第20話 魅了の山羊と貪食の蝿+Runaway shark
「はいパース!!」
「ああわわわ、待って待って!」
「しっかりしろエリカッ!!」
「カバーは俺がやっ、ってあああ!? なんか踏んだ!! フナムシッ!?」
桜、山神、睡蓮、エリカの4人は、海辺でビーチバレーに勤しんでいた。チーム分けなどは特にせず、とにかくボールを落とさないようにパス回しをしている。
写見は審判兼撮影係として忙しく動き回っていた。
「……くだらない」
そんな様子をビーチパラソルの下から傍観する蒼葉。その膝の上ではノートパソコンが開かれており、画面には新たな武器が浮かび上がっていた。
「ん……これはもう実用段階まで持っていける。後はプラグローダーの上位機を……」
「おいおいおい! あんな所で仕事してる奴がいるぜぃ!」
と、ノートパソコンが引ったくられた。見上げると、睡蓮が仁王立ちしている。
「ちょっと、返しなさい。オモチャじゃないのよ」
「うるへー! 何度言ったら分かるの!? 遊べ!」
「今置かれている状況を考えなさい! 意識を保ったままのジェノサイド、アースリティア、ヒガンバナ…………もっと強くしなきゃならないの、桜を、リンドウを!」
「じゃあたまの休みを入れなきゃ。それが今日。休憩しないと効率が落ちるのくらい知ってるでしょ。…………てなわけでそのパーカーも脱げぇい!」
「いや、何それ、きゃあっ!? やめなさいって、あぁっ!!」
「…………何やってんだ?」
「あわわ……凄い揉み合いになってる」
「揉み合い!?」
「桜先輩反応が早い!」
乱闘する2人に気がついた4人はビーチパラソルへ向かおうとした。
「へーい、そこのダイナマイトボディガール!」
「はぇっ?」
エリカの前に2人の影が立ち塞がった。
茶髪の男に、褐色肌に長身の少女。やがて男の方がエリカの肩に腕を回した。
「い、いや、貴方何なんですか!?」
「俺はストラ。訳あって君には俺達と一緒に来て欲しいんだ。大丈夫、美人さんだから絶対悪いようにしない。俺のポリシーに掛けてな」
「いやいや訳わからな、や、何処触って……」
「おいおい、悪質なナンパだな」
「あの、エリカも嫌がってるので…………やめてもらえませんか?」
ストラと名乗った男に、桜と山神が睨みを効かせる。
「ちょっとちょっと。野郎どもはお呼びじゃないっての。……さぁ、エリカちゃん、行こうか」
ストラの目が、一瞬だが紅く輝いた。その時だった。エリカは身体を震わせたかと思うと、まるで酩酊しているかの様に惚けた顔になる。
「はい…………ストラ、様ぁ…………」
「はぁっ!? おいエリカ!?」
山神が声を掛けても反応がない。ストラの肩に頭を乗せ、身を任せている。
桜は複雑な表情を浮かべていた。山神はてっきりエリカの姿にショックを受けたのかと思っていたが、
「その左手につけたプラグローダーは……!!」
「ふっ、気づいちゃったか。じゃあしょうがないな。……グラニーちゃん、いくよ」
「おー!!」
《Shut Up!!》
2人は赤黒いネクストローダーを開き、コネクトチップを挿入。ストラは静かに、グラニーは勢い良く閉じた。
《Shut Down!!!》
「降臨」
「こー、りん!!」
《誘え! 惑わせ!! 誘惑せよ!!! Lust! Lust!! Luuuuust!!!》
《喰らえ! 貪れ!! 貪食せよ!!! Gluttony! Gluttony!! Gluttonyyyyy!!!》
ストラとグラニーは、以前戦ったカラスの様なジェノサイド同様に汚泥を纏い、姿を変えた。
ストラは頭部から湾曲した大角が伸び、毛皮のローブを纏った。長い脚には蹄があり、赤い2つの眼の間にもう1つの目玉が浮き出ている。
グラニーは頭部が巨大化し、口が大きく裂ける。透き通る様な羽根が伸び、赤い眼の上には更に2つの複眼が現れた。
突如砂浜に現れた怪物に、付近の人々が悲鳴と共に逃げていく。
「さぁグラニーちゃん、そこにいる野郎どもは食べちゃっていいよ」
「うー、あー!!!」
口を開き、桜達へ突進する。
「山神、写見、 離れてろ!! 変身!!」
《The Birth of Hero!!》
ピュアフォームへ変身し、スラスターブレイドで応戦。振り回される爪と噛みつきの乱打を、的確にスラスターブレイドで受け続ける。しかし、
「駄目だ! エリカまで手が回らない!」
「任せとけい!」
戦闘を行うリンドウとグラニーを飛び越え、睡蓮はストラの前に着地。
「おや〜、可愛らしい子だぁ」
「エリカを返しなさい。今なら楽に消してあげる」
「あは、いやいや。君みたいなお子ちゃまに俺は倒せないよ?」
「戯言を……天──」
「おっと、させないぜ」
プラグローダーを開こうとした睡蓮に対し、ストラの額にある目玉が赤い輝きを放った。瞬間、
「あっ…………」
コネクトチップが手から滑り落ち、ペタリと座り込む。そして、
「ストラしゃまぁ…………」
「よしよし、いい子だ」
「もっと褒めてくだしゃい……」
「おいぃ!? 大事な戦力だっつうのに……ちょっと待てよお前!!」
睡蓮の前に山神が駆けつける。それを見たストラは小馬鹿にした様な笑い声を上げる。
「生身の人間が何をしに来たんだい?」
「決まってんだろ! エリカと睡蓮を元に戻しやがれ!!」
「はっ、ただの人間なんかに俺は負けないけど……生憎平和主義でね。俺の腕は、女の子を抱く為にあるのさ」
「だったら反撃の心配はねえ訳だなってうぉぉっ!?」
殴りかかろうとした山神の真横を、銃弾が通り過ぎた。着弾するが、ストラのローブには跡すら残っていない。
「転校生、危ねえだろ!?」
「離れろって言われて離れないのが悪い。それから、写真撮ってる馬鹿も早く離れる」
「えっ、あっ、はいっす!」
拳銃を構えた蒼葉を見たストラは、口笛を吹いた。
「いいね、主張しすぎない、でも彫刻みたいに綺麗な身体、顔。君も貰おうかな」
「離れろ転校生! 彼奴の眼を見るな!!」
「遅い」
眼が光ると同時に、蒼葉はピクリと体を震わせ、銃を取り落とした。うな垂れた顔からは表情は窺い知れない。
「転校生……!!」
「ほぉら、すっかり俺の虜だ。向こうはどうかな?」
「喰わせろー!!」
「うわっと! あっぶない!」
頭を食い千切ろうとするグラニーの攻撃を紙一重で躱す。ピュアフォームの身軽さ故に回避出来てはいるが、スラスターブレイドではまともに傷すら付けられない。
(クラッシュウォリアー…………駄目だ、あの顎には耐えられないかもしれない……! シュートエアレイダー……今度は火力が……! 何かないか!? 身軽で、攻撃が強力な……!)
「隙ありー!!」
「うぐっ!?」
スラスターブレイドを弾き飛ばされ、右肩に噛み付かれた。押し潰される様な感覚と共に装甲が砕けていく。
「もう終わりそうか。じゃあ……」
ストラは蒼葉に歩み寄っていく。
「やめろテメェッ!!」
「邪魔だ!」
掴みかかった山神を後方へ投げ飛ばし、蒼葉の肩に触れる。
「さぁ、君も言ってごらん。俺への、愛の言葉──」
直後、乾いた音が響いた。辺りが無音になる。
蒼葉はストラの顔を、平手打ちしたのだ。そして最大限の侮蔑を込めた視線と共に言い放った。
「私、貴方みたいな軽い男、興味無いの」
「きょ、きょきょきょ、興味無、い……だっ、て…………!!?」
ストラはその場に崩れ落ちた。
「まさかだって、え、興味無い? 嫌いは好きの裏返しとも取れるけど、そんな、だって、俺のチャームが、え?」
「分かりやすく狼狽えてんな彼奴……」
「桜!」
蒼葉は首に掛けたネックレスを外し、先についたコネクトチップを手に取る。
「本当は専用のローダーを使うんだけど……背に腹は変えられない。これを使いなさい!」
「よっし、分かった!」
身体の捻りを利用して脱出し、桜は蒼葉から投げ渡されたコネクトチップをキャッチする。
「…………何これ。鮫? まぁいいや、やってやる!」
プラグローダーを開き、鮫のチップを挿入した。
《Deep abyss memory》
そして、プラグローダーから火花が飛び散る。
《Over Capacity!!》
「うわっ!?」
「うあーっ!!」
プラグローダーから巨大な鮫型のエネルギーが飛び出し、グラニーを吹き飛ばした。
「これ行けるの!? 本当に!?」
「早く閉じて! チップに食い殺される!!」
「ひえっ!!」
急いでプラグローダーを閉じる。
鮫型エネルギーは反転すると、桜へ突進。ぶつかると同時に弾け飛び、アーマーへと変化した。
《深海に眠りし 猛き牙の記憶 Eat All!! R
ough Sea Fangs!!》
胸、肩、膝に紺碧の装甲を纏い、両手首と両脛から鮫の背鰭の様なブレードが突出する。
そして鮫の顎の様なエネルギーがリンドウの頭に喰らい付くと同時に、牙を噛み合わせた様な兜が展開。各部の装甲が逆立った。
リンドウ、「メガロファングフォーム」である。
続く




