サボテンの夢
彼は元来、砂漠という絶対的な不毛の地で、他者を峻拒するために無数の鋭利な「棘」で武装している。しかし、彼は、自らの肺を持たぬ身でありながら、紫煙を燻らせるという、最も官能的な人間の悪徳を知ってしまった。
その怪物が夢見るものは、ただ一つ、自らがタバコとなり美しく焼滅することである。
彼にとっての生存は渇きと防衛の連続であった。触れるものすべてを傷つけ、自らも傷つかぬように硬質な肉を保っている。しかし、煙草は、細い身でありながら、人々に潤いを与え、その頑なな人間関係を容易に融解せしめる。
彼は自らでは実現できない、正反対の幸せの形をまじまじと見せつけられる。だからこそ、彼の肉体そのものが、天を衝く一本の巨大な葉巻と化す夢を見る。
ー烈日の太陽の光が、自らの頭頂部に着火し、自らの肉体を燃料として、凄絶な速度で灰へと変わっていく。根から吸い上げたわずかな水分が、体内で沸騰し、熱い蒸気となって口から、あるいは棘の先端から、真っ白な歓喜の煙となって大気へ発射されるー
世界で最も頑強に「生」にしがみついている植物が、煙草のように一瞬で燃え尽き、風に散る灰となることを中庭の空へ向かって夢想する。
永遠に耐えることを宿命づけられた彼が、一瞬で消え去る「精神の贅沢」を知ってしまったとき、その夢は必然的に「堅固な生からのもっとも華麗な亡命」となる。
彼は今も灰皿の横で、自らの生を呪いながら、紫煙と白煙を操る官能の使徒を、いつかその火の手が自らに及ばんことをじっと静かに夢見ている。




