ナイショのアカウント
しいなここみさま主催『朝起きたら企画』参加作品です。
2025.10.21 かぐつち・マナぱ さまのイラストを挿入しました。ヤバければ残念ですが、消します。
その日の夜、俺は決意した。
明日、由良に告白する!
下岐 由良は幼なじみだ。
年齢よりは少し幼さを見せる童顔と、それに似合った人見知りな感じが保護欲をそそる可愛らしい幼なじみ。
俺はそれを小動物のような可愛らしさと思っていたのだけど、実はそれなりにモテる彼女、今日も告白されてそれを断ったばかりなのだ。
モテるという話は聞いていたモノの、実感のなかった俺はそんなシーンを目撃して由良の見方が180度変わってしまった。
その先輩であろう男の告白を断った足で、見ていた俺に気づき、笑顔を見せながら小走りに向かってくる『少女』。
俺は自身の顔が赤くなるのを自覚した。
――くそっ! 由良のくせに。
そんなことしか考えられない、情けない感想を抱きつつ、そんな彼女に背を向けた自分は更に情けないに違いない。
その事を謝って、きっちり告白する!
明日は休日。 だけどアイツの家はすぐ側だ。
臆するな! 突き進め!
そう自身を激励しながら目を閉じ――
朝、目を覚ますと俺はスマホになっていた。
何を言ってるって?
そんなの俺だって解らない。
世の中不思議な事があるモンだ、なんて達観した事は流石に思えないけどな。
どうしてスマホだと分かったかと言えば、俺からアラームがなったからだ。
朝の七時。 俺からポップな曲が鳴り響き、急に視界が開けたんだ。
目 ――なのか?―― に映るのは見慣れない、でもどこか見覚えのある空間。 薄い青の壁紙が貼られたシックな部屋。 でも家具や調度品は淡いピンクや黄色といった暖色系になっている。
シンプルな机の上にあるのは桜をモチーフにしたスタンド。
……ん?
とても見覚えのあるそれに、俺はアラームを鳴らしながら視界を揺らす。 バイブ機能バンザイ。
だが俺が目当てのヒトを探す前に大きな ――今の俺にとっては、だな―― 手が俺を覆う。
「……もぅ、朝……?」
由良だ。
俺は由良のスマホになっていた!
そうだよ!
由良の部屋だ、ここ!
元々年の離れた兄さんが使っていた部屋で、張り替えたばかりだったという理由で壁紙はそのまま。
そこに由良の家具なんかを持ってきたんだ。
あのスタンドだって、由良の誕生日に俺が買ったヤツだよ……。 そりゃ見覚えもあるわ。
「ん」
身体を伸ばすその両腕は見事なVの字を描き、その付け根にある双丘が……何というか表現しがたい曲線を見せつける。
目を、逸らせない。 って目はどこだ!? カメラか!?
テンパる俺の前で由良はピンクのパジャマに手を掛ける。
――ちょっと待て!? おい、由良っ! それは色々マズイっての!?
ここには年若い男の子がいるんですよっ!?
あーっ! 見えるっ!! あ、ちょっと見えた!?
見える範囲が肌色に染まりかけた時、ふっと視界が暗くなった。
自動ロック……か?
俺はどこにあるとも解らない胸を撫で下ろし、頭を抱えたくなりながらも手も頭もない事に戸惑い、吐くことの出来ない溜息を吐いた。
――どうなるんだ、俺?
ただ思考だけする俺を、鷲掴みにする由良の手の感触だけがどこか新鮮だった。
* * *
由良は今時の学生の様な、動画を見たりバズる映像を撮ったりと言った事にはあまり興味がないと言っていた。
事実その様で、俺を持ち歩くもののそう頻繁に使う様子は見えない。
その割には型が新しいんだよな、このスマホ。
LINEのチェックをしたり、たまに友達とやり取りしたり、たまに小説投稿サイトを覗いたりしている。
スマホの画面が点灯していないと周囲を確認出来ない俺は、ずっとその瞬間を待ちわびる。
至近距離でまじまじと彼女の顔を見る機会は早々ない。 その30㎝に満たない距離に、俺はあるはずのない心臓の高鳴りを感じていた。
長いまつげと大きな瞳がじっと俺を見ている。
ああもう! 俺はどうして今人間じゃないんだ!?
そんな益体もないことを考える俺だが、光る画面の中、見慣れないアイコンがあるのが気になっていた。
* * *
結局、俺はスマホのまま由良と一日を過ごした。
普段見ることのない彼女を見られたのは嬉しくも気恥ずかしくもあったが、まあラッキーだったと言えるかも知れない。 人間に戻れたなら、だけど。
しかし、どうしてこんな事になったのか。 日中も何度も考え、答えの見つからない問いを意味なく思案していると、不意にケーブルが繋がれた俺はスタンドに立て掛けられた。
――もう、寝るのかな?
広がった視界の中、彼女が見える。
由良は、昼間から気になっていた見慣れないアイコンをタップすると、慣れた様子でそこにログインし。
着ていた服を脱ぎ始めたのだ!
――由良!?
何を……? え? 動画配信サイト!?
幸い顔の映る角度じゃない、って解っててやってるのか!? あの由良が!?
脱いだと言っても全裸ではなく下着姿ではあるが…………。
って、黒!?
――おまっ!……おまっ!……朝は水色だったろうっ!? ←見てるし覚えてる
見慣れない扇情的な表情。 怪しげなポーズ。
最新スマホで解像度はバッチリだぜ! ←もうヤケ
見ているとないはずの顔が熱くなる。
――このバカ娘ーっ! おじさんとおばさんに言いつけるぞーっ!!
デジタルタトゥーは危険なんだぞ、こら! 聞いてるのか!!
出るはずのない声で喚き散らしていると、不意に視界が暗くなっていった。
――あれ……意識が……?
暗転した。
* * *
気がつくと俺はベッドの中にいた。
――夢……だったのか?
時刻はもう10時を回っている。 休みとは言え寝坊もいいところだ。
何にせよ頭をスッキリさせたかった。
――まず顔を洗おう。
そう思い階下へ来ると、インターフォンが鳴った。
誰も出る様子がないので俺が行き、玄関を開けるとそこにいたのは由良。
「おはよう、だよね? みーくん。 寝癖ついてるよ?」
「…………」
「ん? どうかした?」
返事をしない俺を訝しんでか、由良が可愛らしく小首を傾げる。
――うん、夢だな。
「いや、まだ起きたばっかりだっただけだよ。
おはよう、由良。
家に来るなんて久しぶりだけど、何かあったのか?」
そう問うと、彼女は昨夜見た扇情的な、色っぽい表情を浮かべて、一枚の紙を渡してきた。
そこには印刷されているのはQRコードと……手書きのパスワード?
「みーくん。
今夜、ここにログインしてみて」
そう言うと彼女は微笑みながら背を向けて、さっといなくなってしまった。
俺はその紙をじっと見つめる。
「……お……」
「お父さんは許しませんよおおおおおおおぉぉぉっ!!」 ←錯乱
と言うわけで、知らなかった彼女の一面。二作目となります。




