第16話 取捨選択+Justice choices
「天罰が下るのはお前だ、スレイジェル!!」
ヒガンバナが睡蓮へ向かい駆け出した。同じく睡蓮も駆け出し、迎え撃つ態勢。
ブレイクソードとビーム刃が交わり、刹那火花が散る。しかしヒガンバナの方がすぐさまブレイクソードを鍔迫り合いから外し、再び距離を取った。
「ブレイクソードで切断出来ないか……」
焼けた切っ先を一瞥し、ブレイクソードの柄をレールガンモードへ変形。照準を睡蓮へ合わせる。
しかし睡蓮もそれに対応。両腕のランチャーからビーム刃が消え去り、代わりにエネルギーが迸る。
両者弾丸を発射。ぶつかり合った瞬間に衝撃波が広がり、周りの木々が大きく揺れる。
「す、睡蓮が、本当に…………」
桜がぼやけた視界の中で戦いを見た時、遂に変身が解除。意識を失った。
「こ、今度は桜さんがぁっ!? い、一体どうなってんすかこ──」
写見が叫んだ瞬間に蒼葉から当身を喰らい、揃って気絶。
そして蒼葉は、静かに戦いを見守る。
「埒があかない。決めさせて貰う」
ヒガンバナはブレイクソードからプラグローダーを取り外し、右腰へ装着、3回スライドする。
睡蓮も同じようにプラグローダーを3回スライド。両腕を合わせ、砲口にエネルギーが充填されていく。
《Update Complete Scar Break》
《Update Complete Heavns Break》
跳躍し放たれた闇のキックと、七色の輝きを放つビームが衝突。ヒガンバナのキックがビームの流れに逆らい、徐々に距離を詰めていく。
砲口と触れようかという距離まで接近した時だった。
突如横から、巨大な矢のようなエネルギーがヒガンバナに命中。
「何っ!?」
大きく吹き飛ばされ、ヒガンバナの姿は見えなくなった。
蒼葉と睡蓮は矢が飛来した方向を見る。
「ふっふふ。思わず加勢しちゃった。迷惑だったかしら?」
大きく肩を出したワンピースを着た女性が姿を現した。それを見た睡蓮の様子が再び変わる。変身が解除され、膝をつき、震え始める。
「あ、あぁ…………!」
「怖がる必要ないのよ。……主より命ず、頭を上げなさい、スレイジェル」
「……っ」
途端に震えが止まり、恐怖心も消える。
と、女性の元へ蒼葉が歩み寄る。
「貴女……ただのスレイジェルじゃないわね?」
「よく知ってる。ちゃんと勉強してるみたいね。偉い偉い、抱きしめてあげる」
その豊満な胸に蒼葉を抱きしめようとするが、潜り抜けるようにして躱す。だが女性は不快な表情は浮かべず、微笑ましいものを見るような慈愛の目で見つめる。
「私の名前はアフェイク。初めまして、忌魅木のお嬢さん。No.2がお世話になったわね。これからも彼女の事をよろしくね。処分が下るまで、だけど」
「彼女の世話? 処遇は私が後で決める。彼女がスレイジェルなら、彼女も敵よ」
蒼葉の言葉に、睡蓮は俯く。
しかし、
「待てよ…………睡蓮は…………はぁ、敵じゃ、ない……!!」
掠れた声。
肩から大量の血を滴らせ、桜が立ち上がった。
「睡蓮は……エリカと初めて友達になってくれた奴なんだ…………悪い奴じゃない……!」
「感情論を……!!」
蒼葉の歯が音を立てる。明らかな怒りに満ちた目は、桜が重症であることすら見えていない。
「感情論だとしても……睡蓮が皆を助けようとしたのは事実だ……! だから……」
「うるさい!! だから何よ!? 彼女が、こいつがスレイジェルなのは変わらない!! スレイジェルは敵…………貴方がこいつの肩を持つなら──」
「気に入ったわぁぁぁっ!!!」
突如2人の会話を遮り、アフェイクは桜を抱きしめた。
「な、何ぐむぅっ!?」
「可愛い、愛おしいわ! そんなに脆くて、弱くて、小さいのに、懸命に足掻いて……敵を庇う愚かなところも堪らない!!」
胸に顔が沈み、華奢な腕からは想像出来ないような力で締め付けられる。
「い、いやいや、死ぬ死ぬ死ぬ!!」
「死なせないわよ〜! 永遠に私が愛してあげる! あ〜スッキリした。また会いましょう、坊や!」
拘束が解かれたかと思うと、既にアフェイクは何処かへ姿を消してしまった。
「何だったんだ一体……あれ?」
埃を払おうとした時、桜は初めて気がついた。
「傷が……治ってる」
肩の切り口は綺麗さっぱり元に戻っている。更に山神の方を見ると、彼の傷もいつの間にか治癒している。
「……話の腰が折れちゃったけど、蒼葉。俺は──」
その時、桜の左腕から重苦しい音が響いた。
プラグローダーが、蒼葉の手へ落下する。もう片方の手には、解除キーが握られていた。
「…………え?」
「返して欲しいなら」
蒼葉は桜の手を強引に引き寄せ、プラグローダーのボタンを押させる。スラスターブレイドを出現させ、そして桜の手に渡した。
「彼女…………羽場切睡蓮の首を刎ねて、プラグローダーを破壊しなさい」
「な、何言ってるんだ蒼葉……?」
「出来ないならプラグローダーを初期化して、貴方を変身出来なくする。……さぁ、やりなさい」
桜の息が荒くなる。震えながら睡蓮の方を振り向くと、彼女は、
「…………大丈夫大丈夫。いつか、処分されちゃう運命だったんだから。今ここで、楽にしてくれるならそれで良いよ」
笑っていた。
「そんな、だってお前……!」
「私ね…………不良品なの。人間を管理しなきゃならないのに、私、人間の事、好きになっちゃった……一緒にいるのが、楽しいって思うようになっちゃったんだ……!」
睡蓮の目から涙が流れ落ちる。だがその笑顔は、初めて会った時と同じだった。
「だから桜……エリカに伝えて。貴女のおかげで、私は少しの間だけ、人間でいられたんだって」
桜は頷き、スラスターブレイドを振り上げる。そして、
それを横へ放り投げ、睡蓮の手を引いて走り出した。
「桜っ!?」
「だったら本当の事、エリカに話せ! 親友なんだろ! さっきの言葉を話して、また普段の日常を過ごせ!!」
「でもっ!」
「俺が2人を守る!! プラグローダーが無くても、それくらいやり遂げる!! だからさっさと行くぞ!」
走り去って行った2人を、蒼葉は追わない。俯いたまま、プラグローダーを握り締めた。
「馬鹿…………」
《馬鹿は貴女の方よ。あの睡蓮というスレイジェル、こちらの陣営に引き入れれば戦力になるし、何より研究材料になった。私怨にとらわれ過ぎて正常な判断を見失ったわね。彼からプラグローダーまで取り上げて……同じ血が入ってるなんて思いたくないわね》
プラグローダーから紅葉の声がしたかと思うと、そのまま通信が途切れた。
自らの手に残されたプラグローダーを見つめ、蒼葉は無意識の内に自らの左手にあてがう。
《登録者と一致しません》
無機質な音声が告げる。お前に変身する資格は無いと。
「…………っ」
目の端から小さな雫が零れ落ちる。
「仕方ないじゃない…………スレイジェルもジェノサイドも…………倒す力なんてない……! ヒーローに頼るしかないんだもの! 誰でもいい……私だけのヒーローが、欲しかったんだもの……!!」
信じていたヒーローは自分ではなく、敵を、悪役を信じて、自分の前から消えた。強引に引き止めようとしても、彼は屈しなかった。
自分が背負った運命の重さに押し潰されるように、蒼葉は地面に倒れ伏す。
弱々しく、枯れかけている花のように。
続く




