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「・・・」
「・・・」
無言の食卓、数日前の車内の再来だ。
居心地が悪そうにオムライスを食べる暁をちらりとみる。うん気まずそう
雇われている身で申し訳ないとか、一緒に食べることはできないと言い訳をした暁に私の飯は食えんのか、といって無理やり食べさせた。
オムライスはもちろん失敗したので暁に比較的ましな方を渡した。最後に卵乗せるのずれた位だから軽症軽症。私の方は火が入りすぎてぼろぼろになってる。うん味はいいから問題なし
かちゃかちゃと偶にスプーンが皿に当たる音以外は何か会話があるわけでもなく食事が進む。
いやー・・・なんだろうね、何か言いたそうにこっちを見てくるんだけど・・・
居心地悪い中食べ進め、両者ともに会話することなくオムライスを食べ終える。
皿を片付けようと立ち上がると、同じタイミングで暁が立ち上がった
「片づけは私がしますので・・・」
「あら、なら手伝うわ。その方が早く終わるでしょう?」
皿を暁には渡さずに流し台にまで自分で運ぶ、暁はその後ろを困り顔でついてくる
本当に本編のあなたはどこへ行ったんだ、無表情が崩れてるぞ
お昼を頂いたので皿は私が洗います、と暁が言うので洗う方は任せる。といってもうちの家は食器洗浄機があるので水洗いして中に入れるだけなのだけど
私は暁が手洗いしたものを食器洗浄機用のかごに入れる手伝いをすることにしよう、隣に待機してればいいかな
「・・・失礼を承知の上でお聞きしてもよろしいですか?」
「ええ、別に構わないわよ。それに今は業務時間外ですもの、気にすることはないわ。」
驚いた・・・暁が私になにか聞いてくるとは思わなかった。たとえ私に違和感を感じてもそれを口することはないというのが私のイメージでの暁だ。
やはり実際生きていると画面越しのイメージとは変わってくるものだ
「最近のお嬢様は・・・その・・・」
「別に言い方を気にする必要はないわ、はっきり仰って。」
「そうですか、ありがとうございます。では失礼して・・・」
一度息を吐くと意を決したように暁が話し始めた
「お嬢様は何か憑き物が憑いているのではないかと思うくらいにお変わりになられました。
以前でしたら、何時も不機嫌そうな表情されていて、雅己様の気を引こうと癇癪を起し、我儘を仰って、散財を行う日々でした・・・他にも勉強は全くせず、我々使用人を奴隷のように扱い怒鳴り散らされておりました。
しかし、今は無表情ではありますが、機嫌が悪いという顔は全くされず、雅己様のことを避け、夏休みに入ってからは勉学と運動に励む毎日。さらにこの間のリサイクルショップでのことや今日の料理・・・今までとは全く違う方のようです。」
はっきり仰ってとはいったけどここまではっきり言われるとは思ってなかったわ・・・しかも一息
今までとの違いについていけず脳みそが悲鳴を上げていたのかもしれない、悪かったわ
「それに、私を労わるような言葉をかけてくださいました・・・一体何があったのですか?」
多分考えて答えが出なかったのだろう、こちらをじっと見てくる
三白眼だから睨まれてるように見える、少し怖い、多分睨まれてはない、はず・・・
「まあ・・・そうね。私も色々考えてみた結果かしら。」
「考えた結果ですか?」
「ええ。」
まあ前世のこと思い出して中身が全然違うんだから違う人のようにもなるだろう
流石にそれを言うと病院に連れていかれそうなので言わないけど
「父が新しい家族をつれてきたでしょう?雪さんと紫音さんと龍太さん。彼らを紹介した時に父の私を見る目は牽制しているかのようだったわ。反対に彼らを見る目はとても愛しそうだった。そこでようやく分かったの。どうやっても母の血が入ってる私を父は家族として認めることはないって。
それなら構ってほしさに癇癪を起しても仕方がないでしょう?今のままの私では駄目だから自分を磨くことにしたの。今まで貴方たち使用人にはたくさん迷惑かけたわね。ごめんなさいね。」
完璧だ・・・我ながら中々の出来だと思う。父にもう興味がないよ、新しい家族に嫉妬もしてないよ、駄目な自分に気づいたから自分磨きしてるんだよという内容をすべて入れることが出来たし、謝罪もすることが出来た。
それに私が新しい家族に何もしないよう暁が目を光らせることもないだろう。
要らぬ苦労を掛けたくはないからね!
言い切って中々良い返しが出来た自分を称賛しながら暁に目を向ける
「え!!ち、ちょっと、どうしたのよ?」
「いえ・・・」
そこには暁が目頭を押さえてうつむいていた、何か悪いこと言ったかな?
「お嬢様がそのように成長されていたことが嬉しくて・・・」
「そ、そう、喜んでもらえてよかったわ・・・」
持ち歩いているハンカチを渡すと、素直に受け取って目元を抑える
なんか本当にゲームとキャラが違ってきているのだけど、大丈夫かしら?紫音さんと結ばれる可能性もあるのだから、どんなことにも動じない大人の対応ができる男性になれるよう頑張ってください
「私もお嬢様のお力になれるよう働かせていただきますので何かあればすぐにでもお申し付けくださいませ。他の使用人にも言って聞かせますので」
「ええ、ありがとう。でも別にそこまで気にしなくていいわ。私の態度が原因で苦手意識を持っている使用人が多いでしょうし無理させる必要ないわ。自分でできることは自分でするから。
それに、私に構うと父に色々言われると思うわ、だからあまり気にしないで。」
「お嬢様・・・」
また泣き出しそうな雰囲気なので早くこの話は切りたいのだが・・・
「・・・お嬢様、私は雅己様ではなくこの家にお仕えさせていただいております。もちろん主人の中にはお嬢様も含まれております。何かあればこの暁にお申し付けください。」
「・・・そう、では何かあったら暁を頼むわね。ありがとう。」
そういえばゲーム本編でも彼は他の使用人と異なり東雲零を害することがなかった。
それは彼が仕えているのがこの家だからなのだろう、彼は父にすら認められない私を東雲の娘として認めてくれる人間なのだ。自分のことをちゃんと認識してくれるのはとてもうれしい
暁とちゃんと話し合うことが出来たので旅行に行くよりもずっと有意義に過ごせたと思う
今までの謝罪出来て、和解もできて、紫音さんに敵意がないことを伝えれて、私を東雲として認めてくれる人がいるとわかって・・・うん!頑張れそうだ、ゲーム終了の高校卒業まで頑張るぞー!