第12話 空を掛ける狙撃手+Identified identity
「プラグローダーを確認。確保する」
バタバースケイプは右手を振り上げ、以前のジギタリスと同じく下級スレイジェルを3体呼び出した。
「何なんだよお前ら!! 俺の知り合いばっか狙って、会う度にプラグローダー寄越せって!! あったま来た!!」
桜はプラグローダーから「クラッシュアックス」を呼び出し、さながらサイの様に猛進する。スレイジェルが体当たりして止めようとするが、2体は肩のツノで貫かれ、1体は腹部にクラッシュウォリアーの頭のツノが突き刺さった。それでも止まる事はない。
「敵は力に特化しているか」
「うおらぁぁぁぁぁっ!!!」
振り上げられた大斧がバタバースケイプへ振り下ろされる。
しかし空へと逃げられてしまう。
「空へ逃れば、脅威ではない」
「逃げられた! …………ってイテテ! あぁもう、お前ら邪魔だ!!」
肩のツノと頭のツノに突き刺さったまま、剣をぶつけるスレイジェルを払い落とし、斧で打ち砕く。
その隙にバタバースケイプはボウガンを引き絞り、先と同じ様に大量の矢を撃ち放った。
クラッシュウォリアーの分厚い装甲は矢を防ぐものの、いくつかが装甲の隙間に突き刺さる。
「いったぁ!? こ、このままじゃ反撃も出来ない! 降りて来いよ、ずるいだろ自分だけ飛びやがって!」
「これを使いなさい!」
射撃の雨から逃げ出し、蒼葉から投げ渡されたものを受け取る。
人間が持つには少し大きいライフルだ。銀色の銃身に鮮やかなグリーンのラインが走り、美しい外観をしている。
しかし、桜はライフルを持ったまま呆然と立ち尽くしている。
「…………?」
「貴方まさか…………」
「い、いやいや! 銃の撃ち方くらい知ってるって! …………う、うん、知ってる、知ってる」
まるで自分に言い聞かせる様に呟き、桜は銃を見回す。
「……ここ押すと弾出るんだっけ?」
トリガーを適当に引くと、エネルギー弾が1発放たれた。しかしバタバースケイプの頭の上を通り過ぎていく。
「? い、いやいや、今のは練習……」
「…………っ!!」
絶句する蒼葉。そんな2人の様子を、バタバースケイプはつまらなさそうに見ていた。
「裁きの時だ」
「っ!? か、身体が……!?」
突如、クラッシュウォリアーの関節から大量の鎖が現れ、上空まで引っ張り上げられる。
眼下に広がる街並みが見る見るうちに小さくなっていく。
「わぁぁぁぁぁ!! 高い高い高い!」
「墜ちよ」
雲が眼前に迫った所で鎖は消失。桜の身体は真っ逆さまに落ちていく。
クラッシュウォリアーの重装甲でも、ピュアフォームの身軽さでも、この高さから落ちれば助からないだろう。
「これは本当にまずい……何か、何か……ん?」
ふと、紅葉から貰ったコネクトチップの存在に気づく。
これに賭けるしかない。桜は直感を信じ、クラッシュウォリアーを抜いてそのチップをプラグローダーへ接続した。
《Shoot Air Raider》
「どうか、空を飛べる奴でありますように!!」
プラグローダーを閉じ、その姿が変化した。
《強襲空撃 穿てターゲット One Shot Break Down!!》
背中には鳥の翼の様なスラスターが一対、猛禽の様な鋭いフェイスアーマー、胸部と脚に現れた小型バーニア。
飛行戦と射撃に特化した形態、「シュートエアレイダー」フォームである。
「ああああありがとぉぉぉ紅葉!!!」
心の底からの感謝を叫び、桜は空へと飛翔する。
「何? 人間が空を?」
バタバースケイプが困惑する中、桜は蒼葉から預かったライフル、「マイティライフル」を向け、撃ち放つ。
高速で連射された弾丸はバタバースケイプの身体を大きく押し退ける。
「人間風情が!」
反撃にボウガンを撃つが、シュートエアレイダーの眼には弾道がはっきりと見えていた。全て紙一重で躱し、至近距離まで接近。
そこに来て、桜は銃側部のレバーの存在に気がついた。
「パワーとラピッド? 成る程、なっ!!」
迷わずラピッドまで引き、バタバースケイプの腹に連射。腹に大きく焦げ跡を刻む。
更に今度はレバーをパワーの方へ押し込む。一瞬で背後に回り、背中に収束した熱線を叩き込んだ。
「うぬぉぉぉっっっ!?」
翼を焼き切られ、落下していくバタバースケイプ。
「落ちる気分を少しは味わえよ」
桜は「マイティライフル」へシュートエアレイダーチップを挿入。
《Shoot Air Raider Standby》
銃口にエネルギーが収束していき、シュートエアレイダーの全身のスラスターとバーニアが噴射。発射態勢に入り、翼を広げた巨鳥の様になる。
そしてエネルギーが収束し切ったのを確認し、トリガーを引いた。
《Update Complete Shoot Out……!!》
無数のエネルギー光弾がバタバースケイプに命中。その体を空中で拘束。
そこへ更に一際巨大なエネルギー光弾を発射。回転しながら高速で飛翔した弾丸は、バタバースケイプを撃ち抜いた。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ@/#*%<8$#」
爆散し、破片が飛び散る。それらが地面に落ちる前に、その全てを撃ち抜いた。
「ふゅぅ〜」
気の抜けた声と共に地上へ降下。
丁度そこには、山神と睡蓮、そして写見の姿があった。
(ん? 何で写見がいるの? まぁいいや)
座り込んでいる3人の元に歩み寄り、手を差し出した。
その時だった。
「桜……?」
「…………へ?」
睡蓮は確かに、自分の名を言った。目の前で変身を解いたわけでも、肉声で喋ったわけでもない。分かる筈がないのだ。
睡蓮の前で嘘は通用しない。それは百も承知だった。だが今回はそんなレベルのものではない。
手を差し出したまま、硬直していた時だった。
《レールガンプログラム》
背後から僅かに聞こえた音をシュートエアレイダーの感覚が拾い上げた。その方向へ反射的に「マイティライフル」を撃つ。
「きゃっ!!?」
弾丸は蒼葉の目の前で何かと衝突し、爆発。蒼葉の身体を大きく吹き飛ばした。
「蒼葉っ!!」
地面に落下する寸前で彼女を抱き止める。
「忌魅木…………借りを返しに来た」
目の前に現れたのは、以前桜を打ち倒した青年、彼岸だった。
「お前は……!!」
「……変身」
《Scar Avenger!!》
そして、スカーアヴェンジャーへと変身。
再び、両者が相見えた。
続く




