プロローグ
「今日から私の妻となる雪、娘と息子になる紫音と龍太だ。」
そういって父が私を牽制するような目で見ながら紹介してきたのは3人の人物。
雪さんは名の通り雪のような肌に大きな黒目がちな目に栗色の髪の笑顔がやさしい美女。紫音さんは母親と同じ栗色の髪に同色の大きな目、かわいらしく笑っている少女。龍太さんは紫がかった黒の癖のある髪と同色の目でどこかつまらなさそうに立っている美少年。
父も合わせてとても絵になる4人を見て突如頭の中の靄がかかっていた部分が晴れた気がした。
【恋の音】という名前の乙女ゲームでその界隈で一世を風靡した作品だ、内容としては主人公の紫音には父親がおらず、母の雪と二人暮らしをしていた。貧乏ながらも清く正しく美しく育っていく紫音。12歳になってすぐに雪の兄夫婦が事故で無くなり彼らの息子の龍太も加わり三人暮らしをしていくことになる。そして13歳になる年のある日、父親だという雅己に雪、紫音そして龍太が連れられて物語が始まる。
貧乏だった主人公が突如お金持ちとなり、金持ち学校に転入して恋する王道乙女ゲームである
何故こんなことを知っているかというと私が前世で友人に勧められ始めたゲームだったからだ。
前世では理系に進み研究職に就き、出会いもないまま仕事に没頭していた。
乙女ゲームどころか現実の恋愛にも興味なかった私を友人が心配しごり押ししてきてプレイさせられたので覚えている。
あまりの人気に最近映画化が決まったそうだ。乙女ゲームが映画化とは凄い
そしてそんな記憶を持っていた私の名前は東雲零。主人公に嫌がらせをする義理の姉の位置である。
東雲零は母からも父からも愛されずに育った故、突如現れた愛される3人を憎む。
特に同じ娘である紫音を目の敵にし悪口や暴力、後に転校してくる学校内でもいじめを行っていた。
最後には狂った挙句カッターで紫音を刺そうとして、家族には絶縁され警察へと連れていかれそうになり逃走、その途中で山に入り込み崖から転落して死亡するという哀れな役である。
狂ってはいたが、そんな風になってしまった周囲にも問題があったのでプレイヤーからは哀れまれていた。
かくいう私も哀れんでいた一人である、プレイしていた時は東雲零に心の中で応援していたくらいだ
ただ、誰も彼女になりたいとはいっていないけど
因みに私の母は突如事故に巻き込まれて死んでしまった・・・本当に事故なのかはわからないけど、
まあ母が死んだから父は主人公一家を迎え入れたのだけど。母は父のことも私のこともなんとも思っておらず、どちらかといえばこの家のお金に執着していた。傲慢で高慢、金遣いが荒く、外で遊ぶことが好きだったようで父のことはお金、私のことを邪魔なものとしていた。
本当可哀そうな悪役だと思う、この子。いや私か。
ぼーっと長くそこまで考えてから自分が挨拶をしてないことを思い出した
「東雲零と申します。」
短く名前だけ言って頭を下げる。これからどうするかはゆっくり考えよう・・・そして死ぬのは回避だ!
部屋に戻っていろいろと考えようとしていたら父が疎ましそうに見てきたのでこれ幸いと部屋へ帰ることにした。