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第14話 天使の集会+Demon meeting

 

 草木ヶ丘市の外れに位置する、教会。


 そこは山奥の、人が立ち入れない場所にあり、礼拝に向かう者などいない。


 教会の前に降り立ったウィズードが手を扉にかざすと、音も立てずに扉は消失。中に入ると、再び扉が現れて中と外を隔てる。


 中にはウィズードの他に6つの影があった。そのうちの1つが彼の元へ寄る。

 金糸の様に柔らかな長い金髪。肩を大きく出したレースのワンピース、それを引き立てるようにメリハリのついた身体。碧眼の垂れ目も相まって、まるで聖母の様な雰囲気を醸し出している。


「どうだった? 人間側の新兵器君への挨拶」

「何、まだ私達の敵ではない。もう少し泳がせてプラグローダーへデータを集めさせることにしよう」

「私も早く逢いたいわ。もしも気に入ったら……フフフ」

「君は変わり者だな、アフェイク。人間の何処がそんなに愛おしいのやら」

 小さく笑う女──アフェイクはワンピースを翻し、お気に入りの椅子へと腰を下ろす。

「もちろん全てよ。脆いところ、醜いところ、無力なところ、儚いところ…………」

「アフェイク。いくら貴女といえど、人間に近づき過ぎれば処分の対象になりますよ」


 するともう1つの影が、アフェイクを叱責する。


 黒髪のボブカット、黒い制服とスカートを着用し、出で立ちはまるで学校の委員長。泣き黒子がある黒目など、正に典型的である。

「そんな姿をした貴女には言われたくないわ」

「私は心配して言っているのです。それに私の姿は私が決めたわけではありません」

「心配はないテランス。アフェイクのそれは、例えるなら玩具や小動物をいたぶって遊ぶ様なものだからな」

「ひどーい」

 少女──テランスは渋々了解した様子を見せると、アフェイクは頬を剥れさせる。


 直後、何かを打ち付ける様な大きな音が響いた。


 3人が目を向けた先には、巨大な槍を携えた男が立っていた。

 青い長髪を後ろで縛り、背丈は槍に迫るほど高い。鋭い金の瞳が3人を睨んでいる。


「戯け共が。何を悠長に構えている。俺達は一刻も早くジェノサイドを駆逐し、人類を管理しなければならない。それが奴らに対する救いだ」

「ジャスディマ。私ね、貴方の堅物すぎるところ、愛おしくない」

「貴様に愛される必要などない。……ウィズード、人形遊びをしている暇があるなら、すぐにでも奴からプラグローダーを奪え」

「焦っても仕方がないだろう。データがないプラグローダーに発展の余地などない。無価値な鉄屑だ。それとも、そんなに急がなければならない理由が?」

 ジャスディマはウィズードをしばらく睨んだ末、小さく息を吐いて視線を外した。

 混乱仕掛けたその場を、テランスが急いで持ち直す。

「焦っても仕方がありません。今は機を待ちましょう。……あの2人は?」

「我らが主は眠りに。フェイザーは……あそこだ」

 ウィズードが指差した先には、2人の男女の裸像の前でぬかづく、神父の姿があった。十字架を胸の前で抱きしめ、仕切りに何かを呟いている。


「ああなると、しばらくは口を聞かない。不良品の始末を頼みたかったのだが、仕方がないな」

「ともかく、これで揃ったわね。…………1人は、仕方がないとしても」

 そうよね、と言わんばかりにアフェイクはジャスディマに笑いかける。その笑みは慈愛に満ちたものではない。ジャスディマの事を嘲るものだった。


 アフェイクを一瞥すると、ジャスディマは奥へと姿を消した。


「……ならば、現状各々の思う通りに動く、という事で。さて、私はプラグローダーのデータ収集に協力する準備でも始めよう」



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 草木ヶ丘市のとある場所にある廃墟。


 元々は草木ヶ丘市に始めて出来た遊園地として栄華を誇っていたその場所は、老朽化と新たなテーマパークの設立によって、輝きを失った。


 人々が行き交っていたパーク内は、今では鴉と鼠が行き交っている。


 だがそこに、影が現れた。


「ちょーっと寂れてるけどさぁ。これはこれで良いっしょ?」

 派手なピンクのTシャツと紫のズボンを身に纏い、派手な茶髪と目を惹く格好。顔立ちは整い、甘いマスクの美形だ。その傍らには2人の女子高生を連れている。

「遊具は動かないけど、ゆっくりして行こーぜ! 連れももー少しで──」

 と男が言いかけたその時だった。


 突如女子高生2人が宙に攫われ、悲鳴が上がった瞬間にそれは骨や肉が千切れる音へと変わった。見上げた男の顔に大量の血が降りかかる。

 しかし、

「あー、ダメでしょグラニーちゃん。その娘達お気に入りだったのに。また街で探さなきゃならないじゃん」

 男は冷静だった。自分の顔についた血を手で拭い、舌で舐め取る。


 男の目の前に、グラニーと呼ばれた少女が現れた。


 男に迫るほど高い身長。黒いタンクトップとジーンズからはみ出した褐色の肌は肉感的であり、血塗れの唇の隙間から鮫のような歯が見えている。

「そんなにお腹空いてたの?」

「っ、っ!」

 仕切りに首を縦に振る。

「俺とリーディが戻ってくるまでつまみ食い禁止だって言ったじゃん?」

「っ!! あー、じゃあストラ、食べる」

「俺を食べるのはヤメテ!! 分かった分かった、今どっかで買ってきてやるから! ……はぁ、リーディが勝手にどっか行ったせいでグラニーちゃんの面倒を俺が見なきゃならねえ」

 渋々グラニーのおつまみを買いに行こうとするストラ。


「念の為聞いておくけど、ラスレイとエヴィちゃん帰って来た?」

「?? しらなーい」

「帰って来てねえっと。ロースグはいつもの場所で寝こいてるとして…………奴は、まぁ、いいか」

 今度こそ、ストラは遊園地を降りた先にあるコンビニへと向かう。

 ここから約10㎞の道のり。考えただけで億劫になる。



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「う〜ん…………」

 濃い1日が終わり、先程解放されたエリカは帰路につく。

 結局身体検査や血液検査をされた後、全て健常であると診断された。健康なことは良いことだが、何処か気になる。

 そんな事を考えながら歩いていると、鼻を良い香りが擽ぐる。いつもの肉屋で売っているコロッケだ。


 幼い頃、よく桜と一緒に食べていたのを思い出す。桜はジャガイモ、自分はカボチャ。

 それをよく買ってくれたのは、今は亡き桜の兄であった。


「……セラにも買って行ってあげよ。確かメンチカツだったっけ」

 自分と暮らす妹への手土産にと、エリカは肉屋へと進路を変える。

 いつもの様に客で賑わっているのが見えるが、そこから少し離れた場所に一人の少女の姿を見つけた。


 エリカの目に留まったのは、少女の格好のせいだ。フリルやリボン、輝く装飾が施された服。エリカはその辺の知識には疎いが、それがゴスロリ服だという事は分かった。ブロンドの髪に透き通るような白い肌は、日本人には見えない。

 少女の周りを見るが、親らしき人物は見えない。小学生くらいに見えるのだが、まさか一人で来たのだろうか。近所に住んでいる可能性も考えたが、放っておけない気持ちの方が勝り、エリカは少女へ歩み寄る。


 近づいて分かったのだが、少女は肉屋の方を見ながら、

「いいなぁ……いいなぁ…………」

 と呟いていた。少し奇妙ではあったが、エリカは少女の目線まで屈んで話しかける。

「ねぇ君、どうしたの?」

「…………お姉さん誰?」

 何処か虚ろな紫の瞳がエリカを見つめ返す。

「あ、うん。私、稲守エリカ。貴女のお名前は?」

「エヴィ」

 名前を聞き、やはり日本人ではないとエリカは確信する。その割に日本語が流暢な気もしたが、こちらでの生活が長いのだろうと思うことにした。

「エヴィちゃんっていうんだ。お父さんとお母さんは?」

「……いいなぁ、お父さんとお母さん…………欲しいなぁ…………」

「あ…………う、うん…………」

 踏み込んではいけない話題だったようだ。エリカは話題を逸らす事にした。

「お腹空いてるの? さっき肉屋さんを見て、いいなぁ、って言ってるのが聞こえたんだけど」

「……うん」

「じゃあお姉さんが買ってあげるよ! 何が良い?」

「……お肉がいい」

「お肉……め、メンチカツ、とか?」

 こくり、とエヴィは頷く。


 エリカは急ぎ列に並ぶ。念の為に財布を開く。


 丁度、2人分を買う分の所持金しかなかった。


「…………私はいいや。明日アルバイトのお金入るし……」



続く

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