引き上げるよ! 俺はエリカちゃんを──」
「させるかっ!!」
桜はグラニーを蹴り飛ばして距離を取ると大きく跳躍。ひとっ飛びでストラの目の前に着地した。
「あっ、ちょ、俺荒事は向いてな──」
「ハッ!!」
慌てふためくストラへ右手のブレードが振り下ろされ、追い討ちに後ろ回し蹴りで胸部を切り裂かれた。
「痛ぁぁぁいっ!!?」
よろめいたストラの首を掴むとそのまま地面に投げ、脛のブレードを踵落としの要領で打ち降ろす。
「待って、死ぬから! 俺死んじゃうから!!」
「ストラをいじめるなー!!」
桜の背後からグラニーが飛びかかり、背中に噛み付く。しかし背中にある2つの小型ブレードと鮫肌のような装甲が牙の侵入を拒む。
「うああああっっっ!! 纏めてかかって来いぃぃぃ!!」
桜は雄叫びを上げ、2人の首を掴んで前方へ投げ飛ばす。そしてプラグローダーを3回スライド。
《Now Loading……Now Loading》
リンドウの周りを蒼白いエネルギーが覆い尽くし、巨大な鮫の形を取る。
《Update Complete Deep Fangs》
「やっべ! グラニーちゃんも必殺技撃って!」
「あー? お星様ー?」
「あ、駄目だこれ」
エネルギーを纏ったリンドウは一直線に高速接近。右拳をグラニーへ、左拳をストラへ叩き付ける。拳を振り抜くと、鮫のエネルギーは2体を纏めて噛み砕きながら彼方へ吹き飛ばした。
「ああぁぁぁぁっ、助けてぇぇぇ!!」
「おーほーしーさーまー!」
地平線の向こうに消えるのを見届けると、プラグローダーからコネクトチップが強制イジェクト。途端に強烈な疲労感に襲われ、桜は砂浜に寝転がった。
「スト…………あ、あれ?」
「お、お? 私何してたの?」
「だらしねえなお前ら。あんな軽薄な奴に魅了されるなんて」
山神が呆れた視線を送ると、2人は一気に顔を赤面させた。
「ちちち、違うわ! あれは敵の罠だ罠! 私はともかくエリカだよ! 浮気だ!!」
「何の話!? 私だってよく分かんないうちになんかされたの! 被害者、被害者だから!」
「こりゃ、敵の魅了に屈しなかった蒼葉さんが一歩リードっすね」
「あっ、あ…………あっ…………!!」
写見の一言に、顔を青ざめさせるエリカだった。
「やっぱり、今のプラグローダーじゃ持て余すか」
蒼葉は砂浜に落ちたコネクトチップを拾い、再びネックレスに戻した。
「すっごい強いけどさ…………しんどい」
「今のプラグローダーで制御出来てただけ上出来。…………あのプラグローダー、あれが意識を保ったままでいられる秘密……?」
「難しい話は蒼葉達に任せるよ……もう疲れた…………遊んできたら?」
桜は砂浜を転がりながらビーチパラソルの下に避難する。それを見ると蒼葉は小さく笑い、海へと向かった。
「久しぶりに泳ぐのも、悪くない、かな」
「お疲れ様、桜」
寝転がる桜の元へエリカが訪れる。
「噛まれたとこ痛い……つったみたいな感じ……」
「マッサージする?」
「お願いする……」
うつ伏せになる桜の背中に、エリカは手を当てる。その時、
「あつっ、熱い!! え、エリカ、まさか砂握ったままやった!?」
「えっ、いや……?」
エリカは自分の頬に手を当てるが、特に普段と変わらない。念の為保冷剤で手を冷やそうとする。
「あれ……?」
冷え固まっていた保冷剤が、一瞬で溶けて柔らかくなった。
この時エリカは自らの身に起きた変化に気がついていなかった。
黒い筈の瞳が、僅かに赤くなっていた。
続く




