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異世界洞窟バー《ドワーフの金床》へようこそ ~飲んだくれエルフとドワーフのマスター、あと私~  作者: まぴ56


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第1話:炎竜の火酒――ドラゴンスレイヤー

「花ちゃ〜ん。おしゃけ、おかわるぃ〜」


「はーい! 少々お待ちくださ〜い!」


 薄暗い洞窟の中に、ふにゃふにゃに蕩けた声が響いた。


 声の主は、カウンターに突っ伏した一人のエルフである。


 さらりと輝く金髪。

 長いまつげ。

 洞窟の中でも星みたいに輝く翡翠のような瞳。

 そして、すらりと伸びた長い耳。


 ただし今は、その美貌をカウンターに押しつけて、もちっと頬を潰している。


「ちょっと〜。は〜や〜く〜」


「今、持っていきますから! コップを叩かないでください!」


 がんがん、がんがん。


 空になった分厚いガラスのコップが、カウンターの上で悲鳴を上げていた。


 ここは異世界アルカディア。


 魔法があり、魔物がいて、剣を片手に冒険者たちが大地を駆ける世界。


 そんな世界の、とある洞窟の奥に、一軒のバーがある。


 店の名は、洞窟バー《ドワーフの金床》。


 頑丈な岩壁をくり抜いた店内には、ランタンの淡い灯りが揺れている。

 砂ぼこりでざらついたカウンター。ぼろぼろだけど妙に座り心地のいい木製の椅子。壁一面に並んだ、見たこともない酒瓶の数々。


 そして、この店で住み込みのアルバイトとして働いているのが、私――花である。


 日本からこの異世界に転移してきた、いわゆる異世界転移者。


 ただし、体が強いわけでもない。

 特別頭がいいわけでもない。

 すごい魔法の才能があるわけでもない。


 おまけに、一緒に転移してきた仲間たちには見捨てられた。


 チートなし。

 戦闘力なし。

 頼れる仲間なし。


 そんな私が、もろもろあってたどり着いたのが、この洞窟バー《ドワーフの金床》だった。


 この店の主は、赤髪赤目の女ドワーフ――ラムさん。


 背は低く、体つきはずんぐりとしている。

 鍛冶場で鍛えたようながっしりした手足に、子供のようにも見えるあどけない顔立ち。


 けれど、胸元や腰つきは、彼女がれっきとした大人の女性であることをはっきり主張していた。


 美人というなら、今カウンターで溶けているエルフのシェリーさんだ。

 だけど、かわいいというなら、間違いなくラムさんだと思う。


 そして、今私におかわりを要求しているのが、この店唯一の常連客。


 飲んだくれエルフのシェリーさんである。


「ふぃ〜……冷たくて気持ちええ〜……」


 シェリーさんは、カウンターに頬を押しつけたまま、幸せそうに目を細めていた。


 普段の姿だけ見れば、絵画から抜け出してきたような神秘的な美女だ。


 けれど、お酒が入ると途端にこうなる。


 ぐでぐで。

 ふにゃふにゃ。

 距離感ばぐばぐ。


 ただ、それでも美人なのだから、エルフという種族はずるいと思う。


「シェリーさん。起きてくださーい。お酒、持ってきましたよ〜」


「うひぃ〜……今度はなんておさけぇ〜?」


「今度はこちらです! 炎竜の火酒――ドラゴンスレイヤーです!」


 私は棚から取り出した陶器の酒瓶を、どんっとカウンターに置いた。


 ラムさんお手製の陶器瓶は、ランタンの光を受けてぬらりと黒光りしている。

 どこか漆器のような上品さがあった。


 シェリーさんは、珍しい宝石でも見るように、ずいっと顔を近づける。


「へぇ〜……火酒? どういうお酒なの?」


 明らかに、目がきらきらし始めた。


 さっきまでカウンターで溶けていたエルフとは思えない。

 まるで瞳の中に星でも浮かんでいるみたいだ。


 私はこほんとひとつ咳払いをした。


「火酒とは、簡単に言ってしまえば蒸留酒のことです!」


「ふみゅふみゅ。エルスキーみたいなのかい?」


 エルスキーとは、この世界で最も出回っている麦酒ヴェールを蒸留したお酒のことだ。


 要するに、ウィスキーみたいなものだと思えばいい。


「はい、その通りです。しかしですね、なんとこの火酒は……ドラゴンの火によって蒸留されているのです!」


「へぇ……ドラゴォンの圧倒的な火力で作られたお酒かぁ……確かにおいしそう……じゅるり」


 目を細め、よだれを垂らすシェリーさん。


 そんな彼女に向かって、私はちっちっちと指を振った。


「ふぇえ? なにそのドヤ顔」


「それが違うんです。竜の火酒は、ドラゴンの協力のもと、芋酒レッドヴェールを微細な火力の炎でじっくりと蒸留することで作られるんです。つまり――ドラゴンの協力なしでは作れない、超激レアなお酒なんです!」


「な、なんですとぉ!!!!!」


 シェリーさんは酔っぱらうと、異様にテンションが高くなる。


 そして話しているこちらまで楽しくなってしまう。


 そのせいで、私のテンションもどんどん上がっていった。


「まず、蒸留酒というのは、水とアルコールの沸点の差を利用して作るんです。簡単に言うと、アルコールの方が水より低い温度で蒸発するんですよ」


「つまりぃ……先にアルコールだけを蒸発させて、それを集めてお酒にしてるってこと?」


 さすがは何千年も生きているエルフ。


 酔っていても、妙に物分かりがいい。


「そうです。だから、ドラゴンの本気の火力なんかで作ったら、水分まで一瞬で吹き飛んじゃうんです。あくまで低火力じゃないといけないんです」


「ふみゅふみゅ……」


 シェリーさんは真剣な顔でうなずいている。


 ただし、その視線はちらっちらっと私の手元の酒瓶に移っていた。


「あっ、ごめんなさい! すぐにお注ぎしますね!」


「ふへへぇ〜……あいがと〜」


 シェリーさんの顔が、一瞬でとろけた。


 もしかしたらシェリーさんは、アルコールよりも低い温度で蒸発してしまうのかもしれない。


 とぷり、とぷり。


 瓶から流れ出したのは、きらりと輝く透明な液体だった。


 グラスを満たした火酒は、ランタンの明かりを受けて、まるで削り出したダイヤモンドのように輝いている。


 そして、離れていても分かるほどの芳醇な香りが、洞窟の湿気を静かに支配した。


「ふへへ〜……すっごくいい香り。ただドラゴンの火で蒸留しただけのお酒かと思ったけど、これは何か違うにぇ〜」


「はい。ドラゴンのブレスには多くのマナが含まれているそうで……なんか、その……マナのスーパーパワー的な……」


 私は言葉に詰まった。


「ごめんなさい。私、まだこの世界に来てから日が浅いので、魔法の知識はあんまり……」


 恥ずかしくなって、少しうつむく。


 その瞬間、にゅっと綺麗な顔が視界の中に入り込んできた。


 シェリーさんだ。


 その顔には、絵に描いたようなドヤ顔が浮かんでいる。


「ならば、このわたくしが教えて進ぜよう!」


 確かにシェリーさんはエルフである。


 ラムさんに聞いたところ、この世界でもゲームの世界と同じように、エルフは魔法に詳しいらしい。


「マナにはね、生物の活動を活発にする力があるんだよ。つまり――このお酒は生きているのさ!」


 数秒。


 バーの中を沈黙が支配した。


 しかしシェリーさんは、そんな沈黙などお構いなしに、ふふんと鼻を鳴らして腕を組んだ。


 生きている。

 生物の活動を活発にする。

 そして、お酒の香り。


 つまり――。


「そうか! シェリーさん、違います!」


「ほへえ?」


「このお酒は生きているんじゃありません。たぶん、死ぬ直前がすごかったんです!」


「死ぬ直前?」


「お酒の香りを作るのは、酵母という小さな生き物なんです。この酵母が、エステルっていう香りのもとを生み出してくれるんです。でも、酵母は蒸留の熱で死んでしまいます」


「ふみゅ」


「しかし! ドラゴンブレスに含まれた大量のマナによって、死の直前に活性化された酵母は、最後の灯火とも呼べる輝きを見せた! その結果、お酒の香りがより一層引き立っているんです!」


「つまり、おいしいってことね!!」


「はい! そうです!!」


 その瞬間、シェリーさんはグラスを傾け、火酒を喉に流し込んだ。


 こくり。


 小さな嚥下音が響く。


 ひとつ。

 ふたつ。

 みっつ。


「ぷっはぁ!! さいっこう!!」


 がんっ、と置かれたグラスは、完全に空になっていた。


「なにこれ、すごい! 初めて飲む味! なんていうか……すっごおく甘くてフルーティで、口の中でとろけるみたい。例えるなら、果実とミルクを合わせたみたいな……」


 頬を赤らめ、恍惚とした表情で空のグラスをランタンの光にかざすシェリーさん。


 それを見ていると、自然と喉が鳴った。


 すごく……おいしそう。


 刹那、視線だけを下ろしたシェリーさんと目が合った。


 にやり。


 シェリーさんの目が半月の形になる。


「いいよぉ。わたしのおごり。花ちゃんも、ひと口だけ飲みな?」


「い、いえ! 私はまだ仕事中なので、さすがに……さすが、に……」


 目の前には、きらきら輝く火酒。


 鼻先には、フルーツみたいな甘い香り。


 そして、目の前のエルフは悪魔みたいに微笑んでいる。


「ひとくち。ひとくちだけぇだってぇ」


「その量はひと口じゃないです!」


「だいじょーぶ。花ちゃん、いい子だから飲める飲める」


 ふわり、と甘い酒の香りが近づいた。


 次の瞬間、シェリーさんの細い腕が、私の頭の後ろへ回される。


 ぎゅっと抱き寄せられる。

 逃げるタイミングを完全に失った。


 目の前には、酒で潤んだ翠の瞳。

 さらりと落ちる金髪。

 耳元をくすぐる、少し熱を帯びた吐息。


「ほら。かんぱい」


「うう……ひ、ひと口だけですからね……!」


 私は観念して、差し出されたグラスに口をつけた。


「んぐっ!?」


 喉が焼けるように熱い。


 鼻の奥へ、強烈なアルコールの香りが抜けていく。自然と涙がにじんだ。


 けれど、シェリーさんの腕はまだ私の頭の後ろに回ったままだ。


 目の前には、にこにこと楽しそうに笑うエルフの顔。


 ここでせき込んだら、完全にシェリーさんへ吹きかけてしまう。


 私は涙目になりながら、なんとか火酒を喉の奥へ押し込んだ。


「んぐ……っ、あれ……でも……おいしい?」


「でしょお!!!」


 シェリーさんの顔に、また満面の笑みが戻った。


「確かにすごく強いんですけど、飲み終わったあと、口の中に残るのはフルーティな……これは、バナナ……かな。ほんのり酸味もある、まだ少し青いバナナ。でも、じんわり噛みしめると、濃厚な甘みとコクがあって……」


 考える。


 何に例えるべきか。


 全力で。


「バナナオレです、これ!」


「ばななおれぇ?」


「クリームのような濃厚さがあるんです。でも、その濃厚な甘みが、バナナの爽やかな酸味を引き立ててるんです!」


「その、ばななおれぇっていうのは分からないけど……おいしいよねぇ……」


「あっ! そうだ! これ、たぶんロックにするとおいしいと思います! シェリーさん、氷魔法お願いします!」


「がってん!!」


 そこから私たちは、このお酒をいろいろな方法で楽しんだ。


 ストレート。

 ロック。

 少しだけ水を垂らして香りを開かせる飲み方。

 さらにシェリーさんが謎の魔法で作った、花びら型の氷を浮かべる飲み方。


 正直、最高だった。


 強い火酒をそのまま飲むと、喉から胃まで一本の熱い線が走る。


 ロックにすると、その熱が少し丸くなって、代わりに甘い香りがふわりと開いた。


 水を少し垂らすと、今度はバナナみたいな甘さの奥から、焼いた砂糖のような香ばしさが顔を出す。


 花びら型の氷を浮かべたグラスは、見た目だけなら完全に高級バーのカクテルだった。


 ただし、飲んでいるのは洞窟バーのカウンター。


 隣にいるのは、完全にできあがった飲んだくれエルフ。


 そして私は、仕事中の住み込みアルバイトである。


 冷静に考えると、何ひとつとして許される状況ではなかった。


 けれど、酔いの回った頭は、そんな当然のことをすっかり忘れていた。


「シェリーさん……これ、すごいです……」


「でしょお? お酒はねぇ、花ちゃん。世界を知るための、いちばん幸せな魔法なんだよぉ」


「世界を知るための……魔法」


「そ。だってぇ、酒には土地が出るでしょ。水の味、麦の香り、樽の木、作った人の性格。あと、飲んだ人の本性」


 シェリーさんは、空になりかけたグラスをゆらゆら揺らしながら笑った。


「だから酒場は面白いんだよぉ。剣を抜かなくても、遠くに旅しなくても、いろんな人生が勝手にやってくる」


 酔っぱらいの言葉なのに。


 不思議と、その言葉は胸に残った。


 私はこの世界に来てから、ずっと何もできないと思っていた。


 戦えない。

 役に立てない。

 仲間にも置いていかれた。


 けれど、この場所にいると、少しだけ違う気がする。


 グラスを磨いて。

 お酒を覚えて。

 お客さんの話を聞いて。


 それだけでも、この世界を知ることはできるのかもしれない。


「……私にも、できること、あるんですかね」


「あるよぉ」


 シェリーさんは、迷いなく言った。


「だって花ちゃん、今、すっごくおいしそうに飲んでたもん」


「それ、仕事と関係あります?」


「あるある。おいしいものをおいしいって言える子は、酒場に向いてるよぉ」


 そう言って、シェリーさんは私の頭をぽふぽふと撫でた。


 エルフの手は思ったより温かい。


 胸の奥が、少しだけくすぐったくなった。


「……ありがとうございます」


「どーいたしましてぇ」


 シェリーさんはにへらと笑い、またグラスを持ち上げる。


「じゃ、もう一杯」


「それはだめです」


「けちぃ」


 私は苦笑しながら、酒瓶に手を伸ばした。


 もう一杯だけ。

 本当に、もう一杯だけ。


 そう思ったところで、瓶の軽さに気づく。


「あれ?」


「んぇ?」


 私は酒瓶を持ち上げ、軽く振ってみた。


 ちゃぽん、ともしない。


 中身は完全に空だった。


「……シェリーさん」


「なぁにぃ?」


「このお酒、一本まるごと空いてます」


「わぁ」


「わぁ、じゃないです」


 その瞬間。


 洞窟の奥から、どすん、どすん、と重たい足音が響いた。


 私の背筋が、ぴんと伸びる。


 シェリーさんの長い耳も、ぴこんと揺れた。


 薄暗い通路の奥から、赤い影が近づいてくる。


 燃えるような赤い髪。

 ルビーみたいに赤い瞳。

 ずんぐりとした体つきに、鍛冶場で鍛えたようながっしりした手足。


 背は低い。

 顔立ちも、どこか少女のようにあどけない。


 けれど、その目には、岩盤をも砕きそうな圧があった。


 彼女こそ、この洞窟バー《ドワーフの金床》の店主。


 ドワーフのマスター、ラムさんだった。


 ラムさんは私たちを見る。


 カウンターを見る。


 空になったグラスを見る。


 そして最後に、私の手の中にある空の酒瓶を見た。


 沈黙。


 洞窟バー《ドワーフの金床》に、かつてないほど重たい沈黙が落ちる。


 ラムさんは、ゆっくりとこちらへ歩いてきた。


 どすん。

 どすん。


 一歩ごとに、私の酔いが抜けていく。


 ラムさんは私の手から空瓶を受け取ると、無言でラベルを見た。


 そして、赤い瞳をすぅっと細める。


「……花」


「ひゃい」


「シェリー」


「ふぁい」


 声は低くない。


 むしろ、見た目相応に少し高めでかわいらしい。


 だけど、その声には、岩盤を砕くハンマーみたいな圧があった。


「お前ら。うちの秘蔵酒を、一本まるごと空けたな?」


 沈黙。


 次の瞬間、シェリーさんはにへらと笑った。


「ラムぅ……とっても、おいしゅうございましたぁ」


「感想は聞いとらんわい!」


 どごんっ、とラムさんの拳がカウンターに落ちた。


 分厚い樫の木でできたカウンターが、めきりと嫌な音を立てる。


 私は完全に酔いが醒めた。


「ひ、ひえ……」


「花」


「は、はい!」


「お前、今日から三日間、皿洗い追加じゃ」


「そんなぁ!?」


「仕事中に飲んだ罰じゃ。あと、秘蔵酒を止められなかった罰じゃ」


「うう……返す言葉もありません……」


 ラムさんは次に、じろりとシェリーさんを見た。


「シェリー」


「ふぁい」


「お前はツケを払え。今すぐじゃ」


「えへへぇ……ラムの怒った顔、かわいいねぇ……」


「よし、表出ろ」


「えっ、今の褒め言葉だよぉ?」


「わしの秘蔵酒を空けた女の褒め言葉なんぞ、火口に投げ込む価値もないわ!」


 ラムさんはシェリーさんの襟首をつかむ。


 小柄な体のどこにそんな力があるのか、シェリーさんの体がひょいっと持ち上がった。


「ふぇえ〜。花ちゃ〜ん、助けてぇ〜」


「ごめんなさい、シェリーさん。今回は七割がたシェリーさんが悪いです」


「そんなぁ〜」


 シェリーさんは情けない声を上げながら、ラムさんに引きずられていく。


 私はその後ろ姿を見ながら、空になったグラスをそっと手に取った。


 グラスの底には、まだほんの少しだけ、甘い香りが残っている。


 ドラゴンの火で蒸留された、特別な酒。


 その香りを嗅いだ私は、思わず小さく笑ってしまった。


 異世界に来てから、ろくなことがなかった。


 仲間に見捨てられて。

 知らない土地で迷って。

 自分には何もないと思っていた。


 でも、この洞窟バーには、酒がある。


 怒ると怖いけれど優しいドワーフのマスターがいる。


 美人なのにどうしようもない飲んだくれエルフがいる。


 そして、私にも仕事がある。


 皿洗い三日分、追加だけれど。


「……よし」


 私はグラスを持って、流し場へ向かった。


 酒には、その土地の文化が出る。

 酒には、種族の歴史が染み込む。

 酒場には、どうしようもなく面倒で、少しだけ温かい人たちが集まってくる。


 これは、戦う力を持たなかった私が、酒を通して異世界を知っていく物語。


 私の冒険が。

 戦いが。

 苦悩が。

 そして、アルバイトが――今、始まったばかりである。


「花ー! 皿洗いの前に床も拭いとけ! シェリーがこぼした!」


「は、はーい!」


「花ちゃ〜ん! あとで一緒に二次会しよ〜!」


「しません!」


 洞窟の奥に、ラムさんの怒号と、シェリーさんの笑い声が響く。


 私は苦笑しながら、袖をまくった。


 異世界アルカディア。


 洞窟バー《ドワーフの金床》。


 今日もここでは、酒と騒動と、少しだけ温かい時間が流れている。

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