＊南北＊
好きなもの、ボーイズラブ。
嫌いなもの、リアルの男子。
沢森芽衣は完全なる腐女子だ。
彼女は勿論、こっちの生活から完全にシャットアウトしているわけではない。
学校だって普通に楽しいし、友達くらいいるし、勉強やスポーツだって全く駄目なわけでもない。
ただ純粋に「ボーイズラブ」・・・「BL」が大好きなのだ。
ただそれは、学年・・・いや、学校の全生徒が知っているものなので
私に17年間彼氏というものができなかったのはそのためである。
「芽衣ちゃんって、可愛いのに残念だよね」
「芽衣、運動も勉強も出来るのに腐女子だからなー・・・」
昼食の最中に唐突にこんなことを呟いたのは、
（BLの理解者？？？）佐倉キナコと金成陽菜の二人だった。
「なに、突然」
「いや、芽衣は知らないだろうな」
陽菜は自分の弁当に入っていたから揚げをもしゃもしゃと頬張りながら
キナコに同意を求めた。
「まぁ、学校のことに興味を示さない芽衣ちゃんは知らないよね～・・・」
そうそう、とばかりにキナコも陽菜に同意して
手元のおにぎりにかぶりついた。
「何それ、私になんかあったの？？この前、校長室の時計壊したのがバレたとか」
「そんなんじゃないよ」「芽衣が怒られるとかじゃなくて」と二人は芽衣の意見に
即反対した。
そして、沈黙。
「まぁ、怒られるとかじゃなくてですね・・・」
最初に口を開いたのはキナコだった。
「コレ聞いて芽衣。落胆するなよ？まぁ・・・噂なんだけどさ」
キナコに続いて陽菜も口をもしゃもしゃ動かしながら答えた。
「な・・・何、ショックって？」
このときの芽衣の脳内では「BL」についての妄想が果てしなく巡っていた。
「僕アニ」がアニメ放送打ち切り・・・？（※１）
「おさ婚！」がアニメ放送来週休み・・・？（※２）
などなど。
言い出したらきりがなくなるほど、芽衣の脳内は「BL」のことで埋め尽くされていた。
そして、パニック状態になっていた。
そんなことを知らない二人は若干放心状態の芽衣に、ゆっくりと話し始めた。
「隣のクラスに北見紅と南波透って学年イケメンツートップいるの知ってるだろ？」
「芽衣ちゃんが『南北ってよくない？？』って言ってるイケメンな人」
南北のことか・・・！とばかりに、
さっきまで動かなかった芽衣はハッと起き上がっり
「それで？」とたずねた。
「それが・・・ねぇ」
陽菜はいいにくそうに口を濁した。
「落ち着いて聞いてね？」
キナコも、もぞもぞしたように言う。
『北見（君）と南波（君）に好きな人ができたらしい（の）！』
二人の見事なはもりにびっくりしたのもつかの間、
コンマ0.1秒後にはたいそうな悲鳴を芽衣はあげていた。
（これが学校中に聞こえていたのは言うまでもない）
「んちょ・・・シィー！静かに！」
「聞こえちゃうよ、芽衣ちゃん！」
あぁ、やっぱりかとばかりに二人は頭を抱えた。
芽衣はショックで手元の菓子パンを地面に落とした。
芽衣は、リアルでも「BL」の妄想を膨らますことは多々あった。
たとえばジャニーズ。
たとえば学校の先生。
たとえばペットの猫の空と海。（オスです）
などなど、その領域は果てしなかった。
例外はなく、勿論同い年の男子が教室でふざけているのを見ても
「・・・ホモ！」と勝手に解釈し、妄想することは日常茶飯事だった。
そんな中でも、学年人気トップツーの「北見紅」と「南波透」のカップリングは
芽衣のお気に入りの一つであったのだ。
しかし、その事実を聞いた途端。
芽衣の脳内にはカップリング「崩壊」の二文字が突き刺さったのだった。
「言わないほうがよかったのかな？」
と、心配するキナコを傍らに芽衣の頭を撫でながら陽菜は会話を続けた。
「この後が問題なんだ・・・」
「・・・何が？何の？・・・南北ぁ～」
言いにくそうにする陽菜。
さっきまで輝いていた太陽は雲に隠れ、
三人の顔に影をつくる。
風がい吹いている・・・
「それが、その二人。同じ人を好きになったらしいんだ」
「・・・」
無言の芽衣を気にせず、陽菜は会話を止めない。
そして、傍らで見守るキナコ。
「それで、その二人が好きになったのが・・・」
「・・・」
「芽衣らしいんだ・・・。」
（※１）「僕アニ」
→「僕のお兄ちゃんは童貞なんです！」の略称。
中学2年生の男子が（いとこの）イケメンな兄と恋するという
深夜アニメ。
（※２）「おさ婚！」
→「幼馴染と結婚するのの何が悪い！？」の略称。
幼馴染の男子×男子のラブコメ。
視聴率が尋常じゃないくらい高い。
