潤んだ風
ぼんやりとする意識の中、かすかな声が耳をかすめる。
何を言っているかは正直わからない。だが私を呼んでいるようなそんな聞こえ方が耳に張り付く。まだ、目覚めていないのだろうか。
そう思いながら私は布団から這い出し、声のする方向を辿っていく。暗くて階段がよく見えない。足の感覚を頼りに一段一段つま先から下っていく。
可笑しい。さっきから三十段以上は下っているはずなのに、いまだに一階にたどり着けない。しかしそれとは裏腹に、声はどんどん近づいている。これは多分夢の続きだ。先が見えない階段と近づいてくる声の恐怖感。逃げるように階段を駆け下りる。前を進んでいた右足に左足がかかった瞬間、連なる重たい音とともに、激しい痛みが体中に走った。階段から落ちたらしい。衝撃のせいか視界の端が徐々に狭まっていく。
その時さっきまでぼんやりとしていた声がはっきりと耳に届いた。
「こっちだよ」
やはり声の主は私を呼んでいる。懐かしい声が瞼を重たくする。
どれくらい気を失っていたのだろうか。いまだに私を呼ぶ声は止まらない。暗くて何も見えない中、私は問いかける。
「あなたは誰なの、なんで私を呼んでるの!」
もとはと言えば私が階段から落ちたのもこいつのせいだ。
暗すぎて何も見えないが、体を起こして声のする方向へ走り続ける。
五分ほど走り続けていただろうか。前方にオレンジと黄色の狭間のような懐かしい明かりが目に移った。無我夢中でその光に向かって足を進めた。光の前まで来て気づいたことがある。この光は扉の隙間からこぼれている。この扉の先には何があるんだろう?純粋な好奇心で扉を引く。
目の前に広がっていたのはオレンジというよりは焦げ茶、でも焦げているという言葉は似合わないようなうるんだ秋だった。時刻は夕方らしい。ゆっくりと前から歩いてきている音が聞こえる。夕焼けの逆光の中から金髪の長髪をした少女が現れた。理由は分からないけど、とても懐かしく涙が溢れ出そうになる。私が泣くのを我慢していると少女は口を開いた。
「どうしてここにいるの?」
私はつばを飲み込んでから答える。
「あなたが呼んでいたんでしょう?それにここはどこなの?」
少女は悲しそうな顔をしながらゆっくりと喋った。
「ごめんね。私の声が聞こえてたんだ。それと私もここがどこかは分からないの、小さいころからここにいたし」
「ここは何で秋なの?いまは夏でしょ?」
そう聞かれた少女は明るく嬉しそうに答える。
「ん~、なんで秋なのかは分からないけど、ここも昔は夏だったんだよ!私、夏の晴れた空が好きなの!」
「そんなに夏が好きなら一緒に外に行こうよ」
少女は少し不思議そうに聞いてくる。
「でもどうやって外に行くの?」
「どうやってって、この扉を戻るんだよ」
そう答えて振り向いた私は自分の目を疑った。入ってきたはずの扉がどこにもない。まだ目が覚めてないのか?でもそんなはずない体に痛みがあるのは本当だ。
少女は納得したように口を開いた。
「戻る扉がないなら、一緒に階段を下りてみない?ちょっと進んだ先に階段がるんだよね、もしかしたらその先で変える方法がわかるかもよ?」
少し馬鹿そうに語る彼女に呆れたが、扉がない以上この世界に詳しいのは彼女の方だ。今は少しだけ信じてみよう。
二話目です。ここから少し複雑になっていきます




