死後の世界
なんか体がふわふわする。
暖かい。誰かが俺を包んでくれてるかのように。俺は何してるのだろう。
このままこの中にずっと居たい。
嫌なこと辛いこと全部忘れてこのまま眠っときたい。
『そろそろ起きろ』
ぱちっと目が覚めた。
目の前に映る見慣れない天井。いつもと違う匂い。
え?
俺、生きてる。
ゆっくり起き上がり、手を握ったり広げたり。しっかり動いてる。
状況把握のため周りを見渡す。俺がいるのは畳の上に敷布団のベッドの中。それ以外何も無い殺風景な部屋だ。
ここは誰の家なのだろうか。
確か俺は学校の火事で死んだはず。
なんで生きてるのだろうか。
あの火事から誰か助け出してくれたのか?
消防士とか?そしたら俺は今頃酸素マスクをつけられ病室に居るだろう。じゃあ、他に誰が俺を助けたのか?俺はあの時4階の教室にいた。
出火場所は確か特別棟の1階にある調理室。
放送で流れていた情報だけど。
炎は上へと上がっていく。4階に居た俺を助けるのは困難だ。
ん〜。考えても分からない。
ひとまずこの家の主に顔を出して、事情を聞こう。
俺は立ち上がろうとするが、ふらついて上手く立てない。
一体どのくらい寝ていたのだろう。
もう1回。
「よっと」
多少ふらつくが、何とか立つことが出来た。
あれ?学ランじゃない。
大きいスエットだ。
俺は部屋の襖を開け部屋を出る。
目の前にはソファーに座ってタブレットをいじっている男の人が居た。
「起きたか。少年」
男の人は立ち上がり、着ている白衣を脱いだ。
お医者さんかな?今から検査でもするのか?
「ひとまずラボへ行くぞ。話はそれからだ」
え?ラボ?研究所?男の人はスタスタと玄関へ歩き出した。
状況が全く分からない。「はよ行くぞ」なんかついて行かないといけないらしい。仕方なく俺は、男の人について行くことにした。
玄関を出ると広がっていた景色は京都の街並みだ。俺は今京都に居るのか?だとしたら家に帰るのは何時になるだろか。俺の家は横浜にある。新幹線で乗って帰るお金も持っていない。後で電話を借りてお母さんに無事だと連絡して迎えに来てもらおう。
にしても京都にしてはかなり江戸感のある町だな。着物の人も多く家が全て低い。
アパートが1個も無い。え?コンビニや自販機すらないんだけどこの町。
男の人について行くこと数分。目の前に高さ10メールの立派な門がかまえていた。
男の人はスタスタと門の中に入っていく。
この門、高さだけではなく奥行きも5メートルほどある。
そんな巨大な門をくぐり抜けると森林がひろがっていた。
ラボは一体どんな所にあるのだろうか。
人が通れるように草が刈られて地面が砂になっている道を歩く。
しばらくすると、分かれ道があった。
左の道は整備されており道幅が広い。車が2台通れる広さだ。
もう片方の右側は車1台分の広さの道だ。
男の人が進んだ方向は右の道。細い方だ。
奥に進むと。開けた土地にひとつの形が特徴的な建物が建っていた。
やっと着いた。ここがラボなのだろう。
早く、助けてくれたお礼を言って家へ帰りたい。
ラボの中に入ると白髪の女の人が座っていた。
「ようやく目を覚ましたか少年」
この声聞いたことがある。
そう、俺が眠っている時に起きろと声をかけられた時と同じ声だ。白い髪、白い肌が印象的で目はぱっちりとしたお人形さんみたい。
「私の名はウリエル。事情はアキから聞いておるな」
アキ……?誰のことだろう。この男の人のことだろうか。
「俺の名前は凛堂瑛斗です。アキさんとは誰ですか?」
ウリエルさんは目をパチパチさせながらこちらを見ている。
「今少年の隣に立っている高身長の科学者のことだが、アキ自己紹介もしていなかったのか」
「はい。めんどくさかったんで説明も何もしてません」
はぁとウリエルさんはため息を着いた。
「自己紹介ぐらいしろ」
いかにも嫌がっている顔をしながらアキさんはこちらを向いた。
「俺の名はアキだ。基本このラボに居候している。以上だ」
「ごめんな、悪気は無いのだが気難しいやつなんだ。さて本題に移ろう。少年よ。今から話す事を落ち着いて聞くこと。よいな」
空気が変わった。ピリッと緊張が走る。
「わ、わかりました」
ウリエルさんの表情は凛として真剣だ。
そして口が開き俺はその言葉に衝撃をおぼえた。
「この世界は地球ではない。死後の世界だ」
「死後の世界……」
そうか俺はあの火事で死んだんだ。
助からなかったんだ。
半分覚悟をしていた。普通に考えて京都に居るはずがない。しかも火事の中火傷だらけだった体が無傷。頭の中ではとうに答えは出ていた。しかし、信じたくなかった。ただそれだけ。
「受け入れるのに少し時間がかかるかもしれんが事実だ」
「なら何故俺はこのラボに居るんですか?実験ですか?死んだ地球人の体を使って」
「落ち着け少年。私はそんな残酷なことはしない。話はまだ終わっていない」
やばい。思考がネガティブになっていく。アキさんやウリエルさんが悪い人ではないということは分かっているのに。心が全ての状況を警戒している。
落ち着け。落ち着け。落ち着け。落ち着……
「ヒール」
あれ?心が軽くなった。
「たくっ、しっかりしろ男だろ」
アキさんが何かしてくれたんだとわかった。
「アキ、ナイスだ。少年も全ての事がいきなりなで情緒不安定になるのは仕方がない。決して怒ってはないからな。安心しろ」
「すみません。アキさんありがとうございます」
「うむ。今の少年の状態から話を進めると負荷がかかりそうだな。アキ、リンカ達はいつ帰ってくるかわかるか?」
「もうすぐで帰ってくると思います」
「そうか、少年よリンカ達が帰ってくるまでラボでゆっくりすれば良い。確か台所に昨日私が買っておいた林檎の蜂蜜菓子屋のプリンがあるはずだ。私のお気に入りのプリンだ。絶対少年のほっぺも堕ちること間違えなし」
「ウリエル、そのプリンならヒョウが朝出かける前に食べてました」
「心配ない。何故なら4つ入の箱を買ったのだ」
「残りの3つはリンカが食べてました」
「な?!私のプリンが……」
あの凛とした表情のウリエルさんは今はなく、お気に入りののおもちゃを取られた幼稚園児のように泣く手前の顔になっている。
「少年ごめんよぉ。絶対あのほっぺが堕ちるくらい美味しいプリンを今度絶対食わしてやるからな。本当にごめんよぉ」
「えーと、気持ちだけで十分ですよ。ありがとうございます」
「アキ、少年を暇つぶしにこのラボ案内してやれ。私はプリンを買ってくる」
ウリエルさんは猛ダッシュでラボを飛び出して行った。
そんなにプリンを食べたかったのか。
「はぁ、しょうがねぇな。ラボを案内してやる。はぐれるなよ」
「あっ、はい」
はぐれるなよとか言いながらラボの案内はたった5分で終わった。
何故なら、説明がほとんど無かったからだ。
アキさんは研究があるそうなので自室に引きこもるそうだ。
俺は談話室的な所でテレビを見て過ごすことにした。




