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数日後の晩、美弥子は自宅のリビングで明日からの支度をしていた。

去年買った黒地にグリッター加工がされているトラベルバッグに適当な着替えや化粧品などをぎゅうぎゅうと押し込みながら、あーでもないこーでもないと中身を取捨選択していた。


「まったく、もっと早くに準備していれば良かったのに。夏休みが始まってから随分時間があったじゃない」


「朱莉たちと遊ぶのに忙しかったのー!」


母に呆れた声色で言われて美弥子は反論にならないような反論をした。




テストの結果も返却され、美弥子は友人たちと一喜一憂しながらもようやく待望の夏休みを迎えた。

初めの1週間程は課題を片付けるのに費やしたが、花火にプールにお祭りにと夏休み前半を大いに満喫し、ついに明日からのお盆期間、美弥子は両親と共に離島に住む祖母の家に行く。

その準備に追われている美弥子だが、当初は遅くとも8月に入る前にはある程度の準備を終わらせておく予定ではあった。

しかし、贅沢にも連日の遊び疲れで明日やろう、明日やろうと先延ばしにしていたらとうとう前日になってしまったのだった。




「パパは何時頃帰ってくるの?」


「何時だったかしら?パパも準備終わってないから早めには帰るって言ってたけど・・・」


「パパも仲間だ!」


「パパの場合お仕事が忙しかったんだからしょうがないの。遊んでた美弥子とは違うでしょ」


「・・・はぁい」



ちぇっ、と唇を尖らせていると自宅の固定電話が盛大に自己主張を始めた。



「美弥子ー、ママ今天ぷらで手ぇ離せないから出てー」


「あいよー」



腰を上げてデジタルパネルを見ると、どうやら祖母と一緒に住む叔母──宏明の母──の香代子(かよこ)からだった。


「香代子叔母さんからー!!──────もしもし香代子叔母さん?美弥子だよー」


母親に着信相手を告げてから電話に出ると、電話の向こうから美弥子に負けない明るい声が聞こえてきた。


「もしもし美弥子ちゃん?元気そうで何よりだわぁー。明日なんだけど何時頃の船に乗る予定なのか聞くの忘れてたから電話させてもらったのよ。ママの方に一度電話したんだけど出られんかったからぁー。ママ今忙しい?」


「んー、ちょっと待ってて───香代子叔母さん明日の時間聞きたいってさ、代わる?」


通話口を片手で押えながら母に聞くと、ちょうど天ぷらを揚げ終わったらしく代わると言うので香代子に一言伝える為に再度耳に受話器を当てた。


「ママ代わるからちょっと待っててー」


「ありがとね。あ、あと美弥子ちゃんが来るから叔母さん今年もはりきって水まんじゅう作っておくからね!」



美弥子はそれを聞き、顔がにやついてくるのを抑えられなかった。



「もー香代子叔母さん愛してるー!!実は夏休み前にひーくんからも聞いててさ、すっごい楽しみにしてるんだー!」


「えっ───あら、そうだったの?・・・なぁんだ、せっかくサプライズみたいにしたかったのにー!」


「あっ、じゃあ明日何も知らなかったフリしとこっか?」


「いいわよそんなんしなくてもー」


そうやって笑っていると、いつの間にか母が背後に立っており、ちょんちょんと肩をつついてきたので香代子に再度一言伝えて電話を代わった。




そうしてしばらく、先程の準備の続きをしていると玄関の鍵が開く音がした。

ゴソゴソと音がして数分、リビングに通じる扉が開き、スーツの上着とカバンを片手にタオルハンカチで汗を(ぬぐ)いながら一人の男が入ってきた。


「ただいまぁ、あぁ暑かった・・・」


「お帰りー。今日は天ぷらと冷たいお蕎麦だよん」


「おー。ママは誰と電話?」


「香代子叔母さん。明日の船の時間聞きたかったんだってさ」


「そっか。───それじゃあパパもご飯まで準備するかぁ」


そう言って一度伸びをしてから荷物を置きに行った父親を見送って、美弥子は最後の着替えをバッグに詰めてファスナーを閉めた。

今しがた電話を終えた母も夫が帰ってきたことでそろそろ蕎麦を茹でようかと準備を始めた時、美弥子は自身のスマートフォンに不在着信が入っていたことに気付いた。

操作をして確認すると、イトコの宏明からだった。


「あれ?ひーくんからだ、気付かなかったや」


「あら・・・何かしらねぇ?」


「ちょっとかけてくるー」


着信を確認した際に充電残量が残りわずかだったことがわかった為、充電しながら電話をしようと美弥子は充電器のある2階の自室に向かった。

リビングを出ようとした時、ちょうど父親が大荷物を持ってこちらに向かって来ていた。

荷物の所為で両手が塞がっていた父の為に扉を開けてあげると礼を言われ、リビングを出て行く美弥子にもうすぐ夕飯なのにどうしたのか尋ねてきた。


「ひーくんから着信があったんだけど気付かなくてさ、充電ももう無いから部屋でかけてくる」


「・・・そっか・・・」


父の表情がなんとなく暗くなった。



父は昔からどちらかといえば過保護な方だと美弥子は認識している。

特に異性関係については幼い頃から何かと気にしているらしく、幼稚園の時のお遊戯会でペアになった子や小学生の頃に通っていた塾で帰り道が一緒だった子に対しても若干の嫉妬心を抱いているようだった。

イトコである宏明に対しても同じで、さすがにまだマシなようだが、それでも気になっているらしい。


(これが父親というものなのかもしれないけど、少しは娘を信用して欲しいよなぁ。まぁ信用していないワケではないんだろうけどさ、っていうかひーくんはイトコじゃんねー?・・・ま、いっか。これも娘を持つ父親の宿命ですね)



美弥子は一瞬胸中複雑になりながらも自己完結し、早くかけ直そうと2階に上がり、夕飯に呼ばれるまで宏明との会話を楽しんだ。





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