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No.34 噺買2

作者: 夜行 千尋

出されたお題を元に、一週間で書き上げてみよう企画第三十四弾!

今回のお題は「猫」「水着」「歯」


4/13 お題出される

4/15 風邪を引く

4/18 治りかけた風邪、まさかの第二形態突入

4/20 仕方なく緊急措置で過去の一週間チャレンジの流用 orz


この風邪マジでしつこいんですがこんちくしょう

 ここ数日、俺の特異体質は発動していない。いや、正確には大それた形で発動している様子が無い、というだけの話だ。

 澄み渡る青い空、通い慣れた道、よく見た風景。なにもおかしなことも無ければおかしなことも起きて居ない。空に人型の飛行物体が飛んでいたり、道端でジョン・ドゥが赤子を売っていたり、曲がり角を曲がればそこは妖怪の街でした、なんてことも無い。至って平穏な日常だ。至って一般的な高校生の日常だ。


「夢野先輩!」


 俺は通学路の途中で声をかけられた。声からして一年のテニス部の女子、笹谷ささや 霧恵きりえだろう。と思い振り返る。……先日までの俺だと、ここで俺が“買ってしまった噺”の影響で、この呼びかけは“人食いお化けが後輩の声を真似ている”か“後輩の身に何かあった”かの二択だったが……

 振り返った俺の目線の先には、快活そうな少し日焼けした女子生徒が笑顔で俺に手を振っている姿だった。……本当におかしいところはない、感じか?


「どうしたんです? 何かおかしなものでも食べました?」

「え? ああ、いや、気にしないでいいから」

「?」


 疑問を浮かべる笹谷を脇目に、俺は何事もない日常に安堵する。

 俺の特異体質……『噺買』……それは、人から聞いた話を自身が追体験してしまう体質。それがどんな突拍子もない話だろうと、作り話だろうと、追体験してしまう。良い話でも、悪い話でも……死ぬかもしれない話でも……。

 事実、俺はこの体質で何度か死にそうになっている。何度かは自力で回避や抵抗したこともあるが、物によってはとんでもなくファンタジーなモノもある。そうなると、うちの祖母、ばあちゃんを頼るしかない。祖母は“その手の仕事”に付いている人で、文字通り魔女だと言える人だ。あるいは巫女さん……と言いたいが、86歳だし既婚だし食い意地張ってるしわがままで若作りなところを考えると巫女さん……とは言いにくいというか言いたくない。


「せーんーぱーい? 本当に大丈夫ですか? さっきから何を考え込んでるんですか?」

「ん? うぉわっ!?」


 笹谷の顔は俺の鼻先にまで迫っていた。何時の間にこんな近くまで。俺は驚いて思わず距離を取った。心臓が急遽のど元までせりあがってきた気がする。


「さては先輩、私の今日の下着の内容が気になるのですね」

「どこの世界に後輩の下着を真剣に悩み込む先輩がいるんだよ!」

「有名創作の世界に!」


 これ見よがしに笹谷は真顔で答えた。俺は思わず突っ込んだ。


「現実の話をしてくれ!」

「ちなみに本日の私はスパッツです!」

「日本語的におかし……い……? ん? んん!?」


 笹谷へんたいは何かに勝ち誇ったように鼻で笑いながら言った。


「そう、原作リスペクトで今日の下着はスパッツだけという事にしておいた方が先輩が喜ぶかと思いまして!」

「よせ! 色々やめろぉぉ!! 頼むからぁ!! 俺はそんなの望んでない!!」



 と二人で馬鹿をやってる時だった。


 猫の鳴き声が一つ。その声は、その声の主を見なければならないかのような強く惹きつける何かを持っていた。声の主は俺らのすぐ脇の塀の上。黒い猫だった。烏や女性の黒髪よりずっと黒い猫だ。その猫の金色の目が、俺を見下ろしていた。

 その猫の手前に……小さな手袋が一つ。今の季節は夏。もうじき夏休み。子供用の小さな毛糸の手袋が一つ。その手袋を黒猫は咥え、俺の前に音もなく降り立った。そして颯爽と歩き、俺の前にそっと……その手袋を置いた。


 完全に毒気とテンションを抜かれた俺たちは、手袋を置いた黒猫がまた悠然と音もなく、元の塀を越えて消えるまで無言だった。


「あ、今の黒猫、横切らなったですね」


 笹谷は何かを思い出したように口にした。

 笹谷はそのまま、こんな話を口にした。


「知ってます? 先輩、あまりに綺麗な黒猫の、こんな噂話」


――奇妙な黒猫の噺――


 その黒猫は人並みに頭の冴える猫だったので、飼い主に限らず多くの人に可愛がられていた。一説には既に死んでいる化け猫なのではないか、とまで言われるほど頭の良い猫だった。たとえば、自身の色を理解しているので、人の前を横切らない、とか、自身が通った後、ドアをわざわざ閉める、とか……

 だがある時、猫が通行人に物を渡したという。その物は日に日に種類を変えていく。アクセサリーやおもちゃ、陶器の欠片やペンなどの日用品……猫は頭が良かったが喋れなかった。いや、頭が言い故にしゃべらなかった。だからこそ、自分の言いたいことを猫は何とか通行人に伝えたかった。だが伝わらないことに業を煮やし、猫は遂に……


「ああっ! 先輩、今何時ですか!?」

「へ? え?」


 話しを中断して笹谷は唐突に叫ぶ。俺は時計を見て時間を教えようとするが、それより先に笹谷が走り出す。朝練とか遅刻とか、そんな単語を叫びながら……

 なんなんだろう、相変わらず嵐のような輩だな……

 と思う俺を脇目に、黒猫は今一度俺の傍に降りてきた。そして、その小さな手袋を口で突いて俺に意思表示をする。


――取れ


 と、いうことなのだろうか……?

 どうやら俺はまた、噺を買ってしまったらしい。しかも、結末も分からない噺を。









「あー……なるほどのぅー……」

「うん、で、ばあちゃんの助けが欲しいんだけど……聞いてる?」

「うぬぅー、きいちょるよー……魁人かいとぉ……」

「……説得力皆無だから!」


 俺は学校帰り、俺はそのまま祖母の家に上がり込んだ。目の前には、スクール水着を着て、家庭用のビニールプールに、体を大の字に放り出してぐったりしている外見年齢10歳ほどの幼女らしき“魔女”が居る。今一度言うが、実年齢は86歳である。俺が物心ついた時から外見が変わってない、文字通りの“魔女”である。


「仕方なかろうー……今日はぁ……暑すぎるんじゃぁぁ~……」

「んな気の抜けるようなこと言わないでよ! ってか、ばあちゃんなら何か分かるんじゃないかと来たのに……」


 外見だけ幼女は、ビニールプールの水を手ですくって自身の体にかけながら、やる気なく……力なく答える。


「何をいうておるのじゃ……わしとて、解らんことの一つや二つ……星の数ほどあるわーい……というか、新興の都市伝説とかじゃとわしは完全に専門外じゃぞー……はぁ、あっつ」

「うっ、ぐ……じゃ、じゃあ……シューアイスでどう、ですか」


 ビニールプールの縁に垂れている白い手がぴくりと動いた。


「あ、アイス寅焼き!」


 また動く。


「アイス最中も付ける!」


 小さな体がビニールプールの中から起き上がる。


「あーと、葛湯も付けようじゃんか! 全部俺の驕りで買ってくるから!」

「……なんでそこで葛湯なんじゃ?」

「え? あれ?」


 水をまき散らして、今一度小さな体はビニールプールに倒れ込んだ。







「あー、なるほどのぅ」


 安楽椅子に腰を掛け、扇風機に当たりながら、老人口調の幼女は肩まである髪をタオルで揉み乾かしていた。

 あの後、実際にシューアイスとアイス寅焼きとアイス最中、そして水羊羹を買いに行かされた。なんとか機嫌は損ねずに済んだらしい。

 俺はばあちゃん家のフローリングの部屋に通された。主にばあちゃんが仕事に使う部屋らしい。床はフローリングだが壁は土壁、扉は襖だが部屋の隅は暖炉が有る、という和洋折衷な部屋だ。ちなみに今暖炉には火は入っていない。


「ところで、猫の持って来た手袋は見たのかの?」

「え? う、うん。ただの毛糸の手袋だったけど……あ、すこし泥で汚れてたかな」


 ばあちゃんは指で招くジェスチャーをし、それを見せて見ろと催促した。

 猫はあの後、俺が手袋を拾うまで足にまとわりつき、無理に引きはがそうとするなら噛みついてまで抵抗するという意思を見せて居た為、手袋を拾わざるを得なかった。

 とりあえず、手袋に何かあっても困る、と、鞄の隅に入れておいた手袋だが……やはり何の変哲もない気がする。取り出した手袋をばあちゃんに渡そうとしたが、ばあちゃんはそれを制止した。


「いや、もう十分解った。……それは泥じゃないね」


 俺は今一度手袋を見た。手で泥だと思っていた汚れをこする。微かに乾いてぽろぽろと落ちる……と同時に、手袋の中に何か入っていることに気づいた。……堅い、石のような……?

 手をかざして手袋をひっくり返してみる。


「入っておるのは、『歯』じゃよ。人の」


 ばあちゃんの言葉が耳に届くと同時に、俺の手のひらの上に小さな白い小石のような……それでいてはっきりと歯だと分かるそれが落ちてくる。得も言われぬ寒気が背中を走り、思わず手袋を床に置き、その上に歯を投げるように置いた。

 ばあちゃんが続ける。


「おそらくじゃが……次、お前さんが黒猫からもらうのは『指』じゃろうな」

「ゆ、び、って……指の事? それって……」


 焦る俺を他所に、ばあちゃんは静かに頷いた。


「その歯の主は、おそらく亡くなっておる。そのことを、猫は知らせたかったんじゃろうな。おそらく、死体遺棄じゃろうな。指を渡されるにしろ、それは腐っておるかもしれんな。今は夏じゃ。手袋をしていた頃に殺されたんじゃろうて……」

「そんな……し、死因は? どうして……」

「それは警察に任せれば良い」


 ばあちゃんは安楽椅子から立ち上がり、部屋の隅の黒電話を取った。そして、電話口の相手が出るまでの間に、俺に言った。


「魁人、お前は行くでないぞ。死体の一部を猫が持って来た、という事は、その通学路の道付近に犯人が居る、ということじゃ……。お前の体質上、猫が犯人を連れてこないとも限らんからのぅ……ということで、学校は少し休め。わしが学校には言っておくでのう? ……あ、もしもし?」


 俺はある疑問が浮かんだ。そしてそれはとても恐ろしいものだった。あまりに怖すぎて、ばあちゃんに聞くことはできなかった。

 それは……









 俺がその噺を買ったから、この殺人は起きていたことになったのだろうか?










 後日、黒猫が居た塀、その塀の内側の敷地から、小学生の女の子の遺体が見つかったらしい。冬に殺され、死体の処理に困っている間に夏になり、臭い始めて居た為、咄嗟の判断で埋めていたらしい。どうやって猫が埋まっている死体から歯を取り出したのかは謎だったため、俺が疑われる可能性もあったが、ばあちゃんが手を回したのか、俺が長時間拘束されることも無く、俺はまたいつもの通学路を進めることになった。


「夢野先輩!」


 件の黒猫が居た塀を見ながら投稿している時、背後から笹谷の声がして振り返った。


「お手柄でしたね、夢野先輩」

「お手柄って……そんな良いもんでもないぞ。手袋の中に歯だなんて……」

「え? 先輩、まさかあの手袋に手を突っ込んだのですか? だから歯を見つけられたと!」

「なわけあるか! 小さすぎて入らないって!」

「では私の手袋をお使いください! さあ!」


 と言って、笹谷は可愛らしいミトンを俺に差し出してきた。


「え? へ?」

「曰く、手の臭いを嗅いでも臭く感じないならば嫁に嫁いでも大丈夫だと母が言っていました!」


 なんだろう、嫌な予感が……というかなぜさっきから笹谷がじりじりと距離を詰めてくるのか。


「そこで、先輩の手の臭いを知るために先輩の手に私の手袋をかぶせ、先輩の手汗を入手しようと」

「待て待て待て気持ち悪い気持ち悪すぎる!」


 と、そこで笹谷が笑いながら言った。


「いや、流石に私には臭いフェチの性癖は無いのでご安心を」

「そう言う問題じゃない」

「いえ……思ったより元気そうなので安心したのです」


 ああ、そう言えば、あの後大事を取って学校を数日休んだのだった。何事もなかった、とはいえ、殺人事件……もしかすると俺が噺を買ったばっかりに起きたかもしれないと思うと、確かに憂鬱な数日だった気がする。

 笹谷なりに心配し、励まそうとしてくれている、ということらしい。


「しかし大変でしたね……」

「うん……」

「痔で学校を休むレベルとは……便秘もそこまでいくと恐ろしいですね」


 ……え?


「ま、え? は?」

「いや、曰く、便秘の末に肛門が裂けたため学校を数日休む、という連絡を学校が受けた、とお聞きしたのですが?」


 あ、あのクソBBAぁぁぁぁぁぁああああああ!!

 俺は思わず頭を抱えた。


「う、頭痛くなってきた」

「なんと! 大丈夫ですか先輩、結婚しますか?」

「しない! ってかなんだその選択肢は!」

「原作リスペクトです!」

「だからやめろぉぉぉぉおおお!」





はい

ずばり「No.31」と同じ世界観のお話でございます

今回はロリ婆少な目?だった分、新規キャラの笹谷さんが強烈なキャラになりました

なんだろう

この公然ストーカー……良いキャラになったなぁ(他人事)


18日の時点で間に合わないかなと判断してこの話にする予定でしたが

その後も時間が取れず、結果こんな出来に……

予定では

主人公は『指』を見つけて初めてばあちゃんに助けを求め、「次は首でも貰ってしまうかも」と脅しをくらいの、

通学路で犯人に目を付けられて襲われそうになったところを笹谷さんに助けられる、とか

……うん、安定のカットでした……

でもおかげでR-15にもなりませんでしたよ! ……しくしく



ここまでお読みいただきありがとうございました

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