オオカミとお風呂
古い時計が12時の知らせをならす頃、赤ずきんが寝ていることを確認し、脱走の計画を図ろうとしていた。
「ふぅ~~と。さて、こんなもんだろ」
着ていた服、赤ずきんの祖母の服をベットに置き、そこにナイフを刺しておく。
「死体がない事件現場。いい感じじゃねえか、ヘヘ」
圧倒的不自然ではあるが、まぁオオカミの仕業と思うやつはでてくるはずはない。
「あとは脱出ルートだな」
こんな事件現場。少しでもオオカミの姿を見られれば疑われる。
兵士がいるから窓も玄関もダメだな・・
「じゃあ・・・」
と言って、上を見上げる
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「チッ。くそ、やっぱせめぇなあ」
天井裏である。
横は余裕があるが、縦が狭い。結構窮屈な体制で進んでいかなければならない。
「空気の流れがあるな・・こっちだな」
迷わずにズンズンと進んでいく
「____」
「ん?」
話し声が聞こえる
『なあ、聞いたか?噂』
『噂?なんの?』
「んだよ。ただの兵士の会話か。お勤めご苦労さん~と」
そういって先へ進もうとする
『ほら、赤ずきんが王子と結婚するだろ?その目的が赤ずきんの持ってる財産目当てらしいぜ』
『は?マジ?あの娘そんな大金もってんのかよ』
大金?なわけあるか。持ってたらあんなボロい服着てねえだろ
『じゃなかったら結婚なんかしねえだろ』
『まぁ、確かに』
『しかも、もう一つ流れてる噂があってな・・』
『まだあるのかよ』
まだあるのかよ
『その財産を完全に自分のものにするために、赤ずきんを殺しちゃうんじゃねえかって噂・・』
・・・なに。
『・・・あくまで、噂。なんだろ?』
『一応な。でもあの王子、腹黒って噂もあるしわからねえよ?』
『こえぇ~な』
話を盗み聞きしていたオオカミは来たルートを戻っていった。
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確かに・・あの王子からは怪しい臭いはしていた。
もし、噂が現実に起こるものなら・・赤ずきんが・・・・
「合法で食えるって事じゃねぇか~~~~~~!!!!!!!!」
いやっほぉぉーーーーい!!
もし噂が本当なら、殺される直前にさらって食えば国からのお咎めも無いはず。
あのやわらけぇ~肉が食えるなら・・・
「もうちょ~・・と我慢しよ」
再び部屋に戻ってくると、ナイフを抜き取り服を着る。
このまま婆さんの姿でやり過ごして、最後に頂いてく。いいじゃねぇの・・・
「ヘヘヘ・・・」
妄想が膨らみ、よだれを垂らしながら笑っていると、隣のベットから音がする
「・・・おばあ・・さま?」
「!!?赤ずきん!?」
起きやがったのか!?見られた。いやまて、確かこいつ目が完全じゃねぇんだった
「お婆さま・・・じゃ・・ない?」
!!?バレた?服装は同じなのに?なんで!!
「オオ・・・・・カミ・・?」
!!!!!!
目を見開いた
瞬間。赤ずきんのところまで飛び、喉元を掴みもう片方の手の爪を喉に突き立てる
「ぐるぅるるるるるるるるるるるるるぅぅ・・・・・」
どうするどうするどうする
コロスか?今 ここで
その後は?行き場所がない。
「くそったれが・・・・・」
「_____」
ズキンッ_____
「ガぁあ!!」
赤ずきんから手を放す
頭がいてぇ カチわれる・・・
「ぐぅぅぅああ・・フゥフゥ・・・」
畜生クソがこの野郎・・・・
誰に対して言っているのかわからない。視界も同時にぼやけてくる
すると、喉を押さえて咳き込んでいた赤ずきんがオオカミの方に歩いてくる。
そのまま赤ずきんは、オオカミに抱きついた
「!???なんだ・・・何しやがる・・・」
すると同時にスーっと頭の痛みも消えてくる
「ハァ・・ハァ・・なんだったんだよ。くそ・・・」
「フサフサ・・・」
「あ?」
「あなたの毛。フサフサで気持ちがいい」
「・・・そうかい。そりゃどうも」
こいつといると・・・落ち着くなどうも。
不思議だ・・食いもんなのによ
「やっぱり・・お婆さまじゃなかったんだ」
「・・・気づいてたのか?」
「行動も言動もまるっきり違うんだもの。オホホなんて言わない」
「そうかい・・」
・・そういやこいつ
「俺のことが怖くないのか?」
「不思議。普通なら叫んでた」
「だろうな」
「お婆さまは今どこ?」
・・・・・さぁな
「知らねえよ。俺はお前を食うために変装してたんだ」
「食べないの?目の前にいるのに」
「いろいろあんだよ。バカが。まってろ、そのうち食う」
「食われない」
「無駄だ」
「毛くさいよ」
「うっせぇよ!大きなお世話だボケ!!」
「ねぇ。お風呂いこ?洗ってあげる」
「あぁ!?行かねぇよ」
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「なんで風呂なんか・・ブツブツ」
「大丈夫。入り口は兵士に警備してもらってるから」
「・・ハァ~~。だから風呂なんか・・」
「ねえ。着替えるんだから先いっててよ、えっち」
「だから!!入らねえっつってんだろ!!あと、人間の女なんか興味ねえんだよこのブス!」
「いいからいいから」
「てっめ。話をききやが」
赤ずきんが風呂のドアを開けて無理やり風呂場に入れられた
「こんのクソあまぁ・・」
すると10秒とたたずに扉が開く。そこには頭巾のなかに隠された
赤みがかった茶色い肩までかかった髪。
体にはタオルが一枚巻いてあるだけであった
その姿のせいではないが、気持ちが切り替わったのは確かで
「はい座って。背中流してあげる」
「・・・おい。なんでおめえは俺を怖がらねえ」
ゴシゴシと洗う音が大きく聞こえる
「・・じゃあオオカミさんはなんで私を食べないの?」
ッハ!忘れていた。改めて赤ずきんの事を見る
服に隠されていた肌。ふともも。うまそうだ
「なんでってそりゃあ・・。」
なんでだろうな
「同じかも、理由」
これ以上聞いても無駄だと分かった
自分も理由が分からなかったから
「なんでおめえは悩んでた」
「え?悩む?」
「結婚だ結婚。王子と結婚すりゃ今まで比べられねえ暮らしができんだろ」
「うん・・・でもさ」
洗い終わった俺の背中にお湯をかけて流す
「私はパンを食べてほしい」
視力が乏しい乏しいその目をゆっくりと小さく開ける
「パンだぁ?」
「パンダじゃない。パン」
「んなこたわかってんだよ!」
「お婆様のお見舞いにもってきたのも、私が焼いたパンなの」
うまかったよ。
「たぶん王子と結婚したらそれができないんじゃないかなって」
「・・・まぁ、だろうな」
「そんなもんだよ」
「・・人間は欲のまま生きりゃいい」
オオカミは立ち上がり、風呂を出ようとする
「だからあの王子に言えばいい。あの性格なら許すだろうぜ」
「・・うん。そうしてみる」
「ああ」
何より結婚してもらわにゃ困る
このままいけば結婚は大丈夫そうだな
「ねえ」
「あ?」
「まだ頭洗ってないよ」
「うっるっせぇようぜえよ!」