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破壊の種  作者: おにび三条
王子の目覚めと旅立ち
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 リックはオールを見ると安堵する。アルスはまだ眠っている。3人はリックが手配した宿へ向かった。露天風呂があるという大型の宿泊施設だ。ミーサは共同入浴場や温泉の場を拒み、個室にある浴室で済ませたがセレンのことが心配になり露天風呂の出入り口の椅子でゆっくり待つ。ロレンツァの治安は良いらしいが、観光地に浮かれセレンの容姿に惹かれた輩がいては困る。

「ミーサは入らないのか」

 レーラが声を掛けた。濡れた髪を結わえて肩に歯タオルを掛け、貸し出された浴衣を着ている。

「あ~レーラ殿。自分、温泉とか苦手なんすよ」

 ミーサは開いていた日報紙から顔を上げた。レーラは隣に座る。ロレンツァでよく目にする潮風に強い花の香りが漂った。レーラは誤魔化すように笑ったミーサに、そうか、とだけ返した。オールの元に通っていた件だろうと思った。皮膚に外傷が目立っているのかも知らない。

「それでどうしてここに?」

「セレンが心配だったんすよ。一緒に入れないからここで見張ってるんす」

 ミーサは閉じた日報紙を膝に置き、目の前のガラス張りの窓から見える暗い海を見つめる。

「セレンを…そうか」

「あ、いや、生意気でしたな。自分は誰かを守れるほど、何者かになったわけではないし…」

 自身の発言を反芻したのかミーサは慌てて取り繕った。レーラは揶揄したつもりはなかった。

「さっき巨大なイカと戦った」

「はい。セレンから聞いたっす」

「飼い主がいた。…城の護衛だった」

 話題を変えられ、ミーサはきょとんとする。

「城の護衛…?将軍がやるってやつですか?」

「そうだな。7人いるから七星将と呼ばれている。若手だが城でも幅を利かせている。誰が付けたのだかな、名に似合わん奴等だ」

 幾度か聞いたことがある。そして実際、城内で見かけた。主に上層階を警護しているらしかった。

「ロレンツァでわざわざペットを飼っているんすか?壮大っすね」

「俺も詳しくは知らない。七星将は父上と母上の監視…護衛だが、俺は外したからな」

 レーラは遠い目をしていた。視線を追うと、暗い地平線のさらに向こうへと投げている。

「昔、友人がいた。でも城に害なす者と判断されて…殺された」

「…外したっていうのは、それすか」

 レーラは視線をどこかへ投げたまま小さく頷いた。淡々と話しはじめる。

「害なす者といったって…大したことではない。瞳の色が…皆と違った」

 ミーサは黙ったまま、相槌を打つこともなく、促すこともない。聞いているのかいないのかも分からない。ただぷらぷらと揺らす足元をじっと見ている。行き交う人々がレーラと同じ匂いを風に乗せている。

「そいつがアルスの親友でセレンの婚約者」

 太陽神の子という責務を棄てた娘がいるという噂。ある条件を満たした者との結婚がその破棄を意味するということは知っていた。

「驚いたか」

「半分は。でももう半分は何となくっすけど、きっと何かあったんだろうなっていうのは、感じていたんすよ」

「アルスの目の前だった。奴等はアルスまで…それが許せなかった」

 だから七星将を外させた。アルスにも近付けさせなかった。レーラは小さく続ける。

「きっとミーサには気を遣わせることがこれからもあると思う」

「大丈夫す、それは」

 ミーサは足を止め床に着ける。それは気遣いなのか牽制なのか。前者だろう。そういうことにしておいた。

「助かる」

 そしてすまない、と小さく付け加えられた謝罪は出てきたセレンに反応したミーサによって阻まれた。



 ピートン医院に戻った時、すでにアルスは起きていた。

「ミーサ?」

 罪悪感からか浮かない表情のミーサの背をレーラは軽く叩いた。

「アルスさん、その、ごめんなさい」

 アルスもセレンもそしてレーラもがぽかんという顔でミーサに注目した。レーラは額を押さえる。意味が通じていなかったらしい。アルスは何が?とミーサに首を傾げ、セレンに答えを求めたがセレンは首を振る。

「術かけたことだろうな、おそらく」

「あれは仕方ないだろ?」

 レーラがアルスにそう説明するとミーサはばつが悪そうに顔を逸らし、セレンは苦笑している。

「気にしてないし、ありがとう、心配してくれて」

 ミーサは背を向けたまま頷く。

「ふふ、仲が良いんですね」

 リックが奥からやってきて茶を出した。

「それで、これからどうなさるおつもりで」

 オールがまるで無駄話だと一蹴するかのような調子で問う。短く切り揃えられた爪が地図を広げ、ロレンツァの位置を指で差す。精霊の棲家と思しき複数箇所へ、壁に刺さっていたピンを刺した。ロレンツァからもっとも近いのは炎の山・リンフォル。

「炎の山か。でも今は緑が生い茂っていると聞く」

「暑い地域なんじゃないの?」

「住みづらい場所ではあるが、地熱を利用した温泉や魔物が少ないという利点はあるな。育つ作物が限られるようではあるが」

 セレンの問いにレーラが答える。オールが鼻で嗤った。

「なるほど、民に願われ封じられるのも時間の問題かも知れませんね」

 レーラは否定も肯定もせず地図を見つめはじめた。実際そういった投書は多くあるらしかった。人が住む場所を確保するため、自然を司る精霊が封じられる。特に炎の精霊となると今ならば魔術でなくとも火は点けられる。威力は劣るが人間が暮らすには十分なほどだ。

「まぁ、精霊を封印するだけの人員が割けるとは思えませんがね」

 オールは嘲笑した。

「オールは、どうするんすか」

 ミーサに問われオールは肩を竦めて備品の確認に行ってしまった。

「ごめんなさい。オールは…ロレンツァを守りたいみたいだから。離れられないと思うの」

「いいえ。随分とお世話になりましたから」

 返事をしないミーサに代わりアルスが答えた。

「ただ、前より…もしかしあら医業への熱がなんだか冷めてるみたいで…もし彼の中で踏ん切りがついた時は、どうぞ、旅に連れ出してください」

 リックがそう言うとは思わずアルスは意外に思った。

「喜んで」

「じゃあ、炎の山に向かいましょうか」

 セレンが地図のピンを抜きながら壁の穴に刺し直す。アルスが地図を丸めている。レーラは奥で忙しなく備品を整理しているオールを見つめていた。



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